東方春命録   作:Poteto305

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少年は、それを行うべく駆ける・肆符

 

「帰り道とか、分かるのかこれ……」

 

パチュリーの気配すら感じれなくなった場所で、本を直していく春良。

掃除をするときは以外と几帳面な方で、その手さばきは繊細だった。

 

「……黒魔術に日魔法…、良く分からないな…」

 

ときたま本をぱらぱらと捲ってみるが、読めるところはパチュリーが訳したのであろう言葉が書いてあるところだけだ。

 

「上海、そっち終わったか?」

 

あらかた持ってきた本を片づけ終えたので、戻ろうとするが、

 

「……やっぱし、帰り道がわからない…」

 

どこを見ても同じ景色な図書館で膝をつくと、不意に声が聞こえた。

 

「あ、あの、どうかしましたか?」

 

女の子の、声だ。

声にふりむくと、そこにいたのは、やはり女の子だった。

 

「……?あの、どうかしましたか?」

 

再度聞いてきたその子に、春良は慌てつつ口を開いた。

 

「えーっと……」

「あれ?お会いしたことないですよね?」

「あ、俺は戌井春良です。今、パチュリーに頼まれて本の整理をしてます」

「あ、春良さんですか!?お話し聞いてます!」

 

少女は赤みがかった肩胛骨辺りまでの髪を揺らして、春良を見つめる。

耳の上、こめかみについている小さな蝙蝠羽がパタパタと羽ばたいた。

 

「そ、そうですか…?」

「フランお嬢様が、とてもいい人だと言ってました!」

 

嬉しそうに蝙蝠羽がパタパタと羽ばたく。

 

「フランお嬢様と遊んで生きてるなんて、本当に凄いですね!」

「や、あれは奇跡だったし…」

 

文字通りの意味で。

 

「謙遜しなくてもいいですよ。あ、紹介が遅れました。こあくまって言います。宜しくお願いします」

「こあくま…?」

 

見た目そのままの名前だが、種族なんじゃないだろうか。

 

「良く聞かれますけど、本名ですよ。こあって呼んで下さい」

「こ、こあさん…?」

「敬語はいいですよ。くだけた方が好きなんです」

「じゃ、じゃあ、こあ…」

「はい。春良さん」

 

ニパッと笑うこあくまに少しときめいてしまった春良だったが、その三秒後、例によって上海に小突かれた。

 

「それで、どうしたんですか?」

「ちょっと迷ってな…。パチュリーの所にはどう行けばいいんだ?」

「あぁ、それでしたら――」

 

パリン。

こあくまが指さすと同時に、その方向から甲高い破砕音が聞こえた。

 

「な、なんだ?」

「泥棒です。行きましょう!」

「泥棒!?」

 

かすかに床から浮いて移動しだしたこあくまを走って追いかける春良。

破砕音はおそらく窓の割れた音だろう。

 

「パチュリーは!?大丈夫なのか!?」

「パチュリー様なら持ちこたえてくれるはずです!」

 

とにかく、今の自分には急ぐことしかできない。

それを理解した春良は、さらに足を早めた。

 

「弓符『サジタリウス』!」

 

声と共に春良の周りを薄い蒼色が包む。

 

「スペルカードですか?」

「おう。弾幕そのものじゃないけどな」

「私はもってないんですよね、スペルカード…」

 

寂しそうに言うこあくまの背中を見つめ、春良の息が止まる。

何かを言おうとする前に、二人と一つは目的地にたどり着いた。

 

「パチュリー!」

「パチュリー様!」

 

声はかき消された。

いや、もともと聞こえるような状況ではないのだ。

 

「……っんだ…これ…!」

 

辺りを飛び交う幾多の弾幕。

衝撃音、破砕音。

 

「春良、こあ!遅いわよ!」

 

埃と煙の中で、パチュリーが本を一冊もった状態で声を上げる。

 

「さっさと加勢……っ!」

 

突然パチュリーが跪き、咳をもらす。

もしかしたら、すでにどこか怪我をしているのかもしれない。

 

「パチュリー!?」

「パチュリー様は喘息持ちなんです!」

「なぁ!?」

 

どこからか降ってくる弾幕をかわしつつ、こあくまがパチュリーを抱きかかえる。

 

「おっと、今日は私に分がありそうだぜ?パチュリー」

 

空から聞こえる声を見上げる。

徐々に埃の煙が晴れ、その正体がはっきりと春良の目に映った。

 

「さぁて!今日もどっさり借りてくぜ!」

 

箒に乗った白黒の、魔女だ。

 

「魔理沙!?」

 

思い切り顔見知りだった人物に、春良は思わず声を上げた。

 

「ん?……春良、そんなところでなにしてるんだ?」

 

器用に箒に立つ魔理沙を見上げながら、言葉を紡ぐ。

 

「それはこっちの台詞だ!」

「私か?私は本を借りに来ただけだぜ?」

「よくも…ぬけぬけ…ごほっ…と…!」

 

咳き込みつつパチュリーが相変わらず眠たそうな目で魔理沙を睨みつける。

 

「こあ、どういうことなんだ?」

「魔理沙さん、こうして本を借りに来るんですけど…」

「……だけじゃないよな?」

「……本が、返ってこないんです…」

「人聞きが悪いぜ。死ぬまで借りてるだけだ」

 

それを人は借りパクと言う。

 

「まぁ、今日もただで渡す訳にはいきません」

「お?パチュリーはその調子なのに、やる気なのか?」

「俺もいるぞ。恩はあるけど、こっち側につかせてもらう」

 

イメージを固め、弓を握る。

流石に、こあくまの敵をする気にはなれなかった。

 

「春良さん!援護を!」

「おう!」

 

こあくまが放つ弾幕に合わせて矢を射る。

一直線に進む弾幕を見つめ、魔理沙はニッと笑った。

 

「よーし、私もいくぜ?」

 

ひゅっ、と箒が空をはわくと、箒の軌跡をなぞるように星形の弾幕が煌めいた。

 

「春良さん、回避です!」

「っ、上海!」

 

煌びやかな流れ星を上海に掴まって回避する。

こあくまはパチュリーを背負って別方向へ飛んでしまった。

 

「別れたな?先に春良からしとめさせてもらうぜ!」

「……うし、やってみろ!」

 

またも降ってくる流れ星をステップと共にかわす。

時々バウンドする星にかすり、体力が少なくなっていくのがわかった。

 

「魔符『スターダストレヴァリエ』!」

 

次いで、このスペル。

あきらかに濃い星屑がばらばらに降ってきた。

 

「ぅお……!」

「春良さん!」

 

流石に無理だ、と諦めかけた瞬間、符が鈍く輝いた。

『親愛』の符だ。

 

 

「親愛『華人小娘』!」

 

ざぁっ、と星の雨が床を叩きつける。

数多の星の上、春良は無傷でそこに立っていた。

 

「ん?避けられたか?」

「つ、使えた……」

 

自分の体をまじまじと見つめる。

あの時と同じ、微かな高揚感と絶対的な自信。

 

「いける……」

 

そして、もう油断はない。

軽い屈伸の後、上海をその場に残し、春良は飛んだ。

 

「な、なんだ!?」

「甘く見たな!魔理沙!」

 

床から遥か高くに浮いていた魔理沙の目の前まで跳躍した春良は、躊躇なく弓を引く。

 

「春良さん!駄目ですっ!」

「え?…………っ」

 

目の前に、魔理沙の手がある。

そして、その手には八角形の何かが握られていた。

 

「恋符『マスタースパーク』っ!」

 

そこまでしか、春良は覚えていない。

 

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