「そうですね、諏訪子様。傘いりますか?」
「差さないけど、一応もっとく」
「まぁ、そう言いますよね、諏訪子様は」
神は恵みの雨を降らす
さぁさぁとまるで風のような何かが頬を伝って地面に落ちるのを、少年はただ呆然と見つめていた。
雨が、降っていた。
(どこだ?ここ……)
自分ではあまり気に入ってない眼鏡をくいっと上げつつ少年、戌井春良(イヌイ ハルヨシ)は辺りを見まわした。
(……ここ、は……?)
お気に入りの音楽しかはいっていないプレーヤーから伸びたイヤホンを耳から外し、濡れないようにポケットに入れた。
あたりを見回すが、どうにもパッとこない。
「傘差さないと、濡れるよ?」
ふと、自分に降る水が止んだ気がした。
上を見ると、蛙模様の傘が、誰かの手によって春良の上に掲げられている。
続けて響く、女性の声。
「諏訪子様が言える事なんですか?」
「あーぅー……私はいいのよ。濡れるの好きだから」
春良は二つの声のする方を見る。
そこには、自分に傘を差してくれている少女が一人。
そして後ろにもう一人、巫女服のような服を着た少女が見えた。
「えっと、どちら様…?」
それが、出会いで。
それが、雨の降る日の始まりを飾る言葉だった。
「それで?まずは名前からいこっか」
春良が連れてこられたのは、いかにもな神社だった。
自分が座っていた場所は大きな木の根本だったのだが、それはどうやらご神木らしかった。
雨にさらされた時間はさほどなかったのか、あまり濡れていない自分の姿を見て、春良は首をかしげた。
少女がそう言って帽子をかぶり直す。
「私の名前は洩矢諏訪子。神様やってるよ」
「か、神様……?」
洩矢 諏訪子(モリヤ スワコ)と名乗った少女のかぶる帽子は、ぱっと見大きめの紳士帽なのだが、なぜか目玉が二つついている。
それよりも、聞き逃せないセリフが一つ。
神様がわからないわけじゃないが、そのかわり何を言っているんだ的な不安が生まれる。
「それで、こっちのが……」
「東風谷早苗です。ここの巫女だと思って下さい」
諏訪子の横から出てきた少女は、小さく頭を下げた。
彼女、東風谷 早苗(コチヤ サナエ)の着ている服は、どこを間違ったのか肩の部分が無く、腕の部分の服だけ離れているようだ。
変なことを言うと、腋も普通に見えてしまいそうだ。
目線がそこに釘付けになってしまうのは仕方のないことだが、初対面では流石に避けたいところだ。
「俺は戌井春良です。学生、です。宜しくお願いします」
名乗られたのなら自分も名乗らねばと春良は自己紹介を返した。
「がくせい……?」
すると、目の前の諏訪子が変な表情になった。
神様は学生を知らないのだろうかと春良はまたも不安になるが、そこで早苗が口を開いた。
「……もしかして、『外』の人ですか?」
「……外?」
早苗が不安そうにそう聞いてくるが、春良には意味が分からない。
確かに自分はこの神社の外からやってきたが。
「戌井さんは、さっきの場所に来た覚えはありますか?」
「いや、正直いつの間にか居たって感じ、です……」
「なるほど、外来人かぁ……」
「外来人…って、なんだ?」
さりげなくポケットの小型音楽プレーヤーの安否を確かめつつ、諏訪子にそう返す。
濡れてはいなかったようで、液晶画面は充電が満タンであることを示して眠りについた。
すると、諏訪子は視線を早苗へと向け、それに気づいた早苗は、小さく頷いた。