「終わりだ!パチュリー!」
図書館に入った瞬間、箒に乗る魔理沙がそう叫ぶ。
その眼下には、膝をつくパチュリーの姿があった。
「上海!」
春良の声と共に飛行した上海は、八角形のそれ、八卦炉を構えた魔理沙に突撃した。
「ぅおぉっ!?」
急な衝撃に驚いたのか、魔理沙はバランスを崩し、結果的に時間稼ぎできた。
「パチュリー!大丈夫か!?」
「……いつも微妙なタイミングね、春良」
「は、春良さん……早いです…」
三人固まって空(と言っても天井だが)の魔理沙を視認する。
「おっと、また邪魔するのか?春良」
「悪いな、今日は結構本気だぞ?」
「……春良」
ニッ、と実際策など何も無く笑う春良に、疲れた表情のパチュリーが手を出す。
その手には、一枚の白紙カードがあった。
「……使いなさい」
「ありがとう、パチュリー」
「来ますよ!」
創作用白紙カードを手に取り、見上げる。
上海は春良の肩に戻り、パチュリーももう少し戦うようだ。
「4対1か、なかなか燃える展開だぜっ!」
そう言った瞬間、星が瞬いた。
「弓符『サジタリウス』!」
キュン、と飛来する星と化した魔理沙に矢を射る。
「遅い遅い!」
人間の反応速度を遥かに超えた速度で回避する魔理沙を見た瞬間、春良は横に飛ぶ。
さっきまで春良が居たところを、流れ星が壊した。
「上海!」
上海に掴んでもらい、空に飛ぶ。
土俵は、一緒だ。
「私に空中戦の誘いか?無謀だぜ!」
「……そうかしらね」
「……っ!?」
突如、下から数多の炎が空へ駆けた。
すぐに下を見ると、本をもったパチュリーが手を魔理沙に向けていた。
「ナイス、パチュリー!」
春良も矢を射ろうとする。
が、
「ふぅっ……」
いつしかアリスから聞いた弓は素直に形を変える、と言う言葉を思い出していた。
それなら、矢も同じではないだろうか、と春良は考える。
「いいぜ、まずはパチュリーからだ!」
気を引いてもらっている今なら、イメージを練れる。
ギリッ、と弓の軋む音を耳にしつつ、春良は会(弓を引ききった状態)を固めた。
「……悪い、上海。もう少し頑張ってくれ」
必死に春良を持ち上げる上海に謝り、心を作る。
「…………ふぅっ…」
一本、二本、三本。
春良を囲むように矢の形をした光が精製されていく。
「……こあ、貴方囮になりなさい」
「い、嫌ですよっ!?」
「ほらほら!避けないと当たるぜっ!」
出来た矢は、5本。
正直、情けないがこれが今できる崩れないイメージの限界だった。
「恋符……!」
「サジタリウス×伍(ファイブ)!」
見惚れる程の綺麗な離れ。
それと共に、光の矢が五本魔理沙に向かって発射された。
「おぉ?」
振り返った魔理沙はその矢に気づく。
大きく曲がり、真後ろから飛来する矢。
鋭いスピードで真正面から飛ぶ矢。
全て、イメージ通りだった。
「おっと」
「…………なぁ!?」
それを全て、避けられる前までは。
「惜しいな、だけどそんなんじゃぁ私はとらえられないぜ?」
「……っ!」
上海に声をかけ空から降りる。
それを狙ったかのように魔理沙は箒を振るう。
「春良さんっ、符を!」
「……親愛『華人小娘』!」
タタン、とステップ。
ようはイメージだ。
あの人の力を借りたい、と強く心で願う。
「…………ふぅっ…!」
そうして、許されれば力を借りることができる。
それが、『落とした相手の力を借りる程度の能力』もとい『信頼を力に変える程度の能力』。
「まったく、それはあの門番の力なんだってな?……面倒だぜ」
「何で知ってるんだ……」
ダンッ、と震脚。
震えた空気を裂く様に、矢が飛んだ。
「しかし、弾幕が薄い以上、私は倒せないぜ」
「そこは、私が補います」
「……私もよ」
春良に気を取られすぎていたのか、後ろからの弾幕に反応が遅れる魔理沙。
慌てて回避に入っていたが、若干被弾している様だ。
(……ここだ!)
その一瞬後、春良は飛んだ。
近くの本棚を足場にもう一度飛ぼうとしていた春良の視界にあるものが写る。
「あ…………っ!?」
恐らく、始めに破弾していたのだろう。
こあくまが、片膝をついている。
世界が、時間の流れを変えたような感覚に陥った。
「こ、あ――――!」
本棚で軌道を完全に変更。
春良はこあくまの元へ跳躍。
「恋符――――」
膝をついていたこあくまを発見したのか、弾幕を避け、体勢を立て直した魔理沙が八卦炉を向ける。
「は、春良さん!?」
「――『マスタースパーク』!」
ゴァッ、と春良の背後で絶対的な力が光る。
こあくまの前に立ちふさがり、振り向いた春良は手を広げる。
上海が急いで飛んできているが、間に合わない。
「伏せろ、こあっ!」
力の奔流は、『壁』の人間を飲み込んだ。
「…………っがぁ…!」
直線的なレーザーで良かった、と春良は思う。
自分が『壁』になったおかげで、後ろのこあくまには直接レーザーが当たっていない。
「春良さんっ!」
「二回目は、やっぱしキツイな……」
通り過ぎた力の奔流に、春良の口からため息が出る。
「私のマスパを二度受けて生きてるなんてな、ちょっとショックだぜ」
そう呟いた直後、パチュリーが放った炎が魔理沙を襲う。
それをかわした後、魔理沙は懐をごそごそとあさり、
「もう目当ての本はもらったしな、今日は帰るぜ」
律儀にも自分が割った窓から飛び出していった魔理沙を、パチュリーは追わなかった。
「春良さん!春良さんっ!」
「だ、大丈夫だって……、魔理沙も手加減してくれてたみたいだしな…」
「ご、ごめんなさい、私がヘマしたせいで…!」
ぼろぼろと落ちてくるこあくまの涙を指ですくい春良はにっこり笑った。
「せっかく可愛い顔なのに、傷ついたら大変だしな……」
「か、可愛いだなんて、そんなこといってる場合じゃ……」
定番のように上海から小突かれた後、春良はその場に倒れ込んだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
倒れた春良に上海とこあくまが寄る。
小突いた上海本人が、自分のせいかとびくびくしていた。
「ごめん、動けない……」
「へ、部屋に運びます。上海さん、足をお願いします」
すぐに手際よく図書館から運び出され、その場にはパチュリー一人となった。
「…………こあ…」
いつものように眠たそうな目をこすり、一つ咳こんだあと、お気に入りの椅子に座る。
遠くでは、ばたばたと騒ぐこあくまの声がまだ聞こえてくる。
(……あの子、多分落ちたわね……)
呟きもせず、ただ単純にそう思い、本を開く。
何が書かれているか全く分からないその本も、パチュリーは理解出来る。
「……悪魔と人間のハーフ、お目にかかりたいものね…」
今度は呟く。
彼女の瞳は、妙に爛々と、しかし淡泊に輝いていた。