東方春命録   作:Poteto305

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「おーい、諏訪子ー、小悪魔ー…」

「私は、告白までしたのに、まだ返事をもらってないんですよぉ!?」

「あーら、そりゃぁ残念だったねぇ!春良も、迷惑、だったんだろーねー!」

「そのだねぇ、春良が…」

「そっ、そんなこと……えぐっ…」

「冥界の西行寺につれて…」

「あれぇ?こんなことで泣いちゃうんだったら、さっさとお家に帰ったらどぉかなぁ!?」

「えぐっ……うえぇぇぇぇぇぇぇぇん……!」

「…………寝るかね…」



運ばれた先の桜を眺め
運ばれた先の桜を眺め・壱符


 

「はいっ、着いたわよ~」

 

色鮮やかな空間を越えると、目の前では先の見えない階段が遥か高みへと伸びていた。

 

「……こ、ここは…?」

「白玉楼前の長階段よ。先に行ってるから、頑張ってのぼってね~」

 

何匹かの蝶を連れ、幽々子はゆったりとしたスピードで階段に足を着くことなく空を歩き始める。

恐らく、この階段の先に白玉楼(ハクギョクロウ)があるのだろう。

 

「……連れて行ってくれないのか…」

 

若干の愚痴をこぼしつつ、一段ずつ、時には二段越えて昇る。

そして、春良の頬を小さく汗が落ち始めた頃。

 

「む……どちら様ですか?」

 

これほど長い階段を掃除しているのだろうか。

竹箒を持った比較的小さい少女が春良に声を掛けてきた。

 

「俺は戌井春良…。ここの人に連れてこられて、今……」

 

そこまで言って、少女の腰当たりに目が行く。

腰でクロスして固定されているその二本の棒は、どこから見ても、

 

「連れてこられたのに一人なんですか?怪しいですね…」

 

刀だ。

勿論、本物という証拠もない。

少女が刀を二本携える理由も分からないし、なにより本物だと思いたくはなかった。

 

「…………」

 

スラッ、と金属特有の摩擦音。

まさか、と思ったときにはすでに少女は二本の刀を手に持っていた。

 

「…………っ!?」

 

異様に長い刀と、脇差しよりも少し長い程度の刀。

長いと言う意味でも、短いと言う意味でも釣り合っていない刀を両手に構え、少女は春良を見据えた。

 

(なんだ!?幻想郷って皆喧嘩好きなのか!?)

「…………」

 

ぐ、と少女が屈む。

突撃か、跳躍か。

美鈴との訓練でそれなりに(本当にそれなりに)鍛えられた春良の目は選択肢を絞った。

 

「弓符……」

 

攻撃を防ぐため、弓を出そうと口を開いた瞬間。

 

「……一応、確認をとらせていただきます」

「……なぁ!?」

 

春良がそれを紡ぐより早く、速く。

少女は脇差し刀を春良の首に押し当てていた。

 

(ちょっと待てよ、今の今までそこに……!)

 

階段でいうと10段近い距離。

どのような移動手段を使ったのか、少女はその距離を一瞬で詰めたのだ。

 

「ふっ!」

 

首に押し当てた刀で撫でるように一閃。

明らかに致命傷になりうる箇所への斬撃に、春良は思わず目を瞑った。

 

「うあっ……!…………あ…?」

 

が、血は一滴も流れ出ていない。

ただ、『ちょっと痛い』程度ですんだ。

 

「…………すいませんでした」

「……え?」

「貴方は人間みたいですけど、生きてる人間がここに居るはずないですからね」

「……なんか良く分からないけど…、通ってもいいのかな…?」

 

いきなり何かに納得して少女は刀を納めてくれた。

 

「はい。…………って、あ!」

「な、何だ?」

 

階段を上ろうとすると、またすぐに呼び止められる。

刀の恐怖のせいで、妙に強張った返事になってしまった。

 

「もしかして、戌井春良って…『面倒事解決屋』の…?」

「あ、まぁ、そうだな…」

 

その呼び名で知られている事に若干の不満を感じつつ、とりあえず春良は頷いた。

 

「も、申し訳ありませんでした!」

 

すると、急に少女が頭を下げる。

体は曲げたまま、少女は顔だけを春良に向け、

 

「ゆ、幽々子様の客人だったんですね…」

 

どこかで聞いた名前を口にした。

 

「えっと、俺は結局なんで呼ばれたんだ?」

 

あれからさらに少しの時間が過ぎた頃。

春良と少女は階段を少しずつ登っていた。

 

「何ででしょうか…?私も幽々子様からなにも聞いていないんです」

 

少女の名前は魂魄妖夢(コンパク ヨウム)、この先にある白玉楼の庭師だという。

 

「幽々子さん……なんだかほわほわした人だったな」

「まぁ、亡霊ですからね」

「亡霊!?」

「えぇ、幽々子様はすでに亡くなってます。というか、ここはそう言うところですしね」

「……そういえば、ここはどこなんだ?」

「冥界です」

 

幾分か階段を登った時、妖夢が後ろ、下り方向を手を向ける。

初めて振り向いた春良は、そこからの景色に思わず息を忘れた。

 

「…………なるほど。冥界、か…」

 

薄暗い空間。

そこいらにただようバスケットボール程の大きさで、オタマジャクシのような形の物体。

違う所は、目もないし、対照的に真っ白なくらいだ。

よく見ると、妖夢の肩の上にも同じような物がある。

 

「なぁ、妖夢。それってもしかして…」

「これ?……あぁ、半霊ですか?」

「やっぱり幽霊なのか……。ん?半?」

「はい。私は半人半霊。二人で一人なんです」

 

ひゅんっ、と妖夢の周りを半霊が一周する。

いいや、もう何でも有りだ。

春良は、幻想郷を認め、考えることを止めた。

 

「そういえば、さっきの刀は?峰打ちじゃ、なかったよな…」

「この刀は、長い方が楼観剣。一降りで幽霊10匹を殺傷することができる剣と言われています」

 

すらっ、と身丈ほどはありそうな刀を軽々と構える。

 

「幽霊って殺せるのか?」

「殺せません。それで、この短い刀が白楼剣。迷いを断つ剣です」

 

今度は短い刀。

春良の首を切ろうとした刀だ。

 

「殺せないのか…。迷いを断つ?」

「すなわち、これで幽霊を切れば成仏、ですね」

「人は…?」

「切ると『ちょっと痛い』です」

「ああ、そう…」

 

どうも信じられない話だが、ついさっき幻想を受け入れたばかり。

とりあえず頭に入れておくにとどめておいた。

 

「魂魄家にしか扱うことが出来ない刀なんですよっ」

「へぇ、そりゃすごいな」

 

ようやく年相応の笑顔を見せてくれた妖夢に、若干の安心を感じながら、春良は更に登る。

すると、

 

「おお…………」

 

ようやくというか何というか、目の前には階段は無く、大きな木造の扉があった。

 

「鍵はありません。入れますよ」

 

妖夢が先導して中へ入る。

明らかに、他の場所と雰囲気が違う場所だが、とりあえず春良も後に続くことにした。

 

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