東方春命録   作:Poteto305

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「早苗!雨だよ!雨が降ってる!」

「そうですね、諏訪子様。傘いりますか?」

「差さないけど、一応もっとく」

「まぁ、そう言いますよね、諏訪子様は」



プロローグ:神は恵みの雨を降らす
神は恵みの雨を降らす


さぁさぁとまるで風のような何かが頬を伝って地面に落ちるのを、少年はただ呆然と見つめていた。

雨が、降っていた。

 

(どこだ?ここ……)

 

自分ではあまり気に入ってない眼鏡をくいっと上げつつ少年、戌井春良(イヌイ ハルヨシ)は辺りを見まわした。

 

(……ここ、は……?)

 

お気に入りの音楽しかはいっていないプレーヤーから伸びたイヤホンを耳から外し、濡れないようにポケットに入れた。

あたりを見回すが、どうにもパッとこない。

 

「傘差さないと、濡れるよ?」

 

ふと、自分に降る水が止んだ気がした。

上を見ると、蛙模様の傘が、誰かの手によって春良の上に掲げられている。

続けて響く、女性の声。

 

「諏訪子様が言える事なんですか?」

 

「あーぅー……私はいいのよ。濡れるの好きだから」

 

春良は二つの声のする方を見る。

そこには、自分に傘を差してくれている少女が一人。

そして後ろにもう一人、巫女服のような服を着た少女が見えた。

 

「えっと、どちら様…?」

 

それが、出会いで。

それが、雨の降る日の始まりを飾る言葉だった。

 

「それで?まずは名前からいこっか」

 

春良が連れてこられたのは、いかにもな神社だった。

自分が座っていた場所は大きな木の根本だったのだが、それはどうやらご神木らしかった。

雨にさらされた時間はさほどなかったのか、あまり濡れていない自分の姿を見て、春良は首をかしげた。

少女がそう言って帽子をかぶり直す。

 

「私の名前は洩矢諏訪子。神様やってるよ」

 

「か、神様……?」

 

洩矢 諏訪子(モリヤ スワコ)と名乗った少女のかぶる帽子は、ぱっと見大きめの紳士帽なのだが、なぜか目玉が二つついている。

それよりも、聞き逃せないセリフが一つ。

神様がわからないわけじゃないが、そのかわり何を言っているんだ的な不安が生まれる。

 

「それで、こっちのが……」

 

「東風谷早苗です。ここの巫女だと思って下さい」

 

諏訪子の横から出てきた少女は、小さく頭を下げた。

彼女、東風谷 早苗(コチヤ サナエ)の着ている服は、どこを間違ったのか肩の部分が無く、腕の部分の服だけ離れているようだ。

変なことを言うと、腋も普通に見えてしまいそうだ。

目線がそこに釘付けになってしまうのは仕方のないことだが、初対面では流石に避けたいところだ。

 

「俺は戌井春良です。学生、です。宜しくお願いします」

 

名乗られたのなら自分も名乗らねばと春良は自己紹介を返した。

 

「がくせい……?」

 

すると、目の前の諏訪子が変な表情になった。

神様は学生を知らないのだろうかと春良はまたも不安になるが、そこで早苗が口を開いた。

 

「……もしかして、『外』の人ですか?」

 

「……外?」

 

早苗が不安そうにそう聞いてくるが、春良には意味が分からない。

確かに自分はこの神社の外からやってきたが。

 

「戌井さんは、さっきの場所に来た覚えはありますか?」

 

「いや、正直いつの間にか居たって感じ、です……」

 

「なるほど、外来人かぁ……」

 

「外来人…って、なんだ?」

 

さりげなくポケットの小型音楽プレーヤーの安否を確かめつつ、諏訪子にそう返す。

濡れてはいなかったようで、液晶画面は充電が満タンであることを示して眠りについた。

すると、諏訪子は視線を早苗へと向け、それに気づいた早苗は、小さく頷いた。

 

 

                   

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