「よっ、また借りにきたぜ!」
そこには、いつも通りの笑顔を見せる白黒魔法使いがいた。
「……え?」
「こあ、大丈夫か?」
春良に手を引かれ、立ち上がる。
ふとついさっきまで自分がいた所を見ると、何かがぶつかったようにひび割れていた。
「もう少し気づくのが遅かったら危なかったな…」
「…………っ!」
ただ、魔理沙の攻撃から、守ってくれただけ。
ただそれだけなのに、何を自分は妄想していたのだろう。
「怪我とか……」
「こっち、見ないでください……」
「ぁ……おう」
真っ赤な顔を両手でおさえてぶんぶんと振る。
そして、切り替える。
「今日こそは一冊も渡しませんよ。魔理沙さん」
「渡す必要はないぜ。貸してくれるだけでいいんだ」
「……貴方に『渡す』のと『貸す』のは同義なのよ」
「死んだら返すって何度も言ってるだろ?」
「だから、それが駄目なんだって…」
「あっはっは。とりあえず…」
ピリッ、と空気が変わる。
三人(+一人形)は広がり、空からくるであろう、波に備える。
「今日も実力行使(パワー)でいくぜ!」
何度目かの、星が瞬いた。
「弓符『サジタリウス』、親愛『華人小娘』!」
各々が流れ星を避ける。
そして、前回同様、春良は空へ上海と飛んだ。
「援護は任せて下さい!」
「二度も同じ手は食わないぜ!」
こあくまの放つ弾幕をかわし、魔理沙は超速で春良の元へ飛来した。
「っ!」
空で避けきれる訳もなく、ゴッ、と鈍い音と共に春良が墜落。
本棚に突っ込み、埃が舞う。
「春良さんっ!」
「……いって…」
「どうした?パチュリー。全然攻めてこないな」
「……あいにく、今日の私は魔力切れなのよ」
二日連続で来るなんて思わなかったわ、とため息をつき、パチュリーは図書館から姿を消してしまった。
「ぱ、パチュリー様!?」
「三人か……。大分キツイな…」
本をどかし、なんとか立ち上がる。
これでは勝てない。
それが分かっていたからこそ、春良は符を取り出した。
「…………ふぅ…」
親愛の符。
『じゃぁ、ハル私のも使えるんじゃない?』
『……わからないな…』
とある日の言葉。
あの日、春良はすぐに符をなおし、会話を変えようとした。
(うん……失礼だったな…)
フランの力を借りる。
一度、自分が殺されかけたあの力を。
(どうであれ……精神は子どもだし…)
だから、フランの力を借りることに、少し躊躇があった。
『えー。ハルは私の事きらい?』
『ち、違う違う』
だから、言葉を濁した。
あんなに、純粋なのに。
(俺と、あんなに遊びたがってた子を、怖がるなんてな…)
だから、距離を置こうとした。
「親愛……」
だから。
「…………『悪魔の妹』!」
戌井春良は、その言葉をためらわなかった。
春良を中心に風が吹き荒れ、埃と煙が小さな台風を作る。
「おいおい……」
舞い散る埃を手で塞ぎつつ、霧雨魔理沙は冷や汗を垂らしてその中心を見つめた。
「春良……。それは反則なんじゃないか…?」
埃が、晴れる。
その中から現れた『人間』は、明らかに『人間』ではなかった。
「…………うぁ…っ!」
痛々しく背から突き出る木の棒のような羽骨。
それにぶら下がる色鮮やかな宝石達。
「は、春良さん……?」
「……っぐ…!」
先がハート型の尻尾。
紅い、灼眼。
「……あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁああぁあ!!」
「!?」
突然叫びだした春良に、とっさに八卦炉を向ける魔理沙。
「恋符……」
「禁忌……」
春良の口が、意志に反して動く。
そして、
「『マスタースパーク』!」
「『レーヴァテイン』!」
炎と光が、真正面から交わった。
(本物そっくりだが、威力が若干低いぜ!)
現在進行形でぶつかり合う炎の剣と光の波動。
光の波動を操る魔理沙は、更に手に力を込めた。
「驚いたが、ここまでだぜ!春良!」
まさに『弾幕は火力』。
完全に炎を飲み込んだ光は、床一面を粉塵で包んだ。
「は、春良さん!」
その粉塵に向かってこあくまが叫ぶ。
だが、返事はない。
「さて、次は小悪魔、お前の番……」
そう言って、魔理沙が八卦炉をこあくまに向けた瞬間。
「お、あぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁあ!」
「……っ、ぅぉお!?」
突如粉塵を切り裂き、高速で春良が魔理沙の元へ飛来する。
その手には、今だ燃えさかる剣が握られている。
「これは、ちょっとまずいぜ……!」
横薙に一閃。
確実に当たるコースだった炎を魔理沙は箒を軸にしてぐるんと回る事で回避する。
「なんとかして時間稼ぎを……!」
箒の軌跡から生まれた星々が春良を床へたたき落としていく。
「よし……。とっておきをお見舞いしてやるぜ!」
春良が床に足を着くのと同時。
魔理沙が高らかに叫んだ。
(やばい……やばいやばいやばい!)
戌井春良は、炎の剣をにぎりつつ、何度も体を押さえようとする。
しかし、狂気に飲み込まれる。
(フランは……コレをずっと……!?)
全て、どうでも良いような。
全て、破壊してしまいそうな。
自分さえも、壊したくなるような。
「ぁ、が、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
意志を全く考慮しないその狂気は、逆らう事すら許さない。
ただ、無駄に冴える意識の中、春良は宝石の羽を羽ばたかせ飛んだ。
「終わりだ、春良!」
空でそう叫ぶ魔理沙が、何かを唱えようとする。
(…………っ!!)
「魔砲……!」
駄目だ。
「『ファイナル――!」
あれは、射程範囲内にいてはいけない。
「――マスター――!」
理性と勘が叫ぶが、それ以上に本能と狂気が上回る。
結果。
「――ス、パァァァァァアク』!」
春良は、意識すら出来なくなる程の光と星の渦に、飛び込んだ。