「おい、上海。あんまりくすぐるなって、落ちるだろ」
「はるよ……」
「あははっ。人形なのに綺麗な髪してるよなぁ。触って良いか?」
「はる…」
「なんで顔紅くなってるんだ?……うわすげぇ、さらさらだ」
「…………」
「っておい!?諏訪子!?なんでスピード上げるんだ!?」
「……さぁ?」
「やめ……、あぁっ!また上海落ちた!しゃんはーいっ!」
「…………」
「悪かった!悪かったから黙ってないで拾いに行ってくれ!」
少年は、それを行うべく駆ける・壱符
「お帰りなさい、戌井さん」
「あ、ただいまです」
なぜか魔理沙の時よりも疲れる飛行の後、鳥居で箒を持つ早苗が、にこやかに迎えてくれた。
「早苗ー、お腹すいたー!」
「はいはい、すぐに作りますからね」
箒ではわきつつ、神社の方へ姿を消した早苗を目で追いつつ、春良達も休むことにした。
「あ、諏訪子!」
「?」
と、そこで春良が諏訪子を呼び止めた。
上海も、呼び止められた諏訪子も何の話をするのかが分からず、ただ固まっていると、
「さっきの話だけどさ、幻想郷にきて諏訪子に会えて、本当に良かったって思ってるから」
「……え?」
固まった状態からさらに固まり、変な空気が流れた瞬間、春良ははにかんで言った。
「だから、ありがとなって事」
そのままの勢いで目の前の神を抱きしめ、頭を撫でる。
(……!?)
春良にしてみれば、子どもをあやす行動の一つに過ぎないのだが、そんな言い訳が通用するはずはない。
「え、えっと、うん、ありがとう…」
「うし、んじゃご飯食べるか」
顔が真っ赤になった諏訪子を置いて、すたすたと歩いていく春良。
「……ん?これは…?」
ポーチの中にある『親愛』の符から何か力を感じた。
出して確認するが、暖かい何かを感じるのみで、結局よくは分からない。
「ま、いいか……」
とまた前に向き直ると、浮遊する上海が春良を見つめていた。
「ん?しゃんは……」
若干近かったので離れようとすると、急に悲しそうな顔になる。
良く分からないのでとにかく頭を撫でると、正解だったのか上海はその手を握ってくれた。
「それで、これからどうするんですか?」
「とりあえず、幻想郷の目立つ所に行こうと思います」
早苗特製のご飯を食べながら明日からの行動を話す。
一体どういう手順で作っているのか、もの凄く美味しい。
「でも、かなり危ないですよ?」
「ですよねぇ……」
「わ、私が付いていけばいいよね」
肉じゃがに似た煮物を箸で突きながら、諏訪子は若干赤い顔で呟く。
すると早苗は、
「そのことなんですが…。諏訪子様、最近外へ出かけすぎじゃありませんか?」
「そう?」
「ここの神は今神奈子様ですけど、信仰集めは手伝ってくれませんと…」
畳の上を転がる上海を見ながら、春良は話に耳を傾けていた。
「そんなの神奈子だけでいいじゃん、私は私でやるから…」
「そうはいきませんよ、神奈子様も疲れてるんです」
「ご馳走様ー」
面倒なことになりそうだったので、早々にご飯を食べ終わり、上海と遊ぶ事にした。
「ですから、神奈子様一人では大変なんですよ!信仰集めも!」
「今は神奈子の神社なんだし、私は関係ないでしょ!」
春良の思ったとおり、ヒートアップした二人は立ち上がって口論を続けていた。
「上海は見たら駄目だからなー?」
「……?」
「大体、神奈子様って何!早苗、八坂様って呼んでたよね!」
「そ、それは、神奈子様がその呼び方で良いと仰ったんです!」
「随分と仲がよろしいんだねぇ!」
「そ、それは今関係ないじゃないですか!それに諏訪子様だって、戌井さんの事を……」
「あーっ!春良を持ち出してくるの!?それは卑怯でしょ!」
上海の目を手で覆いつつ、口論の行く先を見つめる。
神奈子様、とやらはどこにいるんだろうか、と思った瞬間。
「おやおや、五月蠅い事になってるねぇ」
春良の目の前に誰かが腰を降ろした。
「…………?」
「おや?もしかしてアンタ…」
「あ、戌井春良って言います」
「あぁ、やっぱり。最近こっちに来たんだって?」
あぐらをかいて座る神奈子がお椀に注がれた酒を飲みつつ問いかけてくる。
「あ、はい。まだ慣れなくて…」
「あー、私らもそうだったよ。こっちに来た頃はね」
「……?」
言葉の意味が分からず、春良は首を傾げる。
今の言葉は、まるで神奈子達が自分のいた世界から来たみたいな言い方だった。
「私らも、アンタと同じ世界からこっちに来たのさ」
「そ、そうなんですか?」
「現代での信仰があまりに薄くてねぇ、信仰集めのために決心してきたはいいけど、麓の巫女に邪魔されたりと、不便だったねぇ」
空になった酒瓶をひっくり返してのぞき込む神奈子。
「麓の巫女……霊夢さんですか?」
「アンタ、あいつをさん付け?やめなって気色悪い」
「気色……」
ぱたぱたと紅潮した顔で手を振る神奈子は、この前の事で懲りていないのか、完璧に出来上がってしまっていた。
「最近諏訪子があんたの事ばっかりでねぇ」
「はぁ……」
「あっはっはっは、モテモテだねぇ!」
(だめだ、できあがっとる)
手をばたばたとさせる神奈子を見つつ、耳は諏訪子達の方へ向ける。
「早苗も大変だね!神奈子神奈子、いっつもべったりでさぁ!」
「なっ、ななななにを言うんですか!一応ここの巫女でもあるんですから、当たり前です!」
はぁ、と春良はため息を一つこぼして、先日も使わせてもらった寝室へ上海と歩く。
神奈子は、大の字になって寝息をかいていた。
「か、神奈子様?こんな所で寝ては風邪を引きますよ?」
「ほら、やっぱりべったりしてる」
「と、とにかく、諏訪子様も信仰集め、手伝って下さいね!」
「あーうー……。面倒くさいー」
後ろで聞こえる声を流しつつ、春良は布団へ上海を押し込む。
その後すぐに自分の体も入れ、寝る体勢に入る。
隣の上海が、軽く腕に抱きついてきた。