side優人
スラスターの向きを調節しながらピットの床に着陸する。
「おかえり、優人くん。」
声の聞こえた方を見ると楯無さんがいた。
「まあ、この私が訓練をしてあげたんだから勝って当然というところかしらね。」
つぶやきながら扇子を開く楯無さん。そこには「及第点」と書かれている。毎回出すたびに文字が違うな、あの扇子。どうやって変わってるんだろう?
「はい、少々危ないところはありましたけどなんとか勝てました。本当にありがとうございます。」
「いいの、いいの。お姉さんもタダで教えてあげた訳じゃないし。」
クスリと笑って答える楯無しさん。あれ?いまタダじゃないって・・・
「えっと楯無さん、今回の訓練って有料なんですか!?」
「違う違う!お金を取るって訳じゃないの。ただ少し頼み事を聞いてくれないかなって・・・」
頼み事か。この学園の生徒会長である彼女から個人的に指導してもらったんだ。頼み事の一つや二つ、訳ないことだろう。
「そうなんですか。で、その頼み事っていうのは?」
「ここで言うってのもなんだしまた後でね。今は優人くんにはしなきゃいけないことがある訳だし。」
どういうことですか、と聞く前に新たな声が加わる。
「そういうことだ、十六夜。次の試合の準備をしろ。」
ピットの入り口には織斑先生が立っていた。黒い服を着ていたので全く分からなかった。一体いつから居たのだろうか。もしかして気配を消していたとか?ブリュンヒルデというより人外なこの人の事だ。やりかねん。
「十六夜、今何か失礼なことを考えなかったか?」
「いえ、全く。」
即答する。...油断も隙もねえな。
「でも織斑先生、次の試合っていうのは?」
「ん?今回の代表決定戦はリーグ戦だぞ。」
そうだったのか。ならのんびりしていられないな。シールドエネルギーを補充し再度ISを身に纏う。
「それでは行ってきます、楯無さん。」
「がんばってきなさいな、後輩君。」
頼りのある先輩からの応援をもらって俺は再びアリーナへと飛び出した。
side一夏
ピットから飛び出してくる機体。あれがさっきまで俺がスクリーンで見ていた優人の機体、フェンリルか。色だけ打鉄に似ているな。
「待たせて悪かったな、一夏。」
「そんなに待ってないぜ。それより優人こそ2戦連続だけど大丈夫なのか?」
「なに、疲労がたまってるわけでもないんだから支障は無いよ。」
手をひらひらと振りながら答える優人。その顔には確かに疲労が見て取れなかった。
「なら、お構いなしの全力で行くからな。」
「こっちだってそのつもりだ。負けたからって文句言うんじゃねぇぞ。」
言って、俺は雪片を、優人はダガーを構える。
『試合開始!』
千冬姉の合図とともに俺はすぐに優人に接近、雪片を振り下ろす。
タイミング、勢い全てが万全のその一撃は優人のもつダガー2本によって受け止められる。
「一夏、お前は所謂ブレオン機だ!そのお前がこの機会を逃そうとしないことぐらい俺に分からないと思ったか!?」
読まれている。そう気づいた瞬間に雪片でダガーを弾き、後ろへ飛び退ける。そんな俺の目の前を優人の回し蹴りが通り抜ける。避けた、と考える暇すら与えず目の前にはさっきまで優人の手の中にあったダガーが迫ってきている。
「うわっ!?」
耐えきれず身を屈め頭の上を通り過ぎたのを確認すると同時に距離をとる。蹴りからのダガー投擲に一瞬の間も無かった。恐らく優人が対戦前から考えていた動きなんだろう。
「さあ、次はどうするんだ?零落白夜でも使うのか?」
空いた手に銃を取り出す優人の声にまたもや驚かされる。見透かされている。それだけでここまで動揺してしまうなんて。
「そんな暇は与えねぇけどな!」
ロックオンアラートが騒ぎ出すのと同時に閃光が俺の横を走り抜ける。焦りはない。俺の打てる手が近接攻撃だけなのだとしたら、被弾を最小限に抑えれば良いのだから。
「!!」
スラスターで高速移動を横方向だけで行う。何発か際どい所を通るがシールドエネルギーはさっきから殆ど減らない。
十数発撃ったところでカチリという音が響く。弾切れ、エネルギー系の武器だがセシリアとの対戦で優人は銃を持っていた時間はかなり短かった。そこであの銃にも弾数の上限があることに賭けたのだ。
「チッ!」
銃を投げ捨て、もう一度ダガーを取ろうとする優人。
「うおおぉ!!!」
だが遅すぎる。横方向の移動だけで回避していたのは全てこの為。少ししか空いていなかった距離をブーストで一気に詰め、雪片を振るう。
「ぐぅ!」
優人はその一撃をなんとか左手のダガーで受け止める。しかし、それは試合開始直後とは違い片手だけでの防御だった。
「まだぁ!」
さらにブーストを吹かしながら腕に力を込める。俺の勢いに押し負けている優人の体が後方へと押され始める。
そこでブレードをダガーから外す。不意に拮抗していた力が消え、空振る優人。隙だらけの体に雪片を振り下ろした。
ガツン!という機械的な音が響き渡る。しかし、手応えが薄い。自分からブレードの動きに体を合わせて受け流したのだろうか。
「はぁぁ!」
立て直した優人が2本のダガーで攻撃を仕掛けてくる。だが、ここは俺の得意距離だ。退く必要はない!
「うおおぉ!」
同じく相手へと飛び込みブレードを振るう。
接近しては攻撃し、後退。ヒットアンドアウェイの戦いを繰り返し、お互いのシールドエネルギーを減らし続ける。一撃の重い俺の斬撃に対して優人の攻撃は軽い。しかし、隙あらば確実に攻撃を入れてくるその戦闘スタイルはダメージレースにおいてどちらも互角だ。
数分かそれとも数十分かの攻防の末には俺の残りエネルギーは20パーセントを切っていた。きっと優人もそんな感じだろう。
さっきまでよりも強い力で振るわれたダガーにブレードが跳ね上げられる。その隙に何故か攻撃をせず、後退する。
「セシリアとの対戦では出来なかったから分からなかったけど、近接戦闘って面白いな。」
曇りのない笑顔で告げる優人。何か策があってのものではない、本物の感想なんだな。
「そういうことなら、俺も同じ感想だぜ。何しろテレビゲームくらいでしかしないものを現実で、しかも自分の体で出来るんだからな。」
「違いない...」
そう言って笑い合う。対戦中に何やってるんだと言われるかも知れないが本当に楽しくて仕方がない。
「さて、本題に入ろうか。俺のシールドエネルギーは残り少ない。お前も同じくらいだろうから次で最後にしよう。」
「そろそろそう言ってくると思ってたぜ。よし、そうしよう。」
「中々分かってるじゃねぇか。じゃあ、行くぜ!」
ダガーをしまい、両手にビームライフルを展開する優人に対し、俺は雪片を構え直す。
「行くぞ白式...零落白夜、発動!」
雪片のブレード部分が展開し、ビームが刃を形成する。
かつて千冬姉が使い、ブリュンヒルデと呼ばれるにまで至らしめた力。それと同じ物を持っている。これほど頼もしいことは無い。
「行くぜ、優人。これで決着だ。」
side優人
「行くぜ、優人。これで決着だ。」
言葉と共に白式が加速する。この勝負はあいつの言葉通り直後の1回の激突で勝敗が決まる。
一夏が握るブレード、零落白夜が発動しているそれは一撃必殺の威力を持つまさにブレオン機の鑑のような武装だ。そして俺のエネルギー残量は20%弱といったところだ。恐らく掠っただけで俺の敗北となる筈だ。
対する俺の武器はビームライフルだ。しかし、さっきと同じ使い方をするのでは無い。両手に持ったそれの一方を他方と連結させる。
ビームライフル「ハティー&スコル」という北欧神話において太陽と月を喰らった2匹の狼の名を冠するその兵装の使い方の一つ。2丁を連結させることによって連射という選択肢を失う代わりに高弾速、高威力のビームを撃ち出す事が出来る。
「!!」
愚直に、ただ一直線にこちらへと突き進む少年に照準を合わせトリガーを引く。
数瞬も待たずに銃口を飛び出した閃光は少年を飲み込まんと眩い光を放つ。
「はっ!!」
一夏が声と共にブレードを横へ斬り払う。次の瞬間にはアリーナを照らしていた光は消え去っていた。
零落白夜、それはただ威力が高い攻撃というわけでは無い。対象のエネルギーを消滅させる事が出来るということはシールドバリアを切り裂く以外にエネルギー攻撃を無効化出来る。つまりこいつは俺のビームを叩き切ったのだ。
「これで!」
再度ブレードを振り被る一夏。しかし、この展開を予想して無かった訳では無い!
ビームライフルを捨て、同時に腰部の武装ボックスを起動。手元では無く、一夏へとボックス内のダガーを射出する。
ダガーが命中しているのか金属のぶつかり合う音が鼓膜を揺らす。
ビーム攻撃による一瞬の隙と間髪入れないダガー攻撃での足止め。そして、最後の近接攻撃。
背中にマウントされた対ISロングブレード、レーヴァテインを引き抜き、腰だめに構える。一夏、俺は負けるつもりは無いんだ!
地を蹴り、ブーストを起動。推進力を失わないまま突きを放つ!
だが、剣を持つこの手は突き出される事無く真上へと跳ね上がる。
「なっ!?」
「一週間も箒に教えてもらったんだ。無駄にはしない!」
剣の振り方を知る者と知らない者。後者が銃器を使えなくなった以上、こうなる事は必然だったのかも知れない。
振るわれた剣は俺のシールドエネルギーを欠片も残さず奪い取る。
『試合終了!勝者、織斑一夏!』
そして会場に響き渡る織斑先生の声。
そうか...俺は負けたんだな。
会場に響き渡る観客達の歓声を聞きながら、自分の投げ捨てた武器を拾う。
「優人!」
「どうしたんだ?」
こいつのことだ。嫌味を言うために呼び止めた訳では無いんだろうな。
「楽しかったな!」
満面の笑み。本心であることが透けて見えるその様子に一瞬動きを止めてしまう。
...何やってんだ、俺にホモの素質はねぇ。
「そんなこと言ってると戦闘狂かなんかに間違えられるぜ。」
軽口を叩いてピットへと向かう。
「お疲れ様。」
試合を見守ってくれていたのだろうか?そこには試合前と同じ様に先輩が。
「すいません。負けちゃいました。」
変に素直だと言われるかも知れ無いが俺は本気だ。この人に教わったことはこの一週間だけを見てもきりが無い。
「確かに距離を保たず相手の得意距離に飛び込んだり、ビームライフルの残弾管理もしてなかったりでいろいろ反省点が見つかるわね。」
痛い所を突かれる。確かに戦闘中、ハイになることで無駄な動きが多かった。そこは揺るぎない事実だ。
「納得している感じだね。お姉さん、君のそういう所好きだよ♪」
「本当に、ありがとうございました。」
誠意を込めて、礼を言う。あまりにも真剣すぎる態度に恥ずかしくなったのか顔をそらして、
「ま、まあ?護衛対象にも少しは強くなってもらわなきゃ私の負担も大きいしね!」
「何ですか、楯無さん?もしかして照れてるんじゃ「ごめんなさーい。手が滑ったわ。」痛っ!」
思いっきりわざとだろう。楯無さんの扇子が眉間に直撃する。
痛みに悶える俺に対して楯無さんが告げる。
「あんまり年上をからかっちゃ駄目だよ♪」
「は、はいぃ。」
「ほら、そんな所で蹲ってないで早く部屋に行くよっ!」
スタスタと俺を待つこと無く一人で歩き始める。ああ言っている事だし本気では無いのだろう。
ほんの少し痛む眉間を片手で押さえながら楯無さんへと追いつきに行く。
今日も先輩はいつも通りだ。
またまた更新にかなりの間が....
本当に申し訳無さでいっぱいです。
さてさて、これで終わった代表決定戦。このペースではタッグトーナメントに入るのは何年後だろうか(白目)
次回は酢豚っ子登場くらいは行きたいが...
まあ、乞うご期待です。次回で会いましょう!