被弾ボイスや攻撃時の声のイメージはスマブラ
『カービィ!』
ピンク玉はそう鳴いた。いや、名乗ったのだろうか。
言語が通じるかどうかは分からないが、彼(彼女?)は私の言葉の意図を汲み取って名乗った、なんとなくだがそう感じる。
――いやいや、えっ、なに? かーびー?
ついつい、なんというか条件反射でピンク玉に質問をしてしまったが、この生物は一体なにものなんだ。
冷静に、冷静になれ。
まず、落ち着いて考えてみれば、この生物はあの異形のバケモノたちと同種、ということは間違いない……はず。
バケモノの中には地球周辺の宇宙空間を漂っている連中がいるので、おそらくコイツはその仲間だ。
獲物を横取りしに来たのだろうが、来た場所が悪い。周囲は数十匹の炎狼が取り囲んでおり、更に言えばこのビルの下にも、残りのワンちゃんたちがお散歩している。
私の攻撃でより一層興奮している狼たちは、もはや見境なくこのピンク玉をも襲うだろう。
見た目から判断するに、このピンク玉の戦闘力は皆無に等しい。短い手足、柔らかそうな体、小さい口、つぶらな瞳。どれをとっても強そうに見える要素は存在しないので、今まで出会ったバケモノたちの中で唯一、コイツに対してだけは恐怖を抱いていない。ていうかむしろかわいい。
つまるところ、このピンク玉と共にこの黄色い星が落ちてきたことで変わったことは、この場に死体が一つ増えることになった……ということだけである。
『グゥルル……へッ、へっ』
突然目の前に落ちてきた星の正体が【ただの動くボール】だと理解した炎狼たちは舌なめずりをし、一時的に視線をピンク玉に向けた。ターゲットが変わったらしい。
よし、この隙に――と振り返った瞬間、思わず私は舌打ちをした。
いつの間にか私と少年(とピンク玉)は、炎狼たちに囲まれていた。
つまり……逃げ場がない。
もはや詰みだ。どうあがこうと焼肉になるのがオチ。これ以上の抵抗は無駄だと瞬時に理解してしまった。
肩を落とし、なんとなく下を向いた。人間落ち込むと前を見ていられないらしい。
死ぬ前にひとつ知見を得たな、なんてくだらないことを考え―――何かを見つけた。
足元に転がっていたのは、手乗りサイズの、小さな星のかけら。
「……あれっ?」
つい間抜けが声が出てしまった。気が付けば、目の前に落ちてきたはずの大きな星が消えている。
私は足元の小さな星が、いつの間にか消えた星と同じ五芒星のような形をしている事に気が付き、条件反射のようにすぐさま星を拾い上げた。
手のひらサイズの星は中央が鈍く点滅しており、気になった私はそこをなぞるように触ってみた。
すると星はスマートフォンのような形に変形し、その画面に何かを映し出す。そこには――
【カービィ】【 】
○×3
「な、なにこれ……」
表示されている言語は日本語で間違いなく、記されている情報はカービィという文字と謎の数字のみ。
よく分からないが、さきほどのピンク玉の鳴き声は「カービィ」という発音で正しいらしい。
そして画面の下の方をよく見ると「Start」と記載された四角いボタンアイコンがあった。スタート、ということは……これを押すと何かが始まるのか?
どうするか迷うが、どのみち私に選択肢は残されていない。
今にも飛びかからんとする狼たちを考えれば、逡巡の隙すら惜しい。
意を決し、スタートボタンをタップした。
すると画面右上に通知の様なものが表示され、そこには日本語でこう書かれていた。
♪:グリーングリーンズ
突如として、周囲一帯に軽快な音楽が流れ始める。辺りにスピーカーなど存在しないにもかかわらず、何処からともなく……なんというか、楽しい雰囲気の曲が。
『ッ!』
するとピンク玉―――カービィは、私に向けていた顔を炎狼達へと向け、奴らへと駆け出して行った。
そしてその勢いのまま右足を前に突きだし、カービィは先頭の炎狼にスライディングの様な攻撃を仕掛けた。
あまりにも突然の事で対応が遅れたその炎狼は見事にその足技を足に受け、後方へと吹っ飛んで行った。
……え? あの狼、いまスライディングみたいな攻撃されたのに、なんでその場で転倒するんじゃなくて、後ろにノックバックされてんの?
疑問が頭によぎったが、私の脳はすぐさま別の困惑を体験することになる。
パンッ! と。
後ろに吹っ飛ばされた炎狼の体が、風船のように破裂したのだ。
そして辺り一面に狼の血や臓物が飛び散る――なんてことはなく、破裂した体からは小さな星が少し飛び出し、それも直ぐに消え去った。
死体が残るなんてことは無く、今さっきカービィの攻撃を浴びた二体目の炎狼も同じように破裂し、星になって消え去った。
い、いったいなにが……? 彼に倒された生物は、どうして死体が残らないんだ?
もし触れただけで相手を跡形も無く消し去る能力なんて持ってたら、あのカービィとかいう生物には誰にも勝てないのでは……なんて思っていたが、その予想はすぐさま否定されることとなる。
『ゥワアッ』
隙を見せたカービィに炎狼の爪が炸裂し、カービィはかわいい悲鳴をあげて吹っ飛んだ。
ぽてっとボールのように跳ね、私の足元まで転がってきたカービィ。やはり多勢に無勢か。
どうすればいい。このピンクボールが味方とは限らないが、今この窮地を脱するためにはコイツと協力するほかない。
しかし協力と言ったって、私に出来る事なんて……。
五月蠅い炎狼達の雄叫びが木霊し、考える時間などほとんどない、という事実が余計に私を焦らせる。
なにか、何かないか? そう思って星のスマホ画面を触っていると、スライドするように画面が切り替わった。確認すると、そこには日本語で二つの文が記されいた。
カービィ:てきをすいこみ のうりょくゲット!
ワザもいろいろ 使えるぞ。
「すい、こみ……?」
敵を吸い込む、とそう書いてある。
足元で転がっているカービィを見てみるが、とても敵を吸い込むなんて芸当ができるほど、大きな口はしていない。というか小さい。
私はカービィを持ち上げ、その顔と正面から向き合った。カービィ、案外軽い。
「……か、カービィ?」
『……?』
何も分かっていなそうな、何も考えて無さそうな、そんな表情のカービィとは裏腹に、私は汗だくで不安な表情をしている。
これしかない。取り敢えず今はこの画面から読み取れる情報でなんとかするしか……ない!
「カービィ、お願いがあるの」
炎狼の群れは一斉にこちらへ駆けだしてくる。
「絶対あとで……な、なにかお礼はっ、絶対あとでするから!」
すぐそばまでやってくる。
「だから――」
先頭の一匹の炎狼が飛びかかってくる――
「―――あのわんこちゃん、吸い込んじゃって」
『ハァイ』
返事を返してくれたカービィは私の腕から飛び降り、すぐさま後ろを向いた。
そして信じられないほど大きく口を開き、まるで掃除機を彷彿とさせるような勢いの良い吸引音と共に、飛びかかって来ていたはずの炎狼を一匹まるまる口の中に吸い込んだ。
そしてそれを飲み込んだカービィは一瞬だけ眩く光り、いつの間にかその姿を赤く染め上げていた。
手元のスマホを確認すると、カービィと記されていた箇所が別の文字に変わっており、炎を模したようなアイコンが名前の隣に出現していた。
【ファイア】【 】
○×3
ファイア:アツくもえるよ 火炎のワザよ。
どうかせんに 火をつけ
アチチッ!火だるまころがり
ジャンプで とんでけ!
炎とどろく 火だるまぢごく!