光の、中。
「お姉様、どこにいくの?」
(……?)
春良は、いつしかの地下牢にいた。
「お姉様?」
「すぐにつくわ、もう少し」
コツコツと、誰かが降りてくる音が聞こえる。
姿を見ずとも、声でわかる。
「フラン、貴方はここに居てもらうわ」
紅魔館の主。
レミリア・スカーレット。
「くらいね…。どのくらいいればいいの?」
その妹。
フランドール・スカーレット。
「……少しの間だけよ」
(レミリアさん、ここは…)
地下牢の中に入ってきた二人に触れようとするが、その手は何の感触ももたらさずにすり抜ける。
向こうからも、こちらは見えていないようだ。
「そっかぁ……。うん!じゃあ、私ここに居るね!」
「えぇ……。それじゃ、フラン」
「…………うん」
ガァン、と扉を閉める耳障りな音と共に暗黒と静寂が場を包んだ。
「…………」
喋る相手が居ないからか、いつもは元気なフランも黙り込み、その場に小さく座った。
(……フラン…)
あまりに、広すぎる部屋。
あまりに、静かすぎる部屋。
あまりに、温もりを感じることのない部屋。
「……お姉様、少しの間って言ったもん…」
鼻をすする音と、小さく水が滴る音。
音だけで泣いているとわかるフランを見るのが辛くなり、春良は地下牢を出る。
扉も、開けることなく通り抜けられた。
「……すぐ…」
すると、すぐにレミリアの姿が目に入る。
「すぐに、私達が自由に外を歩けるようにするわ……」
ギリッ、と聴いているだけで痛くなりそうな歯ぎしりの音。
「そうすれば、フランの不安定さも、きっと良い方向へ向かうはず…」
羽が広がる。
カリスマの権化たる、威厳のある羽。
「あの子の運命を……私が変えてみせる…!」
ここまで感情的なレミリアを見たことがない。
この後、レミリアは何をするのだろうか。
それが気になり、目をこらそうとするが、春良の意識は一瞬で飛んだ。
「春良さん!」
「…………っ!?」
視界が、開ける。
目の前には力の奔流。
(…………体が…?)
動く。
自分の意識通り、動かすことが出来る。
「……弓符『サジタリウス』!」
弓を引き、矢としてレーヴァテインを装着。
かなり無理のある矢だが、イメージにより形の変わった弓なら、難なく射れる。
「うぉぉぉぉぉぉぉおおぉお!」
放たれた炎は、ほぼ目の前で炸裂。
それでもやはり、魔理沙のとっておきを相殺するまではいかず、残りの光に春良は飲み込まれた。
「やったか!?」
落ちる。
羽を羽ばたかそうとしても、やり方がわからない。
結果、春良の体は地面に叩きつけられるはずだったが、
「春良さんっ!」
「…………!」
上海とこあくまが力強く受け止めてくれた。
「どうするんだ?春良。まだやるか?」
「当たり前だ……」
そういって、震えながら立ち上がろうとすると、
「っ!?」
パリン、とガラスが砕けたような音と共に、春良の羽と尻尾が砕け散る。
あり得ないくらいの脱力感に見舞われた春良は、受け身も取らないまま前のめりに倒れた。
(……立てない…!)
「春良」
顔を向けることすらできない空、天井から声が降りかかる。
「お前の存在は十分『異変』だぜ。……霊夢に手柄を取られたくはないしな」
スッ、と魔理沙が八卦炉を向ける。
「一度、ここで私に退治されてもらうぜ!」
声だけしか聞こえない春良には、今何をされようとしているのか、勘でしかとらえれない。
しかし、それでも絶体絶命だということは、感じ取ることができた。
「……させません」
「…………?」
目の前に、誰かが立ちふさがる音。
「中ボスってやつか。悪いが、私は手加減を知らないぜ?」
「春良さん、少し休んでいてください」
「……こ…ぁ…」
「時間を、稼ぎます」
バサッ、と頬を小さく風が撫でたかと思うと、春良の目の前の何かが、飛んだ。
「上海…、こあの加勢を…」
こくり、とすぐ隣の上海は頷き、続いて飛ぶ。
春良は、『親愛』の符をただ握りしめていた。
「スペルカードも持ってない三下が、何秒もつか試してみるか!」
「っ!」
こあくまは、翼を利用しての高速飛行で魔理沙を撹乱しようとする。
しかし、広範囲すぎる魔理沙の弾幕の前では、少しずつ体力を奪われていくだけだった。
「春良さんを、『異変』呼ばわりしないでくださいっ!」
「ん…………?」
「私、貴方を許しませんから!」
「なぁーるほどぉ……」
戦闘の最中にも関わらず、にやにやと笑う魔理沙に動きを止める。
「な、なんですか?」
「いやいや…。上海だけでも珍しいと思ってたが、まさか紅魔館でもモテモテだとはなぁ…」
「っ…………!?」
「……顔が赤いぜ?大丈夫か?」
「し、知りませんよ!」
再び、攻防。
すぐ後から上海が入ってくるが、魔理沙に弾が届くことはない。
「そろそろ、本命を狩らせてもらうぜ!」
「……ゃっ…!」
星がこあくまを飲み込み、床へ落とす。
羽を、羽ばたかせる事ができない。
ダメージを負いすぎたのだ。
(春良さん……っ!)
ぎゅっと目を瞑り、衝撃に備える。
が、
「次は、俺の番だな」
衝撃は、あまりに軽い物となり、こあくまを包んだ。
紅魔館。
最奥、吸血鬼の間。
「……レミィ、私が抜けて本当に良かったのかしら?」
「えぇ。春良は、ちゃんとフランの力を借りてくれたわ」
「……暴走したけどね」
「フランにも、まだ狂気が眠っている、と言う事ね」
自分は、正しかったのだろうか。
最愛の妹を、地下牢へ閉じこめた。
その『運命』を選択した自分は、正しかったのか。
「……レミィの妹も、十分可愛げがでてきたわよ」
「……そう、ね」
「……それで、大丈夫なのかしら?」
したいことが正しい訳ではないし、正義が正しいわけでもない。
「それは正直分からないわ」
「……運命、見えないの?」
「さぁね。少しは見てみたいじゃない」
正しい事は正しい。
しかし、それが最善なわけでもない。
そんな言い合いを続けていたら、終わりは見えない。
だからこそ、
「……何を?」
「弱者が強者に刃向かう。下克上をよ」
紅魔の吸血鬼は、運命を、疑わない。