主人公の透はキツイ練習に嫌気が指し部活動を辞めた。部活動の代わりに、ボランティアをすることにした!そのボランティアは《部活動をボランティア》するクラブ・ボランティア、略してクラボラである。
一番最初のクラボラの活動はなんと透が辞めた野球部!そんな野球部でのボランティアも何とか無事に成功させた。
次のボランティアはサッカー部。だが、その依頼はなんと大会に出て欲しいというものだった!?
「おー、いたいた」担任がやって来た。
何故か勇人も一緒だ。担任は僕に新たなボランティアの活動願いを伝えに来た。
「次はサッカー部のボランティアをして欲しいんだ」
なるほど。だからサッカー部の部長でもある勇人と一緒なんだ。
「透。ボランティアやってくれるよね?」
勇人は爽やかに投げかけた。僕はもちろんだと返した。ただ、何のためにボランティアをして欲しいのかは分からなかったために聞いてみた。
「人数の埋め合わせだよ。最近一人辞めちゃってね。今メンバーが10名になってしまったんだよ」
サッカーは11人1チームでプレーするもの。10人ではフェアに戦えない。
「透には一緒に「大会」に出て欲しいんだ」
はい?大会───?
僕自身、サッカーなんてものは体育の授業でしかやってきていない人間だ。そんなほぼ素人の人間を大会に出すなんて聞いていない。
異議を唱えたいが、勇人の気持ちを踏み躙りたくはない。その葛藤のすえ意義を唱える時間は過ぎてしまった。
僕は「ははは」と微笑した。そして、心の中で3文字の言葉を放った。
「マジか───」
「まあ返事は貰ったことだし、大会までの練習予定を教えるね」
取り敢えず、いきなり大会に出ろ!という訳ではなさそうだった。当然と言っちゃあ、当然だ。完全な素人を大会に出すのは勝利の希望を捨てていることだから、大会に出ないという選択肢とそんなに変わらない。
「大会は夏休みにあるんだ。そこまでの間に練習試合が二つ入ってる」
「なるほど……」
「そして、透っちには行けるだけ練習に来て欲しい」
「分かった!」
「まずは今週の土曜日、6月19日の午前中に練習試合があるから、絶対来てね。透っちの実力を見定めたいんだ!」
大会ではなかったけど練習試合にはいきなり出なければならないのか。
「透にはサッカー部以外にももう一つの部活動をボランティアして欲しいんだ」と担任。
「そのために、土曜日の午後と日曜日丸1日を空けていて欲しいんだ。」
つまり、土曜日と日曜日の二つは丸1日ボランティアしなければならないようだ。取り敢えず、その日に予定は入れていないから、大丈夫だと返事をした。
「ありがとな。練習試合が終わったら、昼ごはん食べ終えてから体育館へ向かってくれ!」
「分かりました」と僕は快く引き受けた。
◆
サッカー ── ─。
それはサッカーボールと呼ばれるボールを蹴り、敵陣にあるゴールへとボールを入れて点数を重ね、時間内に敵よりも多くの点数を得るゴール型のゲームだ。
手を使ってはいけない。ただし、ゴールキーパーと呼ばれる自陣のゴールを守る人のみ、そのゴールの周りに設けられたエリアに
試合時間は前半45分、後半45分の90分。この時間以外に試合でロスした時間が加算される。また、ハーフタイムと呼ばれる前半と後半の間に挟まれる休憩時間がある。
次にポジションについて。主に4つのポジションがある。
これが基本的なルールとなる。
簡単に言えば、ボールを蹴って敵のゴールを入れ、時間内に敵よりも沢山の得点を得ればいい。ただ、聴くのと実際にやるのとでは全く違う。ボールを蹴るという行為は簡単そうに見えて、なかなか複雑なものである。
僕はその日午後の練習に合同することにした。その時はまだサッカーを侮っていた自分がいた。
◆
授業も終わり、クラスは解散した。僕と勇人はだべりながらサッカーを行う運動場へと向かっていた。
「本当に助かるよ。
撫子部……。それは、女子サッカー部の愛称である。この高校では、女子サッカー部は今年廃部となった。
女子サッカー部は去年から部員が11人に届かなかった。試合は最低7人いれば行うことが出来る。しかし、勝つことは非常に困難になる。絶対に勝てない。そんな感情を持っていく部員達は、次々と辞めていく。残るは6人となり、サッカーすることすらままならなくなった。そのため、女子サッカー部は廃部が決定した。ただ、急に廃部にするのではなく4月まで同好会という形を取り、4月を境に廃部となった。
男子サッカー部も最近一人が退部したことで11人に満たなくなってしまった。このままでは、女子サッカー部のように退部ラッシュが起きてしまう。そこで、僕がその穴埋めとなることで勝つ希望を持たせたり、フェアに戦えるというポテンシャルを維持させたりする。
こうして見ると、サッカー部をボランティアする必要性は高いものと感じた。
「出来るだけ、頑張ってみるよ」
僕は誠意を伝えた。勇人は嬉しそうに表情を崩した。その時、感謝の5文字を言ったように思えた。
◆
足の淵でボールに触れる。そのままボールは転がるが、上手くコントロール出来ない。一方の勇人はボールを意のままに操っている。
ボールを一直線に飛ばすことは出来る。しかし、それ以外はほとんど出来ない。ゴールへのシュートも下手だ。いや、サッカーを体育でしかやってない人間としては許されるレベルではあると思う。
そんな僕に気兼ねて勇人はポジションと戦法を決めてくれた。
「透には、DFで奇襲をして貰おうかな」
守り重視のポジションを担うことは分かった。だが、"奇襲"については分かっていなかったので、何なのかを聴いた。
「基本的には敵に危険視されないようにじっとしているんだ!だが、敵が油断している所にボールを取りにいく」
つまり、敵に油断を与えて、現れた隙を狙えばいいのか。そうすれば、サッカー部でない僕でもボールを奪える。奪った後は仲間にパスすればいい。僕に理にかなった方法だと言える。
ボールに慣れることだけでその日の練習は終わってしまった。
明日も明後日も、土曜日が来るまでサッカー部の練習に付き合った。僕は何とか試合で邪魔にならない程度の実力を手に入れた。
本場で足を引っ張ってはいけない。そう肝に銘じて、その日を終えた。
◆
眩い太陽が梅雨の雨雲を退け、この地面を照らしている。まさに、運動日和。サッカーの練習試合の日、晴れた空が緊張を和らげる。
僕は日常的に通っている高校に向かって歩き始めた。交通手段は徒歩。その一歩一歩が高校との距離を確実に縮めていく。
フェアに戦うために、そして
道の途中で見知らぬ男子高校生に声をかけられた。その高校生は自転車に乗っていたが、話しかける時に自転車から降りた。
「すみません。
日向高校とは僕の通っている地元の高校のことだ。多分、着ている制服でその高校だと気付いたのだろう。僕は"そうです"と言った。
「ちょっとそこへ行くのに迷ってしまって……。もしも日向高校に通う途中でしたら一緒について行って大丈夫ですか?」
「いいですよ」断る理由はない。
「ありがとうございます。今日、
その話しかけてきた人は僕とは違う高校の制服を着た男子で、長身でほっそりとしているためか少しだけヒョロヒョロに見える。ただし、ガリガリにまでは痩せていなく、運動も出来そうな印象を与えた。
僕は彼と一緒に高校までの道を歩んだ。話さないのは気まずいと感じたので話しかけることにした。特に、彼の話した言葉の中で気になるワードがあったので、そのワードについて聞いてみた。
「練習試合ってサッカーのことですか?」
「え?何故それを。あなたもサッカー部……?」
「いいえ、違うんですよ。僕は《部活動をボランティア》するということをしていて、今日はサッカー部のボランティアをするんです。そのために、練習試合にも出るんですよ」
彼はサッカー部で決まりだろう。そして、今日の練習試合の相手である
彼は《部活動をボランティア》することについて詳しく聴いてきた。興味を持ったのだろう。それも仕方ない。そんなボランティアは滅多にないものであるからだ。
彼との駄べりは盛り上がった。いつの間にか丁寧な言葉遣いから気軽な言葉遣いへと代わり、友達と感じるようにまでなった。楽しいことをしていると時間が過ぎるのが早いと感じる。僕らもそうだった。気付いたら目的地へと着いていた。
僕らは高校の敷地の中で更なる目的地へと向かうために別れることになった。
「それじゃあ、練習試合でまた会おうね」と手を振る。
「待って!名前聞いてなかったよね」
「そう言えばそうだね、僕は大田 透」
「俺は
そうしてついに、僕らは別れた。次会う時は楽しく穏健な間柄ではなく、激しくぶつかり合う敵同士。僕はサッカー部維持のためにも足を引っ張れない。全力でサッカーに挑むだけだ。
◆
「みんな準備はいい?」勇人はみんなの様子を伺う。
僕らのチームは肩を組みあって円陣を作り上げていた。そして、右手を円陣の中心に差し出し、みんなの手が一つに収縮した。
部長である勇人は「行くぞ」と力強く叫んだ。それに対して、もちろんの意を示す「おう」という掛け声が一つに重なる。
僕らは試合のコートへと降りた。もう背後には引けない。
始まりのキックオフ──
勇人のパスが始まりのピストルを鳴らした。
勇人は巧みにボールを蹴っていく。ボールを奪おうとする敵が勇人の前に立ちはだかる。勇人はボールをその場で左に右に転がした。そこから、右側から通り抜けると思わせてその逆側から通り抜ける。
今度はまた違う敵が勇人の前に立ちはだかる。そこを、ボールとともに回転、つまりターンして越していく。
勇人は敵と敵の間を持ち前のスピードで軽々と抜けていく。
いつしか、ゴールの目の前へとやって来ていた。勇人はボールを勢いよく振り抜く。勢いよく振り抜かれたボールはゴールへと一直線に飛んでいった。敵のGKはその速さを対処出来なかった。
始まってすぐにポイント。明らかに勇人だけずば抜けていた。味方も敵も勇人との実力の差が開きすぎていた。
彼一人だけで勝てるんじゃないか?と思ってしまった。
だがその考えも束の間、敵がボールを持つと連携を活かしたパスで僕らを通り抜けていく。勇人も他の味方も誰も奪えない。
僕はコート上でその様子を傍観していた。ボールを取りに行こうとしても取れる気がしない。さっきまでサッカーの試合を舐めていた自分を叩いてやりたい。今、ボールを取りに行っても取れずに終わる。そうして、その後に行う奇襲も失敗する。僕は敵の攻撃を逃すことにした。
敵がゴール前にやって来た。その敵に対して、味方のGKが構える。多分その敵のシュートなら簡単に止めれるだろう。しかし、その敵はパスをした。パスした相手はゴールを決める。
これで同点。始まって間もないのにお互い点を取られた。
そのせいか、イケイケの熱い状況は一転。お互いに点を取ること重視の《攻め》から、点を奪われないように堅実に戦うこと重視で冷静さが際立つ《守り》へとシフトしたのだった。
お互いに守りを固めているせいかお互いの陣地に攻め入られずにボールはコートの真ん中で右往左往していた。
無理に点を取りに行けば、ボールが取られ守りが薄くなった自陣を簡単に突破され、逆に点を取られてしまう。お互いカウンターを恐れているのだ。
時間は着実に過ぎている。
油断していれば攻め入れられカウンターをすることが出来ずに点を取られる。両チームとも相手の様子を伺う。
試合時間も前半終了まで残り僅か。後半の試合でチームの士気を高めたい。士気を高めれば一気に試合の転回を有利にすることが出来る。そのためには、相手よりも点を一つでも多く取らなければならない。逆に相手よりも点が低いと士気は低くなり全体的にモチベーションが低くなって後半の試合が不利になる。
点を取りたい。だけど、点は失いたくない。お互いに敵の様子を見る。しかし、タイムリミットも存在する。
この賭けを制すためにどちらかは時間内には動くはず。コート内全体が緊張で包まれていた。
その緊張を先に破ったのは火神高校。敵はFW、MF一斉に突入してきた。仲間との連携を重視したパス回しで軽々と自陣を通り抜けていく。勇人一人では彼らの攻めを防ぐことが出来なかった。
仲間のMF、DFも防ごうとするがすんなりと躱されていった。残るはGKと僕の二人だけ。しかし、その内の一人はその凄さに関心して棒立ちしていた。GKはガッシリと構えているが、人数の差で点を決められるだろう。
僕の出番はここじゃないのか?───
僕は自分の心に問いかけた。中途半端には出来ない。けど、中途半端を恐れて何も出来なかったら、最後まで何も出来ずに終わる。そう思った。そして、奇襲の時は今なんじゃないか──そう感じた。
その気持ちが僕の背中を押す。"絶対にボールを奪う"という信念のもとに走り出した。
普通に奪おうとしても実力差がありすぎて無理そうだ。それはそうだ、ほぼ毎日汗水垂らしてサッカーに勤しんでいる人と一朝一夕の努力だけで何とか張り合おうとしている人とでは実力の差が開いていて当然だ。
僕はボールを操る敵の眼前へと入った。僕が今張り合える唯一の技──。僕はこれで勝負する!
砂煙を起こしながらボールに向かって一筋に突き進む。脚が地面と擦れ、僕は地面に接するぐらい低い位置にいた。足から滑り込んで敵の持つボールを弾くスライディングをした。
僕は野球部だった頃、何度もスライディングの練習をした。野球でボールを打ち返した時に、敵がボールを取るよりも速く塁に進むためにスライディングという方法を使うことがあった。今となって、その練習がこのサッカーという種目で活かされたのだ。
ボールはコートを転がる。それを味方が取った。今、こちら側のチームに一体感が生まれたような気がした。味方からまた味方へのパス。パスで前へ前へと繋いでいき、そして勇人にボールが渡った。
勇人は巧妙なテクニックでコートを駆け巡る。敵は安易に攻めたためか構える敵の数は全くいなかった。勇人は軽々とゴール近くまで来ていた。
勇人の前に一人DFの昴が立ち塞がる。
昴は左腕を真っ直ぐ真横に伸ばした。そして、伸ばした腕の方を向いた。
何をやっているのだろうか?───
次の瞬間、勇人はボールを昴に奪取されていた。その時の勇人は、ボールを小刻みに動かすことをせず、ただ単にボールを留めていただけな気がした。そう、勇人の動きは一瞬止められてしまったのだ。
昴はパスをする。パスした相手からまたパス。敵は守りの薄くなった自陣へと攻め入った。カウンターを決めようと攻め入ったのに、逆にこちらがカウンターされた。
僕らのチームは点を取られてしまった。
運動場に電子音が鳴り響く。前半終了の合図だ。現在の点数は自分側の日向高校が1点で敵側の火神高校が2点。後半の士気をどう上げていくのか、休憩の間に課題が一つ課された。
僕は自陣のベンチに向かおうとした時に、敵のメンバーの一人から話しかけられた。そのメンバーは昴だった。
「凄いね。透もそんなカウンターをするなんてね」
「いや、昴君の方が凄いよ。僕達のチームのエースから意図も簡単にボールを奪うんだから」
「それが俺の唯一の役割だからね……」
「唯一の役割?」
「俺はサッカーの「黒子テツヤ」と呼ばれているんだ!奪うことを専門としているし、これぐらい出来ないとね……」
黒子テツヤとは、漫画 黒子のバスケに出てくる主人公。バスケを舞台に、主人公は切り札
「勝つのは俺たちだから!」
昴はそう言うと火神高校のベンチへと向かっていった。
◆
僕は勇人にベンチで昴と話したことを言った。
「なるほど、黒子テツヤ。つまり、視線誘導か……。あれはマジで厄介だ」
勇人にそう言わせるほど、昴は強いのだろう。視線誘導とは主にマジックなどに使われるテクニックで、敵の視線を目的とは別の場所に向かせることで目的を消えたと錯覚させるものだ。あの時勇人は急にサッカーボールが消えて立ち尽くしたのだろう。正直、ステルス的な奪取は厄介極まりない。
だが今は昴一人を問題にする暇がなかった。まずは、どのように士気を高めるか、そしてどのように点を取るか、それが最優先事項だった。そのため、昴についてはその一言で終わった。
僕らは円陣を組んだ。
「透っちの活躍のお陰で何とか1失点で済んだよ。サッカー部は透っちに負けてられないよ!」
勇人の叱責で味方にエンジンがかかった。そのまま僕らはコートへと向かった。
◆
後半開始のブザーが鳴る。逆転のために点を取りたいが、下手に攻撃するとカウンターされて逆に点を取られる。再び駆け引きが始まった。
暖かい陽射しの下で気持ちが舞い上がっていく。乾いた風は涼しく気温が上昇していく頭を冷やしていく。冷静さを保ちながら、心の熱は上がっていく。そんな状況だった。
FWとMFがコートの中央でボールを奪い合う。奪って奪われての繰り返し。時たま反対の陣地へと駒を進めるが、得点を決めるには至らずに振り出しの中央へと戻る。
後半が始まってから数十分が経った頃、試合が動いた。
勇人は右側から抜けていきボールを敵陣まで持っていく。そして、ゴールへとシュート出来る距離までやって来た。GKは強く構える。"絶対に入れさせない"という頑なな意志がゴールポストを強固にしていた。
勇人がいる位置ではゴールするためには真っ直ぐに蹴るしかなかった。だが、真っ直ぐに蹴ってもそのラインには敵がいる。勇人はサッカーが上手いけど、それだけでは点を決められない。
勇人は思いっきり足を振りきった。ゴールに向かってではなく、仲間の方向に向かって。背後側へと蹴られたボールは味方が受け取った。勇人ばかりを警戒していたGKはパスされた味方のシュートを止めにいくことが出来なかった。
これで同点だ……
そう言えば、昴は行動を起こさなかったけどどうしたんだろうか?まあ、どうでもいいことだ。僕らが勝てればいいのだから。
ボールは中央へと戻り、敵の蹴りで止まった試合が動き始めた。
再び攻めと守りの駆け引きが始まる。僕らは守りに徹している。カウンターで点を取る策戦だ。しかし、敵も攻めてこない。同じく守りを固める策戦なのだろう。
そして、残る試合も残り僅かになった。
「お互いカテナチオじゃ、点は取れねぇぜ」と敵のFWは叫んだ。カテナチオとは守りを固めてカウンターを狙う策戦のことだ。
この一言を機に敵のFWとMFが一斉に攻めてきた。敵は一気に自陣へと突入した。きめ細かなパスで障害物をすり抜けていく。
僕はボールを持つ敵に近づいた。スライディングしか取れる方法はないから、それで取ろうと考えた。が、それをする前に敵はパスを繰り出した。
「流石透っち。お前が居れば俺は最強だ!」
どこかで聴いたことのある?ような名言を放つ勇人。彼はパスのために放たれたボールに追いついた。
そう、勇人は敵からボールを奪ったのだ──
「行くぞ!今だ!!」
勇人の掛け声で、僕らはGKを残して敵陣に攻め込む。パス回しで敵を翻弄し、僕らはいとも容易く敵陣へと入っていった。敵のほとんどは自陣にいて守りは薄い。後はゴールを決めるだけだ。
勇人がボールの主導権を握った。その勇人の前に現れる昴。昴の視線は左の方に動く。勇人は咄嗟の判断で昴の視線とは違う方向にいる仲間へとパスを出した。
「視線誘導を甘くみないで欲しいね」
勇人のパスした方向に昴が先回りしていた。そのため、ボールの主導権は勇人から昴へと移った。
ボールを持つ昴はパスを繰り出そうとした。しかし、そんなことはさせない。僕は昴の眼前で立ち塞がった。昴からボールを奪う!という気持ちで溢れる。
「視線誘導を突破させて貰うよ!昴君!!」
「視線誘導を突破させないよ!透」
「勝つのは僕だから!」
僕はボールに向かって走り出した。昴は右手を伸ばして、そちらの方に視線を合わせる。だが、そんなものは僕には通用しない。昴に視線を合わせたら視線誘導に引っかかるけど、ボールだけに集中していれば……。
僕は昴を気にせずにスライディングをした。敵がどう動くか?そんな感情を持つには僕はまだまだ素人だ。だからこそ、ボールだけに集中出来る。
砂煙を起こしながら勢いよく脚がボールにぶつかる。だが、昴もボールから足を離していなかった。
僕と昴の蹴りがボールを挟んで衝突した── ─
刹那の後、ボールは昴の背後へと転がっていった。僕は昴との対決に勝利したのだ。
転がってくるボールを足で抑えて手中に収める勇人。勇人はゴール目掛けて勢いよく蹴った。ボールはゴールの左端の淵内側へと飛んでいく。
────。 ───
ボールは白い手に衝突し真下に落ちた。そして、落ちて跳ねたボールを白い手は掴んだ。
「危ねぇ……。…」
敵のGKは上端に飛んでくるボールを跳んで防いだ。そして、そのボールをすぐに掴んだのだ。そのファインプレーによって、ボールが敵に回ってしまった。
「受け取れぇ!テメェら」
GKはそう叫びながら大きく弧を描くように遠くへとボールを投げた。
しまった……。GK以外は自陣にいないから、簡単に近づかれる。僕らは急いで自陣へと戻ろうとするが間に合わない。
敵は自陣の中でも入れる範囲内からロングシュートを決めた。こちらのチームのGKはそのボールを止めることが出来なかった。
点を取られた。早く巻き返さないと試合が終わってしまう。僕らは早く点を決めようと考え、焦り始めた。だが、もう試合は……
ピー、と運動場一面に響く電子音。
試合は終わってしまったのだ。結果は2-3で火神高校の勝利。僕らは負けてしまった。
コートの中で選手は一列になって相手の選手に感謝を述べて頭を下げた。そして、お互いに近づいて握手を交わした。
その日の練習試合は終わってしまった。
◆
太陽が一番高く聳える、僕らは反省会を行っていた。
「正直、透っちには助けて貰った。今必要なのはチームワーク力と個々の能力だよね」
「まあ、もっと頑張れば勝てるかもしんねぇ。メンバーは少なくても今の状態なら勝てる」
「そうだね!透っちには主要な試合の時と暇な時の練習への参加、お願いしてもいいかな?」
「いいよ!」と僕は言った。
「ありがとう」幾数もの声が重なった。
そうして、僕らは解散した。今日の僕の活躍で、サッカー部は廃部まで劣化することは近々にはなさそうだ。
◆
僕は一人になっていた。いつも勇人は人気もので優秀で、ふとしたらもうすでに先を歩いている。だから、僕が幼なじみの勇人と一緒に帰らずに、一人で帰ることなど不思議なことではなかった。勇人は他の友達と一緒に帰ってるのだから。
僕は一人で帰り道を歩いていると、背後から話しかけられた。……昴だ。
自転車を引いて歩く昴とともに帰路を歩いた。
「試合には勝ったけど、
「たまたまだよ。視線誘導ってほんと凄いね」
「ありがとう」
「今度戦う時は絶対に僕たちは負けないよ!」
「ああ、うん。多分、火神高校とは当たるかも知れないけど、俺とはサッカーの試合で当たらないかもしれなくて……」
意味深な言葉が放たれた。どういう意味なんだろうか?全く見当がつかない。
「どういう意味?」
「俺さ、サッカー部辞めようと思ってるんだ」
衝撃的な一言。野球部ではレギュラーにはなれない僕と違って、昴はレギュラーで活躍している身だ。僕からしてみれば勿体ない気がする。
「どうして辞めるの?」
「今のサッカーが精神的に辛いからさ……」
僕とはまた違った部活動への苦痛が存在した。そして、それが退部の意思を生み出すものでもあった。
──
───
────
昴は幼少期から身体を動かすことが好きで、子どもの頃は多彩なスポーツに触れていた。運動神経は良くもないけど悪くもない。そのお陰で、様々なスポーツを楽しむことが出来た。
中学の時、部活動への参加を強制された。そこで、無難なサッカー部を選んだのであった。そこからは、必死にサッカーに勤しみ、スキルを上げていった。
その時に読んでいた漫画が『黒子のバスケ』だった。彼はその漫画に嵌った。それが、視線誘導を使うキッカケとなったのだ。
高校に入学、そしてサッカー部に入部。そこでは、多くの部員が存在した。そこで生き残るためには単純な運動神経では勝てないと知っていた。
だからこそ、自分の考えた手でレギュラーを掴み取る。そこで導き出したのが視線誘導だった。
黒子テツヤのようにボールに視線を集中させて、自分を消す。だが、サッカーではそんなことなど出来ない。なぜなら、ボールは目のある顔から遠く離れた地面にある。遠くにあるボールだけに視線を集中させることは難しい。
───自分は消えれない。
ならボールを消してしまえばいい。そう簡単なことではないがやれないことではないと思い、視線誘導の練習を始めた。
上手い選手はボールを感覚として捉える。そして、目で周囲の人や場所の間隔を確かめる。その目の機能を麻痺させればいい。
そこで僕は視線誘導の練習を行った。一番効率的だと感じたのは視線を誘導する物体は自分の手。彼の恵まれた身長から連なる長い腕は視線を誘導した時、自分やボールとの距離を遠ざけるのに役立った。相手が手に集中している間が、ボールを奪うチャンスだ。
ただ、実際にやってみるとそう簡単にはいかない。まず、ボールを感覚として捉えるプレイヤーは強引にボールを奪おうとするとすぐに気付いてしまう。そっと取ろうとすると、逆に視線が戻るまでの時間内に取れない。調整するのが難しかった。
彼はひたすら視線誘導の練習を行い、遂に習得へと至った。
視線誘導によって、彼はレギュラーまで追い詰めた。
だが、それが自分を苦しめる結果になるとは……。
彼の役割は視線誘導。それを成功させるためには、視線誘導の対策をされないこと。また、個人的にも対策されないこと。これらが必要だった。彼の視線誘導は対策されるだけでなく、全力で来る敵には成功させれないぐらい脆かった。
個人的にも仲間の影に隠れることが強要された。このチームら仲間との絆を重視した連携を得意としていたが、彼はそこから外れてプレイする羽目になった。
───孤独。
彼のプレイを一言で表すのならその表現となる。彼にとって孤独はあまりにも辛いものだった。
しかし、視線誘導をやめたらレギュラー落ちする。そうしたら、もう自身の立場はない。
哀しみに明け暮れながらも必死にサッカーを続けた。ただし、心は着々と折れかけていっていた。
そして、今日「やってみたいこと」を見つけた。それを見つけさせたのが透だった。
サッカー部に残ったままよりもその「やってみたいこと」の実現を選んだ。だからこそ、サッカー部を辞める決断をしたのだ。
昴は話し終えると、鞄からスマホを取り出した。そして、僕と昴はLINEという通話ツールで連絡先を交換した。
「今度合う時はサッカーじゃなくて、もっと壮大なもので勝負しようよ!」
昴はそう言うと、自転車に乗る。
「ちょっと、帰り道が違うからここでお別れだね。勝負を仕掛けるかもしれないから楽しみに待っててよ!」
昴は帰り際にそう言い放ち、一人でこいで行った。
僕には想像がつかない。昴は何のことを言っているのだろうか……。
ん?何か忘れていないか?
昴のことを考えている最中、何か大切な用があったことを思い出す。が、その何かが思い出せない。僕は道の真ん中で頭を悩ませた。
そして、一筋の閃光が頭を過ぎった。
あっ─体育館!!
そうだ。練習試合の後に僕は体育館に直行する予定だったんだ。すっかり忘れていた。サッカー部のボランティアをすると決まった際に同時に体育館へと向かうことを約束していた。
僕は踵を返して再び学校へと向かう。今度はゆっくりとした徒歩ではなく、全力のダッシュだ。
まさか忘れてたなんて……
◇
僕は息を切らしながら体育館に入る。
体育館のステージは大掛かりな舞台装置が設置されている。まさに、演劇に使われる背景舞台装置のようだ。
「君が大田くんかい?」
近くに来た男の人が訊ねた。僕は「そうです」と答えた。
「ようこそ演劇部へ!大田くんには明日の本番に出て欲しいんだ」
次のボランティアは演劇部のようだ。僕はスポーツしかしないのかなと思ってたから、意外だと思った。
ただ、本番とはどういうことだろうか?その旨を聴くと、「野球部だっけ?それでいう大会みたいなものだよ」と返ってきた。つまり、演劇部にとって重要な用であるのだろう。
僕は演劇は初めてだから心配ではあるが、何とか頑張ろうとは思った。けど、明日だからそんなに必要とされない役であるだろうが……
ってか、ここで重要な役をやる羽目になったら大惨事を起こす気しかしない。まあ、そうなることも演劇部員達は分かっているだろう。だから重要な役にはならないと思っていた、、、のに……
「それじゃあ、大田くんには「主役」をやってもらおうかな」
はい!?──今なんと?
まさか本番は明日というだけでも大変なのに、重要過ぎる主役の役をやるなんて……
to be continued
登場人物紹介
友達:鵜飼 勇人
ゆうと う(かい)→優等生から
透の幼なじみで友達。さらに、透との繋がりで悠人とも友達になる。
優等生でスポーツも勉強も出来る。そのため、透と大きく差が開いている。それが、先走る理由となる。
【身長】高い
【趣味】サッカー
【特技】リフティング
【好きな数字】4
【髪型】優等生っぽい感じ
その他、今後の登場キャラをチラッと紹介
─ ─ クラボラ正規メンバー ─ ─
・大田透(全体的、男子〇〇)
・???(文化部)
・???(全体的、女子〇〇)
・???(運動部)
・???(文化部、基幹)
・???(マネージャー、計算)