拳のマニフェスト   作:蜘蛛ヶ淵

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イマジナリィ・ザファル

 …ふと気が付けば、彼は見知らぬ場所に居た。

 辺りは薄暗く、けれど空に浮かぶ月の光が強いせいか、

周りが見えないという程ではない。

 目の前に広がる空間は結構広く、なんとも味気の無い場所であり、

草木一本すら見当たらない。

 そんな広場を囲っているであろう高く長い塀は、

何とも立派な物だというのに、宝の持ち腐れも言い所。

 コレは日本家屋特有の土塀という奴であろうか。

 自身が置かれた訳も分からぬこの状況、

彼は不安に駆られながらも把握の為に周りを見渡し、…そして感じる妙な違和…。

 

 (どうも、視界が低い…様な。)

 

 その他にもナンとも妙な感覚が自身を襲い、まるで自分の身体では無いかの様。

 確認するかの様にまずは…と、自分の手のひらを視界に入れ 思考が止まる。

 

 (…え?)

 

 薄闇の中、はっきりとは見えないが…小さく、綺麗な手。

 

 (自分の手は大きく、もっとこう…ささくれ立った、

歳相応のモノだった、様な…。

 コレ、どう見ても子供の…。)

 

 混乱と疑念が渦巻く中、視線は自身の手の平へと留まり…、

そこでふと隣に気配を感じた。

 振り返ればソコには着流しを羽織った男が一人、

廊下の縁側に設けられた柱の一つにもたれ掛かり、寝息を立てる事無く眠っていた。

 世の中に疲れ果てた様な表情をして眠るその男を見て、

彼は更なる違和感に襲われた。

 薄暗さの中でも分かるその男の顔立ちは、二次元チックとでも表現すればいいのか。

 どうにも現実的に見て、ありえない造詣をしているのだ。

 

 (…いや、1/1フィギュアとかなら、まぁ…。)

 

 なんでこんな金のかかっていそうな代物(モノ)が目の前にあるのか。

 そんな疑問を一先ず横に置き、そんな職人芸輝く立体フィギュア(仮)を、

自らの顎に右手をあててガン見をしつつ、その出来栄えに彼は素人ながら感心する。

 

 (このキャラクターどこかで見た事あるなー。)

 

 自らの現状を一端棚に上げ、何処でこの人物を見たか思い出そうと記憶を探り、

…その結果、ひらめきが一足飛びして自分の今の状況とよく似たシーンを思い出す。

 その上で死んだ様に眠る男(立体フィギュア)の顔にはっきりと見える位置まで自らの顔を近づけて、

改めて確認した。

 

 「…衛宮切嗣?」

 

 思わず声に出してまで確認しなければならない程に、彼は混乱の極みにあった。

 

 (は、いやナニ?これは一体どうゆう…。

 おォ…、俺は何時の間に型月アミューズメントパークに迷いこんだんだ?)

 

 無論そんなテーマパークは現実に存在しないし、

これから先もきっと無いだろう…そう、きっと。

 もしそんなものが建設されたのならば、

コン○イル・S○Kに続き、型月も終わりの始まりの様な気がしてならないし…。

 いや、S○Kはプレ○モアとして黄泉返ったからまだその限りでは無いが、

まぁソレは置いといて…。

 

 (じゃあ…じゃあえっと、なんだ。

 …このシチュエーションからして…自分の、立ち、位置?

 …自分は…今の自分って、何だ?)

 

 一瞬襲う眩暈を堪え、低めの視界に映したるは何とも古びた日本家屋。

 その縁側から屋内へと上がりこみ、恐らく鏡があるであろう洗面所を必死に探す。

 そして見つけたその場所で、電灯の灯りのスイッチをカチリと入れて、

鏡面が設置されている洗面台へと手を掛ける。

 …そして、その顔を見てしまった。現実に観てありえない、

まるで漫画やアニメのキャラクターの様な造詣をしているその顔を…。

 

      幼い顔立ち…

       

              赤みがかった髪…

 

                        橙色の瞳…

 

 「…エェ?…衛宮…シロ、う?」

 

 もともとそんなに多くない彼の脳は許容量が遂に限界を迎え、

その意識はあっさりと奈落の底へ落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …そして早朝。

 いつもの日課として朝の挨拶に衛宮邸へと来訪した藤村大河により、

縁側で事切れている衛宮切嗣が発見。

 密かに恋慕していた憧れの男性が死んでいるという、

年頃の女学生から観て中々に重い事実に直面し、

衝撃で半狂乱になりつつも家屋内にいるであろう息子である士郎へ報せに、

足早に彼の自室へと辿り着くが当人がおらず。

 涙でウワづる声で士郎の名前を連呼して必死に各部屋を巡り続け、

とうとう洗面所内で気絶している士郎(仮)を探し当てたところで

彼女の脳も許容量が限界を迎え、弟分(仮)の隣で仲良く気絶。

 その後しばらくしても帰ってこない孫娘を迎えに、

藤村組若衆の一人が衛宮邸を訪問し事態を把握。

 士郎(仮)は大河共々藤村組の方で介抱され、

彼らが眠っているその間に、衛宮切嗣の葬儀が藤村雷画主導の下、

粛々と進められていった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 線香の香りと沈経と、そして木魚の一定の音が空間を満たす衛宮邸…その一室。

 襖は取り払われ仕切りを無くした広い空間の中で、けれど弔問客は訪れず。

 式場と化した和室(その場)にいるのは、息子である衛宮士郎(仮)、

次いでこの場を整えてくれた藤村雷画とその孫娘である藤村大河、

そして菩提寺(柳洞寺)から呼びよせた住職の計四名だけである。

 

 通夜の最中、士郎少年(仮)はふと意識を自身とその周囲へと向ける。

 

 (…いや、どう考えてもこれは夢だろう…。

 この身体、本当に本物なのか、実体なのか?

 感覚の方はどうなってるんだろう…?)

 

 そんな疑問に駆られ、彼は現状で出来る範囲の確認作業に入っていた。

 通夜が終わった後に用意されていた食事からは味覚を感じとり、

その後は匂いに手触りにと、事細かに何度も何度も確認した。

 …終始彼の傍には大河が付き添っていた為、

渡りに船とばかりに彼女の身体をそれとなくペタペタと触るなどして

他者がどのような感触なのかも確認した。

 対する彼女の方は、頼る養父がいなくなり不安になっているのだろうと思い違い、

今にも泣きそうな表情で士郎(仮)を抱きしめ、彼の好きな様にさせていた。

 

 青臭く(乳臭く)、けれど女性特有の甘い香りが士郎(仮)の鼻腔を優しく(くすぐ)る。

 所々引き締まりつつも、柔らかな彼女の肉の感触を掌の上で何度も感じ取り、

徐々に調子に乗り始めた彼は胸や腹まわりを撫で回し、

さて と臀部へ手を延ばした辺りでさすがに度が過ぎた為か

「不謹しーん!!」という彼女の怒声と共に

脳天にチョップを喰らいお叱りを受けるはめになってしまった。

 先程の泣き顔は何処へやら…。

 恥じらいと焦りで表情が真っ赤に染まった藤村大河という、

なんとも希少なものが見られた為、そして年頃の青い果実(肢体)を堪能出来た為

「収支でみればおじさん得したなー」と思う事にした。

 

 (…まぁ確かに故人を偲んでる最中に…、

そもそも女性の身体は気安く愛でるモンじゃないわなー、うん。)

 

 そう、喪服姿の女学生に胸の高鳴りを覚えた(タイガーに触指が動いた)という訳では決して無い。 

 …決して、無い。

 

 常識的にそういった行為や感情など、彼の実年齢上あっさりと制御が可能であるし、

なにより場の空気から察し、自重も出来るはず…なのだが、実際に彼の目の前では、

常識云々とは懸け離れた、非現実的な光景が広がっている。

 先程の藤村大河を始めとして、アニメの立体フィギュアみたいな存在(人間?)が、

確かな質感を持ち、個人それぞれが微かながらに体臭を放ち、物を食べ、

鎮痛な面持ちでこそあるが表情豊かに会話をし、世話しなく動き回っているのである。

 そんな非現実的な光景に、彼は察するという機微(常識的行動)が取れずにいた。

 

 (ア~○メじゃない♪ア~○メじゃない…♪)

 

 …と、不思議な世界に対してこのまま現実逃避を決め込みたかった士郎(仮)。

 しかしそれも限界の様で、彼の感覚が目の前にあるこれらの現実(虚構)を、

徐々に受け入れ始めていた。

 ただ現実(本来)を知る意識のみが現状の感覚とのズレを生じ、

僅かな苦痛と長く続く不快感に顔を顰める。

 

 (ウゥ、…現実?…現、実?これは俺の…いや、違……。)

 

 朦朧とする意識の中、少しでも自我を保とうと、

彼は本能的に外界からの情報の一切を、一時シャットアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして気が付けば、あれよあれよという間に衛宮切嗣の葬儀は恙無く終了し、

恐らく事前に拵えたであろう衛宮家之墓と彫られた墓石の前で、

彼が納まった骨壷を両手に抱え、墓穴に納めようとしている士郎(仮)がいた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 …その後…式が終わって以降、無気力状態に陥った(不登校児童になった)士郎(仮)に気を遣ってか、

藤村組の面々がちょくちょく様子を伺いに衛宮邸へと訪れたり、

大河が食料持参で頻繁に泊まり込みに来たりしているのだが、

現在、士郎(仮)の心情は彼らに対し感謝する余裕など欠片も無く、

焦燥という沼地に嵌まり込んでおり、他者を気遣う所では無かった。

          

 (死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。)

 

 居間の畳に寝転がりながら絶望を詠う児童 SHI-RO(仮)。

 

 (あかん…死ぬ…このままいけば確実に死ぬ。

 主にバーサーカー(ガチムチ)のせいで死ぬ。

 次点は何だ?モジャだっけ?それとも金ピカ?

 あぁ、最初の一突きカマしにくるのは変態青タイツだっけか…。)

 

 

 

―――最初(最後)の一発、くれてやんよぉ~オラァン!―――

 

 

 

 そんなふざけた台詞をのたまいながら、

憎たらしいくらいのイイ笑顔で槍をブッ刺しに来る、

憎いアンチクショウを幻視する。

 

 (お互い合意の上での一突きならばまったく問題無いが無理矢理突くのは強姦だろうが!

 そのほんの先っちょだけで俺は簡単に逝く(死ぬ)んだぞ!

 もう少し(ヤリ)の扱いというものを学べや原人(サル)が!

 というかそもそも何でこうなった!?

 型月作品なんて最後に触れたの虚淵FATE(ZERO)ぐらいだぞ!

 たまに二次創作に目を通しはしたけど、

最近触れてるサブカルは専ら神姫(エロブル)ぐらいで…。

 あぁ畜生もうせっかく四属性までは武器と幻獣が整ってきたってのに…。)

 

 そんな具合に混乱と現実逃避に身を浸しつつも、この非現実めいた現実に対し

少しでも多くの打開策を捻り出そうと葬式が終わった後ここ数日の間、

外界の情報を最低限までシャットダウンし脳ミソをフル稼働させながら

居間中をゴロゴロと寝転がっている彼であるのだが、堂々巡りで一向に進展がない。

 

 (…試しに原作を、なぞらえて…みる、か?)

 

 それはつまり原作主人公と同じ様に一日の終わりには下手を打てば死ぬかも知れない

魔術の鍛錬をこなさなければならないということだ。

 後にその鍛錬方法自体が間違いであると、

登場人物の一人である遠坂 凛によって指摘される訳なのだが、

この基地外鍛錬法により衛宮士郎の魔術回路は、

そこらの魔術師よりも異様に強固になった…とも言える。

 

 (うーん、うーん、……うん、無理☆)

 

 そもそも中身からして、まったくの別人なのである。

 中身が違えば当然「起源」というのも違う訳で…。

 今後、彼が衛宮士郎(オリジナル)の真似をどれだけ擬えたところで、

解析や投影なんて魔術は出来るはずも無く…。

 ましてや弓矢による的当て百発百中(与一プレイ)など夢のまた夢である。

 

 (……とゆうか …もう、粗方試した後だし……あ――…。)

 

 

 

 

 


…数日前…。


 

 

 

 葬儀後、彼は何かと付き纏う藤村大河の目を盗み、

今後の命綱になるかもしれぬ原作知識を必死に脳内から漁っては試行錯誤。

 実際に衛宮士郎が劇中で想像している魔術回路を思い出し、

起動するイメージを何度も思い浮かべてはトレースオンと口ずさむ。

 『強化』『解析』『投影』と、頭に浮かぶ魔術を一通り試してみた訳だが、

彼の身体はうんともすんとも言いやしなかった。

 台所の中央に置かれたダイニングテーブル…その上に置かれた、

まったく変化の無いオーブントースター(実験素材)を前にして、悩む彼。

 

(と言うか、やり方ゲームでしか知らないんだけど、コレ間違ってるの???)

 

 額に手を当て、生前(?)のゲームプレイ(マウスクリック)中の記憶を掘り起こし、

彼は衛宮士郎というキャラクターがどういう風に魔術を使っていたか、

思い出そうとしていた。

 

 (えーと…リボルバー?式拳銃の撃鉄を下ろすイメージが

衛宮士郎(コイツ)の魔術回路の起動スイッチだったはず。

 ………今おじさん、その撃鉄とやらを一昔前の百円ライターばりに

むっちゃカチカチ鳴らしてるんだけど、なんで起動してくれないんスカねぇ~…。

 …あぁ!クッソ今の俺、そーいやヤ二吸えねぇじゃん!?

 …いや、吸おうと思えば…。あ~そっか、売ってくれねぇか、こんなナリだし……。

 …あっ!親父のお使いって事にすればいけるのか?

 この時期なら自販機にタスポも無いし…。

 じゃあ無くて…、そもそも俺、拳銃なんて持ったこと無いんだけど、

撃鉄ってこんな風に気軽に下ろしたり上げたり出来るもんだっけ?

 ん―――……やり方が違うのか? 少し位、変化があってもいい様なモンを…。)

 

 元々、拳銃のイメージすら曖昧な彼の連想する撃鉄は、

愛煙家としての邪念も入り込み、

フリントライター(百円ライター)のヤスリと着火操作部へと変貌を遂げていた。

 一端やさぐれだった心を落ち着ける為、

彼はテーブルに収まっているダイニングチェアを引き、腰掛ける。

 そして溜息と共に顔の前で両手を組み、

目の前にあるオーブントースター(実験素材)を苦悶の表情で凝視する。

 

 (いかんな…。これはまず衛宮士郎というキャラクターを、一から思い出さんと…。)

 

 そして何とか彼の初期設定からチートと呼ばれる迄の成長過程を、

思い出してはチラシの裏に箇条書き。

 …思い出したのは以下の通り…。

 彼がチート主人公と呼ばれるのは原作終了後のお話である事。

 チートの片鱗が見えてはじめるのは原作中盤以降、

それ以前の彼はただの足手纏いである事。

 『強化』の魔術が完璧に成功したのが聖杯戦争初日で、

ランサー(青タイツ)に二度目の襲撃を受けてる最中だった事……等々。

 日常生活等に於いて主に使っていたのが『解析』で、

『投影』は気分転換の為の息抜きで使用。

 魔術回路は通常では開いておらず、開く為の通過儀礼(施術)を鍛錬と称し、

遠坂凛に出会うまでの約十年間、休まず続けていた事…。

 鍛錬失敗で死あるのみである事…。

 

 (…死…あるのみである事…。死、死…あぁ、そうだ!

ここから逃げるという選択肢は…。)

 

 二次創作でたまに見かける変り種の物語…。

 しかし目を通したソレ等は話を盛り上げる展開上、ほぼこうなってしまうのだ。

 …………アインツベルン(イリヤスフィール)が存在する限り、

聖杯戦争から逃がれられない……と。

 

 …一瞬止まったペン先を、深い溜息と共に再び動かしては箇条書き。

 

 (…―――で、回路が開いてない現在、

認識が出来る回路の数は二本か三本だけ…だったはず。

 …で、本来なら使える数は二十八本?だったか…?

 その二、三本も認識出来無いんですが…僕…。

 …あ~…いや、もしかしたら今から始めて十年間の鍛錬の成果で

なんとか認識出来るのが二、三本になる訳か?

 と、なると「解析」も十年間の苦行の果てに身に付いた感じ?

 じゃあ少年時代の時に気軽に出来た魔術って「投影」の失敗作だけな訳か?

 ……いや俺、実際に投影なんて(そんなモン)出来ねーしぃ、出来なかったしぃ…。)

 

 「………あとは何かあったっけかな?」

 

 利き手に持ったボールペンを器用に回しながら、

生前プレイしたエロゲーについて思い出そうとする彼であったが、

再び知恵熱に襲われ思考作業を一端中断。

 その後、熱が冷めては朧げな記憶を探り、

チラシの裏にソレ等は書き足してはまた知恵熱に苛まれ、そして…。

 

 

 


 

 

 

 

 

 …そして現在、こうしてやさぐれている。

 

 そもそもオリジナル士郎が原作初期(少年時代)から息抜きで使えたであろう

『投影魔術』(出来損ない)すら使えないという時点でもう無理である。

 仮に原作開始まで日課をこなしきったとして出来上がるのは、

魔術の使えない海賊版士郎とか劣化士郎(自分を魔術使いだと思い込んでる精神異常者)だと思われる。

 無論、原作以下の戦力外であるし、

ランサー辺りと出くわした時点でFATE/stay nightお終いである。

 

 (…あ! 今風に言えばニア士郎、かな…。フフ。

 

 …などと、くだらぬ思いつきに薄ら笑いを浮かべつつ…。

 彼は頭に浮かんだウロ憶えの知識を、手元にあるメモ帳で確認しては、

今後取れるであろう手段をツラツラと脳内に並べ、ダメ出しする作業を行う。

 

 (戦争開始前に篭城決め込むとして、

仮に身体に埋め込まれてる鞘を触媒にしてセイバーを喚び出せたとしても

燃費の悪さですぐガス欠になるだろうし、

じゃあエネルギー補填の為相撲(S〇X)取ろう(しよう)ぜと進めたとして…、

…まぁ応じてはくれるんだろうよ。

 もううろ覚えだけど菌糸類セイバーって確か

勝つ為ならばよほど非道な行為で無い限り手段は選ばないって感じのキャラだったはずだし。

 …だから勝利に繋がるなら搾りたての精液の一杯や二杯、

嫌な顔しながらもガブガブ飲み込んでくれるはずだ。

 …先週の葬儀の最中にも大河嬢で色々と確認させてもらった通り、

二次元フィギュアの様なニンゲン(3Dカ○タム少女)でも

欲情するだけならばあっさり出来るし、精通が来れば出すモノだって出せるだろう。

 セイバーのガス欠問題がこれで解決されたとしても…だ。

 彼女と懇ろになったのがあの金ピカに知れた日には恐らく、

イの一番にやって来て「死ね雑種」。

 うん、無理無理無理のカタツムリ。

 仮に精液(ハイオク)満タンになるまでヤリまくったセイバー(イケイケ女)

金ピカの所へ送り込んだ(投下した)所で勝率4割も届くかどうか。

 バトルフィールドによっては多少勝率が変わるかもしれんけどさー。

 でもなーあの野郎、慢心云々言っときながらその時々の気分次第で

あっさり最大宝具(エヌマエリシュ)使って来る危険性がある訳でー…。

 …仮に聖剣の鞘を返せばほぼ勝ち確だとしてもさー、

じゃあどうやって返すんだって話になるわけで…。

 …投影なんて使えないし…俺…。)

 

 まぁ、まずは目先の金ピカ(ラスボス)よりもまずバーサーカー(中ボス)をどうにかしたいんですよねー…と、

彼は一端思考のプールから這い摺り出て上半身を起こす。

 例え無気力であろうと腹は減る。

 簡単な昼食でも摂ろうかとカップ麺がストックしてある台所へと向かいつつ、

「今日は何味にしようかなー」と型月世界(こちら)に来て以降、

数少ない楽しみに頭を悩ませる。

 

 (今の所、コッチ来て良かったと思う点は糖尿を気にしなくてよくなった事と、

関節痛が無くなった事。

 …あとは胃モタレしなくなったってところかなー。)若いって素晴らしい。

 

 先程の陰鬱さはどこへやら。

 ルンルン気分で食用箪笥の戸棚からストックされてるカップ麺を一つ取り出し、

ペリペリと紙蓋を捲りつつ、流し台に置かれたポットの給湯口の下へ、

コトリと容器をそこへ置くと、給湯スイッチをポチリと押す。

 静かにそこへ流れ落ちる熱湯の音をBGMに、

「これでスマホでもあればなー」と現状の不満点を彼は嘆いた。

 

 現在彼が住んでいる衛宮家なる空間は、時間が90年代前半でほぼ止まっており、

ネット環境と呼べる代物が本格的に整い始めるのはまだ先の話。

 スマホが普及するのは年代的にも先の話である。

 

 (お昼○~すみはウ○ウ○ウォッチング~…♪)

 

 動画サイトとはおろかネット通信すら無く、

パソコン通信すら出来るか怪しい90年代そのままの衛宮邸。

 居間に設置されているブラウン管テレビから流れる某番組のテーマソングを

脳内でリフレインさせつつ、座卓に置かれたカップ麺を一口啜る。

 

 (周りの人間があくせくと働いてる中過ごす、

気だるい午後の一時…なんと贅沢な事か。)

 

 …などとくだらない優越感に浸りつつ、

彼は明確な答えに近い打開策の内の一つを思い浮かべてみる。

 

 (逃げる…やっぱりこれが一番正解に近い様な気がする。

 うん、グズリーズ(漫画のキャラ)も言っていた、嫌なら逃げてもいいんだよって。

 …とは言ってもじゃあ何処に逃げるんだという話になる。

 正直この世界は弱者に対して非常に厳しい…。 

 仮にヴィンランド(避難所)的な場所があったとしてもだ。

 そこにもいずれは型月特有の魑魅魍魎が入り込む。だってここ型月世界だもの。

 そもそもアラヤだとかガイアだとかいう得体が知れねぇ物(型月二大巨頭)の匙加減次第で、

滅びがどうの救いがどうの決まっちまう世界ってだけでもう詰みじゃん逃げ場無しじゃん。)

 

 コネでもあれば話は少し変わるかも知れないが、

モニター越しでしか知らぬ世界でそんな上等な物は彼には無い。

 切嗣あたりなら持っていたかもしれないが彼は既に故人である。

 出会い方からその後の関係遺憾によっては、

切嗣自身が士郎(仮)最大のコネになったのかもしれないが、

出会い頭で既に彼は往生している。

 この時点で詰み2である。

 

 (…やっぱアレかー、正義の味方云々のくだりとか喋ってから死んだんだろなぁ…。)

 

 麺を下品に啜りつつ、彼の死に顔を思い返す。

 まるで救われた様な、満足した様な表情をしていたので恐らくは士郎(仮)の予想どうり、

「じゃあ俺が…」と、オリジナル士郎が口にしていたと思われる。

 

 (で、何故かその後を引き継ぐ男・俺……。いやいやいやいやいやいや!)

 

 士郎(仮)(いち小市民)にとってはそんな事、冗談では無いし無理な話である。

 そんなに正義の見方云々に拘りたければ警察官なり自衛官なりにでも成ればいい。

 …が、衛宮親子(コイツラ)が求めるであろう正義の味方というのは、

どうにもそういった地に足着けた堅実的なモノでは我慢ならないモノらしい。

 もっと具体的に言うならば、こう…本来目立っちゃいけないのにド派手に決める

正義的なモノ(戦隊ヒーロー)に惹かれるのだろう。

 具体的に言えば旅客機☆撃墜とか都市部でのホテル☆爆破とかがソレである。

 

 (まぁ、そりゃあこういう物語の中央にいるのが「堅実的な主人公」(現実主義者)とかだったら、

面白みは無いんだろうけどさー…。

 仮に原作終了後のチート主人公が国家公務員に成って御国(正義)の為に云々なんて言われても、

読み手からしてみれば「は?」と思いたくなる顛末ではあるわ。

 昼はサラリーマン じゃあ夜は(特命係長)…見たいなノリなら面白いかもしれんけど、

主人公が魔術師って肩書きである以上、

やっぱり人生裏街道を派手に爆進して正義だ信念だと

一々拘って懊悩してくれた方が読み手側としては面白いだろうし俺だって思うわ。

 …俺が読者側ならな…。)

 

 しかし今は悲しいかな艱難辛苦に塗れる(読者を楽しませる)予定の主人公(憑依)。

 本当にどうしてこうなった、である。 

 ちなみにそんな彼の掲げる正義は「一にお金、二に女」である。

 現代日本を生きるティピカルな若者からしてみれば珍しいものの、

それでも一般大衆の大体の野郎共が今だ持っているであろう確かな正義である。

 まぁ、金はこんな(型月)世界だから何れはケツ拭く紙にもなりゃしねぇ日が来るかもしれない。

 女に限っては正直、型月世界(アニメキャラクター)は彼の感性(ゴースト)が違うと囁く。

 

 (いや、かわいいっちゃかわいいんだけどねー、でもねーでもさー…。)

 

 …彼の場合、呼吸する様に二次元キャラクターをG行為のネタとして使う事は出来るのだが、

じゃあソレらと恋愛行為やら結婚生活が出来るのかというとまったくもって出来そうには無い。

 と言うよりもまず考えた事が無い…。

 まぁ現実の大半の人間はまずそんな事は考やしないが…。

 

 (現実に戻れず(夢から覚めず)一生をここで過ごすとなれば、

そういう事もいずれは考えなきゃならんのかー…。)

 

 つまる所、こちらに来た以上彼は現実にいるかもしれない少数派(選ばれし者)

ならなければならないという事である。

 これがスカイリム(無論MOD導入)の世界だったならば、

まだ彼の感性が受け入れられたかもしれない。

 

 (話を戻して魔術回路…なまじこれがある分、他の魔術師や人外に見つかれば確実に

素材扱いとして採取される…詰み3。

 そして身体に埋め込まれた聖剣の鞘…みつかったらやっぱり無理矢理に摘出されたあげく、

下手すれば魔術回路もズタズタになって心身共に再起不能…詰み4。

 それら4つの死亡フラグを邪魔だとばかりに

薙ぎ倒して迫り来るバーサーカー(イリヤスフィール)という聳え立つ詰み5(クソ)

 まぁ、それらが無くても死ぬ時はやっぱり死んじゃうんだよね。

 深夜帰宅途中に間桐臓硯(妖怪ジジィ)にモシャモシャ貪り食われる一般会社員さん(♀)みたいに。

 ……色々と考えてみたが結局一般人にも優しくない仕様やんけ。

 せめて魔術が使えればなー。)

 

 …ふと考えを一端打ち切り、容器に残った汁に視線を落としつつ、

ボソボソと何事かを嘆く彼。

 

 「R-typeよりマシだ、ベルセルクよりマシだ、Dead Spaceよりマシだ…。」

 

 この世界に迷い込んでからここ数日間で、

彼なりに自我を保たせる為に何とはなしに思いついた、この魔法の言葉…。

 とは言え、この世界の場合例え運命の夜(原作)を乗り越えたとしても、

何時か何処かで不審死するかもしれない、又は行方不明になるかもしれないという

恐怖(ロクデナシ共)との邂逅という名の不安が死ぬまで続いてく訳であり、

魔法の言葉に出て来た作品群と比べても、

単純に緩急の違いというだけで、そう大差が無いと思われる。

 終始出ずっぱりなのか、忘れた頃にやってくるのかぐらいの違いといえばいいのか…。

 最近は神経が急激に擦り切れた弊害なのか、

「突発的な交通事故ってまだ日常の範囲内だったんだなー」などと

色々と間違った安心感までついてしまっていた。

 …何時の間にやら汁まで飲み終わり、空になったカップ麺の容器を座卓の上へそのままに、

彼は座布団からゆるりと立ち上がると、居間から陽の当たる縁側へ。

 前傾姿勢のまま向かい、溜息と共に腰を下ろす。

 陰鬱としたこの気分を、彼は少しでも転換したかった。

 

 (あ~~…両手から突然イデオンソードとか出てこねぇかな~~…。

 もし出てくれたら列師範も目ん玉飛び出るぐらいにグルグル回すわ~~…。)

 

 もはや捨て鉢気味の思考で縁側に腰掛けたまま、

死んだ魚の様な目で両手をグルングルンとブン回す。

 端から見ればもはや気が触れた子供にしか見えない。

 もしもこの場に大河がいれば、彼の背中をそっと優しく抱きしめていたことだろう。

 まぁ今の士郎(仮)にとっては、その優しさは非常に鬱陶しい以外の何物でも無いのだが。

 

 (死ぬ…死ぬのか、俺…。普通こういう状況だとチートとかさ…、

そういうのも……無いか…。)

 

 身体中からは大量の脂汗。

 瞳には訳も無く涙が溢れ、内臓が下腹部に下がる様な感覚に吐き気を覚え、自らの肩を抱く。

 

 (終わり…終わりか…。訳もわからず…こんな世界に放り出されて…。

 これでもう…終わり。俺が? 嘘みたい…。)

 

 実際始まってもいないのだが始まる前に色々ともう終わってる…それが彼の現状である。

 涙目のまま膝を抱き、後ろに体重を傾け、起き上がりコボシ…。

 昼下がりの青空を視界に映し、黄昏る。

 

 「…ハハハ…ハハハハハ…。無理無理無理の、かたつむりー……。」

 

 

 

 

 

『無理と諦めては何事も成し得んぞ』

 

 

 

 

 

 黄昏ていた士郎(仮)の耳朶(じだ)に突如、力強く芯の篭った男の声が響いてきた。

 

 『お前の年は幾つだ、ペドロ』

 

 『物心ついてこれまでにどれ程の努力をした?』

 

 『何に挑み 誰に負け 何時何処から落ちこぼれたというのだ』

 

 

「ペドロじゃねぇよ!!」

 

 

 俺は士郎(仮)だ!―――…と、現状名乗らざるを得ない自分の名前を挙げ、

抗議しようと声のした方へ面を上げると、目の前にある何も無い寂しい庭の中、

杖で身体を支えている一人の中年男性が立っていた。

 肌は浅黒くかなりの高身長…鍛え抜かれたその身体はまるで一つの芸術作品の様。

 身に着けている衣類こそ粗末な物のはずなのに、

それを身に纏う彼自身から放たれる闘気(オーラ)のせいか、

その程度の些事等一切気に無らない。

 むしろ気になる点と言うのなら、左脚の膝に着けられた痛々しい補助器具であるが、

当人にとっては素知らぬ風。

 現役時代(真夏の熱狂の中)を生き抜いた拳闘士()にとってソレは誇るべき(思い出)である…と、同時に奴隷解放を願う彼の教え子達にとっての忌むべき(訓戒)でもある。

 

…決してこうはなってくれるな、と。

 

 その偉丈夫は厳しくも暖かい眼差しで静かに士郎(仮)を見据えていた。

 …そう、士郎(仮)はこの漢を知っている。

 

 「えぇ、チョッ、待って…。 作品が違ウッ、なんでココに…えぇ!?!?」

 

 『たかが十年足らずの小僧如きが俺の前で挫折を気取るつもりか?』

 

 

 

『寝言を抜かすな!!』

 

 

 

 『目を醒ましてしっかりと前を見ろ!』

 

 『挑みもせずに諦めるなど俺が許さん!』

 

 『拗ねるな 嫉むな 逃げるな 誤魔化すな!』

 

 『今この場で出せる全力を振り絞れ!』

 

 『今日現在辿りつける己の極点に登れ!』

 

 『他者との競争は常にその先にあるのだ!』

 

 …あぁ、いちいちこの男の口から紡がれる訓戒はどれもこれもが心に響く。

 この男が登場する格闘漫画を読みふけり、ふと思ったことが彼にはあった。

 

 ―――子供の頃、もしもこんな大人が傍に居れば(ゴミの様な)俺の人生、

少しは変わっていたのだろうか、と。

 

 

 

『いいかッここがッ出発点だ!』

 

 

 

 そう檄を士郎(仮)へ飛ばすと、彼は持っていた杖の穂先を力の限り地面へと打ちつけた。

 

 ―――今、まさにその『もしも』を可能にしてくれるかもしれない 存在(大人)が、

彼の目の前に立っている。

 

 『ここからどう動くかで将来が決まる』

 

 『考えろ!時間だけは全ての人間に平等なのだ』

 

 『十年後、泣くも笑うもお前の努力次第だぞ』

 

 「…ザファルッ…先生(ゼンッゼイ)ッ……!!」

 

 …あぁそうだ、そうだよ先生。十年後、俺は笑いたい…。

 …例えこんな世界(末法の世)でも、笑って生きていきたいんだ。

                    

 萎えた両脚に自らの拳を叩き付け、腰掛けていた縁側からゆっくりと彼は立ち上がる。

 そして涙と共にあらん限りの雄叫びを上げ、彼はなけなしの闘志を振るい起たせた。

 

 『確約しよう。向上心を捨てず、前へ進む奴を決して見捨てたりはしない』

 

 そう言い終えると、彼は何時の間にか右手に持っていた、

『ある物』の持ち手部分を士郎へ向けて、差し出した…。

 

 

 

…さあ、まずは穴掘り…。

 

 

 

 

 ……翌日早朝、衛宮邸の庭を余す限り穴だらけにしてなお満足出来(飽き足ら)ず、

掌に出来た血豆が潰れ血塗れになったツルハシの柄を、あらん限りの力で握り締め、

その先端を大地に全身全霊でもって打ち続けようとする士郎少年(仮)と、

そんな彼を羽交い絞めにして涙ながら必死に止める大河嬢がそこに居た……。

 




高度云千メートルからの落下で着地点がわかりません。
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