クラブ・ボランティア!   作:リル★

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前回のあらすじ

 高校生の大田透は二年生になった。それと同時に、今まで所属していた野球部を退部することを決めた。
 無事野球部を退部したが、その後どうするかは決めていなかった。大学受験や就職では、部活を辞めたことがマイナスになるので何か代わりになるものをやるべきだった。が、全くその代わりになるものが思いつかなかった。

 その後、ある閃きで《部活動をボランティア》することを決意!透はそのボランティアを組織化し、クラブ・ボランティアと名付けた。そうして、活動を開始することになった。

 楽しみで宙に浮きそうなほどだったが……
 最初の活動をする部活動がまさかの-----で、透は窮地に立たされる!


2 野球部を盛り上げろ!!

「最初の活動で明後日で、行ってもらう部活動は……」と担任。

 刹那の静寂───

 僕は固唾を飲み込んだ。

 

「「野球部」からの依頼だね」

 

 最初の活動は今後の存続を大きく左右するせいで休みたいけど休むわけにはいかない。

 だが、何故部員も多い野球部からの依頼が来るんだ?何の手伝いをするんだ?僕は疑問を感じるばかりだ。

 正直、野球部のメンバーとの人間関係は悪いはずだ。僕は彼らを裏切って逃げ出したのだから……

 

 

 後先考えるととても憂鬱になる。

 絶望感で満たされた僕は、虚ろげな瞳で天空を見た。梅雨なのに、何故か今日は清々しいな……。絶望が"諦め"という気持ちによって身体から抜けていく。

 

 今度は諦めの感情によって満たされた。そんな僕は、白くて蒼い空を見ながら独り言を呟いた……

 

「明後日は晴れそうだなぁ」

 

 

 

──── クラブ・ボランティア ────

 

 

 6月12日、クラブ・ボランティア初の活動の日。雨が降らなければ、練習を手伝わなければならない。その日は休日で野球部は一日練習。最初にしてはハードルが高いものだと感じた。

 

 6月中旬。それは、雨が必然的に多くなる梅雨の季節である。

 しかし、何日か前から雨は幸か不幸か降らなかった。それは、この日にも言えることでもあった。カタツムリは湿った紫陽花の裏に隠れ、表舞台には出ない。僕は太陽によって明るく照らされた野球コートで目立ち、意図せずに人の目が僕に集中する。

 僕はボランティア初日のために、このコートに再び舞い戻ってきた。部員らの反応は、怪訝そうなものだった。

「お前、部活やめたんじゃないの?」とか「何?また戻ってきたの?」とか、彼らは不思議そうに僕の顔を覗く。

 

 僕にはこの状況が苦痛だった───

 

 どのような"言い訳"をすればいいのか、考えても考えても思いつかない。

 そこへ、友達の悠人がやって来た。

「お前、野球部やめてちっぽけなボランティア活動をするんじゃなかったのかよ?何でまたここに戻ってきたんだよ」と嘲笑う。

 嫌味で出来た言葉だが、僕は何とも思わなかった。彼の他人を馬鹿にする態度は通常運転そのものであるのだ。彼の見下した嗤いなど、僕にとってはもう慣れてしまったことだ。

 

「おい!集合!!」

 顧問の声がマウンド全体に響いた。響くやいなや瞬く間にその場が静寂に包まれた。威厳ある一声は僕らの背筋を張り詰めさせた。

「集合っーぅ!!」

 僕にとっては元部長である大越(おおこえ)さんが腹に力を入れて思いっきり叫んだ。

 僕と野球部らは顧問の周りに集まった。それと同時に、僕の苦痛は解放された。

 

 顧問は僕に向かって手を上下に振った。多分、僕は野球部ではないので「俺の横に来い!」ということだろうと読み取った。

 僕は顧問の横に立った。顧問はお気に召したのか何事も無かったかのように話し始めた。

「今日は特別な助っ人の透を呼んで来た。こいつは今日一日無償で野球部を助けてくれるらしい。お前ら、こいつを()()()()()使()()()()()!」

「押ーっ忍」と野球部員らの声がグラウンドに響いた。

 

 マジか……。好きに使ってやれの意味の中には"辛い練習に付き合わせてやれ"という内容も含まれている。僕は雑用だけでなく、練習に参加しなければならない。

 苦痛はまだまだ続きそうだ───

 

 

 

 

 野球部の休日練が始まった。

 まずはグラウンドを10周ランニングすること。私語は厳禁で、もし話しているところが顧問にバレたら追加で3周もランニングをさせられる。そのためか、誰もが無言で走ることに専念する。

 走り終えたら身体を解すためのストレッチや柔軟をする。

 そこまでし終えたら、二人一組になってキャッチボールをする。キャッチボールはお互いに十分な距離をとって、一球の野球ボールを投げ合うだけだ。そこに、上手い下手などは関係ない。

 

 僕はここまでの練習を必死で行った。2ヵ月と少しの間、運動をしていないためか部員だった頃と全く同じ練習でも少し辛く感じた。しかし、ここで倒れる僕ではない。

 全くボランティアだというのに何故僕は練習に参加しているのだろうか……

 

 練習の合間にあるインターバル。つまり、休憩。キャッチボールの後は数分の休憩を取る。僕はその間を使って、顧問に疑問をぶつけた。

「それは、後々分かるから安心せい!」

 顧問はその一言で終わらした。僕は納得がいかずに引き下がろうとはしなかったが、顧問は「この休憩は大切だぜ。休憩を取らないと練習で疲れ死ぬぞ!!」と力強く言うため引き下がるを得なかった。

 

 

 

 

 「 目指せ甲子園 」という6文字のスローガンを抱えて、汗水垂らして必死に練習に励む猛者共。ここの野球部は猛者共で埋め尽くされていた。猛者共は百本ノックをしていた。顧問の打つボールを百本取りに行くというハードな練習を我武者羅に追いつこうとする。

 「 ボランティア 」という6文字を抱えて、暇いの時間を人助けに費やす者。目的は分からないが汗水垂らして必死に野球部の練習に付き合っている者がいた。それは僕だ!今、そのハードな練習に参加している。

 

 グラウンドの土の上で前傾姿勢でボールの起動を予想していた。汗が滴り土に落ちる。足にツタが絡みついたかのように動かしにくい。

 限界を越さなければ、ツタは身体全体に絡みつき動けなくなる。僕は力を振り絞って顧問の打つボールを走って受け止めた。顧問は「次っ!」と僕を退かせた。そして、サボるためにグラウンドの裏へと向かった。

 

 

 僕は甲子園なんか目指していない。これはボランティアで野球部ではないのだから当然のことだ。そんな僕でも、さっきまで諦めずに必死に喰らい付いていた。

 一方で一人、野球部で甲子園を目指しているのに早いうちから体力を切らして諦めかけている者がいた。

 そいつは友達の悠人だ───。

 彼は体力が全くない。それなのに、次世代のレギュラーは確定している。この理由としては彼が賢いことと観察力を活かした能力を持っていること。だが、一番の理由は運が良かったからだと言える。

 

 

──

───

────

 

 

 僕がこの学校に入学した年、同学年の間では誰も投手のポジションを目指すものは悠人以外にはいなかった。

 この学校には怪物と呼ばれる投手がいたのだ。

 怪物と呼ばれた投手の名は勝呂(すぐろ) (まさる)。圧倒的なポテンシャルの高さを持ち、味方でも恐怖を覚えるほどだった。彼の投球は集中しても見えるかどうか分からないほど。この学校内には誰一人、彼に張り合えるものはいなかった。

 投手を目指すことは彼と比べられ蔑まれるか悲哀の目で見られるかして心が持たないだろう。そもそも劣等感が邪魔をして投手を目指す気にはなれない。だが、悠人は進んで投手を志望した。悠人は蔑まれることも悲哀の目で見られることも平気だった。逆に、他人を蔑み馬鹿にする方だった。

 

 悠人は持ち前の狡賢さと観察力で頭脳戦を得意としていた。頭脳戦は身体能力の高さと張り合う可能性を秘めたものであった。身体能力の高さでは誰も勝呂には勝てないが、そこを頭脳戦で埋め合わせる悠人は野球部の中で唯一投手を志すことが出来た者だったのだ。

 

 

 ある日、勝呂は()()()()()()()──。

 

 

 勝呂の退部は当時の野球部に多大な影響を与えた。レギュラー選手は一番上の上級生がやるべきだというチーム全体の考えからか、空白になった投手のポジションは部長の大越が受け持つこととなった。

 そして、部長が引退すれば残る投手の枠は悠人しか狙っていなかった。今から狙うのはあまりにも遅すぎて無謀であるため、次の世代の投手は悠人でほぼ間違いなかった。

 

 

 悠人にはレギュラーを狙って競争する必要がなくなった。争う相手がいないためか、手を抜いても何とも思わないらしい。

 今グラウンドの裏で練習を諦めかけていることが出来るのはそのためかも知れない。

 

 

 

 

「おいおい、サボるな!二人とも」と大越の声。

 ここに大越が来たということは、百本ノックは終わったということだ。僕らは急いで練習の舞台へと走っていった。

 グラウンドの上では顧問が腕を組んで仁王立ちしていた。顧問は大越を見つめながら言葉を発した。

「透はこの野球部から一度逃げ出したやつだが、お前にとってこいつをどう思ってる?」

 僕はボランティアだとしても、サボるのはいけないことだと思い反省した。僕は大越の返答によっては、悠人とともにランニングをさせられるだろう。無駄話とサボりはランニング追加の対象だ。だが一番の問題はそこではなく、野球部との関係をもっと悪化させてしまったということが問題であった。

 

「透は部活を退部したとしても、仲間だったことには変わりませんよ。いや、再びここに来てくれるってことは今でも仲間ってことです!」

 予想していない返答だった。野球部として繋がっていなくても未だ変わらずに仲間であること。僕は心から感激した。そして、野球部との関係は悪化していなかったこと、ランニングを回避したことを心から安堵した。

 その矢先……

「だから、罰もちゃんと受けて貰うつもりです。もちろん、ランニング3周をね!」と大越は付け加えた。

 

 えっ── ─

 

 さっきの安堵が一瞬のうちに消えかけてしまった。走らないで済んだと思っていたので、まさか走らされるとは思いもしなかった。野球部との関係は悪化は阻止されたが、走らされるのは阻止されなかったか。

 僕は悠人とともに罰を受けた。あの安堵を返して欲しいと思う僕なのであった。

 

 

 僕らは罰としてグラウンドの周りを走った。グラウンドから野次や応援が飛ばされている。僕はそれによって元気を貰った。いつの間にか、課題の3周を終わらしていた。

 僕らは野球部員の集まる場所へと戻った。

「俺はお前を野球部じゃなくても仲間だと思ってる。野球部も仲間もきちんとルールには従ってもらうよ!」と大越は悪気なく話した。

「ちっ、透が仲間だと思われてなければな。こんなツライ罰を受けなかったのに…」と悠人。

「悠人は透がいてもいなくてもランニング3周は決まってたけどな!」

 どっと笑いで溢れた。仲間との時間も悪くはないなと思った瞬間だった。僕は野球部をやめたから今日が終わればすぐに会えなくなる。仲間同士で笑いあえるこの時間は、退部した僕にとっては儚い時間だった。そのため、この瞬間はとても大切で価値のあるものだとしみじみと感じていた。

 

 

「おーい、集合!」

 顧問がこの賑やかな状況に水を差す。一瞬にしてこの場は静まり返った。

「すまねぇな賑やかな時間を奪って……。だが、さっきよりも盛り上がるはずだぜ!」と意味深な言葉を付け加えた。

 盛り上がることとは何なのだろうか?僕はとても気になって心が落ち着かない。

 

「来いよ!」

 顧問はグラウンドの裏に向かって話した。誰かがいるようだ。そして、そこから現れたのは驚くべき人物だった。

 

 全身筋肉の隆起によって白い野球服はピチピチで、肩幅の作りが良いため威風堂々たる存在を知らしめる。野球キャップが取り外され、坊主頭が現れた。ほどよい長身と体つきが坊主頭と上手く噛み合っている。そこがまさに野球部という風格を醸し出している。

 そんな彼の名前は勝呂 勝。元野球部だ───

 彼はグラウンドの裏から胸を張って進む。その姿が格の違いを見せつけていた。

 

「すまない。透!!」

 勝呂は僕に向かって、上半身を斜めに45度傾けた綺麗なお辞儀をした。その上半身はピシッと一筋に貫いたように真っ直ぐで非常に美しい作法だった。

 だが、何故僕に対して謝ったのだろうか?そっちの方が気になった。

 

「俺は一度野球部から抜け出した人間だ。だからこそ、この俺が急に遊びに行くことは躊躇われることだった。」

 それはそうだ。急にやめた人間が現れたら「お前、部活やめたんじゃないの?」とか「何?また戻ってきたの?」とか言いながら、部員らは不思議そうに彼を覗くだろう。その時に感じるのはあまり嬉しいものではない、苦痛そのものだ。

「だから、俺は透を囮として扱ってしまったんだ……。」

 

 

 そうか──。僕が野球部のボランティアでの活動意義はこれだったのか。

 僕も勝呂も同じ野球部を抜け出した人間だ。前触れもなく急に現れると、今も必死に野球部を続けている人達はどう思うのか……。多分、あまりいい感じには思われない。

 そこで勝呂は顧問に頼んで、僕をボランティアとして野球部の練習に付き合わせたのだろう。勝呂はそこで()()()をすればいい。僕が練習に合同して行う際に空気が悪ければ行かなければいい。空気が良いのなら行けばいい。

 つまり、僕は勝呂の様子見のための囮だったんだ。

 全ての謎は解明された。まあ、僕は囮でも気にしない。なぜなら、今日の野球部でのボランティアは勝呂を助けるという目的があるからだ。

 

「すまない!そして「ありがとう」!!礼を言う」

 

 僕がボランティアをやる理由。最初は進学や就職での不利を解消するためだけだった。だが、今この瞬間、何故ボランティアをやるのか、その理由が一つ増えた。

 ボランティアをして誰かを助けた時に……

 

『ありがとう』

 

とその5文字が貰えること。それだけで、僕は達成感と幸福感で包まれる。そんな気がするのだ。

 

 

 

 

 僕達はこの学校の野球部の中で模擬試合をすることになった。

 チームは二つに分かれた。一つ目は現在のレギュラーと悠人のチーム、いわゆるA軍+一名。もう一つが、僕と勝呂が特別参加者として入るイレギュラーチーム、いわゆるB軍+二名。

 軽いアップをした後、チームごとに集まって作戦を開いた。その後、試合の幕が切って落とされた。

 

 

 野球は特別なコートで二つのチームが争う球技である。そのコートでは打つための場所が決まっている。その場所の斜め後ろに構えているのが捕手。その捕手に向かってボールを投げる投手は捕手の直線上にいる。

 

 もしもボールを打てた場合は向かって右側の方にある一塁へと進む。次に投手、捕手の直線上にある二塁に行き、一塁と対称的のある三塁へと向かい、打つ場所へと帰ってこれたら一点となる。

 その間にボールを持った敵側に触れられたらその時点でベンチへと退陣しなければならない、つまりアウトとなる。ただし、セーフゾーンとされる一塁、二塁、三塁が存在しており、そこにいればボールを持った敵に触れられてもアウトにはならない。

 打ったボールが空高く上がった時は三つの状況に分けられる。一つ目は敵側が地面に落ちる前にキャッチする場合。その場合はアウトとなる。二つ目はコートから左右に離れた方向へと飛んでいった場合。その場合はファールとなる。そして三つ目は観客席などの届かない場所へと飛んでいった場合はホームランとなる。ホームランは落ちないボールだと思えばいい。一塁、二塁、三塁、そして、スタンドまで戻ることがアウトにならないで行えるのだ。

 

 次に投手の説明をする。投手は捕手に向かってボールを投げる。敵の打者がそれを打つことが許される。投手はストライクゾーンとされる打つべき場所に投げ、それを打者が打つのだ。

 だが、全ての投手が全てのボールをストライクゾーンに投げられるはずがない。そのため、ストライクゾーンから離れた打者が打てないような場所に投げられた場合がある。その場合は《ボール》(※球ではない)となり、四度の《ボール》で敵は無条件に一塁に進むことになる。

 もし、ストライクゾーンに投げたボールを打者が打てなかったら?その場合はストライクとなり、それが三回行われるとアウトになる。特殊事例としてファウルの場合は打者にもう一度打つチャンスが巡ってくる。

 

 基本的に三回アウトになれば、攻守が入れ替わる。基本、このセットを9回行い得点が高い方が勝利となる。

 

 その次に、役割について述べる。

 まず攻める側は打者、別名バッターが一人ずつ。アウトになるか、塁を進めるかすると次の人にバッターという役割を回す。三回アウトになるまで攻撃を行う。

 そして守る側。守る側は投手、別名ピッチャーと投げたボールをキャッチする捕手、別名キャッチャー。一塁、二塁、三塁を守る人達、それぞれファースト、セカンド、サードと言われる。これが軸となる。遠くへと飛んだボールを取るためにそれぞれの塁から遠ざかった場所で待機するファーストの奥側にいるライト、セカンドの奥側のセンター、サードの奥側のレフトとそれぞれ三名。最後に塁よりも前側に落ちたボールを対処するショート。この全九名で守りを行う。

 

 

 以上が基本的なルールである。

 

 試合に出るものはみなスタンバイした。僕のいるチームは最初は守りを行うことになった。そして、僕自身はサードで待機している。

 敵の打者が定位置についた。こちら側のチームの投手は勝呂。彼は部活を引退してからの初の投球。どのような結果を残すのか気になるところだ。

 

 

 

 

 投手の勝呂はひたすら捕手のグローブを見つめていた。その姿はまさに威勢ある白い虎そのもの。体から溢れ出ている強者のオーラが打者を威圧する。

 最初にバットを持ったのは三年の中月モブ((脇役))Nだ。モブNは確実にボールを打つことが出来る実力者だ。ただ、打ち方がとても独特でバットを縦に振るのだ。普通はバットは横に振って遠くへと飛ばすものだが、モブNは何故か縦に振って近くに落とす。ボールに対してバットを動かさないで手前に落とすバントという手法、それとボールの着地点が似ているのだが、それを行うための技術力は断然違う。明らかに縦に振る方が高難易度のやり方だった。それなのに何故縦に振るのかは本人にしか分からない。

 

 勝呂はフォームを構えてボールを振り投げた。白虎のような化身が見えるほど、超速球でパワーが篭っているボールはグローブのど真ん中目掛けて進んでいく。剛腕の勝呂から放たれたボールは目で追うことさえ難しかった。

 しかし、モブNの動体視力の良さによりバットでボールを叩きつけた。バットが青龍に見えてしまうほど素早い反応だった。

 そこにボールが来ることが分かっていたかのようにショートのモブKはボールをキャッチした。

 モブNは未だに一塁には届いていない。モブKは一塁へと送球し、モブNが来るよりも先にファーストがボールを得た。

 もちろん、アウトだ。

 モブNはベンチへと戻っていった。それと入れ違いで古八合モブFがバットを持って現れた。

 

 勝呂は先ほどと同等かそれ以上の速球を投げた。モブFは反応出来ずにストライクを取られた。二球目も三球目も同じくストライクを取られてアウトとなった。

 

 次に現れたのは大越モブOだった。彼はこの野球部の主将であり、一番野球が上手で、投手をやっている。ただし、この試合では投手を悠人に譲っている。

 それはそうと、そんな実力者のモブOは勝呂の動作をじっと見つめていた。亀のように動きが全く見られない。モブOは打つチャンスが来るまで静止しているのだ。

 勝呂の豪速球はツーストライクを取る。モブOはバットを振ることさえままならなかった。いや違う。モブOは敢えて振らなかったのだ。敵の攻撃を見極めて次の攻撃を確実に当てる。まさに玄武と言われる怪物のように着実に狙いを定めて、一撃を狙おうとしている姿が垣間見える。

 勝呂は綺麗なフォームでボールを投げた。やはり、ボールを目で追うことは難しいほど。モブOはそのボールを見極めたようにバットを振り始めた。

 ボールは素早く真っ直ぐ……。にはいかずに、打者付近で急降下し始めた。モブOはその変化球に対応しきれずに空振りしてしまった。

 ストライクスリー、バッターアウト。そして、攻守交代だ。

 今のはフォークと呼ばれる投球の手法で、真っ直ぐ進むストレートとは違って打者付近で落ちるようなボールである。投手は真っ直ぐ進むストレートだけでなく、落ちるフォーク、曲がるカーブなど多彩な手法を駆使して打者を翻弄する。これも野球の醍醐味の一つである。

 

 

 今度は僕らのチームの攻撃だ。

 敵の投手は悠人で、戦略的な投球を得意とする。一方で、こちら側の打者はモブVで一軍に比べると見劣りしてしまうレベルである。

 悠人はモブVの弱点や癖を知っており、その弱点や癖を利用したボールを投げることで打った後の軌跡を思い通りにさせたり、打ちにくいボールを投げたり出来る。

 モブVはショートが待ち構える方向へとヒットしアウトとなった。

 

 次の打者は空高く飛ばすフライを上げ、地面に落ちる前にボールを取られてアウトとなった。

 その次の打者は足の速さで、ギリギリ一塁へと行くことできセーフとなった。

 

 そして、四番手は勝呂だった。

 剛腕の勝呂か、戦略性ある悠人か、どちらが制すのかがとても楽しみだ。

 

 

 二人はポジションにつき、お互いに睨み合う。

「俺はあんたを心から尊敬していますし、勝てないことも分かってます…」と悠人は勝呂に向かって言う。

「どういうことだ、悠人」

「言葉通りで敬う敵だからこそ、敢えて遠ざけるっていうことです」

 悠人は打者が取れるはずのないボールを投げた。もちろん上手い方ではなく下手な方だ。そう、《ボール》である。それが、フォアボールまで連続で続き勝呂は一塁へと駒を進めた。

「なるほどな、敬遠か……。賢いな」

 敬遠とは打者を敢えて一塁に送り出すという手だ。敵が強敵であり投げれば大打撃を受ける場合に使われることがある。

 敬遠は()()()()()()()()()()()()方法とされる。だから、敬遠は一部の人にはとことん嫌われている。特に、野球に熱く一途で正義を貫く人ほど嫌いな人が多い。僕は部活から逃げ出すほど野球に対する熱を持ってないから何とも思わないが、他の部員らはそうはいかない。さらには、久しぶりの勝呂の活躍の出番でみな期待していたのだが、その期待を悠人は踏み躙ってしまった。

 

 空気が一瞬にして濁った。

 

 捕手は淀んだ空気を嫌だということが顔に出ている。防具で顔は覆いかぶさっているのに負のオーラは外へと溢れ出していた。

 

「気にするな!まだ野球は終わってはいないだろ」

 勝呂は淀んだ空気を清くしようと掛け声をかけた。そのお陰か、何とか悪い空気は過ぎ去ってくれた。

「ここから、点を入れていくぞ!!」

 逆に、フルエンジンのかかった勢いある空気へと変化したように感じた。

 

 

 

 

 お互い白熱の勝負が続き、いつの間にか空は綺麗なオレンジ色に染まっていた。それなのに未だに決着がつきそうにない。

「集合っー。」と顧問は白熱の空気を切る。

 僕らは顧問の元へと駆け寄った。

「今日はもう時間だ。残念だがもうおしまいだ、片付けに入れ!」

 その言葉によって、みな急にクールダウンしていった。そして、みな与えられた仕事をこなし始めた。僕はトンボ掛けという土を平らにする片付けを行う。その作業も何ヶ月か来ていないと懐かしいと感じる手応えだった。

 

 

 片付けが終わり僕と勝呂は制服に着替えて、グラウンドを後にしようとした。

「ちょっと待てよ」

 僕らに向かって放たれた声。僕も勝呂もグラウンドの方へと振り返った。グラウンドでは部員らが全員列になっている。

「今日一日、練習に付き合ってくれて……」

 部長のこの一声に続いて、他の部員も何かを発するために腹に力を入れ始めた。

 

「「ありがとうございました」」

 

 部員らの声がこのグラウンド、いや運動場全体を包み込む。部員らは短縮されたこの挨拶の後、美しいお辞儀をした。

 そして、部長が前に出てきた。

「また試合しような……。今度こそ、決着をつけようぜ!」

「楽しみにしてる」と勝呂は軽く笑顔で返した。

 勝呂は体を戻して再び帰り始めた。僕もそれに続こうとしたが、再び呼び止める声。

 

「おい、透!」

 なんだろうと思いながら後方を見る。

「お前も、だからな。また、ここに戻ってこいよ!」

 その言葉に感動を覚えた。僕は元気よく「はい」と返事をして、再び引き返せない道を歩み始めた。

 

 

 淡い橙に染まる夕暮れが僕の涙腺を緩ませる。僕はそんな空に向かって一言呟いた。

 

「仲間っていいなぁ」

 

 呟かないと、涙が出てきてしまう。僕は改めて仲間としての意識とその大切さをしみじみと感じていた。

 失って初めて気付くことがある。だが、後戻りは出来ない。自分の決めたことを貫くんだ。

 

 部員らは僕や勝呂の背中を見守っている。僕らは部員らに見届けられてこの場を後にした。僕は僕のやり方で大切なものを手に入れよう。ひたすらに活動をこなしていけば仲間も出来始めるのかな……

 この活動で大切なものを気付かされた。これを糧にして次の活動に活かそう。僕はオレンジ色に輝く希望の空を見上げた。

 

 

 

 

 最初のスタートダッシュは成功だ。この調子で次の活動も成功させようと心に聞かせた。

「おー、いたいた」担任がやって来た。

 何故か勇人も一緒だ。担任は僕に新たなボランティアの活動願いを伝えに来た。

「次はサッカー部のボランティアをして欲しいんだ」

 なるほど。だからサッカー部の部長でもある優人と一緒なんだ。

「透。ボランティアやってくれるよね?」

 勇人は爽やかに投げかけた。僕はもちろんだと返した。ただ、何のためにボランティアをして欲しいのかは分からなかったために聞いてみた。

「人数の埋め合わせだよ。最近一人辞めちゃってね。今メンバーが10名になってしまったんだよ」

 サッカーは11人1チームでプレーするもの。10人だと圧倒的に不利である。

 

 

「透には一緒に「大会」に出て欲しいんだ」

 

 

 はい?大会───?

 僕自身、サッカーなんてものは体育の授業でしかやってきていない人間だ。そんなほぼ素人の人間を大会に出すなんて聞いていない。

「まあ、返事は貰ったことだし……」

 異議を唱えたいが、勇人の気持ちを踏み躙りたくはない。その葛藤のすえ意義を唱える時間は過ぎてしまった。

 僕は「ははは」と微笑した。そして、心の中で3文字の言葉を放った。

 

 

「マジか───」

 

 

to be continued




登場人物紹介

主人公の友達:白石 悠人
()() ()()()と →ライバルから

 嫌味で出来た憎まれキャラ。実は元々投手をやるはずだったが、キャッチャーとの相性が合わずに、キャッチャーと悠人を嫌う数人の手引きによって悠人をピッチャーから外した。ただ、理不尽でもあるため、選手は3年生がやるものという理屈的な言い訳をしている。
 やはり、悠人の相棒(バッテリー)になれるのは-----しかいない。

身長:透よりも少し上か、透よりか少し下ぐらい
体重:言う必要あるか?
髪型:白髪、よくいる漫画の男主人公みたいな髪質
見た目:フォイフォイマルフォイ(←に意味はない)


────────────────
訂正

優人→勇人 1/29(火)
10人では戦えない → 不利となる 1/29(火)
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