聖女もどきはハンターの夢を見るか   作:liol

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先ずは謝辞を。
数多くの評価と感想、大変励みになっております。滅茶苦茶嬉しいです。

そして誤字報告も大変助かっております。この場を借りて深い感謝を。
――――ありがとうっ!(誤字が多くて赤面ものです)

そして何故かまだ二話しか投稿していないのに、いつの間にか日間ランキング一位取ってました。
(暫くポカンと開いた口が塞がりませんでした)
一重に感想・評価をくれた皆さんのお陰だと感じております。

怪電波(ジル……?)を受信して筆を執った雑プロットの拙作でしたが、それでも良ければ是非お付き合いくださいませ。

ジャンヌスキー同士の為(ほどほど)に頑張ります。


3.「そして信徒は誕生する」

ハンター最終試験を目前に控えて行われたアイザック=ネテロによる個人面談。

 

ネテロは目の前に入室してきた受験番号392番、レティシアを見て思わず頬を綻ばせた。控え目に言っても美しい。

超一流の念能力者として常人よりも長く生きているネテロでも目を見張る程の美少女である。

 

念能力者のオーラには、その持ち主の気質が窺える時が有る。

過剰に容姿に恵まれた者は性格が歪んでいる者が多い……などという俗説もあるが、彼女の太陽が如き暖かなオーラを体感出来た者ならばその説が如何に偏見塗れであるかが分かる(一瞬、ギラギラと輝いている様に思えたのは気のせいだろう。眼に優しい光だ)。

 

ネテロの眼差しが、数瞬重要な事に気付いて鋭くなる。

ネテロはつい先ほど……面談前にハンター試験官のメンチに些細なちょっかいを出していた。彼の脳裏に、その時の光景が鮮明に甦る。

 

(メンチ君のお尻と目の前のレティシアちゃんのお尻……ふむ)

 

ネテロの灰色の脳細胞を以てすれば、眼前の衣服によって秘されたお尻(ヒップ)であっても脳内にくっきりとその輪郭を浮かび上がらせることは簡単な事だ。

 

(むぅ。なんと凄まじい戦闘力じゃ……!)

 

何時の間にか無言で唸っていたネテロに疑問符を浮かべたレティシアの様子にようやく意識を取り戻したネテロは、改めて咳ばらいを一つすると向き直った。既にその表情は、ハンター協会会長に相応しい歴戦の貫禄を備えている。

その貫禄で若い頃は数多の女性を落としてきたネテロに隙など存在しない。

 

ネテロは予定通り予め決められた質問をレティシアに投げかける。

 

「レティシア君。君がハンターを志望した理由は何かな?」

 

ある(・・)事を知るには、ハンターに成るのが近道だと思ったからです――念能力、という言葉をネテロ会長は聞き覚えがありませんか? 恐らくそう呼ばれている、私の身に宿る不可思議な力の正体を知る為に、ハンター試験を受けにきました」

 

「お主は天然の能力者じゃったか……うむ、答えよう。ここで詳しくは言えぬが、それ(・・)についてはハンター試験を合格した後ならば自然とこちらから教える仕組みとなっておる。お主の望みは叶えられるじゃろう」

「あぁ……ありがとう御座いますっ!」

 

本来ならば念能力については合格者のみに伝えるのが筋であったが、元々念能力に目覚めているレティシアにまでそれを当て嵌める必要は無いとネテロは判断した。彼女が調べていれば、いずれ分かる事なのだ。

 

余程能力について知りたかったのか、会長自らのお墨付きを貰ったレティシアは瞳をキラキラと輝かせて顔を綻ばせた。ネテロの顔も思わず緩むというものだ。天然の念能力者ならば、突然起こった正体不明の能力に振り回されることは珍しく無い。

 

それは今の彼女の様子から察することは出来ないが、それ相応の悩みや苦労があった筈である。念の開花は、それまであった周囲との関係性を容易く破壊してしまう爆弾にも等しい。開花の時期が最近であったとしても、それは変わらない。

 

そんな中で生きてきて、卑屈にも傲慢にも悪にも染まらずに素晴らしい善性を保つ。これは容易に出来る事ではない。

あるいはそんな苦労を経験した彼女だからこそ、人の痛みが分かるゆえに優しい心を大切にしているのかも知れないと、ネテロは思った。

 

「おっほん。では今君が、一番注目している選手は誰じゃ?」

 

「それは――44番でしょうか。色々と彼はその、凄まじい人でした。あの人とはもう二度と戦いたくありません……本人が居ないのにこんなことを言うのは憚られますが、彼がハンターに相応しいとは思えませんし」

 

受験番号(ナンバー)44番ヒソカ。その精神性や行って来た行為はネテロの耳にも入っている。この最終試験前まで残って来た受験者の多くも、この質問に44番の事を挙げている。

 

受験者同士の避けられない衝突を除いてネテロが観察していた中でこの試験中に最も他者でしか無い受験者仲間を気遣い、助けていたのは間違い無くレティシアだった。その彼女が度々他の受験者を惨殺するヒソカを嫌うのは至極当然の事だろう。

 

本来ならば真っ先に競争して蹴落とすべき存在である自分以外の受験者を助けるその精神は素晴らしいものだが、ネテロは余りそこを注視していない。

 

ハンター試験の多くは受験者同士の競争心を煽り、敢えて助け合いを捨てさせる仕組みをしているのだ。その仕組みでいえば、ヒソカの行動は何も間違っていない。正当な物だ。逆だ。

 

――レティシアが異端なのだ。

 

彼女はこの極限状態を再現する試験の最中に、マトモに人助けを行えるだけの実力を持っている。その一点こそが重要なのだ。

 

信念も重要だが、本当にハンターに必要な物はその信念を貫けるだけの実力。言葉の通じない魔獣などを相手に戦いの虚しさを説くほど無価値なものは無い。

 

そしてレティシアには、並みの魔獣ならば物理的に叩きのめして躾けられる程の実力があったということだ。

 

「ということは一番戦いたくないのも、44番かの?」

「私は元々、争うことは好きではありませんが……ただ、血に塗れる事を恐れるほど臆病者ではないつもりです」

 

ネテロはレティシアをそんな風には思っていない。むしろネテロの眼からすれば、彼女はかなり我が強い頑固者に見える。このハンター試験で善行(時に物理)する人間が頑固で無い訳が無い。むしろ筋金入りである。

 

レティシアは避けられない、戦うべき相手とはむしろ前向きに戦っていた。彼女はこの試験で数少ない念能力者なこともあって、監視員の眼は多かったのだ。ゆえに試験中で得られた彼女の戦闘情報も相応に豊富でそのスタンスの把握も容易い。

 

(第三次試験では驚いたわい。まさかこの見た目でいきなり犯罪者に眼潰しを喰らわすとはのぉ。見てた皆ドン引きしてたわい)

 

最終試験まで残った受験者の数はなんと18人(・・・)。本来ならばこの1/3も残れば十分だった筈だ。実力が余りに伴わない者は第四次試験で脱落したものの、それでも多い。

 

この結果を生み出した、多くの受験者達の旗印となった者が誰かなどは語るまでも無いことだ。その後ろに続いた者達は、驚くほどこの試験の中で成長している。誰もが真剣に、死力を尽くした闘いだったのだ。

 

一部の試験官からはそれに不服の声も上がったが、今の彼らならばもう一度同じ試験を課しても『旗印』抜きでもここまで勝ち残るだろうと、ネテロは判断した。

 

綺麗に整った礼をして去っていくレティシアの後ろ姿を見送って、ネテロは彼女が将来大成するであろうことを確信する。果たしてレティシアが念の高みを知った時に何処まで強くなるのか……前途有望な若者が生まれることはネテロにとって喜ばしいことであった。

 

(う~ん。やっぱ良い尻してるのぉ)

 

面談終了後のネテロの機嫌は、大変に良い物であった。

 

 

◆◆◆◆

 

 

負け上がりのトーナメント戦。ハンター最終試験である。

 

しかしそれは、異例の結果に終わった。

試験中に突如様子のおかしくなったキルアが一人の対戦者を惨殺した事で、自動的にレティシアを含むこの場に残った彼以外の受験者が合格したのだ。

 

レティシアとしては合格に成ること自体は嬉しいことであったが、その過程には全く納得出来なかった。キルアは姿を偽っていた彼の兄と話してから、明らかに情緒不安定に陥っていた。明らかに何か細工がされたのだろう。

 

まさかキルアが世界でも有名な暗殺者の家系だとは思わなかったが、彼らゾルディックがその有名を得たのにはその常軌を逸した家風が影響しているのかとレティシアは思った。

 

キルア=ゾルディック。

ゾルディックは確かに珍しい苗字だが、レティシアはてっきり偶然名字が同じなだけだと思っていた。

 

レティシアはどうやらキルアに避けられているようで試験中にキルアと深く喋ることはついぞ無かったが、ゴンやレオリオ、クラピカと楽しそうに話している姿を見ていたレティシアには、キルアがあの物騒な兄と同類であるとは考えられない。

 

「行くのですね、ゴン君」

「うん。キルアを連れ戻すんだ――オレは、キルアの友達だから」

「……本当は私達も、彼を助けにいきたいと思うのですが……それは私の役目では無いようです」

 

力強い目をしたゴンにレティシアは笑顔で頷いて、後ろから続くようにやって来たレオリオとクラピカに挨拶して握手を交わした。

任せてくれ、と二人の眼は語っていた。レティシアの出る幕は無いのだ。

 

「ゴン君をよろしくお願いします。また何時か、お会いしましょう」

「ああ。君も達者でな」

「おう! レティシアちゃんと別れるのは辛いが、まぁなんとかなるさ」

 

去っていく三人を見送り、レティシアは背後に振り返った。そこにはまだこの試験で出会った仲間達が残っている。その一人一人と、レティシアは丁寧に言葉を交わし合った。

 

すると最後の一人が、頬を掻いて恥ずかしそうに妙なことを口にした。

 

「あんたが居なければ、俺が合格することは無かっただろうよ……あんたのお陰だ」

 

「――それは違いますよ」

「え?」

 

レティシアはその的を外した感謝の言葉に苦笑いして、同じ気持ちだという顔をした受験者達にも向かって口を開いた。

 

「私は試験中の貴方達の努力を、一番近くで見てきたつもりです……しかし私はただ見ていただけに過ぎません。むしろお互いが合格を懸けて争う機会の方が多かった」

「それは、そうだが」

 

「この結果は、貴方達自身の力なのです! 誇りなさい。貴方達は私の後ろをただ歩いて楽に試験をクリアしたのですか? 違うでしょう」

 

レティシアのその言葉でどこか心に負い目を感じていた者達の目が、はっと見開かれる。

 

「ふふっ……正直、私の方が皆さんに助けられたと思っているのですよ? 私は様々なことを皆さんに教わりました」

 

「ここに居ない人も居ますが……トンパさんには試験の傾向を。ポックルさんには森の歩き方を。アモリさん達にはコンビネーションの大切さを。ポンズさんやバーボンさん、ゲレタさんには毒の危険を。ハンゾーさんには奇襲の怖さを」

 

「貴方達は私の後ろを歩いて来たのではありません。私達は、共に並んでこの試験をクリアしたのです。それを間違えないで下さい」

 

レティシアはなんだか偉そうにすみませんとが最後にそう締めくくり、心なしか恥ずかし気に頬を赤らめた。その表情を丁度運(わる)く目の前で見聞きしていたトンパが浄化されて昇天する。疲労困憊だったトンパの体力ゲージがMAX回復した。

 

去っていったレティシアをその場に居た全員の者達が、その後姿が見えなくなるまで手を振って見送った。そんな彼らの様子に途中で気が付いたレティシアも、少し困った顔で手を振り返してくれる。

レティシアがもう戻ってこない事を十分に確認したメンバーは、そっとお互いを目配せした。

 

「レティシアさん……」

「聖女だ」

「やっぱすげぇよレティシアさんは!」

 

お互いが彼女に対して抱いた感想を、彼らは疲労を忘れて語り合った。トンパなどの今までずっとハンター試験をクリア出来なかった人間程、レティシアに対しての感謝の念は深かった。

 

時に命を奪い合った関係であったとしても、それを引き摺っているものは今この場には居なかった。その後誰が立ち上げたのか暫くして電脳ページに『聖女ファン倶楽部』なる意味不明な物が立ち上がっていたのだが、その存在をレティシアが知るのは随分と後になるのであった。

 

 

◆◆◆◆

 

電車に乗ったレティシアはハンターが得られる特権を利用してVIP専用の室内の一室で、合格の証として送られたハンターライセンスを宙に翳してそれを意外そうに眺めた。

 

これを係員に見せるだけでこのVIP室を無料で取れたように、ライセンスカードには様々な特権が与えられている。少し見た目が地味でそれがレティシアには意外だったのだ。恐らくは盗難防止の為にこのように造られているのだろうと、レティシアは納得した。

 

(お母さんが心配していましたし、そろそろ一度報告に戻らないとなりませんね)

 

現在レティシアは故郷の実家へと向かう為に車中に居た。

偶に連絡は取っていたが、別れてからもう数年は経っている。好きにしなさいと言われていたが、声を聴いていれば本当は心配しているだろうと分かるのは当然の事だった。

 

普通なら娘が毎年死者を出すと噂のハンター試験を受けて、平静な両親は居ない。そしてレティシアは、人並みに両親に愛されている自覚が有った。

 

レティシアはジャンヌ・ダルクが好きだ。愛していると言っても過言ではない。両親も好きだが、その百倍ジャンヌを愛している人間だ。親不孝な人間だとは思うが、でなければかつての自分の名前も覚えていないのにジャンヌ・ダルクを忘れない訳が無いのである。

 

しかし、今までの全てを(なげう)ってまでジャンヌとして振る舞うのは違うとも思っている。

そもそも人として当たり前の良心を捨てた人間に、ジャンヌロールを行うことなど不可能だとレティシアは思っているのだ。所詮自分は偽物に過ぎないが、レティシアはジャンヌを愛する者として質の悪い偽物に堕ちるのだけは御免だった。

 

 

自身がジャンヌと酷似した見た目で生まれた事にも、この異能に目覚めた事も、全て意味があるとレティシアは確信している。

 

――――神は言っているのだ。『ジャンヌ』を布教せよと。

 

(この世界では私こそが『旗持ちの聖女(ジャンヌ・ダルク)』。その偶像なのですっ!)

 

それは信者が偶像を媒介して信仰を捧げるのに似ている。自身を通してジャンヌ・ダルク一大ムーブメントを巻き起こすのだ。それこそが自分がこの世界に生まれた使命だと、レティシアは直感していた。間違い無いっ!

 

ジャンヌ・ダルクを知らない人間……あぁ、なんたる不幸。酷過ぎる。人生の九割は損しているに違いない。推しが居ない人生なんて。

 

そうして今後の人生計画を練っていると、レティシアはふと伏せていた顔を挙げた。いつの間にか電車の中が騒がしくなって来ているのに気が付いたからだ。

戦闘音。爆発音と共にレティシアが居る部屋のドアが吹き飛ぶ。レティシアはそれを余裕をもって回避した。

 

「大人しくしろッ!……そのカード。ハンターライセンスだな? 不用意にライセンスを使ったのが悪かったな」

「ヒヒヒッ ハンター試験直後はお前みたいな人間が良く湧く。美味しいカモだぜ」

 

「おいこいつ。とんでもねぇ上玉だぜ!?……なぁボス、後で一発良いよな?」

 

レティシアは重火器を持って現れた血塗れの相手に取り合わない。室内で取り回しが利かない旗を使わず、レティシアは腰に挿した直剣をすらりと慣れた手つきで抜き放った。

 

相手は見るからに悪党。二重の意味で舐めるような眼つきで見られたレティシアは、笑った。

……笑顔とは本来攻撃的な意味を持つとされた、牙を剥く行為の原点だという言葉がある。

 

「大事な思索の最中でしたが、良いでしょう」

「は? さっさと――」

 

「覚悟なさい」

 

ヒュっという軽い音とともに血飛沫が舞う。先頭に立っていた男の首が遅れてゴドン、という音を立てて床に落ちる。それはほんの一瞬の事で、念を知らない賊が介入する余地が無い速度で行われたものである。

 

一拍遅れて、状況を認識した残った二人の男が絶叫しながら手に持ったマシンガンとアサルトライフルの引き金を引く。

レティシアは狭い室内の壁を地面を走るように縦横無尽に駆け巡り弾丸を回避する。

 

「ひっ」

「う、うわああぁあぁあ!!」

「死ねこらあああ!!」

 

「甘いッ!」

 

レティシアはそのままその場に居た賊を討ち取ると、列車内に残った残党を探す。隣の車両のドアを開けると、丁度その場所で銃声が鳴り響いていた。

 

レティシアは乗客全員を銃で脅しつけ、反抗する者に鉛玉を贈る賊達を発見する。残酷に笑う賊達に乗客の彼等は震え上がり、懸命に誰かの助けを願った。

 

願いは聞き届けられた。

 

「一度だけ警告します。銃を捨てて降参なさい」

「――な! こ、こいつ!? なんで此処に!?」

「馬鹿野郎、つまり失敗したんだ! 早く撃てッ!」

 

レティシアの姿を見た瞬間、賊達の顔色が一変する。

メインターゲットだったハンターが強力な重火器持ちの仲間達を一蹴してきたと分かったのだ。ここにはハンドガンなどの小口径の銃持ちしか居ない。

 

一直線に迫るレティシアの身に賊達の弾丸が次々と直撃する……無傷。ダメージは与えられない。二人の賊が瞬く間にレティシアに制圧されて気絶し、床へと身体を転がした。小口径では彼女の脅威とはならず、それだけで済んだ彼らは非常に幸運だったと言えるだろう。

 

残った一人の賊が、ならばと乗客へ銃を向け人質に取ろうと画策する。

 

「う、動くな! こいつがどうなっても」

「残念です」

 

銃を乗客に向けた彼が光明が差したと笑う……と同時に、レティシアがいつの間にか右手に握っていた旗を投擲するモーションに入った。

目を大きく見開いた賊の心臓を、投擲された旗が勢いよく貫いて……なお止まらず列車後方の壁へと賊の身体を吹き飛ばして張り付けに処した。

 

一瞬の出来事である。彼女は時に命を懸けることもあったハンター試験でより成長を果たしていたのだ。レティシアは思いがけずに入った力加減に驚いたが、それに気が付いた者は居なかった。

 

可憐な少女が銃を持った大男達を倒していく姿は、恐怖に怯えていた乗客達にとってはまるで映画のように現実感が薄いものであったからだ。

 

数秒間深い沈黙に包まれた車内が次の瞬間、爆発した様に歓声を上げた乗客達の声で騒がしくなる。命を脅かす悪漢を打ち倒した美しい少女。人々は彼女に大きな拍手を送り、称える様に喝采を挙げた。

 

レティシアがそれに柔らかな笑顔を返すと、その微笑みに雷を打たれた様に呆然とする乗客も居た。

彼女はさり気ない所作で賊を張り付けにした魔力(ネン)で編まれた旗を消し、賊の死体を見え辛い位置へと移動させ物々しさを連想させる要素を排除した。

 

乗務員達が遅れて死体にこんなこともあろうかと列車の中に常備されている死体袋を被せて、レティシアへと頭を下げた。何かと話題性に富むレティシアが世間に認知される日は、そう遠くない事であった。

 

(……どうしましょう。これじゃ、迂闊に実家へ帰れません)

 

彼女は内心で、憂鬱そうなため息を吐いた。

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