東方春命録   作:Poteto305

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少年は、それを行うべく駆ける・拾弐符

 

 

光の、中。

 

「お姉様、どこにいくの?」

(……?)

 

春良は、いつしかの地下牢にいた。

 

「お姉様?」

「すぐにつくわ、もう少し」

 

コツコツと、誰かが降りてくる音が聞こえる。

姿を見ずとも、声でわかる。

 

「フラン、貴方はここに居てもらうわ」

 

紅魔館の主。

レミリア・スカーレット。

 

「くらいね…。どのくらいいればいいの?」

 

その妹。

フランドール・スカーレット。

 

「……少しの間だけよ」

 

(レミリアさん、ここは…)

 

地下牢の中に入ってきた二人に触れようとするが、その手は何の感触ももたらさずにすり抜ける。

向こうからも、こちらは見えていないようだ。

 

「そっかぁ……。うん!じゃあ、私ここに居るね!」

「えぇ……。それじゃ、フラン」

「…………うん」

 

ガァン、と扉を閉める耳障りな音と共に暗黒と静寂が場を包んだ。

 

「…………」

 

喋る相手が居ないからか、いつもは元気なフランも黙り込み、その場に小さく座った。

 

(……フラン…)

 

あまりに、広すぎる部屋。

あまりに、静かすぎる部屋。

あまりに、温もりを感じることのない部屋。

 

「……お姉様、少しの間って言ったもん…」

 

鼻をすする音と、小さく水が滴る音。

音だけで泣いているとわかるフランを見るのが辛くなり、春良は地下牢を出る。

扉も、開けることなく通り抜けられた。

 

「……すぐ…」

 

すると、すぐにレミリアの姿が目に入る。

 

「すぐに、私達が自由に外を歩けるようにするわ……」

 

ギリッ、と聴いているだけで痛くなりそうな歯ぎしりの音。

 

「そうすれば、フランの不安定さも、きっと良い方向へ向かうはず…」

 

羽が広がる。

カリスマの権化たる、威厳のある羽。

 

「あの子の運命を……私が変えてみせる…!」

 

ここまで感情的なレミリアを見たことがない。

この後、レミリアは何をするのだろうか。

それが気になり、目をこらそうとするが、春良の意識は一瞬で飛んだ。

 

 

 

「春良さん!」

「…………っ!?」

 

 

視界が、開ける。

目の前には力の奔流。

 

(…………体が…?)

 

動く。

自分の意識通り、動かすことが出来る。

 

「……弓符『サジタリウス』!」

 

弓を引き、矢としてレーヴァテインを装着。

かなり無理のある矢だが、イメージにより形の変わった弓なら、難なく射れる。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉおおぉお!」

 

放たれた炎は、ほぼ目の前で炸裂。

それでもやはり、魔理沙のとっておきを相殺するまではいかず、残りの光に春良は飲み込まれた。

 

「やったか!?」

 

落ちる。

羽を羽ばたかそうとしても、やり方がわからない。

結果、春良の体は地面に叩きつけられるはずだったが、

 

「春良さんっ!」

「…………!」

 

上海とこあくまが力強く受け止めてくれた。

 

「どうするんだ?春良。まだやるか?」

「当たり前だ……」

 

そういって、震えながら立ち上がろうとすると、

 

「っ!?」

 

パリン、とガラスが砕けたような音と共に、春良の羽と尻尾が砕け散る。

あり得ないくらいの脱力感に見舞われた春良は、受け身も取らないまま前のめりに倒れた。

 

(……立てない…!)

「春良」

 

顔を向けることすらできない空、天井から声が降りかかる。

 

「お前の存在は十分『異変』だぜ。……霊夢に手柄を取られたくはないしな」

 

スッ、と魔理沙が八卦炉を向ける。

 

「一度、ここで私に退治されてもらうぜ!」

 

声だけしか聞こえない春良には、今何をされようとしているのか、勘でしかとらえれない。

しかし、それでも絶体絶命だということは、感じ取ることができた。

 

「……させません」

「…………?」

 

目の前に、誰かが立ちふさがる音。

 

「中ボスってやつか。悪いが、私は手加減を知らないぜ?」

「春良さん、少し休んでいてください」

「……こ…ぁ…」

「時間を、稼ぎます」

 

バサッ、と頬を小さく風が撫でたかと思うと、春良の目の前の何かが、飛んだ。

 

「上海…、こあの加勢を…」

 

こくり、とすぐ隣の上海は頷き、続いて飛ぶ。

春良は、『親愛』の符をただ握りしめていた。

 

「スペルカードも持ってない三下が、何秒もつか試してみるか!」

「っ!」

 

こあくまは、翼を利用しての高速飛行で魔理沙を撹乱しようとする。

しかし、広範囲すぎる魔理沙の弾幕の前では、少しずつ体力を奪われていくだけだった。

 

「春良さんを、『異変』呼ばわりしないでくださいっ!」

「ん…………?」

「私、貴方を許しませんから!」

「なぁーるほどぉ……」

 

戦闘の最中にも関わらず、にやにやと笑う魔理沙に動きを止める。

 

「な、なんですか?」

「いやいや…。上海だけでも珍しいと思ってたが、まさか紅魔館でもモテモテだとはなぁ…」

「っ…………!?」

「……顔が赤いぜ?大丈夫か?」

「し、知りませんよ!」

 

再び、攻防。

すぐ後から上海が入ってくるが、魔理沙に弾が届くことはない。

 

「そろそろ、本命を狩らせてもらうぜ!」

「……ゃっ…!」

 

星がこあくまを飲み込み、床へ落とす。

羽を、羽ばたかせる事ができない。

ダメージを負いすぎたのだ。

 

(春良さん……っ!)

 

ぎゅっと目を瞑り、衝撃に備える。

が、

 

「次は、俺の番だな」

 

衝撃は、あまりに軽い物となり、こあくまを包んだ。

紅魔館。

最奥、吸血鬼の間。

 

「……レミィ、私が抜けて本当に良かったのかしら?」

「えぇ。春良は、ちゃんとフランの力を借りてくれたわ」

「……暴走したけどね」

「フランにも、まだ狂気が眠っている、と言う事ね」

 

自分は、正しかったのだろうか。

最愛の妹を、地下牢へ閉じこめた。

その『運命』を選択した自分は、正しかったのか。

 

「……レミィの妹も、十分可愛げがでてきたわよ」

「……そう、ね」

「……それで、大丈夫なのかしら?」

 

したいことが正しい訳ではないし、正義が正しいわけでもない。

 

「それは正直分からないわ」

「……運命、見えないの?」

「さぁね。少しは見てみたいじゃない」

 

正しい事は正しい。

しかし、それが最善なわけでもない。

そんな言い合いを続けていたら、終わりは見えない。

だからこそ、

 

「……何を?」

「弱者が強者に刃向かう。下克上をよ」

 

紅魔の吸血鬼は、運命を、疑わない。

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