「ハルー。朝だよー?おきないのー?」
「ふ、フランお嬢様、春良さんは怪我してるんですよ。そっとして…」
「だってぇ、せっかくハルが来たのに、つまんない…」
周りから聞こえてくる声に反応。
そして、視界は開いていないまま、春良は痛む体と腹辺りにある重力を把握した。
「フラン……どいてくれ…」
「あ、おきた」
「だ、大丈夫ですか!?」
ぴょんっ、と跳ねるようにフランが降りてくれたおかげで、さらに痛みが増す。
見たこともない天井、ベッド。
紅魔館の一室だろうか。
「こあにフラン…。俺、どうしたんだ……?」
「魔理沙さんのマスパを受けて……、ずっと気を失ってました」
マスパとは最後に聞いたマスタースパークとやらの事らしい。
魔理沙の代表スぺルカードの一つで、ただの超極太超絶無比レーザー。
それをまともに喰らったのだから、今の自分がどういう状態かすぐにわかった。
「……パチュリーは?」
「パチュリー様は図書館です」
「……本は?」
「……推定30冊、『借り』られました」
「魔理沙のやつ…」
目を腕で押さえ、はぁ、とため息を漏らす。
その時、かぶっていた布団がうごめいた。
「上海?」
もぞりとすぐ横から上海が顔だけを覗かせて春良を見つめた。
「上海さんっていうんですか?ずっと春良さんのそばにいましたよ」
「私も!私もいたよ!」
「フランお嬢様はちょくちょく出てたじゃないですか」
「ありがとな、上海」
痛む腕を動かして上海を撫でる。
すると急に泣き出し、春良に抱きついてきた。
「よっぽど心配だったみたいですね…」
「そういえば、俺は何時間くらい気を失ってたんだ?」
「三日です」
「みっかぁ!?」
ガバッ、と驚きと共に起きあがり、すぐに痛みで硬直する。
上海が背中を支えてくれて、ようやく楽になった。
「な、なんつー事を……!」
「ど、どうかしましたか?何か急ぎの用事でも?」
「い、いや、そういうわけじゃないんだけど…」
三日も音沙汰無しで、守矢の人々は自分を心配してはいないだろうか。
それだけが、春良の心配だった。
「あ、それと……」
少々顔を赤らめて、こあくまが視線をそらす。
まだなにかあるのか?と冷や汗が春良の頬を伝う。
「その、勝手な事だったんですけど…」
「ふ、服でも洗ってくれたのか?」
三日もそのままでは流石に不潔だろうし、そのくらいはしてくれたのかも知れない。
(ん?……服?)
「服もですけど…、汗や汚れが目立ったので……その…。か、体を…」
「……体を…?」
「まんべんなく、拭きました……」
「……全部?」
「……はい」
「……うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおぉお!!」
「は、春良さんっ!?どうしたんですか!?」
つまり、春良は服を脱がされ、あんな所やこんな所まで目の前の少女に見られ、あまつ拭かれてしまった。
そんな事実が、春良には恥ずかしくてしょうがなかった。
「あ、あの、上海さんも、フランお嬢様も手伝ってくれましたので…!」
「なおさらだぁぁぁぁぁぁあ!!」
数秒後、全身の痛みに再び気を失い、また目が覚めるまで何時間か経ってしまった。
「恥ずい……死にたい…」
「そ、そんなことないです、良い体でしたよ?」
なんとか寝ている(気絶)間に起きあがれるくらいまで回復した春良は、松葉杖を片手に立ち上がった。
「……っとと」
ふらつくが、上海がすぐに抑えてくれる。
見かけに反して力のある上海を見つめ、自分のふがいなさに春良はまたため息を漏らした。
「こあは大丈夫だったのか?あの後」
「はい。適当にやられちゃいました…」
たはは、と困ったように笑うこあくま。
流石にパチュリーを庇ってでは分が悪いのだろう。
「ハールっ。ご飯食べようよ」
「ん?おぉ、そうだな」
三日間も何も口にしていなかったのだ。
そう思うと、春良の腹はどんどんへこんでいった。
「でもいいのか?ご馳走してもらって」
「お姉様が良いって!」
「レミリアさんが……?」
「話したいことがある、って言ってましたよ?」
俺、何かしたかな?と頭を抱える春良だったが、掃除も終わってないわ、泥棒にやられるわ、心当たりはたくさんあった。
「……失礼しまーす…」
「やっと起きたわね」
相変わらず無駄に広い部屋と無駄にど真ん中に置かれているテーブル。
そのテーブルの向こう、レミリア・スカーレットは小柄な体で足を組んで微笑んだ。
「す、すいません」
「構わないわよ。まぁ、座りなさい。フラン、パチェも」
「パチュリー?」
「あら、気づかれてたの?」
春良がそこにいないはずのパチュリーを呼ぶと、先ほど開いた扉の向こうから寝間着姿のようなパチュリーが顔を出した。
「咲夜、紅茶と軽い食事」
「はい、どうぞ」
言うと同時に、レミリアの横の咲夜がテーブルの上に人数分の紅茶と食事を一瞬で出現させる。
「…………」
ガタ、と椅子を引き、各々座る。
「話、っていうのは?」
「貴方の、能力についてね」
音もなく紅茶をすすり、満足そうに息をもらす。
なんとなく、春良も紅茶を口へ運んだ。
「……その前に、こあも座らせてやってくれませんか?」
「ん?どうして。その子は従者よ」
春良は名前を呼ばれていないため律儀に立ち続けているこあくまに顔を向けた。
「は、春良さん。大丈夫ですよ?」
「……駄目ですかね?その、咲夜さんも」
「…………?」
何故自分もなのか、と咲夜は不思議そうに春良を見る。
「私は食事は取りましたし、お嬢様の身の回りをサポートすることが……」
「いいわよ。咲夜、そこの従者も座りなさい」
にっこり、と言うよりはニヤリと言うような笑みを見せ、レミリアは更に続ける。
「でも、何故?」
「えっと、なんとなく、です」
「なんとなく、ねぇ…」
おずおずと座る二人を見つつ、春良ははにかむように笑った。
「食事はみんなで取るものでしょう?」
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