東方春命録   作:Poteto305

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運ばれた先の桜を眺め・参符

 

「それじゃ、お休みなさい。戌井さん」

「あぁ、お休み」

 

ピシャ、と障子貼りの伏間が閉じられる。

あれからご飯をねだる幽々子をなだめ、部屋まで案内してもらった所、

今日は疲れたでしょうし、お風呂に入って休んで下さい。

と言われ、入浴、現在に至る。

 

「とは言っても、眠くはないな…」

 

一人になると、色々な事を思う。

色々、と言っても大抵守矢や紅魔館の人々、上海の事くらいだが。

 

「ほんと、連絡のしようがないなぁ…」

 

そう呟き、伏間を開け、春良は縁側を歩いた。

一体いつの間に掃除をしたのか、中庭から桜の花びらは消えていた。

 

「……この庭、誰が作ってんだろ…」

 

呟きつつ歩くと、ふと何かの音が聞こえた。

ヒュン、ヒュン、と風を斬る音だ。

 

「…?」

 

音の方へ近づき、角から顔を出すと、そこには妖夢が居た。

縁側外の小さなスペースで、草鞋(ワラジ)を履き、素振りをしている。

 

(体力凄いな……)

 

邪魔はしない。

だが、妖夢の姿に火を付けられた春良は、そこからそう遠くない庭で素引きを開始した。

 

「…………ふぅぅ…!」

 

ギリッ、と弓が引き絞られる。

この姿勢が、実に5分。

 

「……さんじゅう…!」

 

その声と共に、春良の周りに停滞する光の弾が、一つ追加される。

言葉通り、計30個。

 

「まだ……まだ…!」

 

手に再度力を込め、矢を増やす。

何度も拡散し、その度に零から再開を繰り返していた。

 

「サジタリウス×参拾伍(サーティファイブ)ッ!」

 

ギャンッ、と数多の光が空へと駆け、一つの大きな流れ星となる。

汗を拭き取り、自分が放った星が消えるのを見送る。

 

「……あぁ、戌井さんでしたか」

 

すると、

 

「よ、妖夢?」

「急に光が見えたんで、幽々子様が花火でも打ち上げたのかと思いましたよ」

 

額を拭いながら、二本刀をぶら下げた妖夢がやってきた。

 

「修行ですか?熱心ですね」

「まぁ…。妖夢こそ」

「私には、剣しかありませんから…」

 

そう言って苦笑いする妖夢に、春良も苦笑いで返した。

武は違くとも、道は同じ。

それを極めんとする妖夢は、春良にはとても眩しく見えた。

 

「……手合わせ、していただけませんか?」

「……俺、弱いぞ?」

「構いませんよ」

 

チャッ、と妖夢が二本の刀を構える。

どの流派でも見たことの無い構え。

つまりこれは、魂魄流というやつなのだろう。

 

「……おっけ」

「ありがとうございます。では」

 

ぐっ、と一瞬妖夢が屈む。

この動きは先ほども見た。

一瞬の予備動作の後、小柄な体を生かして意識の片隅から一気に、

 

(来る……っ!)

 

ダンッ!、と春良は本能に任せて後ろへ跳躍する。

その瞬間、春良がいた場所を一閃が通り抜けた。

 

「見切りましたね…!」

「勘だけどな!」

 

着地するや否や、矢が三本妖夢へ駆ける。

二本を避け、一本を弾いた妖夢は、真正面から突っ込んできた。

 

「……はっ!」

 

音すら聞こえないような斬撃が春良の顔をかすめる。

 

(やっぱし、接近戦は無理か…!)

 

ぶんっ、と弓を振り回し、妖夢との距離を取る。

そして、春良は一枚の符を取り出した。

借りる力を、最小限に。

 

「親愛『華人小娘』!」

(?…………空気が…?)

 

その手から弓を消し、素手になった春良から、武器持ち時以上の威圧感を妖夢は感じていた。

 

(……構えに隙がない…?弓は専門外だった…?っと、いけない…)

 

戦闘中にごちゃごちゃと考えてしまうのが悪い癖だ。

相手の手が分からない以上、自分から行くべきではないが、

 

「人符『現世斬』」

 

それは、己の道をそらすこと。

己の道を表すかのような小細工無しの瞬閃が春良へ伸びる。

 

(……早…っ!)

 

一方の春良も、視界の隅で何とかとらえることしか出来ない瞬閃を受け流す。

 

「「…………ッ!」」

 

パァンッ!、と空気が裂ける音の後、世界の速さが元に戻った。

春良は自分の腕を、妖夢は自分の腕を見つめた。

春良の腕は、受け流しきれなかった打ち傷が出来ている。

恐らく、峰打ちだったからだろう。

 

「流石ですね」

 

妖夢の腕には、春良がカウンターで放った一撃が軽く入っていた。

ダメージの程度で言うと、春良の負けだ。

 

「ありがとうございました」

「も、もういいのか?」

「はい。それに、その力は長くは保たないですよね?」

「……そんなことまでわかるのか」

 

詳しくは、長く保たせると大変なことになる、だが。

にっこりと笑った妖夢は、刀を直し満足した足取りで縁側へと歩いていった。

 

「……とんでもないな…」

 

残された春良は、疲労からその場に落ちるように座り込んだ。

が、しかし。

 

「――――?」

 

背筋を指先でなぞられたような、そんな変な感覚を春良は覚えた。

 

「……向こうから…?」

 

なぜか、その感覚には『方向』まで感じる。

その感覚に従い進むと、一つの小さな塀の前まで来た。

 

「桜か…?」

 

その塀の向こう側で、あり得ないほど大きな桜が満開で咲き誇っていた。

塀で隠しきれず、あまりに広大なソレを目にした次には、春良は別の衝動に駆られていた。

 

「綺麗だな…」

 

塀を乗り越え、自らの手で幹を撫でる。

その、瞬間。

 

「――――ッ!?」

 

ぶわぁ、と桜が舞い散り、辺りを包み込む。

あたかも春良と桜だけの様な空間が、桜の壁によって作られた。

 

「……まさかっ…!」

 

あの『敵』は桜で出来ていた。

この桜の木が、関係あるのだとしたら。

 

「誘い込まれたのか…?」

 

桜の壁から、数百枚の花びらが春良の前に積み重なる。

そして花びらは、人となった。

 

 

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