東方春命録   作:Poteto305

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少年は、それを行うべく駆ける・弐符

丑三つ時。

起きている者などほとんどいないであろう時間帯に、春良は上海を起こさないように布団からはい出た。

 

(上海、寝るんだな……)

 

少し不思議に感じながらも、春良は抜き足差し足で外へ出る。

冷たい風が、春良の頬をくすぐった。

 

「よ、っと……」

 

そこで始めるのは、弓道の型。

サジタリウスの精製である。

 

「弓符『サジタリウス』…」

 

キュァッ、と手に握られた変幻自在の弓に意識を集中しつつ、弓を引く。

 

「うっ……し」

 

完璧に引ききり、その状態、会を維持する。

この状態で、いつまで弓が崩れないかの実験だ。

 

「特訓ですか?精が出ますね」

「……ぅお!?」

 

急に後ろから声を掛けられ、驚きで弓と矢が四散してしまう。

聞き慣れた敬語に振り向くと、

 

「さ、早苗さん…」

「こんな時間に、誰かと思いましたよ」

「すいません…。起こしてしまったみたいで」

「いえいえ、寝付けなかったんですよ」

 

にっこりと笑う早苗に対して、声が出なくなる。

少し気まずい雰囲気の後、笑顔を崩さないまま、

 

「見学してもいいですか?」

「あ、はい」

 

縁側に腰掛けた早苗を確認した後、もう一度弓を引く。

が、

 

(し、視線が……)

 

早苗からの真っ直ぐな視線に気を取られ、上手く弓をイメージ出来ない。

 

「あ、あのー」

「はい?」

「そんなに見られると、ちょっと恥ずかしいんですが…」

「あ、すいません」

 

とは言うが、視線は変わらない。

観念した春良は、思い切って切り出してみることにした。

 

「早苗さん、俺と勝負してくれませんか?」

「弾幕ですか?」

「はい」

「はい、いいですよ?」

 

すっくと立ち上がり、早苗は何をするでもなく春良を見つめる。

 

「…………?」

「あ、いいですよ。撃ってきても」

「え?あ、それじゃ、いきます」

 

タンッ、と一歩跳躍して距離を取り、神速の矢を放つ。

が、そんなものは簡単に避けられてしまった。

 

「弾幕勝負は久々ですから、勝てるかどうかわかりませんね…」

 

そう言って早苗は御札を飛ばす。

一枚や二枚ではない。

 

「なんつー冗談ですかっ……!」

 

数えることすらままならない御札の弾幕をかすりつつかわし、さらに矢を射る。

もちろん、当たりはしない。

 

「ほらほら、そんなことでは、諏訪子様は渡せませんよー?」

「なっ、何を言ってるんですか!」

 

ぎゃーぎゃー吠えながら月の下で行われる綺麗な戦は、当然春良の惨敗で幕を閉じた。

 

 

 

 

「最初は紅魔館?」

「おう。やっぱし知り合いがいるトコから回ってった方が良さそうだしな」

 

幻想郷に来て何度目かの朝。

守矢神社の住民は箸を手に取っていた。

 

「でも、大丈夫なの?死にかけたのに」

「まぁ、悪気があった訳じゃないからな…」

「早苗、奇跡の力は?」

「流石に、そうほいほい使える力じゃありませんよ…」

 

頼りっぱなしもよくないしな、と春良が言うと、納得したように諏訪子が息を漏らす。

 

「ねぇ、早苗ってば……」

「だめです。諏訪子様は信仰集めです」

「まぁ、何とかなるって」

 

少し前に死にかけたばかりの人間の笑顔に、若干のいらつきを感じる諏訪子だったが、こればっかりはどうしようもない。

春良は、そういう人なのだ。

 

「それに、上海だっているしな」

 

そう言うと、縁側で足をぷらぷらさせていた上海がこちらへ飛んでくる。

頼りにされているのを感じ、嬉しそうに微笑んだ。

 

「紅魔館に珍しい酒があったら、お土産にもらってきておくれよ」

「神奈子!」

「神奈子様!」

「じょ、冗談だよ」

 

あぐらのまま顔をぽりぽりと掻く神奈子の目は本気そのものだった。

 

(……雰囲気的にワインとかだと思うけど…。それでもいいのか…?)

 

 

 

 

「とは言っても、どうするべきか……」

 

時は昼。

前回みたく博麗神社からではなく、今日はしっかり門の前まで送ってもらった。

ぐずる諏訪子を引っ張って行く早苗は、何故か嬉しそうだった。

 

「とりあえず、美鈴さんに…」

 

一歩歩き、門を見る。

すると、いつしかの背の高い中国風の門番がそこにいた。

 

「……何してるんだろう…」

 

立ったまま、目を瞑り、瞑想にふけっている。

 

「あのー、美鈴さん…」

 

声をかけると、ぷくーと可愛い音とともに鼻提灯が膨らんだ。

完璧に、寝ている。

 

「美鈴さん!」

「は、はひ!?寝てませんよ!」

 

大きな声を共に鼻提灯が割れ、美鈴も目を覚ました。

一瞬で眠っていたことを否定するあたり、何度も同じようなことがあったのだろうか。

 

「あれ?春良さんじゃないですか。どうしたんですか?」

「またここに用ができたんです。通してもらえますか?」

「はい。お嬢様から『春良が来たら通してあげて』の命令が来てますよ」

 

恐れ多くも、幸か不幸か春良はここの『お客様』になってしまったらしい。

 

「勝手に歩き回っても良いんですかね?」

「大丈夫だと思いますよ?お嬢様も貴方の存在には気づいてるはずで……」

「中国?」

 

その声と同時に現れた咲夜に毎度の事ながら驚く春良。

 

「な、なんですか?咲夜さん」

「いえね…貴方が寝ていた気がしたものだから、ちょっと見に来たの」

「……や、やだなぁ、仕事中にねるだなんて、そんなことありえないじゃないですか…」

 

あは、あはは、と片言で笑う美鈴を見つつ、春良はそれがあり得た場合、どんなことになるのかの想像を巡らせていた。

 

「それじゃ、美鈴さんに、……咲夜、さん?おじゃまします」

「はい、合ってます。お嬢様にも挨拶を忘れないよう、お気を付け下さい」

「分かりました。行くぞ、上海」

 

ヒュアッ、と軽く飛ぶ上海を横に付け、春良は紅魔館へおじゃまする。

いつ見ても、紅い。

 

「それで?本当はどうなのかしら?」

「だ、だから寝てませんって、そのナイフしまってくださいよぉ…!」

「あ、ハルだー!」

「おぉ、フラン…………ッ!」

 

紅魔館内で春良を発見したフランがその見た目相応の可愛らしさで春良の胸へダイブする。

それまでは良かったのだが、そのダイブで春良の体は何メートルか後ろの壁に叩きつけられた。

 

「あぁっ、ごめん!大丈夫!?」

「お、おーけ…大丈夫」

 

流石は吸血鬼。

幼女(約495歳)であろうと、その力は人並み外れている。

 

「遊びに来たのっ!?」

 

らんらんと輝くフランの瞳を覗きながら、そうじゃないんだ、と春良は立ち上がる。

 

「ちょっと、トラブルバスターズ紛いの事をしててな。レミリアさん、いるか?」

「お姉様?なら……」

 

そう言ってフランは春良の後ろを指さす。

春良と上海が振り向くと、そこにはいつしかの主がいた。

 

「いらっしゃい、春良」

「どうも、早速なんですけど、困り事ありますかね?」

 

運命を知ることが出来るという、レミリア・スカーレット。

おそらくこの幼女(約500歳)は、自分が何をしに来たのかを知っている。

そう信じ、春良は簡潔に話題を切り出した。

 

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