夢を見た。
「…………ぁ…」
夢を見た。
「……朝、か…」
しかし、思い出せない。
「上海……。朝だぞ…」
夢を、見たのに。
「っておい!?くわえたまま寝てたのか!?」
そんな感覚は、誰にもあるはずだが、あまり納得はできなかった。
頭をがしがしと掻き分け、眠ったままの上海をポケットに入れ、春良は風呂場へと向かった。
「昨日、お風呂入ってないからな…」
独り言を呟きつつ廊下を歩いていると、向こう側から見慣れた人(?)影が歩いてきた。
「こあ、おはよう」
「は、春良さん…っ。おはよう、ございますっ!」
「……?……ごめん、着替えってどこあるかわかるか?」
「だ、脱衣所の近くに置いてあると思います
「そっか、ありがとな」
「い、いえいえ…」
それじゃ、私はこれで!と頬を赤らめたまま去っていくこあくまを見送った後、春良は再び風呂場へと歩き出した。
「……っあ~~…」
やはり、朝風呂は気持ちが良い。
まどろんだ意識が若干熱めの湯で覚醒してくる。
「幻想郷に来て、何日目だっけかぁー……」
何もかもどうでも良くなってきた春良は無意識に呟く。
「春良は三日寝ていたのだから、もう一週間ほどじゃないかしら?」
「あぁ……もうそんなにかぁー…」
「そうね」
「…………」
「…………」
「ぅおあぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」
返事の主は、この紅魔館の主でもある吸血鬼、レミリア・スカーレットだった。
レミリアは幼い体にバスタオルを巻いただけの格好で浴槽に座る春良の後ろにいた。
「れ、レミリアさん!?いつのまに!?」
「私がサウナに入っていて、出たら貴方がいたのよ」
「助かるんですけど、何でこっちを見ないんですか?」
「流れる水。苦手なのよ」
「……?」
顔だけを背けるレミリアは不機嫌そうに言う。
浴槽の湯は軽めに巡回していて、たしかに流水と言えないこともない。
「そ、そうですか……」
「えぇ、私は上がるわ。ごゆっくり」
「はい……」
ガララ、と風呂場から退室したレミリアを見送った後、大きなため息と共に春良は湯に沈んだ。
「……ぶぃっぶびぶば…」
吃驚した。
ボゴボゴと言葉は泡になって消える。
「……俺も上がろう…」
無駄に頭が冴えてしまった。
流石にこれ以上は入っている気にはなれず、春良は浴槽を上がり、脱衣所へ。
「っと、ありがとう。上海」
すると、すぐに上海がバスタオルを持ってきてくれた。
渡す一瞬前、春良の体を見つめた上海はすぐに顔を紅くしていた。
「図書館の掃除なぁ……」
ぽつりと呟いた後、顎に手を当てて考える。
「何日もかかるんだったら…。その間は泊り込みだよな…」
その後何秒かさらに考えた後、よし、と春良は服を手に取る。
「ちょっと、やりたいこともあるし…」
そう言って、春良は女性物の下着に足を通すべく片足を上げた。
「……ってレミリアさーん!?服間違えてますー!」
「ふっ……中々、似合う物ね」
「いやほんと、似合ってるんですけど、俺バスローブなんで返してもらえるとありがたいです」
廊下であまりにも違和感を感じる服装のレミリアを発見。
すぐに服を交代してもらった。
「……さて、行くか」
気を引き締めなおした後、春良がそう呟く。
上海がどこへ?と言いたそうに周りを飛んだ。
「いや。俺、符無しだとかなり貧弱っぽいからな…」
てくてくと歩き、たどり着いたのは紅魔館の門だ。
そこには、いつも中国服の門番が凜と立っている。
「美鈴さん!」
「っ、寝てませんってば!」
というわけでもない。
以前と同じようにシエスタしていた美鈴を覚醒させ、春良はまじまじと見つめる。
(……えっと、美鈴さん…。俺の事が好きなんだよな……?)
「……って、春良さんですか。ふぅ……」
心底安心したように美鈴は息を漏らす。
全然自分を好いている様には見えないが、それはそれ。
春良は本題を切り出すことにした。
「あの、美鈴さん」
「はいはい?」
綺麗な長髪をシャンとたなびかせ、美鈴は春良を見つめる。
「俺を、鍛えてくれませんか?」
その声が、春良の中で無限に木霊した。
大図書館。
「春良さん……。遅いなぁ…」
うろうろ、うろうろ、と本棚の前を行ったり来たりしているこあくまが小さく呟いた。
「……もしかしたら、昨日の事気にして…」
「……それはないと思うわよ」
ビク、とこあくまの体が跳ねる。
一体なぜそんなところにいるのか、本棚の上からパチュリーが小さく顔を出した。
「ぱ、パチュリー様……」
「……春良なら、今門番の所にいるわ」
「門番……。紅さんの所ですか?」
「……えぇ」
自分よりも先に美鈴の元へ行ったと言う嫉妬と、別に嫉妬する資格は無いと言う無念がこあくまの中で小さく渦巻いていた。
「……はっ!」
「そう、良い感じですよ」
スパン、と拳と手のひらがぶつかる音が響く。
「符、使ってみて下さい」
「…………」
すっ、と息切れしながら取り出された符を、春良は唱える。
「親愛…『華人小娘』!」
「…………む」
今までの疲れが一瞬で消え去る。
目の前の美鈴が難しい顔をしながら声を上げた。
「確かに、私そのものですね…」
「かなりお世話になってます」
「じゃぁ、その状態で組み手してみましょうか」
「……同じ力なら、決着つかないんじゃないですか?」
そう言うが、美鈴はニヤッと笑って、
「私は足技無しでいきます」
そう言い切る。
それと同時に、手をくいくいと招かれ、それに春良が地面を蹴った瞬間。
組み手開始となった。