「……熱いのは嫌」
「なんだい?お子様だねぇ」
「ま、まぁ、そう言わないで下さい。神奈子様」
「何日も前から鳥居の下で蛙座り。一体誰をまってるんだか…」
「『誰』って言ってる時点で、もう分かってるんでしょう?」
「はぁ……結局信仰集めも出来ないし、散々だねぇ…」
「そう……ですね」
「ま、うちには早苗がいるし、十分だけどねぇ」
「なっ、何を急に!お茶、しまいますよ!」
「あっはっは、冗談だって」
「……え?冗談なんですか…?」
「あれぇ?寂しいかい?」
「そ、そんなんじゃありませんけど……」
紅魔の使命・壱符
「正直、勝てると思いませんでした…」
「まぁ、魔理沙は全然本気じゃ無かったみたいだし、微妙だけどな…」
羽を羽ばたかせ、春良は額の汗を拭うと、弓を持ったままふらふらと飛んでくる上海を抱きかかえた。
「お疲れ様、上海」
にっこりと若干疲れの見える笑顔を振りまく上海の頭を撫で、春良はこあくまに向き直る。
「こあ」
「……はい?」
「力、ありがとな」
「え?あ、はい……」
「っと、それ、とな…」
かぁー、と少しずつ顔が赤く染まっていく春良を見て、こあくまは首を傾げる。
「どうかしましたか?」
「こあの力でさ…。ここの本、読めただろ?」
「はい、そうですね」
「その中の一冊が、これなんだけど…」
顔を背けたまま、こあくまの目の前に一冊の本が差し出される。
表紙に書いてある文字は。
「………………っ!?」
「『忠誠の儀、一覧表』……っ!」
「こあ、ってやっぱし、小悪魔ってのに分類されるんだよな…?」
その本は、先刻パチュリーが持っていたのと同じ本。
こあくまが行った忠誠の儀(指パックン)について、書かれている本だ。
「ちょ、ちょっと、ちょっと待って下さい!」
それを出されて、その表情ということは、そのページを偶然見てしまったのだろう。
春良に背を向け、顔を押さえる。
手との温度差がハッキリ分かるほど、自分の顔は熱かった。
(おち、落ち着いて……。深呼吸…)
すーはーすーはー、と息を吸っては、吐く。
太鼓のように鳴り響く心臓の音は無視して、こあくまは再び春良に向き直った。
「はる、よし、さんっ!」
「は、はい!」
大丈夫、告白くらい、大した物じゃない。
一言。
ただの一言、『好き』と言うだけでいい。
「……わ、わた、私は…っ!」
それだけだと、その一瞬までこあくまは思っていた。
しかし、
(あれ……?)
もう一つ、可能性を忘れていた。
(『ごめんなさい』って、言われたら…?)
もし、断られたら。
「わた、しは……」
今までのように、接する事ができるのだろうか。
「……?」
春良が、上海が不思議そうな顔をしている。
「は、春良さんの、ことが……」
それがリスク。
一世一代の大勝負に伴う、どうしようもない副産物。
そんなものを、こあくまが背負うには重すぎた。
「う、ぐっ……」
「こ、こあ?」
結果。
「……うぁ、うああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
それは、こあくまからあふれ出した。
「こ、こあ!?どうした!?」
「春良さんが…、春良さんが悪いんですよぉ…っ!」
止めどなく溢れる涙を拭こうとしても、すぐにまた溢れるだけ。
泣きじゃくりながら、こあくまはただただ叫んだ。
「わ、悪い、意味が……」
「春良さんが!私みたいな可愛くもない子に思わせぶりな事ばかり言うからですよ…!」
二人、頭と背中、合計八羽が不規則にぱたぱたと羽ばたく。
「こ、こあは可愛いと思うけど…」
「だから!そういうのが思わせぶりだって言うんですっ!」
「い、いや、冗談じゃないからな?」
「あぁもうっ!嬉しいんですけど、違うんです!そうじゃないんですよっ!」
つまりですね!と塩水だらけの顔を一度上げ、半ば勢いに任せたまま、こあは大きく息を吸う。
「私は……っ!」
吸った分は、勿論。
言葉に変わり、空気を揺らした。
「戌井春良さんが、大好きなんですっ!!」
それをきっかけにしたかのように、図書館内の空気が静まる。
三点リーダが何個か続いた後、
「…………はい?」
自分でも間抜けだと思ってしまうような声を、春良は漏らした。
「…………!!」
そのすぐ横で、上海が出遅れたみたいな顔で立ち(浮き)尽くしていた。
「ど、どうした?上海?」
春良の目の前で自分を指さしている上海がいたが、
「あぁ、うん。上海も可愛いと思うぞ?」
それが『私も好意を寄せています』ということだと気づくことはできない。
春良は朴念仁(鈍)すぎたのだ。
「は、はは春良さん!」
「は、はい!?」
下を向いて唇を噛みしめ、こあくまが体全体に力を込め、固まる。
「は、春良さんは、どうですか……!?」
「ど、どう…って…?」
上から見ても分かるくらいに顔全体が真っ赤なこあくま。
朴念仁春良はわけが分からず首を傾げた。
「春良さんは、私の事が……す、すすっ、好き、ですか…?」
上海が春良とこあくまを交互に見つめる。
春良は少し周りを見渡すと、答えた。
「あ、レミリアさん」
「ごまかさないでください!嫌いなら嫌いってはっきりと……、…………え…?」
「小悪魔、だったわよね?私が誤魔化しの存在か、試してみる?」
図書館の入り口の大仰な扉。
その扉をバックに、紅魔の主、レミリア・スカーレットがカリスマを振りまいていた。
「も、申し訳ありません!」
拙い足でこあくまが移動すると、さっきまでこあくまがいた場所に、レミリアが一瞬で移動した。
「春良」
「……は、はい?」
「私の妹の力は、どうだったかしら?」
「……凄かった、です」
自分が、操りきれなかったほどに。
「当然ね。私の妹だもの」
「えっと…、それだけですか?」
「あぁ、他にもあったわ。ついでに伝えるけど」
ビッ、と春良の鼻ぎりぎりの所に小さな封筒が差し出される。
驚きで一瞬仰け反りつつ、春良はそれを受取、封を解く。
「招待状?」
「この館でささやかなパーティーをすることになったわ。一応、渡しておくわよ」
「あ、あの、こあは?」
従者だという理由で一度椅子に座れなかったこあを、レミリアが横目で睨むように見る。
それから視線を戻すと、
「良く招待状を見なさい」
冷ややかな、されど拒絶まではいかないその視線に気圧されるように招待状を見る。
そこには、招待状のテンプレートのような一文と、全てを解決する言葉が書かれていた。