聖女もどきはハンターの夢を見るか   作:liol

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主人公視点。

次話は明日、或いは明後日に投稿予定です。


2.「覚醒」

「レティシア、またそんな木剣なんか持ったりして!」

「いいじゃないですか。身体を動かすのが好きなんです」

 

私は、今世(・・)、女として生まれ落ちた。

私には男だった前世の記憶が存在し、そのせいか同年代の女の子よりも、男の子達に交じって遊ぶ方が性に合った。

 

前世の死因は、生憎とよく覚えていない。何故前世の事を覚えているのかも不明で、特に神様と会った覚えも無い。物心つき始めた頃合いには、その混乱から両親には支離滅裂な事を言っていたようで、当時は随分と心配をかけてしまった。

 

両親の言いつけに従い、家事や裁縫などの女としての必須技能はしっかりと学んでいる。産んでもらった両親には大きな恩があるので、ある程度の事なら二人の言う事には頷くようにしている。

 

ただ余った時間は、好きに過ごさせてもらっている。あちこちに擦り傷を作って帰って来た時などは、流石にお小言を貰ってしまうのだけども。

 

うちは農家で、積極的に私が手伝わなくても十分に食べていける程には裕福な家庭だ。正確には地主で、所有している広い土地を他所の人に貸して収入を得ているようだった。

 

お陰様で小中と学校を修了し、現在は私学の高等女学校に通っていた。女学校なのは、小中学校で仲の良かった男友達から告白を受ける事が増え過ぎたから。

 

小学校高学年辺りになると色気づいて来る人間は多いようで、普通の女子より距離感の近い私は格好の的になった。ちなみに何故か女子からの告白も隠れて数度受けている。

 

気持ちは嬉しかったが、特殊な事情がある自分は男にも女にも興奮出来ない体質になっているようで、全て断った。現在の私の容姿は、かなり整っている。ここまでされてそれが分からない人間は物語以外で存在しないだろう。

 

同級生は勿論、顔も見た事の無い上級生や下級生にも告白されていて、今更かまととぶる気は無いのだ。前世の自分基準でも見た事の無い美人さんだ。

 

「でも……どこかで見た事あるんですよね……」

「え?……それよりレティシア、また化粧が雑になってるじゃないっ」

 

「え? どこがですか?」

「アイラインの引きが甘~い! 適当にしちゃダメっ、命を懸けるの! 元が良いレティシアには必要無いかも知れないけど、レディとして身嗜みは大事よっ!」

「す、すみません。ですがただ買い物に出かけるだけなのに、何もここまでしなくても……」

 

「そんなの関係無いわよっ!誰がいつ見ているか分からないんだからっ。レティシアには化粧は薄めの方が似合ってるけど、それならそれでやり方があるの!」

 

寮で同じ部屋で寝泊まりしている彼女にこのような指摘を受けるのは、よくある事だった。彼女は淑女としてその辺りには厳しい女の子なのである。彼女のお陰で、ずぼらな私のメイク技術は飛躍的に向上したと言って良いだろう。

 

今日も凝り性な彼女に髪型まで弄られて、今回は後ろで金髪の髪を三つ編みにして結って貰った。髪は女の命と言っていた母の教えのおかげで、これでも髪だけは無駄に長いのだ。お陰で洗う時は一苦労だ。

 

「よしっ! 完璧だわ! それじゃ私は先行ってるわね!」

「ええ。いつもありがとう御座います」

「いいのよ、好きでやってることだからっ!」

 

成し遂げた職人の如き満足気な顔で先に行った彼女を追いかけようとした私は、ふと鏡に映った何かが気になって……鏡をもう一度覗き込んだ。なにか、既知感があったのだ。

 

太腿あたりまで伸びた艶やかな金髪の長い三つ編み。吸い込まれそうな深い色合いを湛えた青紫色の瞳。

今日の服装はノースリーブの純白のシャツにネクタイをして下はショートパンツ、それと黒のハイソックスだ。コーデは当然私では無くルームメイトだ。

 

見れば見る程、似ている。誰かに。誰に?

さて――私の名前は?

 

「レティシア」

 

小さな呟きと共に、私は一瞬意識を失った。深い深い記憶の水底で眠っていた爆弾が、起爆した。

 

「英霊ジャンヌ・ダルクの、依り代ですか……」

 

レティシア。Fate/Apocryphaのルーラークラスでジャンヌ・ダルクが現界するための依り代となった少女である。ジャンヌ・ダルクと瓜二つの容姿をしていて、確かフランスの女学校に通っていた少女だったはず。

しかしここはフランスなどではない。

 

今の私の姿とほぼ同じ服装をしていたそのレティシアを、()は見ていた……アニメで。

 

「ああ、思い出したぞ……!」

 

前世の記憶があるなんて言っても、正直余り覚えていなかった。自分の名前も、どういう人間だったのかすら。そのお陰で、今世の両親には自然に触れ合えた気がする。前世の記憶など持っていても、俺からすれば重いだけだ。

 

殆どが曖昧な記憶しか無い前世であったからこそ、俺はこの世界に自然と順応出来たのだ。

しかし思い出した。極一部分だけであったとしても。

 

「俺は……ジャンヌが好きだった」

 

そう、死ぬほど好きだった。

Fate/Apocryphaは当然原作書籍も持ってたしブルーレイも購入していた。FGOでも当然ジャンヌも邪ンヌも聖杯捧げてLv100だし、サンタリリィも水着ジャンヌも宝具5だ勿論聖杯も捧げてる。あげく抱き枕カバーなんて物まで購入していたし(今の私にはかなりキモい行為に思える)、前世の俺はとにかくジャンヌ好きだった。

 

ここまで思い出した今でも前世の自分の名前も全く思い出せなかったのに、こんな事だけ思い出すなんて……どうやら前世の私は、とんだオタクだったようだ。

 

(しかし、私もジャンヌが好きですっ!)

 

そこだけは共感できる。もうこれは魂に根付いている感情なのだ。今なら分かる。何故自分の喋る口調を、丁寧にしないと落ち着かなかったのか。

 

「――簡単なこと。ジャンヌはオレオレ口調で喋ったりしませんッ!」

 

私の姿は、ジャンヌ・ダルクと瓜二つ。そんな肉体で粗雑な言葉を扱うことに抵抗感を覚えるのは、ファンとして当然な事だ。

 

ジャンヌ・ダルクが原作であったように、将来この私へ憑依して来るのか。恐らくそれは無いだろう。

なにせ原作のレティシアと私とでは、容姿はともかく明らかに精神性が違い過ぎる。

 

更にここはフランスでも、ルーマニアでも無い。

言ってしまえば日本も存在しない世界だった。ジャポンなんて似非っぽい国ならあるのだけど。使われている言語もハンター文字という物が主で、前世の自分から見れば最初は記号にしか見えなかった。

 

歴史でもジャンヌ・ダルクなんて名前の人物は居ないので、恐らくこの世界で私にジャンヌ・ダルクが乗り移ってくる事も無いのだ。

 

キリが無いので一度そこで思考を打ち切って、その日は友達を待たせるわけにもいかず取り合えず普通に買い物に出かけて遊んだ。夜にルームメイトの彼女が眠ったのを確認して、再び思考を再開させる。

 

幾ら転生したからといって、今まで『特別』を感じたことの無い私が創作のジャンヌ・ダルクを待ち望んでも絵に描いた餅である。転生という不可思議は確かに存在したが、それと物語上の存在の降臨を本気で願う程の夢想家に成るのは別の話だ。

 

ていうかこの世界、魔術とか神秘があるのだろうか?

 

(……は?)

 

今世で生まれ落ちてから間違い無く一番深い集中で思索していると、唐突に、奇妙な感覚が湧いて来る。なにこれ?

 

「――ま、魔力?」

 

集中から覚めて目を開けると、私の身体から妙な湯気みたいな物が出て来ていた。それはある程度意識すれば、自分の意志で操れるようだった。

 

ぽかんと口を開けて眺めながら身体から出し続けていると、妙に力が抜けていくのを感じて焦る。体の中に戻そうと意識するも、なかなか戻らない。仕方なく妥協して身体に纏うようにすると少し楽になり、徐々に疲労感も消えていった。今はむしろ、力が湧いて来る。

 

二段ベッドの手すりを握ると、メキッっという音がして慌てて手を放した。手すりに罅が入ってしまった……魔力強化?

 

下のベッドで眠る彼女が起きていないかと慌てて下を見やると、今日の買い物ではしゃいで疲れた様子だった彼女は深く眠っているようで、私は安堵のため息を吐いた。

 

大分混乱している気がする。

 

レティシアに、魔力強化の能力なんてあっただろうか?

いや、違う。そもそも私はあの(・・)レティシアでは無いのだ。彼女の様に神に信仰心が有る訳では無いし、淑女らしいのはガワだけで中身は私だ(考えたら悲しくなってきた)。

 

仮称魔力は、どうやら身体に纏っていると力が強くなるらしい。しかしそれは出し過ぎるとガス欠のように力が抜けるようで、命の危険まで感じさせる脱力感を起こした。

 

どうしても意識していないと、魔力が垂れ流しになってしまう。こうなってしまった原因は不明だが、垂れ流しが良くないのは感覚的に分かるので、これからは頑張って身体にとどめておく必要があるだろう。

 

「……くっ。これ、疲れますね」

 

暫くは、学校の成績が落ちそうだった。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

私は飛び級して、女学校を一年半で卒業した。

一番仲の良かったルームメイトの友達には泣かれたが、私は魔力操作の習熟に専念したかったので彼女とは一旦そこで別れる事になった。

 

魔力操作は気が遠くなるほどに難しく三日で諦めて、身体から最低限留められるようにだけして半年を全て勉学に捧げた。早くこの降って湧いた不思議を探求したい気持ちで一杯だったが、両親に出してもらった学費も勿体ないし二人の気持ちを無下にしたくなかった。

 

私は久しぶりの実家に戻って、今までの事を報告した。両親にやりたい事が有ると告げると、お前の好きにしなさい、というありがたい言葉を貰った。てっきり近所のアラン君(幼馴染)とでも結婚しなさいなどのお見合い話でもされると思ったので、かなり意外だった。

 

「今のレティシアの眼を見れば分かるわ。幸い無理に縁組みするほどうちは貧乏じゃないし、お父さんも欲深くないしね」

 

私には分からなかったが、母には今の私に何を言っても言う事を聞かないと分かる(・・・)ようだ。父も頷いてくれた。優しい両親を持って、私は幸せ者だ。

 

「私は、才能が無いのでしょうか」

 

実家で最低限の家事を手伝いつつ、私は魔力操作の習熟に一日の殆どを費やした。私のモチベーションは自分でも信じられない程に高い。相応に集中力もあった。

 

しかし、この魔力は素人には余りにも奥が深すぎる技術だった。

 

最初は湯気にも見えた魔力は、現在では青白く発光する光の粒のような見た目へと変化していた。もうその見た目は完全に私がイメージする魔力そのものだ。

これが成長の証なのかは不明だったが、魔力操作の習熟は着実に進んでいた。

 

表現はイマイチだけど魔力は筋肉と同じように、使えば使う程成長していくようだった。

 

一年もすると、私は旅に出た。

 

この魔力の扱い方を、魔術を教えてくれる人を探す為だ。そろそろ一人では限界があると感じたし、我流ではいつか困るのではと思ったからだ。

しかし、魔術師はなかなか見つからなかった。いや、この世界では魔術師とは呼ばないのかも知れないけど。

 

師、或いは同じ魔力の使い手が見つからないまま、更に一年が過ぎた。旅の途中も当然魔力の修行は続ける。時間は無駄に出来ない。

 

「『旗持ちの聖女(ジャンヌ・ダルク)』」

 

ここ三日ほど前から、困ったことが有った。跳ねる程嬉しいのだが、理由が分からない為に反応に困る。ある朝から、魔力強化を全開で行うと、着ている服装が変わり始めたのだ。不可思議過ぎる。

 

「どこから見ても、英霊ジャンヌ・ダルクですね」

 

姿見には、記憶の中にある『ジャンヌ・ダルク』の装備をした私が喜び半分、困惑半分の顔をしている姿が映っている。FGOでいえば第一再臨時の服装である。

 

「…………」

 

私は誰も居ないホテルの自室をきょろきょろと見渡して誰も居ないのを確認して、顔を澄まして鏡の前でポーズを取った。

そして……携帯で自撮りする。

 

「き、来ましたあああ!! おおジャンヌうううぅうう! くぅぅ貴方こそが神ぃぃぃ!!」

 

取った写真を見ると、そこにはあのジャンヌ・ダルクが!!

私は思わず感動で声を張り上げてそのまま後ろのベッドに倒れ込んだ。全身を多幸感が包む普通のコスプレとは訳が違う完成度の高さだ。これが地産地消か。

 

……ややあって、私は真顔になって立ち上がった。

流石に今の叫びは無い――キモ過ぎる。

 

(いけませんいけません。今のは完全にジル(悪)でしたよ。目突き案件ですよこれは)

 

今の私は、あの旗持ちの乙女の姿をしているのだ。ジャンヌスキーの一爪牙として恥じない行動を心掛けるべきであるのに、この格好で間違っても妙な行動をする訳にはいかない。

 

内面はともかく、この格好をしている時の私はジャンヌであるべきだ。渾身のロールプレイだ。

 

(この姿の私を好きになる=その者は新たなジャンヌ信者ということ……んんん゛完璧です)

 

この突然現れた装備は当然魔力で編まれたもののようで、意識すればきちんと消すことが出来た。このままの恰好で居ると、凄いスピードで魔力が消費されていくのだ。

 

代わりにこの姿をしている時の身体性能は抜群でまさしく人間離れした英霊の域、ジャンヌ・ダルクとほぼ遜色無い能力を発揮した。

 

英霊(サーヴァント)としての身体能力は勿論、一部スキルらしき物まで発動しているようだった。

直ぐに気が付いた、私が使えるようだと確信出来たのは『啓示』のスキル。

 

FGOでは毎ターンスター獲得状態を付与、という物だったが、この『啓示』は文字通り私に啓示を与えるというものだった。声ならぬ声を聴く、という様な代物だった。

 

『魔力の扱いを知りたければ、ハンターとなりなさい』

 

そういうニュアンスの声なき声を聞いたのだ。実際に誰かに話し掛けられたわけでは無いが、例えるならそう聞いた、としかいえない感覚だった。体験した物にしか分からない感覚だった。ちょっとジャンヌの声に似ている気もする。原作のジャンヌは、これを神の声と呼んだのだろうか。

 

(それにしてもハンター、ですか……)

 

ハンター。

それは、この世界では就くのがとてつもなく難しい職業だ。男の子なら必ず一度はハンターに成りたい、なんて言う。毎年数百万人の申し込みが有るらしいが、受験資格を得るだけでも大変で、一万人ほどしか受けられないという。

更にはその年で合格者ゼロなんていう事もあるらしいのだから驚きである。

 

「ダメ元ですし、やってみましょうか」

 

確かに改めて考えれば、そんなハンターならば誰かがこの魔力について知っているかもしれない。いや、こんなに簡単に人の域を超えて強く成れるのを考えると、ハンターは全員が魔術師の可能性もあるだろうか。

 

迂闊だった。

 

その後、私の『ジャンヌ・ダルク』状態は五分ほどの維持が限界で倒れた。最近は修行がマンネリ気味だったので、次はこの状態を出来る限り持続出来るように頑張ろうと思う。

魔力総量の増加にも期待できる。

 

どうやら今年のハンター試験は終了してしまっているようなので、目指すのは来年のハンター試験になる。

 

私はやっと見えてきた光明に、小さく笑った。




『ジャンヌ』の為なら命を懸けられる、筋金入りのジャンヌ厨です……。
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