東方春命録   作:Poteto305

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紅魔の使命・終符

 

何も、なかった。

 

全快した春良は、本の整理と美鈴との訓練に勤しみ、それなりに充実した日々を過ごす。

しかし、本をある分全て整理しても、それなりに強くなっても、腕の印が染められる事はなかった。

 

「レミリアさん。いろいろ迷惑を掛けました」

「また、時間が空いたら来なさい。フランが待ってるわ」

 

「待ってるよ!」

 

門の前。

赤い館を背景に、春良は紅魔館の面々に別れの挨拶を告げていた。

 

「美鈴さんも、訓練ありがとうございました」

「筋は悪くなかったですよ。また鍛えたいときに来て下さいね」

「パチュリーも、スペカとか、まだ使ってないけどありがとな」

「……図書館整理のお礼として、受け取って起きなさい」

「咲夜さん、今度料理教えてくれませんか?」

「……時間を取らないのでしたら」

 

 

意地悪を言うように微笑む咲夜に、苦笑いで答えると、次はこあくまに顔を向ける。

 

「こあ、誘い断ってごめんな」

「……いえっ…、私こそ…わがままを、すいませんでした…っ」

 

ぐずぐずと鼻をすすりながら答えてくれるこあくまに背を向け、ありがとうございましたの一言を添えると、春良は歩き出す。

そして、

 

「……貴方、なんでこちらにいるのかしら?」

 

その歩みは、すぐに止まった。

 

「……は、はい?」

 

振り返ると、パチュリーに顔だけを向けられたこあくまが、涙顔できょとんと目を開いていた。

 

「わ、私ですか…?」

「春良に、忠誠の儀をしたのだから、離れてはいけないじゃない」

「……えっと、つまり…?」

 

理解ができないようで、こあくまは春良とパチュリーを交互に見つめ、言葉を促す。

 

「……こあは、春良に付いていく義務がある。と言う事よ」

「で、でも、私がいなくなったら、本の整理が…」

「私が手伝います。時を止めれば造作もない事ですし」

「……だそうよ?」

 

後は、貴方の意志だけ。

そう言いたげな視線に押され、こあくまは春良を見つめる。

 

「……あ、あの…」

「……ん?」

「付いていっても、いいですか…?」

「……勿論、大歓迎だぞ?」

「…………っ!」

 

ぼろ、と一度は収まった涙が、また溢れる。

それを気にせずに、こあくまは春良の決して屈強とは言えない体に、自分の体を納めた。

 

 

「……ありがとう、ございます…っ!」

 

 

おぉ、とどこかで歓声が上がる。

春良と、こあくまの唇が繋がったのだ。

春良は驚きに、こあくまは喜びに、上海は嫉妬に包まれた何秒か後。

それは唐突に訪れた。

 

「おめでとう、春良」

 

レミリアの声が響く。

 

「…………っうお…っ!?」

 

輝く。

収束を知らないはずの輝きは、やがて腕に集まり、形として残った。

 

「証が一つ、染まった……」

「使命の証ですか!?ほ、本当に!?」

 

腕を出すと、確かに五芒星の右上側の丸が一つ、薄く染まっているのが確認できる。

 

「『かけがえのない絆を作る』事…」

「レミリアさん…?」

「それが、貴方の最初の使命よ」

 

進んでいた。

前に、確実に。

 

「……使命…」

 

何も変わっていないと思える無駄なことでも、前に進んでいたのだ。

 

「よし!帰るぞ。こあ、上海!」

「はい!」

 

この喜びを、まずは諏訪子に伝えよう。

そう思い、春良達は走り出す。

 

「……帰る、ね」

「……お嬢様?」

「いえね、あの子も随分と染まってきたじゃないと思って」

「染まった、ですか?何に…?」

「決まってるじゃない」

 

紅魔の主も、身を翻して我が城へと歩きだす。

その表情と感情は、

 

「……幻想郷に、よ」

 

誰が見ても、『歓喜』そのものだった。

 

「……そういえば」

 

紅魔館へ歩く途中、パチュリーが思い出したように呟く。

 

「何か伝え忘れたことでもあるのかしら?パチェ」

「……そうじゃないけど。……レミィは、何故パーティーにあれほどの人数が集まったか知っているかしら?」

「知らないわね」

 

そんなことには興味がないと言いたげに更に歩く。

ほんの少しの笑みを見せた後、パチュリーは解答を広げる。

 

「……戌井春良。彼が紅魔館中の妖精メイドやら『全員』に誘いを掛けたのよ」

「実は、私も声を掛けられました」

「あ、私もです」

「私はお嬢様に招待されていることを伝えたら、安心したように笑っていましたわね」

 

静かに手を挙げる咲夜と美鈴。

 

「……フランもかしら?」

「うん!わざわざ地下室まで来てくれたよ!」

「なるほどね…」

 

だからほとんどがいつも目にしている者共だったのか、と疑問が一つ晴れる。

 

「春良は、あの時言ったわね」

「……あの時?」

 

いつしかの、食事の時。

恐れ多くも夜の王にささやかながらに意見を見せたあの時だ。

 

「『食事は、皆で取るもの』……悪くはない言葉ね」

「……そうですね。お嬢様」

 

館は紅く、不気味に幻想を過ごす。

カリスマを顕現したような世界と人々。

それは見る人によっては、あまりにも荒んだ赤に見えるだろう。

 

しかし、その不気味の中に、確かな暖かい赤があることを、皆知っていた。

 

 

それが、紅魔郷。

 

 

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