放課後、俺たちはわいわいと話をしながら羽沢珈琲店へと向かった。ひまりと巴は終始ずっと話をしていて着くまで飽きるということは無かった。
「いらっしゃいませ!あ、三ノ輪くん!」
店に着くと天真爛漫な笑顔でつぐみが出迎えてくれる。白と茶色の制服姿が良く似合っている。
「来てくれたんだ!嬉しい!」
パッと笑顔を咲かせるつぐみ。その笑顔に自然と笑みが零れる。
「ちょっとー!私たちもいるんですけど〜!」
「あはは、ひまりちゃんと巴ちゃんもいらっしゃい!」
俺たちは適当な席へと座るとメニュー表を見る。珈琲や紅茶、ケーキといったものがあってどれにするか悩む。ちなみに1度家に戻ってお金は持ってきてあるので巴に奢ってもらうということは無い。やはりいくら本人が良いと言っても女子に財布を開かせるのは紳士の名折れだ。別に紳士ではないけど。
「あ......」
トレイにおしぼりとお冷を乗せて制服を着た蘭が俺の顔を見て一瞬固まる。巴とひまりとの会話ですっかり忘れていたが今日は蘭もシフトに入ってた日だったな、どうしよう......モカとの件もあって顔を合わせづらい。
けど蘭は微笑んで、
「いらっしゃい、メニュー決まったら呼んで」
とだけ言っておしぼりとお冷を置くと別のテーブルの注文をとりに行った。
(ん?何も言ってこなかったな......青葉さんの時といいよくわからん...)
とりあえず何を頼むか決めて2人を待つ間、せっせと働いている蘭を眺める。いつもの学校のブレザーとは違う姿はとても新鮮で、客に見せている笑顔を見るとちょっと嫉妬してしまうところもあるけどなんだか微笑ましくもある。
「三ノ輪くんは何にするか決まった?」
「ん?ああ、決まってるよ」
「蘭ー!」
ひまりは元気よく手を上げて蘭を呼んだ。
「はい!少々お待ちください!」
蘭はトレイを持って店のキッチンの方へと入って行き、直ぐに出てきた。
「お待たせ致しました」
おお、遠目から見ていたとはいえ実際に接客してるのを間近で見るとまた違った新鮮さがある。
「モンブランと珈琲、ミルクは無しで」
「ブラック派?」
「うん、甘過ぎるのは苦手なんだよ」
昔から甘いものよりも苦いものが好きで珈琲もミルクなんて入れたら甘過ぎて飲めやしない。ただ別に甘いものが嫌いというわけでもない、むしろ好きな方だ。
蘭は注文を受け取るとまたキッチンの方へと戻って行った。いつもあんな感じならなぁ、なんて心の中で思う。いつも無表情かムスッとした顔しか見せないから俺のことが本当に好きなのかどうかわからない。だからこそ、蘭の笑顔は俺の心を鷲掴みにしていた。
2人と適当な話をしながらコーヒーを飲む。ほろ苦さが美味しく、モンブランもとても良い。
「どうですか?三ノ輪くん、お口に合いますか?」
通りすがったつぐみに感想を聞かれる。
「うん、めっちゃ美味しいよ」
「なら良かったです!ゆっくりしてってくださいね」
そう言ってまた仕事の方に戻っていく。やはり彼女は天使のように可愛い。
「へえー、つぐのあんな笑顔久々だなぁ」
「あれからちょっと元気なかったからね、よかったー」
2人はほっと胸を撫で下ろしたような表情、何かあったのだろうか?
「何かあったのか?」
「あー、うん、ちょっとね......どうしよう巴」
「蘭もいるし今はちょっと話せないかな、この事についてはまた今度でもいいか?」
どうやら訳ありのようだな、気にはなるが女の子達のプライベートな事にまで無理やり首を突っ込むほど俺も馬鹿ではない。
「ああ、話せる時でいいよ」
「すまねえな、あ、つぐみ!ケーキおかわり!」
「私も私も!」
巴はにかっと笑うとつぐみに追加の注文を頼む。それに続いてひまりも手を上げた。つぐみははーい!と笑顔で返すとぱたぱたと厨房へと駆け込んでいった。
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「そろそろ帰ろうかー」
おかわりのケーキも食べ終わって一息つき、ひまりが背伸びをしながら言った。時間も結構経っていてもうすぐ夜の7時になろうとしている。
「つぐー!お会計いいー?」
「はーい!すぐ行きます!」
つぐみはテーブルを拭く手を早めた。そういえばモカからの伝言も伝えなければいけない、もう少し残るか......?
「あ、しゅーくんは残ってて、私もう少ししたら上がりだし一緒に帰ろ」
蘭が帰ろうとするこちらに気づいて俺の元まで来た。ちょうどいい、それなら待つついでに羽沢さんにも伝言を伝えておこう。
「わかった、じゃあ上原さんと宇田川さんは先に帰ってていいよ。俺はもうちょい残るからさ」
「おう、わかった、蘭のことよろしくな」
「またね!三ノ輪くん」
2人はお金を払うと店を出ていった。俺は2人を見送ると空いてるカウンターの席に座って携帯を開く。店には俺と蘭、つぐみの3人しかいなくて閉店間際ということもあり他のお客さんはみんな帰ってしまったようだ。
(そういやモカからの伝言、本当にあんなのでいいのか?)
俺に伝えられたのは特に難しいものではなかった。というのも本人から直接伝えればいいだけの内容で何も伝言で伝える意味がよくわからないものだった。
「三ノ輪くん、今日は来てくれてありがとうございます」
時間潰しにアプリをいじくっているとつぐみが声をかけてきた。ちょうどいい、今のうちに言ってしまうか。
「ああ、こちらこそご馳走様でした。そういやモカから羽沢さんに伝言なんだけどさ、なんか店が終わったら携帯見といて、だってさ」
「モカちゃんから?なんだろう」
「なんか、『昨日の事で伝えたいことあるから』だってよ。何かあったのか?」
それを伝えるとつぐみの顔がだんだんこわばってくる。何か不味いものでも見られたりしたといったように見えた。
「う、ううん、なんでもない。わかった、ありがとね」
それだけ言って逃げるように片付けに戻った。やっぱり何かあったようだけどなんだろうか、気になる。
ただその後、つぐみとは一言も喋ることなく俺は蘭と店を後にした。
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帰り道を蘭と並んで歩く。蘭は俺と腕を組み、なんだか嬉しそうな表情。
「今日はおつかれさま」
「うん、来てくれて嬉しかった」
顔を赤らめて呟く。なんだかいつもと違って可愛い反応にドギマギした。つぐみといいモカといい蘭といい、この幼馴染3人組の情緒不安定さはよくわからん......
「俺も可愛い蘭が見れて嬉しかったよ」
「か...可愛い......!?」
蘭は顔を赤くして俺を見る。突然の事で驚いている表情。
「あぁ、特にバイトの制服姿なんて似合ってて良かったぞ。あと俺が来た時のあの笑顔なんて可愛すぎてドキッとした」
「や、やめてよ.....私そんなに可愛くないし...」
赤らめた顔を更に赤くしていく、こんな蘭ははじめてだ。無理やり恋人にされた時はあんなに怖かったのに、こんな反応もできるのか...なんだかこっちまでドキドキしてきた。
それからはお互い赤面してしまって何も話すこと無く蘭の家の前で別れた。
「じ、じゃあまた明日...」
「う、うん...」
結局進展もないまま、俺は帰り道を蘭のことを考えながら歩いた。
らんちゃんだいすきぷろじぇくと