「……っら!」
「……」
地面をえぐり、春良の回転蹴りが美鈴の頭を狙う。
美鈴はそれをしゃがんで回避。
「……受け身取ってくださいね」
そっ、と腹に両手を添えられる。
美鈴が一瞬息を吐いたかと思うと、春良の体は地面を離れていた。
「――――!?」
タタン、とバク転をするように受け身。
前に向き直ると、美鈴が間髪入れずに迫ってきていた。
「……っ、……うおっ…!」
鋭い突きが四連。
かろうじて回避するが、これは『避けさせられて』いる。
つまり、次に来るのは。
「……大丈夫です。痛くしませんから」
決めの一撃。
カコッ、と下からの掌底が春良の顎を弱々しく揺らす。
(…………なんっ…!?)
まったく、痛くもかゆくもない。
だが、春良の体はその場に倒れ込んだ。
顎を揺らすと脳も揺れる、なんてことを、春良は身をもって体験した。
「ま、参りました……」
がくがくと立ち上がりつつ、春良は呟く。
美鈴はにこっと笑い春良に手を伸ばす。
「要は戦い方です。力の使い方を、学びましょうか」
「……はい…」
この力を手に入れるまで、一体どれだけの時間と汗を費やし、流してきたのだろうか。
それほどに高価な力を、一瞬で手に入れてしまった春良は、嬉しさよりも申し訳なくなってしまった。
「けど、春良さんは大分力の使い方が上手いですよ」
「あ、ありがとうございます…」
「いやいや、私も抜かれないよう、気をつけないといけませんね!」
恐らく、この『人』には一生敵わないだろうな。
そんなことを、春良はうっすら感じていた。
「時間はあるんですか?」
「あ、図書館の掃除をするんで、これから朝の間だけ鍛えて貰っていいですか?」
「えぇ、構いませんよ。では、また明日」
「はい、ありがとうございました」
深々と一礼した後、春良は再び紅魔館へと走った。
「ごめん、こあ!少し遅れた!」
大図書館。
他の場所よりも少し埃っぽいそこで、春良は落ちている本を拾いつつこあくまに声を掛けた。
「別に、いいですけど…」
「……こあ?」
「……なんですか」
「なんか、怒ってるか…?」
蝙蝠羽をパタパタと羽ばたかせながら、こあはぷい、と春良から顔をそらす。
「そんなことないです」
「……そうか…?」
少々心配になりつつも、この前と同じく上海と本を直していく。
魔理沙のせいで、本は更に散らかっていた。
「……あら、春良。お疲れ様」
「あ、パチュリー」
ふと、横から魔法使いが顔を覗かせる。
その姿を確認すると、春良は辺りを見まわして、パチュリーに耳打ちした。
「……なんか、こあが不機嫌なんだけど…、理由知らないか…?」
「……さぁ?」
首を傾げるパチュリーに、そうか、とため息を漏らすと、春良はまた本を直していく。
その姿を見ながら。
(…………)
パチュリー・ノーレッジは先刻の出来事を思い出していた。
「……どんな態度で接すればいいか?」
「……はい…」
いつものように魔術書を開くパチュリーに、こあくまが顔を紅くしつつ声を掛けたのが始まりだった。
「……どんなもなにも、春良は小悪魔の儀を知らないんだから。いつも通りでいいでしょう?」
「……それは、そうなんですけど…」
しゅん、とうなだれるこあくまを見て、パチュリーは納得したように手を合わせた。
「……春良がどうこうじゃなくて、貴方が恥ずかしいだけでしょう」
「…………っ!」
更に顔を紅くする小悪魔。
何か面白い物を見つけたかのようにパチュリーはほほえみ、その口は軽々と開かれる。
「……そうね、冷たく接してみたらどう?」
「冷たく、ですか…?」
「……そう。冷たく接すればきっと春良も貴方がどれだけ暖かかったかを知るはずよ」
「はぁ…」
「……そうすれば、もう春良は貴方の物ね」
「わ、わわっ、私の物…!」
「……そうよ、頑張りなさい。こあ」
「は、はいっ!頑張ります!」
ぐっ、と可愛らしくガッツポーズをするこあくまに背を向ける。
パチュリーの顔は、普段見せないような笑みに包まれていた。
そして、今現在。
「こ、こあ。本落としたぞ?」
「ありがとうございます」
せっかく拾ってあげた本も、視線を向けられることなく奪われる。
「……なぁ、上海。俺何かしたか…?」
ふるふると首を振る上海に少し元気づけられるが、問題は解決しない。
これは流石にまずいだろ、と感じた春良は、とにかく。
「こあ!」
「え、あ、はい!?」
「俺が悪かった!ごめんなさい!」
謝っておいた。
突然の行動に驚き、ついいつもの感じに戻ってしまったこあくまだったが、それで良い物かと視線を泳がせた。
「え、えっと、その……」
そして、その視線は頭を下げる春良の向こう側。
椅子に座るパチュリーの視線と交わった。
(……ど、どどどうすればいいんですか!?)
助けを求めるこあくまに、パチュリーはすぐさまカンペを用意し、掲げる。
それには、こう書かれていた。
『告白しなさい』
(あぁもう無理に決まってるじゃないですかぁ!)
そうは言っても、頼りになる方からのアドバイス。
無視する訳には、いかない。
「あ、あぁあの!春良さんっ!」
「……はい?」
その声色から、いつものこあくまを感じ取ったのか、春良は若干明るい声で返事を返す。
「あの、その、私はっ……!」
「……?」
おぉ、おぉ……!と目を輝かせるパチュリーが視線の隅に入る。
しかし、頭に血が上った状態では、視認できても認識はできない。
「私は、春良さんのことが……っ!」
そして、最後の言葉が紡がれようとした瞬間。
「っ! こあ!」
春良は、こあくまを押し倒した。
ドサッ、と倒れる二人。
一瞬何が起きたか理解できなかったこあくまは、目をぱちくりさせた後、自分に覆い被さる春良を見つめた。
「は、はは春良さんっ!?……ま、まって、待って下さい!いや、その、期待とか、無かったわけではないんです!でも、ちょっと早いというか心の準備というかちゃんとした場所でっていうか!そのぉ……!」
目をぎゅっと瞑り早口で喋るこあくまを置いて、春良はさっさと立ち上がる。
そして、空を見つめた。