拳のマニフェスト   作:蜘蛛ヶ淵

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 かなり時間を空けてしまい、申し訳ありません。
 今回、変態仮面は二割ほどしかヤラかしてません。



 ※氷室 鐘さんのキャラクターが崩壊してます。
 ※蒔寺 楓さんのキャラクターも若干崩壊してます。

 彼女達のファンの方、またキャラクター崩壊が苦手な方は、
ブラウザバックを推奨します。


男子学園生の日常

最強の英霊とは誰か

 

―――ギルガメッシュ―――

―――トミュリス―――

―――始皇帝―――

 

 二月初旬、冬木市…時刻は現在、深夜を回っている。

 深山町西端、円蔵山…その中腹に位置する、柳洞寺へと続く長い石段…。

 参拝客が辟易(へきえき)するであろうその長い道程を、

一陣(いちじん)の風の如く駆け上がる、一体の影があった。

 

―――サラディン―――

―――チンギス・ハン―――

―――トラヤヌス―――

 

 ソレは片手になんとも物騒な長物を携え、

今夜の行動指針として定めていたその場所へ、嬉々(きき)として突き進む。

 …そして、寺院の(なか)に続くであろう山門…その手前で、

目的とする内の一体を、その身に感じ取ると、

疾駆(しっく)していたその影は、慣性を無視するかの如く瞬時に止まった。

 

―――ハンムラビ―――

―――ハーラル三世―――

―――フリードリヒ一世―――

 

 月明かりの(ほの)かな光の下、影はその身を(さら)け出す。

 ソレは獣を彷彿(ほうふつ)とさせる、しなやかな肉体を持つ偉丈夫だった。

 ライダースーツの様な、なんとも奇抜(きばつ)な出で立ち故、

均整(きんせい)の取れたボディラインが強調されているせいもあってか、

殊更(ことさら)ソレを連想させる。

 この男…名義上はランサーと呼ばれている。

 此度この冬木市で行われる聖杯戦争において、

槍兵のサーヴァントとして招かれた、超常たる存在であった。

 

 …―――対して。

 

 身体から湯気の如く(にじ)み出る()る気を、

一切隠そうともしないランサーなる超危険人物を前にして、

く微動(びどう)だにする事無く、山門手前の石段の上に疲れた様に座る、

一人の男が居た。

 

―――北条時宗―――

―――ガンジー―――

―――ンち…モンテスマ―――

 

 その男の出で立ちは、月明かりからでもよく分かるモノだった。

 涼やかな色合いながら、現代人から観れば何とも派手な陣羽織を着こなす、侍然とした風体。

 …ただし枯れ果てた老人の様な、気怠(けだる)い空気を(まと)っている為か、

その衣装から感じる持ち味が、(なか)ば死んでいたりする…。

 侍はランサーの存在に気が付くと、座っていた石段から力無く立ち上がる。

 座していた時はその頭部が、完全に地面を向いていた為に判別が付かなかったが、

月明かりに(さら)されたその(かお)は、

同性であるランサーでさえ見紛(みまご)うばかりの美男子だった。

 

 …しかし何故だろう…所々が微妙に(すす)けてる…。

 

 後ろに()われた群青色に近い彼の長髪は、

本来ならば()れた様に(あで)やかで、観る者を()きつける程なのだろう…、

何故か白髪(しらが)が少々目立つが。

 …(ほほ)も妙にやつれており土気色に近いその肌も、観る者によっては病人を想起させる。

 きっと本調子の彼は、浮き名を流すほどの美青年なのかもしれないが、

何故こうなっているのだろう…。

 

 「…ソチラの事情は知らんが…大丈夫か、オイ?」

 

 「…気遣い、無用。」

 

 これから刃を競うべき相手が不調であるならば、

この槍兵の性格上、当然ヤる気は()がれる訳で、

何なら一度、出直したい気分にまでなっていたりするのだが…。

 しかし、彼と主従の(ちぎ)りを結んでいるマスター本人からは、

ソレを良しとしない(むね)を、念話を用いて伝えてくる。

 為に、彼は溜息(ためいき)混じりに持っていた長物を、空気を斬るかの如く一()ぎする事で、

()えかけた自身を維持させる事に努める。

 そんな彼の挙動に応えるかの様に、侍姿の青年もゆったりとした動作で、

手に持った鞘から刀を抜き、名乗りを上げる。

 

 「アサシン…。佐々木…小次郎。」

 

 「…ほぅ…。真名を自ら明かすとは、気風(きっぷ)の良い事で。」

 

 目に見えて体調不良ながら、しかし(なお)矜持(きょうじ)を貫くこの男の姿勢に、

ある種の感動を覚えてしまったランサー。

 そんな彼の心の内を言えば、とある願望が徐々に鎌首をもたげ初めていた。

 

 ―――出来うる事ならば、この侍がベストな状態で()り合ってみたい…。

 

 そんな心境もあってか、ますます出直したい衝動に駆られた彼であるが、

やっぱり雇用主が念話を通して、グチグチと小言を()れ流す為、

苦虫()()めた様な表情で、槍を構える以外に無かった。

 

 …槍兵から見て、半ば不本意ながら始まるであろう、殺し合い…。

 しかし彼は一合目を仕掛けるその前に、どうしても気になる点が一つだけあった。

 

 「おっぱじめる前に…ひとつ、聞いていいか?」

 

 「…何だ?」

 

 「テメェ、何で受肉してやがるんだ?」

 

 

 

「 聞 く な (泣) 。」

 

 

 

現在、最強の…英雄は

 

まだ決まっていない…

 

 

 

 

 


 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 時間を数日前の現在に戻し…―――早朝、冬木市深山町。

 山のほぼ中腹付近にあると言っていい、穂群原学園へと続く通学路。

 肌寒くも(さわ)やかな朝の陽射しを()びて、

学生服に身を包んだ穂群原学園生徒諸兄等が、

学び舎へと続く長い長い坂道を、白い息を吐きながら歩いてゆく。

 周囲に飛び交う会話の内容は、十代学生特有のモノばかり。

 

 億劫(おっくう)な科目…。

 

 課題の提出期限…。

 

 とある教師に対しての心象や、その評価…。

 

 昨日視聴した深夜番組の感想、等々…。

 

 皆が皆、思い思いに気怠(けだる)い学生生活を謳歌(おうか)する…そんな極ありふれた日常の一場面…。

 そんな喧騒(けんそう)とした公共の場が突如として、波を引く様に静まり返る。

 先程まで(ただよ)っていた学生達特有の(ゆる)んだ空気が、

まるで傷口に塩を()り付けられ、挙句(あげく)に冷水を浴びせられたかの如く、

急速に引き(しま)ってゆく…。

 現在、彼等の心身に(せわ)しなく働くその機能は、元々人類が古来より備わっているモノ。

 石器時代から今日に至るまで、個人差こそあれど持っている、本能的なシグナル。

 少なくとも、この現代日本という社会の枠組みに()いて言うならば、

働かせる機会など娯楽媒体(ばいたい)を除くなら、そうそう訪れる事は無いであろう。

 …そう、その機能の名は…恐怖…。

 

 「拳王だ!拳王が来たぞぉ!」

 

 「目線下に向けろ…、踏み(つぶ)されるぞ…!」

 

 「おぉ、遠目からでもよく見ゆる…。相変わらず、良い仕上がり具合よ…。」

 

 「あぁ…あの大胸筋。一度でいいからこの手で触れさせてはくれまいか…。」

 

 学生達により構成された群衆が真っ二つに割れるその様は、

まるで大海を割るモーゼの如く。

 しかし彼等は波よりも静かに音を立てる事無く公道の両端へ、

まるで訓練されたかの様に速やかに整列してゆく。

 

 「ウッソでしょ…。今日、ワタシ登校時間念入りにずらしたのに、なんで…いつもこんな。」

 

 まぁ、中にはこうしてグチグチ文句を()れつつ、

(すみ)っこに寄ってく紅い外套(がいとう)を羽織ったツインテール女学生も居るが。

 ―――彼女の名前は遠坂 凛。

 今日に至るまで朝の通学時間帯が、

衛宮 士郎と完全にかち合ってしまっている不幸体質というか、

ある意味持っている少女である。

 おかしな方向に突き進んでいる物語を、

原作側が無理矢理に修正させようとしている結果なのかもしれないが。

 メタ視点を持たぬ彼女にとっては、ほとほと迷惑でしかない。

 

 「…あっ…。お、お早うございます…遠坂先輩…。」

 

 もはや毎朝恒例(こうれい)ゆえに、

不機嫌を取り(つくろ)う気も起きなくなった遠坂 凛に向かって、

一人の少女が()し目がちに小さな声で挨拶をしてくる。

 ―――間桐 桜。

 冬木の地において名家である間桐の長女であり、

訳あって遠坂から養子に出された凛の実妹である。

 

 「…えぇ、おはよう、間桐さん。」

 

 原作と違いコチラ側の間桐 桜は、

自身を変える契機(けいき)となった運命的な出会いが一切無かった為、

陰気寄りな性格に拍車がかかっており、

本来入部するはずであった弓道部にも入っていない。

 その為、衛宮 士郎はおろか藤村 大河という庇護(ひご)者も居ない現在の彼女は、

原作以上に(はかな)げな空気を(まと)っている有様ゆえに、(かつ)ての実姉である凛は、

殊更(ことさら)に気をかけていた。

 とは言え、お互い家の関係上、

この弱々しい妹に対し、必要以上に関わる事が出来ぬ故、

遠巻きから見守る他に無く、彼女は非常にヤキモキとする日々を送っていた。

 ―――ぎこちない空気を(かも)し出す二人を、沈黙が包む…。

 

 「…お互い、ツイてないわね…。」

 

 「…はい…。」

 

 隣に(たたず)むかつての妹を横目で見つつ、

どうにもならないこの現状を、どうにか理性で割り切る遠坂嬢。

 取り合えず、こうして偶然という形で直接顔色を()れただけ良しとすべきか。

 そう自身を納得させると、視線をゆっくりと晴れ渡る青空へ、

途方に()れるかの様な心持ちで移してゆく。

 

 (―――ハァ…本来ならマジで辟易(へきえき)する時間ではあるけれど、

今日ばかりは筋肉ゴリラに感謝かしら…。)

 

 もはや(ちぢ)まる事の無い距離が出来てしまった(かつ)ての姉妹、

(つつ)まし気な朝の交流であった。

 

 

 (はば)む者一切が存在しなくなり、静寂(せいじゃく)が辺り一面を支配する通学路…その中央…。

 よく響く羽音と共に、空から一羽の白い(はと)が地面へ舞い降り、

ことさら静謐(せいひつ)感が(ただよ)い始めるこの空間に、程無くしてズシン…ズシン…という地鳴りが、

整列している生徒諸兄等の耳朶(じたぶ)に届き始めると、住宅街へと続いている下り坂の向こうから、

徐々に型月世界観に真っ向から反逆する絵面(エヅラ)とゆーか、

いかにも劇画(げきが)タッチの大男がその姿を現す…。

 ソレは(きた)え上げた肉体を、張り()けんばかりの学生服に包みこんだ、

身長2M超えのムクつけき男子学生。

 両(はし)で整列している学生諸兄等を始め、深山(みやま)町住人一同からは、

拳王だの聖帝だのと呼ばれる程に、諸々(もろもろ)と極めてしまった大(おとこ)

 

 ―――名を、衛宮 拳士郎…もとい士郎。

 

 青春を謳歌(おうか)する穂群原学園在校生及び教師陣から、

文字通り()れモノ扱いされている、(かな)しきモンスターである…。

 (ちな)みに、ここ最近は深山(みやま)町がサザンクロスと他称され、

ソコに君臨(くんりん)と言うか居を構えているが故に、キングとかいう異名が新たに付け加えられた。

 暗にそのキングと同じ様に早く死んでくれないかなーとでも、

皆に思われているのかもしれない。

 まぁ(いく)ら冬木市住民がソレを(せつ)に願おうと、

この世界にキング足る士郎にトドメをさせる世紀末救世主なんてモノは存在しないし、

何なら彼の方が聖堂教会連中に救世主の如く扱われている。

 …()れモノ扱いの救世主ではあるが。

 

 「…ハァ。」

 

 学生達による様々な視線が自身に注目する中、

肩を落とし、誰にも聞こえぬくらいの小さな溜息(ためいき)()らしつつ、

校門を通過する悩める男・衛宮 士郎。

 闘争という非日常から一旦抜け出てみれば、

この男は一般的な感性と道徳心を合わせ持つ冬木市市民の一人である。

 生前には持ち合わせていなかった有り余る力を常日頃から持て余し、

偶《たま》にタガが外れる事はあるけれど、人間相手にだけはまだ一線など超えてはいないし、

誓って殺しはヤッていないと彼自身、自信を持って…………。

 

 …一瞬、彼の視界に血の泡吹いて大の字に倒れこむ、名も無き893の幻影がチラついたが、

ソレはきっと、朝の陽射しが彼に見せた白昼夢…。

 

 話を戻し…これまでの所業を(かんが)みて、一般人とはもはや言い(がた)くはあるけれど、

本来ナイーブな気質を持つ彼に取って、毎朝必ず訪れるこの登校時間は只々憂鬱(ゆううつ)の一言であり、

数ある悩みの種の一つであった。

 だってまだ学園生たる彼等に対して(物理的に)ナニモシテイナイというのに、

周囲の学生全員が毎日毎日この態度だし…。

 

 (―――…もう…イっそ何もかも蹴散らシて、楽になってシまイたイ…。)

 

 何やら物騒な考えと共に重苦しい空気を身に(まと)いつつ、

昇降口を身を屈めながらくぐり抜けた彼は、

出入口手前に置かれた数ある下駄箱の一つにまで(よど)みなく歩みを進めると、

ただ静かに立ち止まる。

 そしてそのまま上履きを取り出す様子も見せず、

能面ヅラのまま、何故かピクリとも動かない…。

 ただただその場で不穏な空気と言うか不快なくらいに濃密な闘氣を、

どうしてか全身から(かも)し出し始めてゆく士郎青年。

 グラップラー特有のねっとりとしたオーラが昇降口全体を秒で(おお)いつくし、

その場に居合わせた生徒一同は空間がぐにゃり…と()じれてゆく様な、

恐ろしい錯覚に襲われる。

 本能で危険を察知した生徒一同が、身体中から冷たい汗を吹き出しながら、

一斉にSAN値チェックの強制ダイスロールを開始。

 結果として(うめ)きながら(うずくま)る者、泡吹いて卒倒する者など様々な疾患者が出始める。

 (たま)に発狂する者もいるが、まぁソコは御愛嬌。

 さて、そんな士郎が不機嫌を(あら)わにした事で、

日常から完全に遠ざかってしまった光景が今、こうして展開されている訳だが、

ここ穂群原学園では週にニ・三回の割合でよく見られる、

極々日常的な光景であったりする。

 ―――実際に当校の学園理事も、この怪現象について現在こう(のたま)っている。

 

 「第三者から観れば異常に映るかもしれない…が、

当学園側から観れば物理的な被害者が出ている訳でもない為、

今のところなんら問題は無いと判断している。」

 

 …(ちな)みに…かつてこの光景に遭遇した倫理教諭である葛木 宗一郎氏が、

原因足る士郎を(いさ)めようと行動を起こしはしたが、

奴に近づくにつれ、範馬 勇次郎に近づく渋川先生の如く、

次から次へと強烈な幻覚に襲われ続け、

(つい)には奴の五歩手前で(ひざ)を屈し、保健室へと運ばれていった過去もあったりするが…。

 

 まぁこうして、まったく腰を上げようとしない理事長や、

葛木先生による知られざる武力無き死闘等もあって以降、

結局この地獄の様な光景を毎度毎度処理する為、

藤村 大河が泡食って現場に急行する事がほぼ恒例(こうれい)となっており、

彼女の登場で場はいつも収束していた。

 …そう本来ならば、彼女が現場に割って入る事で非日常から日常へ、

回帰するはずなのだ。

 しかし生憎と今日の彼女は職朝により、この場に現れる可能性が微妙に低い。

 (かす)かな(うめ)き声が、そこかしこで聞こえる地獄と表現してもいいこの惨状…。

 何時もの如く亡者たる学園生達の頭上に、

蜘蛛(くも)の糸を()らすはずのお釈迦様もとい大河が一向に現れぬ…。

 そんな事態ともなれば、さていったい誰がこの現状を解決へと導くのか。

 皆が皆、悲嘆(ひたん)()れて涙と吐瀉(としゃ)物を()れ流す即席地獄、

その中央に君臨する士郎の広い背筋に、聞きなれた少女の大きな声が届く。

 

 「…お、おはよう!衛宮くん!」

 

 今にもこれからナニカシソウナ彼が声のする方へと振り返ると、

ソコに居たのは小動物を思わせる、小柄で可愛らしい女子生徒。

 ―――彼女の名前は三枝 由紀香。

 士郎とクラスは別なれど、檀家(だんか)主催の行事において何度か顔を合わせて以降、

こうして挨拶を交わす程度には交流のある………こんな人でなし(士郎)を見ても、

怖気づく事無く接してくれる、希少な人物の一人である。

 

 「…あァ、おはよう…三枝さん。」

 

 絵面が戯画(げきが)タッチゆえに、表情が微妙に読みずらい士郎ではあるが、

そんな彼の心情はと言えば…。

 

 (…彼女のお陰で、今日も一日頑張っていける…ぞい。)

 

 一学生として気さく(?)に声をかけてくれる彼女に対し、機嫌を取り戻したのか。

 鬼…もとい士郎から放たれていた制空圏が見る間に(しぼ)み、

昇降口全域を占めていた(おぞ)ましい瘴気(しょうき)(うそ)の如く晴れていく。

 

 …―――助かった―――…その場に居合わせた皆が皆、

まったく同じ感想を共有する瞬間であった。

 

 …三枝 由紀香…今や彼女の存在は、

衛宮 士郎という危険物に日々その身を(さら)されている学園生たちにとって、

藤村 大河不在の際には無くてはならぬ、もう一人の救いの神であり、

学園生及び一部教師陣からは、藤村・三枝両名を穂群原二大女神として持て(はや)し、

(つい)には隠れファンクラブまで出来てしまう程であった…。

 …まぁ大河の場合、とある二面性が問題視されてたりしているが、ソレはさておいて。

 現状そんな有様もあり、本来ならば高嶺(たかね)の花として男子生徒に人気のある遠坂 凛は、

その存在がかなり気薄(きうす)になっているのだが、

当の遠坂嬢は気にしていないどころか、

(まつ)り上げられてる彼女たちに対して不憫(ふびん)に思っていたりする。

 …(ちな)みに、士郎を(なだ)められそうな存在として蒔寺 楓も居るのだが、

彼女の場合、近所の気のいい兄ちゃんの足元に(まと)わりつく小学校低学年の如く

士郎に(なつ)いているせいもあり、あまり期待されてはいない。

 むしろ不機嫌な士郎をおかしな方向にハイにさせ、

状況を(さら)に混迷とさせる危険性を(はら)んでる為、あまり歓迎されてはいなかった。

 そして本来ならば、そんな悪ノリした蒔寺嬢のストッパー役として三枝に加えもう一人、

氷室 鐘の存在が出てくるのだが、そんな彼女は現在何をしているかと言えば…。

 

 …三枝嬢の背後に身を(かが)める様に隠れつつ口元を両手で(おさ)え、

涙目になりながら気配を必死に殺そうとしている真っ最中であった。

 

 (…色不異空(しきふいくう)空不異色(くうふいしき)色即是空(しきそくぜくう)空即是色(くうそくぜしき)…)ヒッヒッフー…ヒッヒッフー…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オハヨウ。氷室サン。」

 

「ヒィッ…!!」

 

 般若心経から抜粋(ばっすい)した一部分を、

何度も何度も暗読する氷室 鐘の視界に、音も無く入り込み、

今出来る最大限の壮絶な笑顔で、彼女に挨拶を試みる士郎。

 そんな彼に対し…か細い悲鳴を上げて膝下ガクブルで応えてしまう氷室 鐘嬢。

 本来ならば何事にも毅然(きぜん)とした態度で接するはずの彼女が、

何故ココまで士郎に対して、過剰な拒絶反応を示す残念少女と成り果てたのか…。

 ソレはとある事情から…と言うかやっぱり士郎のヤラかしによって、

こうなってしまったとしか言えない訳で…。

 

 

 


 

 

 

 思い起こせば去年の夏場…。

 檀家(だんか)(もよお)しにより行われた納涼百物語。

 柳洞寺本堂を会場にして、

和気あいあいとした(ゆる)い空気が流れる当時刻は午後7時30分。

 板張りの床にそれぞれが輪を作る様に間隔を開けて、

用意されていた座布団の上に胡坐(あぐら)をかく子供達。

 そんな彼等の内側には何本もの蝋燭(ろうそく)沿()う様に置かれ、

藤村 大河や住職の(せがれ)である柳洞 零観など、

朗読会に参加している成人組の一部が、ソレ等に灯りを(とも)していく。

 十代学生たちの楽し気な声が飛び交う、なんとも賑やかな光景。

 その輪の中に、どう見ても場違いな存在感を(かも)し出す、独りの益荒男(ますらお)がソコに居た。

 

 ―――衛宮 士郎。

 

 世界観を圧倒的に間違えている(いか)つい風貌(ふうぼう)と、前世から合わせての実年齢故に、

若人達が(かも)し出す十代特有の空気は無論の事、

現在経歴上学生故に成人組連中にすら、馴染む事叶わぬ悲しき男の名である。

 しかしながら今、彼の心情は哀愁(あいしゅう)とは少々遠く、

見た目超然とした態度とは裏腹に、その内は焦燥の只中(ただなか)にあった。

 真っ当な人間社会に少しでも溶け込ませようという藤村 大河目論見みの(もと)

強制的にこんな(もよお)し事に参加させられてしまった彼ではあるが、

正直この手の朗読会は生前から某動画サイトを通しての聞き専であり、

語り手としては不得手どころか、経験事態が皆無だからである。

 何よりライブで、人前で慣れもしない朗読などと言われても…。

 生前だったあの頃と違い、今世に()いては平穏とは程遠く、

まるでアトラクションのような日々を今日(こんにち)に至るまで送ってきた彼にとって、

怪談の元ネタになった連中と、(こぶし)で語り合った方が遥かに気楽と思うくらいには、

高難易度の季節限定イベントであった。

 

 (朝礼のスピーチ以上に億劫(おっくう)なんだが…。)

 

 もはや斑模様(まだらもよう)の如く、穴だらけになってしまった生前の記憶達。

 だというのに(かつ)ての苦々(にがにが)しい勤め人としての日々だけは、

思い出したくも無いというのに事ある(ごと)に、こうしてフラッシュバックを引き起こす。

 知らぬうちに彼の眉間(みけん)(しわ)が寄る。

 一瞬脳裏によぎった懐かしくも不快な記憶…ソレを眉間(みけん)(しわ)と共に打ち消すと、

彼は(ざわ)めく心を(りっ)するべく深く息を吐き、利き手を自らの口元に添える。

 そうして落ち着いたかに思えば、これから行われる朗読会に対し、再び陰鬱(いんうつ)になってゆく…。

 そんな具合に、繰り返しコンセントレーションを失敗し続けて、

不機嫌な空気を徐々に醸し出しているこの男…衛宮 士郎。

 現状コレに近づく命知らずな(やから)等、身内である藤村 大河ぐらいに居ないものではあるが、

何事にも例外は居たりする。

 ソレは不機嫌男から吹き出す瘴気(しょうき)に一切物怖じする事無く、

太い首に細い両腕をするりと回し、背中からぶら下がって童女(わらべめ)の如くはしゃぐ女・蒔寺 楓嬢。

 そして彼女を(いさ)めるべく、慌てて士郎というか主に蒔寺嬢に詰め寄る三枝・氷室両名である。

 

 木枯らし吹く心境だった自身の周囲が一変、図らずして賑やかになってしまっているが、

その喧騒の一切をガン無視し、彼は取り合えず今日の為に仕入れた怪談ネタの数々を、

一部殴り倒したモノ含め、何度もしつこいくらいに脳内で反芻(はんすう)し続けていた…。

 

 

 

 

 用意された蝋燭(ろうそく)の全てに灯りが点いている事を確認し終えると、

本堂の照明が順に消され、辺りが闇に包まれる。

 しかしその中央で、暗闇に抵抗するかの如く照らされた、

頼りない十数本もの蝋燭(ろうそく)…。

 その(ともしび)によって、大小様々な影が幾つも広い本堂に生まれる。

 中でも一際大きな人影が、

一同の背後にあろう立派な仏殿を(おお)い被さっている事を視界に認めると、

各々が場の雰囲気に()まれ、皆の背筋に怖気が(はし)る。

 この場に居る誰もがこの圧迫とした状況に対し、

大半が某暗殺拳の修練場を連想していたりするのだが、ソレもまぁ無理はない。

 どこをどう見ても十代半ばに見えぬ世紀末覇者みたいな存在と、

厳粛(げんしゅく)な空気が流れる本堂内、そして暗がりを妖しく照らす蝋燭(ろうそく)という、

ぱっと見よくばり三点セットである。

 その光景に皆それぞれが重苦しい空気に委縮(いしゅく)する中、

成人連中の何名かが『そういえば北斗神拳伝承者も連載当時は十代半ばだったな』…と、

この雰囲気に対し感想を浮かべていたりする。

 誰かが生唾(なまつば)を飲みこむ音が、各々の耳朶(じだ)へと響く…そんな暗がりの中。

 輪の内に居る一人の男子が、軽く片手と声を挙げる。

 発言元へ皆が一斉に注目すると、その先に居る人物は柳洞寺住職の次男坊、

柳洞 一成である事が分かる。

 

 「―――…で、では一番手は、俺からで(よろ)しいか?」

 

 一成を始めこの場に居る参加者…藤村 大河を除いた全員が、

士郎の方へと視線を移し、恐る恐ると(うかが)いを立ててくる。

 ソレもこの場に居る誰もが本能で悟っているが故の行動だろう。

 

 ―――…この空間の支配者は奴だ、と。

 

 (いや、なんでコチラにいちいち了解求めてくるんだよ…。)

 

 だが、当人はそんな彼等の心情など(つゆ)知らず。

 (ただ)でさえ気持ちに余裕が無い為か、思わず生前口調でそう独り()ちる士郎であったが、

取り合えず場の空気を読んだ上で静かに頷く。

 こうして万人恐怖もとい士郎から許しを得られた一同が、安堵(あんど)溜息(ためいき)()らす中、

一成少年は場を仕切り直すかの様に(しば)瞑目(めいもく)した後、

静かに記念すべき一話目を語り始めるのであった。

 

 

 

 

 朗読会が粛々と進行するにつれ、今日この日の為に士郎が貴重な(ひま)を見つけては、

せっせこ用意しておいた怪談ネタの数々が、他の語り部達によって次々と消化されてゆく。

 特に彼が「こりゃ(きも)いりだ~」と感じて仕入れた怪談ネタが語られるや(いな)や、

仁王の如く眉間(みけん)(しわ)を寄せ、焦りの感情をつい(あら)わにしてしまう。

 まぁ、その感情の発露(はつろ)もほんの一瞬の事ではあるが。

 しかし本能的恐怖から、彼の一挙手一投足を盗み見る参加者一同にとって見れば、

その何気ない瞬間ですら嫌でも目に付いてしまう訳で…。

 そう、(とら)え方によって視れば、先程この男が垣間(かいま)見せたその表情は、

場の雰囲気も相まって憤怒(ふんど)、または不快とも取れてしまうのである。

 「正直なんでそこまで不機嫌なの…?」と朗読会参加者一同、頭に浮かぶ疑問を持て余す中、

不穏な圧が暗い本堂内を制圧…。

 主に士郎のせいで怪談話とはまったく違う方向で空気がどんどん(うす)ら寒くなる中、

参加者一同の大半が、その身に冷たい汗を()れ流す。

 ある意味、(りょう)を取る為に開かれた肝試しは大成功と言っていいだろう。

 …怪談から生まれる精神的恐怖と言うよりも、

衛宮 士郎と言う物理的強迫観念から()き出る納涼でこそあるが…。

 彼の両隣に座る藤村・蒔寺両名を除いた他参加者全員が、

「もう帰りたい帰らせて…」と本気で願う…そんな中、

士郎の対面に鎮座する氷室 鐘、及び彼女の両隣に座る(あわ)れな語り部達に至っては、

彼の圧をモロに受け続けた為か、心身共に疲弊(ひへい)しきっており、

(つい)には冷や汗の出し過ぎによって、脱水症状を引き起こす。

 我慢強さが災いして倒れる機会を(いっ)した氷室嬢を残し、

両隣の語り部計二名、間を置かずしめやかに脱落…。

 (ちな)みに、その(あわ)れな被害者にして、

この後起きるだろう惨劇を回避出来た幸運な二名は、美綴姉弟だったりする。

 さて流石にこの事態に対し、主催側である柳洞寺住職が、

早々に朗読会を切り上げるよう、周りに提案した訳だが、

しかし中途半端で終わらせてしまうのも、切りが悪いと(とら)えたのか。

 次の語り部を最後に、今回は()めとしようと言う運びとなった。

 …そのオオトリを飾る記念すべき語り部の名は、衛宮 士郎。

 この場に居る語り部ほぼ全員が心身共に衰弱(すいじゃく)する原因となっている、

人間災害である。

 

 

 …さて、そんな人間災害であるが、正直なところ困り果てていた。

 よりにもよってオオトリを任されてしまったこの状況に。

 百物語という慣れない朗読会にしても元々辟易(へきえき)していた為か、

彼が集めた怪談ネタの数々は、彼のやる気の無さの表れとも言うべきか、

よくある都市伝説の類ばかりであった。

 トリとして扱うにはどうにもこうにもパンチが弱い。

 …まぁ中には実体験を元にしたモノも(いく)つかあるが、

よくよく考えてみれば、ソレ等は怪談話と言うよりは武勇伝の類であろう。

 仮にこの場でこの男が―――…

 

 「人外相手に激闘の末、人間マフラーならぬ化け物マフラー(アルゼンチンバックブリーガー)()めてみた。」

 

 ―――…等と笑顔で話したところで、誰も信じはすまいだろう…多分、きっと、恐らく。

 

 (ヌウゥウゥ…。己はいったい、何を語ればいい?)

 

 (うな)りと共につい出てしまったその苦悶(くもん)の表情、正に阿吽(あうん)の如し。

 周囲の聞き手の内何名かがその相貌(そうぼう)に恐れ(おのの)き、思わずか細い悲鳴を上げてしまう。

 無自覚に周囲の空気を殊更(ことさら)重くしてゆく士郎を(いさ)めるべく、

張り付いた笑顔のまま無言で彼の脇腹を何度も小突くというかブン殴る大河であったが、

当の士郎本人は蚊ほども気付く事無く、更に思考を(めぐ)らせる。

 

 (インパクト、だ…。トリを飾れる程の…。

 そう、この場に居る誰もが一夏の思い出だと語れる程の、

強烈なインパクトが欲しい…。)

 

 正直に言えばソレらしいモノは取り合えず…という形で用意してはいる。

 ソレは朗読会前日ターバン巻いた伝道師から彼に与えられた余計な一計。

 ただソレは見る人によっては講談というよりも一発芸の類であり、

本来皆が求める「恐怖」というよりは、むしろ「戦慄」に近い。

 これが忘年会であるならば高確率で受けるだろうが、

現在行われているのは朗読会…。

 下手を打てば場がしらける危険性すらあるだろう。

 …何よりも…彼はその一芸、未だ成功した試しが無い。

 

 (…(いな)…―――追い詰められた、この得難き局面…。

 為ればこそ、挑んでみる価値がある。)

 

 今居るこの場が親睦(しんぼく)の下に開かれた一行事である事をすっかり忘れ、

いつも通りグラップル思考に行き着いているアホ一名…。

 そしてこの状況に追い詰められた末に、

悪い方向へ開き直ってしまったこのグラップラーは、

用意されていたその一芸に、(つい)に手を伸ばしてしまったのである。

 ソレが後にこの場に居る少年少女達にとって、

払拭(ふっしょく)(がた)いトラウマを植え付ける破目になるとも知らずに…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――最終話『秘伝』―――

語り部・衛宮 士郎feat.ヌミディアのザファル

 

 

 

 『「…拳闘…いやボクシングに限らず拳を扱う武術を手習う者ならば、

何を今更と思うかもしれないが。

 拳というものは握り方、その強弱で質の異なる打撃を繰り出す事が出来る。

 特に拳を主体とする武であるならば、握力と集中力は必要不可欠な要素だ。

 拳を命中させる一瞬の集中力、そして極限まで(きた)え上げた握力が()み合えば、

堅牢(けんろう)な肉体を誇る大男さえ打倒しうる故にな。」』

 

 「ちょっと、士郎…ッ!!」

 

 誰がどう聞いても怪談とは全く趣旨(しゅし)の異なる内容をつらつら展開していく弟分に、

たまらず苦言を(てい)しようとした大河であったが直後、

彼女はその身を硬直し、息を()む事になる。

 何故ならば彼女の視界に映る弟分…衛宮 士郎に重なり合わさるかの様に、

何者かの姿が視えているからである。

 

 ソレは何の(かざ)り気も無い粗末な衣服を身に(まと)う、異国の男性だった…。

 …日に焼けた薄黒い肌…半(そで)から通された両腕は太く、

けれど見()れるくらいにしなやかで…。

 精悍(せいかん)な顔立ちと力強いその眼差しは、

有無を言わさぬ迫力と、言葉には無い説得力を感じられる程。

 そして服の上からでもよく分かる、(きた)え上げられたその肉体は、

一種の芸術作品と見(まご)うばかりの感動さえ覚えてしまう。

 

 (…へッ、幽霊?!!)

 

 場の雰囲気も相まって彼女が抱くその感想は、

一般的に見れば至極当然のモノだった。

 そんな推定幽霊らしき存在から、歴戦の猛者独自のオーラを肌身で感じ取り、

総身(そうみ)(あわ)立ち頭髪も一気に逆立つ大河嬢…。

 まぁ元々そんな空気事態だけならば、

主に士郎のせいで慣れ切ってしまった感のある彼女であったが、

ぼんやりと映る男のソレはその(たたず)まい、その気配に、

彼自身が積み重ねた筆舌に尽くし(がた)い半生が(にじ)み出ているせいもあり、

士郎のソレとは一線を(かく)していた。

 彼女自身、学生時代から一介の剣士として相当の実力を備えてこそいるものの、

しかしその男から放たれる空気に圧倒され、こうして微動(びどう)だに出来ずにいる程であった。

 …あと何気に彼女のストライクゾーンに入る、(しぶ)(あふ)れる男性でもあった。

 

 

 『「―――何故俺がここまで握力に(こだわ)るか分かるか?」』

 

 「…拳が打撃の、出口だから?」

 

 『「うむ…正解だ。」』

 

 彼女が呆気(あっけ)にとられている最中であろうと、格闘談義は粛々と続く。

 最早怪談とは程遠い内容から来る問いに対し、

参加者の一人である柳洞 零観が自らの(あご)に手を()えつつ応え、

ソレに瞑目(めいもく)しつつ満足げに頷く士郎(ザファル)

 

 『「打撃力の圧縮は握力で完了する。

最後の握りの極め方次第で打撃効果まで一変するのだ。

 …と、言葉にしたところで想定はしづらいか。」』

 

 自身の鍛え上げられた利き手を握り拳に変え、

薄暗い周囲に見せつける士郎(ザファル)に対し、

周囲の反応と言うか面持ちも別の意味で薄暗くなってゆく。

 

 ―――もうコレなんの集会なんだよ…。

 

 そんな白け切った突っ込みが、

柳洞 零観を除いた朗読会参加者一同の胸に去来する中、

暫し静まり返った堂内に士郎(ザファル)が次なる言葉を発する。

 

 『「ならば一つ、ここで分かりやすい事例を披露しよう。」』

 

 その言葉と共に彼は、自身の背後に置いていた小さなバスケットへ手を伸ばし、

ソコからとある果実を取り出した。

 ソレはなんの変哲も無い一つのリンゴ。

 彼のデカい掌に収まっている事から見た目通常サイズと思われがちだが、

実際のところ成人男性すら片手で掴む事が困難なくらいに大きい。

 いったい何処でそんなギネスとタメ張れる様なモノを仕入れてきたのか…、

この際ソレに突っ込むのも野暮というものか。

 

  『「一度きりだぞ…真剣に観ろよ。」』

 

 規格外サイズのリンゴが握られた規格外サイズのゴツい右手を、

円状に座る参加者達が注目し易い様、その中央にゆっくりと突き出す士郎(ザファル)

 「リンゴ潰しかよ―――」…と、完全に今回の趣旨から外れたその行為に、

本来ならば注意なり非難なりが周りから飛び交いそうなものではあるが、

現在正しく鬼気迫る程の闘気をその身から間欠泉の如く吹きだす(しろう)に対し、

そんな命知らずな行動を起こす者など誰一人として居なかった。

 恐怖で身を(すく)ませる紳士淑女の皆様方の、

そんな心情など一片も考慮に入れず、漲る士郎。

 後は手筈通りこのリンゴを握り潰すだけ…しかし今の彼の思考は、

不安で埋め尽くされており、ザファル先生によるお膳立て(フィーチャリング.)からその身を解放された今、

既に身体の自由が効いてはいるものの、

右腕を前方に突き出したまま、ピクリとも動く事が出来なかった。

 

 (出来るのか…この俺に?)

 

 リンゴならばこれまで何度か潰してきた士郎だが、

これから行う例のアレは正直に言って次元が違う。

 潰してきたリンゴの数だけアレに挑戦してきたが、

結果はよく居る握力自慢が握り砕いた不細工なモノばかり。

 そんな士郎の背後に悠然と佇み、

叱咤激励の一念を彼の背に送るターバン巻いた色黒のオッサン。

 

 ―――諦めるな 士郎(セスタス)

      この局面 正念場だぞ!!―――

 

 …別に正念場じゃあ無いし、なんなら今後の事を考えると、

サッサと取りやめた方がいいモノであるが、

これが回想と言う時点でその懸念も、もう遅い。

 周りの重い空気を置き去りにして今、師弟はクライマックスを迎えていた。

 もはや日課の如くコチラへ襲い来るヘラクレスを思い浮かべ、

ソレに合わせる様に自らの拳を命中させるまでのプロセスを思い描く。

 

 ―――永遠を錯覚する様な一瞬の静寂…そして―――…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その音は空気を叩き割る鞭の如く。

 暗い本堂に響いたその派手な音と共に、

士郎の手により握られていたデカいリンゴが、

瞬く間に観測者たる彼等の眼前から消え失せる。

 

 「…は?」

 

 「ぇえッ!?」

 

 「消えたッ?」

 

 士郎が彼等の前で起こしたソレは、語り部というか一般市民の目の前で、

本来見せちゃいけない集大成。

 流れに身を任せた結果とは言え、ソレを堅気連中の前で披露した挙句、

尚且つ成功までしてしまったこの事態に、

彼は事の重大性の何もかもをかなぐり捨てて、

涙と共に喜びの雄叫びをこの場で張り上げたかったが、

現在行われているのは檀家行事の親睦会。

 腹の底から止め処なく湧き出る狂喜の衝動を、

理性で自制する他に無かった。

 …しかし…耳をすませばホラ、聞こえるだろう…。

 

 ―――ミシミシ…ミシィッ…

 

 何かが軋むその音の出所(でどころ)は、

総身を小さく震わせつつ昂ぶりを抑えている士郎に代わって、

背後から(かな)でられたモノ。

 ソレは弟子の成長を目の当たりにして、

溢れ出る喜びに感極まり、本堂を支える幾つもの太い柱の内の一本を、

嬉々として片手で握り砕こうとしている、ターバン巻いた()の恩師。

 

 『―――開眼したな…(つい)に』

 

 薄っすらと微笑みながら、弟子の背を(とら)えるその眼差しは、

子を(いつく)しむ父の如く。

 …周りで置いてけぼりを喰らうオーディエンスを放置して、

師弟は今、今日(こんにち)に至るまでの苦難の日々を、

万感の想いで振り返っていた。

 …衛宮 士郎へと成り代わったあの日から、

ヘラクレスという強迫観念に日々、苛まれ続けた五年間…。

 決して短くなかったこの年月を、休む事無くひたむきに走り続けるよう、

イカれた連中に強制されてきた凡人たるこの男は、

今日、遂にひとつの頂きへと辿り着いたのだ。

 

 

―――…(ゼロ)距離打法『無間(むけん)』開 眼の瞬間である―――

 

 

 因みに現在、漢達が居るこの場所は、

血沸き肉躍る闘技場でも、凄惨極まる修羅場でも無く、

清浄な空気流れる寺院である。

 一般大衆たる語り部達にとって、滅多に縁の無い非日常…。

 ソレを垣間見た事で周囲が騒めく中、

彼等をそっちのけにして尚も感動の余韻に浸り、

世界そのものが停止している師弟(アホ)二人。

 しかし、そんな余韻も束の間だった。

 

 「―――フゥッ!?」

 

 士郎は自身の左脇腹に、突如感じた事の無い凄まじい衝撃を受けた。

 雷の如く全身へ走り抜けてゆくその痛みに、たまらず視線を向けてみれば、

ソコには肘鉄を彼の左脇に叩きこんだままの藤村 大河が、

にこやかな笑顔でコチラを見上げていた。

 

 「…とっとと、何とかなさいよ、コレ…。」

 

 笑顔とは裏腹に、その声色はまったくもって笑っていない。

 先程のザファルとタメを張る程のド迫力に圧倒され、

急速に熱から冷めてしまった士郎は、事態の収拾をつけるべく、

騒ぐオーディエンスもとい語り部達に、狂喜と恐怖が綯い交ぜになった様な、

形容し難い声色で応える。

 

 「………手品じゃないんだ、消えちゃいない…。」

 

 そう言うやいなや、士郎の前で目を見開き固まったまま座る氷室嬢へ向けて、

彼の右手に収められているであろうブツをほうり投げた。

 反応が一瞬遅れつつも、一旦正気を取り戻し、

慌ててソレを両手で何とか受け取る氷室嬢。

 そして両手に視線を落とした瞬間、

石化の魔眼にでも魅入られたかの様に、再び固まってしまう氷室嬢。

 そんな彼女の両手に投げ込まれたリンゴを確認すべく、

彼女の下へ集まった語り部一同も、

先程まで瑞々しかったはずのリンゴだったソレを目撃した瞬間、

彼女に倣うかの様に、目を見開いたまま石像化。

 

 ―――先程まで新鮮なリンゴが…、一年干ししたかの様にカラカラに!?

 

 ―――床も殆ど濡れていない…。

 

 ―――果汁はいったい何処へ消えたんだ!?

 

 最初に疑念と驚嘆の言葉を発したのは、いったい誰だったのか…。

 ソレを切っ掛けに堰を切ったかの如く、それぞれが感想を漏らしてゆく。

 恐々とした面持ちを並べ、冷や汗を流す一同の鼻腔に、

何時しか甘い芳香が届いていた。

 リンゴの香りが暗い本堂内を満たす中、

もはや生気すら感じられない能面ヅラを並べる一同に、

ゴリラが静かに語り出す…。

 

 「…思い返してみれば常日頃から…己は、この場に居る諸君等に対し、

事あるごとに迷惑をかけてきた。

 今日この場を借りて、謝辞を述べさせてもらおう。」

 

 氷室嬢を先頭に、彼女の両脇やその背後に居た朗読会参加者一同、

微動だにする事無く、ただ静かに目の前の霊長類が発する言葉を拝聴する。

 …しかし、森の賢者から次の言葉が紡がれた瞬間、

一同は脂汗と共に五臓六腑がただれ落ちる様な錯覚に見舞われ、

脳内にけたたましい警鐘が鳴り響く。

 

 「そんな皆に、これまでの謝罪とこれからの親睦を深めたく、

一人一人に握手をしたく思うのだが…どうだろう?」

 

 彼の、その本気かどうか分からない提案に対して、

この場に居る皆が皆、彼から出来る限り距離を取るべく、

首を左右に振りながら徐々に後退を始めてゆく。

 なお、不幸にも彼の真正面に座っていた氷室 鐘は、

心身共に限界を迎えていた為、最早動く事もままならず、

唯一逃げずに彼女の傍らに留まっていた、

藤村 大河のスカートの裾を、只々必死になって掴んでいる。

 因みにそんな大河の方はと言えば、

ここから先の展開がもう分かってしまっているのか。

 終始、士郎の方へ視線を向けており、その目も完全に据わってる…。

 

 

「さ ぁ み ん な 、握 手 を し よ う じ ゃ な い か !」

 

 

 彼が壮絶な笑顔を浮かべ、目の前に座ったまま金縛りにあっている氷室 鐘へと、

機動隊顔負けのゴツイ右手が差し出された…その瞬間、

本日最後の蝋燭から明かりが一陣の風と共に消え、本堂は深い闇に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――深夜の墓前の傍で~…騒がないで下さい~…♪

 

 …そんな出だしから始まるかもしれないテノール調の歌声が、

逃げ惑う少年少女たちの耳朶に幻聴として流れる中、

柳洞寺管理下にある墓地を舞台にして突如として始まった、運動会。

 チョークスリーパーを必死にかます藤村 大河をその太い首にぶら下げたまま、

逃げ惑う語り部一同をひたすら追いかけ回す、その物の怪の名は衛宮 士郎。

 百にも満たない物語、その最終話の末に降臨した悪鬼羅刹は現在、

涙と喜びの表情で満ち足りており、まるでヤベェ薬でもキメた格闘選手の如く、

ヘッドバンキングしながら絶叫を上げていた。

 喜怒哀楽…様々な感情が綯い交ぜとなった柳洞寺での一夜は、

参加者一同にとって決して忘れられぬ、

ひと夏の悪夢もとい思い出となった事だろう…。

 …藤村・蒔寺両名を除いて、全員本気で泣いてたし…。

 

 

 

 

 

「ファウッ」

 

「ファウッ」

 

「ファウッ」

 

「ファウッ」

 

「止ォまれッつってんでしょうが―――!!!」

 

 

 


 

 

 

 (―――強くなるって楽しいな…。)

 

 感慨深い言葉と共に瞳を閉じて、思い返してみれば、

未だ耳目に残っている…。

 夏場の夜空に鳴り響く、老若男女の絶叫が。

 中でも飛び切り大音量の金切り声を張り上げて、

火事場の馬鹿力よろしく人生裏街道を驀進(ばくしん)している皆さんと、

本気でタメ張れる程の身体能力を遺憾なく発揮して、

柳洞寺内を飛び跳ねる様に逃げ回った一人の語り部が、

彼の瞼の裏に、強烈なくらい印象に残ってる…。

 そう、ソレが三枝嬢の背後で今尚も震えているメガネっ子、

氷室 鐘その人である。

 

 ―――氷室 鐘…彼女は藤村 大河同様に、

士郎のせいで原作設定から大きく乖離してしまった、

哀れな犠牲者の一人であった…。

 

 

 

 

 

 

 「行った?!ねぇ、もう行った?!ねぇ!!」

 

 「あぁ…うん、もう行ったから。取り合えず、落ち着こう、ね?」

 

 諸悪の根源・衛宮 士郎が自身の教室へと立ち去った直後、

堰を切ったかの如く恐怖に安堵と…様々な感情が溢れ出す氷室嬢。

 

 「…うぅ…ゴメン、ほんと…ゴメン…。」

 

 本来ならば古風な口調を日常的に使う彼女だというのに、

士郎が接触した後は、何時もの超然とした余裕も消え失せるのか。

 年相応の言葉使いで、三枝の小さな背中に自身のおでこを押し付けつつ、

申し訳なく謝る涙目の氷室嬢。

 その有様はさながら、母親に縋る幼子の様。

 彼女は立つ事すら叶わぬほど力が抜けているのか、

三枝の両肩に自身の両手を置き、震えるその身をただ必死に支えている。

 そんな彼女の様子を背中越しで感じつつ、三枝は百物語が行われたあの夜を、

遠い目で振り返る…。

 衛宮もといゴリラから差し出されたゴツイ右手を前にして、

腰が抜けて動けぬ友人を置き去りに一目散に逃げてしまったあの苦い夜を…。

 その負い目故に、氷室に対し「少しはフォローしてくれよ」等とは、

決して言えぬ三枝であった。

 

 

 

 ―――事情を知らぬ者から見たならば、

二人の女学生が織りなす、何ともてぇてえ光景…。

 そんな彼女たちを静かに盗み見る、幾つもの生温かい視線。

 そのねっとりとした視線の内に、慈しみが混じったモノが、

氷室嬢だけを捉えている。

 

「…守護る」

 

「…守護らねば」

 

「俺(私)以外にはおらん」

 

「「「「俺(私)が氷室 鐘を、守護らねばならぬ」」」」
 

 

 …小動物の様な愛らしい存在へと変貌を成し遂げた氷室 鐘…。

 そんな彼女を遠まきから見守ると言うか守護ると心に誓う、

『氷室 鐘を守護る会』なる業深き集団組織が、

氷室本人の知らぬうちに、日々その勢力を拡大。

 粘りある草の根活動により現在、穂群原二大女神信徒を切り崩しており、

じわりじわりとその勢力図を塗り替えようとしていた…。

 ―――が、ソレは本筋とはまったく関係の無いお話…。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …―――2年C組…。

 HRが始まる時間まで続くだろう学生達の喧騒が、

両隣のクラスから聞こえてくる…。

 しかしこのクラスのみが、その喧騒からゴッソリと剥ぎ取られたかの様に、

静まり返っている…。

 因みに、その静寂の原因足る存在は現在、

無骨な貌でただ黙々と自身の席周辺を覆い隠すかの如く、

分厚いブルーシートを四方に設置している最中である。

 これは日々授業毎に、

微動だにする事無く血しぶき巻き上げ周囲へ迷惑かけまくっている、

彼なりの配慮であった。

 最近では学生諸兄の精神衛生上を鑑みて、

士郎に対してとっとと自主退学を勧めるべきだとの声が、

PTAを始めチラホラあがっているのだが、当の学園理事長がソレをしようとしない。

 ソレもそのはず、士郎が縁故にしている藤村組・組長と穂群原学園理事長が、

昔ながらの旧友だから。

 まぁ、あとは何気に他教師の何名かが藤村 大河に対して、

衛宮 士郎という問題に対してどう思うか…と、遠回しながら振ってみるモノの、

彼女はのらりくらりとその難題を躱し切り、挙句問題を棚上げしたりもしているが。

 藤村家・水面下における静かな暗闘の下、

日々社会的に守護られている彼・士郎であった。

 

 「みんな、オハヨー―――!!」

 

 ―――午前8時35分。

 先程までお通夜状態だった教室内に、

生徒たちの心を和ませる、女性の元気な声が響き渡る。

 実家では決して見せる事の無い、朗らかな笑顔と共に、

当教室担任である藤村 大河先生のご登場である。

 彼女が現れた事で、張り詰めていた教室内の空気が

徐々に緩和されてゆく。

 ソレは彼女の人柄故に成せる業、と言ったところか。

 そんな彼女は本来ならば、

『タイガー』なるあだ名で学園生に親しまれている訳であるが、

この物語においてもあだ名こそ付けられているが、その呼び名が異なっている。

 最も代表的なモノを挙げれば、

『お釈迦さま(♀)』・『女魔物使い』・『飼育員のお姉さん』などだろうか。

 …『タイガー』というあだ名もあるにはあるが、ソチラは後述するとして。

 対し、士郎のあだ名と言うか渾名と言えば、

前述した『拳王』・『聖帝』・『キング』等があるが、これ等は冬木市市民の間で、

何時の間にか、まことしやかに呼ばれる様になったモノであり、

ソレ等に学園内で呼ばれるモノも加えると、結構な数になる。

 生徒内で呼ばれている代表例を挙げてみると、

『筋肉ゴリラ』・『エミヤ・エミヤ』・『一人エクソシスト』等である。

 まぁ、士郎本人に面と向かってこれ等で呼ぶ者など、

当然の事ながら皆無であるが。

 因みにこれ等の名付け親は、その大半が間桐 慎二であったりする。

 と言うか中学時代のあだ名に関しても、大体彼が名付け親である。

 なお、士郎本人は名付け親が慎二である事に薄々気付いているが、

特に気にも留めていない。

 あだ名を付けるなんて学生特有のモノであるし、

仮に彼が慎二の立場であったなら、恐らく似たようなあだ名を付けるだろうからだ。

 …しかし…むしろソレ等のあだ名を耳にした、

当時の大河の剣幕が非常にヤベぇモノだった。

 

 

 「…え…イジメ…?ウチの士郎が、私のクラスの糞餓鬼(だれか)にイジメられてる…?」

 

 

 …2年C組一同は見てしまった…。

 何時も朗らかな藤村先生の、怒り狂った虎の如きその気性を…。

 その後、彼女は怒りに身を任せた挙句、

急遽学級会議まで取り開き、議題として取り上げた。

 あの苦々しい放課後の教室を、士郎は本当によく憶えている…。

 …だってある意味、槍玉だもの。

 そもそも、こんな筋肉ゴリラをイジメようとする勇者など、居るはずがない…。

 むしろあの学級会議自体が一種イジメの様相を呈していた。

 だが議題に取り上げた大河本人が、

まるでナニカに憑りつかれたかの如く暴走していた為に、

士郎を始め皆が皆、ソレを指摘する気になれなかった…だってナニか怖いもの。

 それ以降、大河の逆鱗が士郎である事を思い知った2年C組一同を始め、

一連の騒動を噂で知った他クラス生徒諸兄等も、

表立っては無論の事、裏であっても士郎をあだ名で言い表す者は、

文字通り皆無となった。

 とにかく今後、衛宮 士郎関係にさえ触れなければ、

彼女は何処までも優しく、生徒思いな藤村先生でいてくれるのだから。

 …こうして、大河の度が過ぎるほどの過保護故にヤラかしたこの一件で、

元々腫物扱いだった士郎は、更にボッチ化が加速する破目となった…。

 

 …因みに、逆鱗に触れ暴走状態に陥った大河のあだ名が、

『タイガー』であるという事は、何とも皮肉な話である…。

 

 

 

 

午後十二時二五分

 

 

 

 

 

 

 ―――午前の科目が恙無く終了し、迎えた昼休み…。

 ソレは衛宮士郎が席を空け教室から不在となる、とても貴重な時間帯。

 学生達の下にかくあるべき安寧たる一幕が、戻ってきた瞬間である。

 …まぁ、先程まで非日常が鎮座していた教室の一角から、

鉄の香りが匂い立ち、血痕等が所々に飛び散っているのだが、ソレも慣れ。

 もうじき一年近くなるこの異常も、過ごしてみれば彼等にとっての日常だ。

 年端もいかぬ学生諸兄も、いい加減悟ってしまうものである。

 もはや気にするだけ無駄なのだから…諦めろ、と。

 さて皆が皆、崩れた笑顔で気の許せる者同士がグループを作り、

昼食の準備をする、そんな中…男子学生が思春期特有の、

よくある下世話な遣り取りが周囲の耳朶に届く。

 ソレに対し女生徒の内何人かが、

非難がましい目を向けて、当の男子学生グループを無言で咎めたりもしているが、

そんなモノなど歯牙にもかけず、盛り上がる若人達。

 そんな彼等もあと数年程すれば、女性陣の手前、

下ネタを控える様になるのだろうが、現在彼等はまだ恐れを知らぬお年頃。

 「モラハラ何するものぞ」とでも言わんばかりに、青臭い話に花を咲かせてゆく。

 

 「う~ん…やっぱり俺は、鎖骨あたりに仄かな色気を感じるな。」

 

 「オレは腹回り…というか、臍まわりに心惹かれる…。」

 

 「身長(タッパ)(ケツ)がでかい女がタイプです。」

 

 とは言え内容それ自体は、下世話と言っても所詮は知れたモノ。

 議題に取り挙げられた今回のテーマは、

『女性の肉体でどの部分に拘りを感じるか』…といった、

ややマニアックなモノであった。

 …が、ソレも徐々に話題が尽きたのか、

現在彼等の話題は『好みの女性は誰か』という

ダイレクトかつ極有触れたものへ、内容が変化していた。

 

 「氷室一択。もはや譲れん。」

 

 「…ウム…守護らねば。」

 

 「三枝×氷室で。」

 

 「皆、定番過ぎてツマらんな。

 オレは総合的かつ具体的な理想像として藤村を推す。

 いいよな…藤村。あの野暮ったい服の上からでもよく分かる…。

 出るとこ出て引き締まったエロい肢体もそうだが、

ソレを感じさせない天真爛漫で包容力ある大人の女性って感じが。」

 

 「いや、教師を推す時点でお前の発想も定番だから。

 ソレにアレはもう一生衛宮くん家の飼育員で確定だろ~。

 お前も覚えてるだろ…ホレ、あの学級会議…。」

 

 「あぁ、アレなぁ…。申し訳なさそうな表情(かお)した間桐見たのって、

後にも先にもアレが初めてだったよなぁ。」

 

 「衛宮くん、いいなぁ…。年上の美人教師ゲットして。

もう人生半分勝ち確じゃん。」

 

 自宅から持参した弁当や、学園側が購買している菓子パンを食みつつ、

話を弾ませる男子学生一同。

 彼等が交わす話の内容から分かる通り、皆が皆もう察してる。

 藤村 大河の、衛宮 士郎に対しての、あの病的な扱いぶり。

 アレは「教師」と「生徒」という枠を超え、

女としてのいち部分が所々で悪目立ちしている。

 現在あの二人の関係性…、ソレは後もう一押しでもあったらば、

禁断の関係めでたく成立という、

危うい均衡の上に成り立っているモノだった…。

 

 「とゆーか衛宮くんて、女に興味とかあんのかな?

 空間捻じ曲げる事*1以外、特に趣味もなさそうだけど。」

 

 「あぁ…拙者、衛宮殿の好みのタイプ知ってるでござるよ。」

 

 溜息混じりに誰かが何気無く口にしたその疑問…。

 しかし、ソレに至極あっさりと応える人物が居た。

 その人物の名は後藤 劾以。

 その日その日によって口調や行動がコロコロ変わる、愉快な男子学生である。

 …士郎がよく偽名に用いる名前ゆえ、

裏とか闇とか付いて廻るなんとも物騒な連中に、

知れ渡ってしまったビッグネームでもあるが。

 

 「ソレはちゃんとした有機生命体か?ダンベルとかバーベルとかじゃなくて?」

 

 「いや、れっきとした人間でござるよ。

 …まぁ、空想上というかある意味、

青年男児みんなの憧れみたいな存在というか。」

 

 後藤君の一言一言に気になったのか、

教室で昼食を摂っていた生徒達皆が皆、

誰も彼もが意味の無い雑談しつつも、自らの聴覚を研ぎ澄ます。

 

 

 


 

 

 

 ――――あれは去年の晩秋…。

 毎年恒例である体育祭も無事終わり、

体育委員会側から各学年へ、片付け要員が募集された。

 当時C組からは、大河による必死の静止を振り切って、

色々とヤリ遂げてしまった衛宮 士郎が強制参加扱い。

 残り参加枠として数名の生徒があみだくじにより選出され、

その放課後、燦燦たるグラウンドへと駆り出された。

 後藤君は外れクジを引いた、そんな不運な参加者の一人だった。

 因みに、同じく外れクジを引き当てた間桐 慎二も、

片付け要員として加わる事が決定されていたハズだったのだが…。

 

 「これ以上ゴリラと一緒になんて居られるか!僕は家に帰らせてもらう。」

 

 そう言うや彼はサッサと学生服に着替えると、勝手に自宅へと帰ってしまった。

 無論、取り巻きの女子生徒数人を引き連れて。

 

 

 大小様々な爆心地の如き窪みが、

そこかしこに出来ている、黄昏時のグラウンド。

 そんな光景を呆然と眺める穂群原学園在学生…と言うか片付け要員一同。

 体育祭による疲労もあり、殊更気怠くなった身体に鞭を打ち、

予め分担されていた役割を、雑談交じりにこなし始めてゆく。

 士郎を始めとしたC組参加者に割り振られた作業は、

取り寄せていた土砂を、グラウンドへ運搬・補填するという内容だった。

 尚、士郎本人は穴だらけになったグラウンドの補填作業、ただ一択である。

 最早クレーターと言ってもいい穴の底へ、

シャベルを肩に担いで意気揚々と飛び降りてゆく士郎を横目に、

残りの彼等はゾロゾロと校舎裏手へ…。

 ソコには役割分担の際、説明にもあった、気の遠くなるぐらいの土砂の山。

 その光景を目の当たりにして、彼等は一瞬立ち眩みを覚えるものの、

何とか気を持ち直すと、土砂の脇に予め用意されていた幾つもの手押し車に、

乗せられるだけの土砂を乗せ、再び月面の如きグラウンドへ…。

 まるで戦場跡の様なその惨状を、深い溜息と共に遠い目で眺める一同。

 疲れた表情を最早隠すことも無く、彼等は指定された場所へ到着すると、

手押し車を前方へ、順に勢いよく傾けて土砂を穴へと落としていく。

 体育祭を適当にやり過ごした彼等とは言え、

それでも疲労はそれなりに溜まっている。

 故にちょいと一息…とばかりに、先程まで行われていた体育祭を振り返り、

彼等は口々に感想を漏らし始める。

 

 「…敵無しだったな…ウチのクラス。」

 

 「まぁ、衛宮くん居るしな…。」

 

 「いや~…怪我人出なくて、本当に良かったよ。」

 

 「片付けには難儀してるでござるが…。」

 

 届けられた土砂をシャベルで掬い、

黙々と補填作業に勤しむ士郎に配慮して、小声で話す男子達。

 見た目ヤクザも逃げ出す厳つい巨漢でこそあるが、心は硝子の如く繊細だ。

 だってほんの少しでも機嫌を損ねてしまえば、

この男は身動きひとつ取る事無く能面ヅラで、

場の空気を文字通り捻じ曲げて、板垣ワールドへと塗り替えるし。

 …この場に居る誰もが通過儀礼の如く、一度は必ず味わっている、

昇降口での正気度チェック…、ソレを何故か一斉に思い出し、

男子一同が范然(はんぜん)とした面持ちになってゆく…。

 

 「…いかん、一旦仕切り直そう。

 何か…こう、やる気の出る話題とか無いのか?」

 

 「…やる気の出る話題~…?」

 

 「…そ~だなぁ…体育祭はやっぱりダルいけど、

堂々と女子連中の体操着姿が見られるってのはイイかな~…って。」

 

 「「「あ~…。」」」

 

 正直終わる見通しが全く着きそうにない作業に、皆が辟易としている中、

一人の男子生徒が何とはなしに口にした色ある話題に、

何気なく同調する他一同。

 当時、体育祭が終わった直後もあってか、

年頃の男子学生の間で、そういった下卑た話題になるのも、

まぁ仕方の無い事なのかもしれないが。

 

 「美綴の、あの健康的な肢体から飛び散る汗…。」

 

 「遠坂のおみ足って結構しなやかだよなぁ。」

 

 「蒔寺もなぁ、スタイルだけならイイんだよなぁ…。

 性格は…もうこの際、置いといて。」

 

 「今日はイイ目の保養にござった。いやはや、眼福眼福。」

 

 結局、思春期男子の原動力はエロなのか…。

 陰鬱な気分から一転し、枯渇しかかっていた活力も、

徐々に湧き出てくるC組男子一同。

 和やかな空気に気も緩んでいたのか、

一人の男子生徒がつい、士郎に向けて気軽に話を振ってしまう。

 

 「そう言えば衛宮殿は懸想する女人等、居られぬのか?」

 

 (おい――――!!)

 

 (正気か後藤―――!!)

 

 (なんでソッチにまで話を振った、オマエ!!)

 

 後藤君から突然振られた質問に、ピタリと動きを止める士郎…。

 士郎は持っていたシャベルを地へと差し、

瞳をゆっくりと閉じて、茜色の空を悠然と仰ぐ。

 難題に悩むかの如く両腕を組んだまま、真剣に逡巡する事、暫し…。

 …―――そして…天啓を得たかの如く目を見開くと、

彼は自身の理想とする女性の名を、噛み締める様に口にした。

 

 『「…小野田ぁ…優良さんが、好きだぁ…。」』

 

 ((((あ~…))))

 

 何か四十歳手前の童貞臭いオッサンみたいな声色で吐き出すその答えに、

妙に納得してしまうC組男児一同。

 何故ならば、この場に居る彼等は奇しくも「ふ〇り〇ッチ」の愛読者であったから。

 まぁとは言え、文学もとい士郎の場合、ほんの少し事情が異なるが。

 生前含め、こうして年齢を重ねていった結果、

異性の好みに対して原点に立ち返ったというか、典型的になったというか。

 闘い・戦い・斗いと…そんな心休まらぬ日々を過ごす内にこの男、

ツンデレとかヤンデレと言う変化球などよりも、

何時しか傷付いた自身の帰りを待ってくれている、

母性溢れる女性に対し、バットをぶん回す様になっていた。

 …まぁ決定打として言えば、ある日最寄りのコンビニで、

偶々手に取ったヤ〇グ〇ニマルをペラペラ適当に捲ってみたら、

偶々目に入った、思春期男児の入門書「ふ〇り〇ッチ」。

 「あ~懐かしいなぁ読んだ読んだ」という仄かな感慨の下、

何となく読み耽るうちに、長い禁欲生活が祟ったのか、

徐々にKAPPEI化していく士郎なのであった。

 

 「なるほど、優良さんでござるか…。男の憧れでござるものなぁ…。」

 

 そして彼の答えに共感を覚えている後藤 劾以…。

 この少年も、ある意味「終末の戦士」であった。

 お互いが心地良い殺風(さっぷう)を身に纏い、

まるで十年来の旧友(とも)の如く、由良さん談議に花を咲かせる。

 

 「一度男として世に生を受けたならば、あの様な素晴らしい女人と、

人生、歩いて行きたいモノでござるなぁ。」

 

 『「ウム、(しか)りよ。」』

 

 「ただ(それがし)、少々心配にござる。

 あの夫婦(めおと)、毎週アレだけ(はげ)んでいるというのに、

(いま)だ目出度い話のひとつも上がってこぬし…。」

 

 (((…ソコは連載上の都合だろう?)))

 

 『「なぁに、あれだけお盛んならば十年後、お子さんの一人も出来るだろうさ。」』

 

 「じゅ、十年後でござるか…。

それまで〇・〇樹先生は執筆しているのでござろうか?」

 

 『「しているさ…必ずな。」』

 

 (((何だ、この会話?)))

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

「小野田 優良って誰だ―――!!!」

 

 

 

 怒鳴り声と共に突然、教室の引き戸が豪快に空け放たれかと思えば、

エラい剣幕でC組へと乱入する一人の女子生徒。

 ―――彼女の名前は蒔寺 楓…。

 前述した通り、何故かゴリラに懐いている、よく分からない女である。

 お隣り2年B組に籍を置き、本人は穂群原の黒豹を自称しているが、

在学生一同は彼女をこう呼んでいる…穂群原の取扱危険(人)物…と。

 その日の士郎と彼女の接触次第で、士郎が文明人を維持出来るか、

ゴリラへと退化するかが決まると言っても過言では無い。

 故に、士郎とこの女が接触したその瞬間、

その場に居る生徒達が、波が引くかの如く居なくなる。

 誰だって爆発物の近くになど居たくも無いので、至極当然の事だろう。

 …まぁ、中には運悪く逃げ遅れる犠牲者も出てくるが。

 その後、彼女の行動如何によっては、

一時的発狂という深刻な被害を受ける者も居れば、

1D3のSAN値減少程度で済んでしまう者、

または何事も無く場が収まり、その日は平和に終わる…なんて事もある為、

何とも評価のしづらい人物であった。

 そして、そんな危険(人)物の管理担当として、

本来ならば三枝・氷室という両生徒が居る訳だが、

三枝は必要に迫られない限り、士郎には一切近づかないし、

氷室に至っては前述した通りで役にも立たない。

 現在、奴は席を空けているとは言えども、

彼女達がC組に近づく事など、文字通り皆無であった。

 

 ―――二人の手から解き放たれた、蒔寺 楓(この女)を除いては…。

 

 蒔寺は勢いのままに、ズカズカと後藤君の座る席まで歩み寄ると、

彼の胸ぐらをガシリと掴み、天高く持ち上げて、力の限り前後に揺さぶった。

 

 「答えろ後藤―――ッ!小野田 優良って奴は、

いったい何年何組だ―――!!?」

 

 「オッオッオッ落ち着くで、ござるッよォッ!!」

 

 ここ穂群原学園に於いて、ストッパーの居ない蒔寺ほど、

厄介な存在は居なかった…。

 

 

 

 

 

 

 

 学園関係者の皆が皆、ランチタイムと洒落込み始めている現時刻は、

午後十二時三十分。

 雲ひとつ無く晴れ渡る、冬木市の空の下…穂群原学園校舎その屋上。

 その片隅に設置された給水塔の上に独り、両腕を胸に組み悠然と佇む巨漢が居た。

 最早名前すら書かずとも、もう皆さんお分かりだろう…奴である。

 現在彼の出で立ちを簡単に記そう。

 頭部に何とも魅惑的な一品を装着している以外、上半身に纏うモノ一切が無く、

下半身のみが学園指定の服装で極めこんでいる…というモノである。

 正直に言うならば、本能の赴くまま下もとっとと脱ぎ捨てて、

純白ブリーフ一丁となり鍛え上げたこの総身を、

冬木の空の下、晒したくあった彼であるが、

今度見つかれば停学どころでは済まされないだろう事を考慮して、

上半身のみで妥協した。

 そう、この中途半端なスタイルは、苦慮の末に生まれた産物なのである。

 …目を閉じれば、この間の様に思い出す。

 黄昏時の陽射しが差し込む衛宮邸・居間にて、

大河嬢が真っ赤な顔で泣きながら士郎の大胸筋を何度もしつこく叩きつつ、

明け方近くまで説教かましてきた、あの苦い日を…。

 

 「………今度やったら、士郎殺して、私も死ぬから。」

 

 説教の締め括りに、まったく冗談に聞こえぬ声色で、確かに彼女はそう言った。

 日を跨ぐまで泣き続けた為に充血しきったその目は、本当に笑っていなかった。

 この出来事以降、服を脱ぎ捨てたい衝動に駆られる度に、

彼はその言葉を電流が奔ったかの如く思い出し、

自重という言葉をその身に刻み込まれてしまっていた。

 しかし現在、士郎はその身の内に、

正義の味方・変態仮面が舞い降りてしまっている状態だ。

 自重などという言葉など、当然変態の辞書に存在しない。

 …そう、存在してはいけないはずだったのだが、

あの日…大河が発したあの言葉が、あの鋭い眼光が、

この変態の身にも、恐怖という感情と共に刻み込まれてしまったのか…。

 上着だけならばまだしも下履きに手をかける度に、

大河が締めに発したあの台詞と能面の様な貌が、

変態の脳というか精神にフラッシュバックを引き起こし、

変態仮面へと完全脱衣(クロスアウト)する事に、深い躊躇いを覚えていたのである。

 

 

 

変態仮面、最大の危機到来である!!!

 

 

 

 『「―――…せ、せめて昼間は自重しよう…。」』

 

 …まぁ、それでも変態なりの抵抗の表れなのか、上半身のみ露わにした上で、

奴のレゾンデートルと言っていいパンツ(藤村 大河)だけは、しっかりと被っているが。

 奴からみれば、「これならばセーフだろう?」と本気で思っているのだろう。

 当然ながらそんな訳など一切無く、現行犯で見つかった場合、

姉弟仲はおろか、社会的にも終了案件である。

 モノのついでに今後紡がれるだろう物語…StayNightの方も即終了…とまではいくまい。

 仮にこの変態…では無く士郎が拘置所だか留置所辺りに収監されたとして、

あのイリヤスフィールが止まるとは思えない。

 原作では面識も無いのに初見から、

一方的にぶつけてくる逆恨みに関してもそうだったが、

コチラの世界において言えば、冬木市郊外にあるアインツベルンの森を、

アインツベルンの更地(もり)にした挙句、

彼等が丹精込めて練り上げたであろう結界も穴だらけにした事も相まって、

必ずや何も考えず感情任せで襲撃カマして来る事だろう。

 まぁ今の彼にとっては、そのくらい望むところであるが。

 最悪な展開と言えば、どさくさ紛れに大河までもが、

黒を基調とした振袖をその身に羽織り、

ドスを構えて襲撃カマして来るかもしれないという事くらいだろうか。

 …こうして考えてみると、

今やイリヤスフィールやヘラクレスよりも厄介な存在と成り果てた、

藤村 大河という最大の懸念事項…。

 ソレを半ば無理矢理、思考の方隅へと追いやる士郎。

 そうして取り合えず気を持ち直した彼は、とある方角をただ静かに見据える。

 

 ―――その方角に在るのは円蔵山・柳洞寺。

 

 …去年の夏場、

百物語という惨劇を味わった者達にとって因縁の地であると同時に、

衛宮 士郎にとっては零距離打法開眼を果たした記念すべき地である。

 

 『「私の目に狂いはない。」』

 

 まるで何処ぞの部隊を率いる高慢ちきな首領の如きひと言を発すると、

彼は今宵行われるであろう祭りを想起して、

その分厚い大胸筋を高鳴らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
グラップラー現象




次回、冬木市破廉恥祭り。
柳洞寺にて、しめやかに開催…。

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