その人の形は、あまりにハッキリとしすぎていた。
先ほど拝見したような、曲線形の人の形などではない。
「……弓符『サジタリウス』…」
春良の手に顕現する蒼弓。
それと同時に、桜が姿を変えた。
「……だよなぁ…」
人型に、何かを手にしている。
とても、見慣れたソレは明らかに、
「あいつ、どこからどうみても、俺だよなぁ…」
蒼弓、もとい桜弓、サジタリウスだ。
「悪いけど、先手必勝!」
何かをされる前に矢が3本桜の春良に駆ける。
桜はそれを横移動でかわした後、一気に近づいてきた。
「……なっ!?」
「…………」
ガッ、と弓の鍔迫り合い。
力押しで乗り切ろうとした瞬間、桜の後ろに5つほどの球体が浮かび上がった。
「弓引いてないだろ…っ!?」
ほぼ零距離からの射を後ろに飛んでかわす。
「親愛……!」
「……」
ババッ、と二人が同時に符を掲げる。
本物が負けるか。
その思いを、強く、強く。
「『華人小娘』ッ!」
弓を上に放り投げ、下、上、中、の三連蹴り。
全く同じ動きで、桜も足を合わせてきた。
「……ふっ…」
息を吐き、相手の足を取り、体を下にねじ込ませ一気に回る。
ドラゴンスクリュー。
拳法とは全く関係ない、奇策だ。
「……らぁッ!!」
バシン、と回せはしたが、受け身を取られ、逆に足だけで春良が回る。
背中を打ち付け、痛みを感じる前に大きく飛び上がった。
「サジタリウス……!」
投げた弓を取り空中から、
「……×伍(ファイブ)!」
ギャンッ、と空を駆ける星を、桜は弾き、逸らし、かわす。
かわされた事を確認した上で、春良は着地後即ダッシュ。
弓を使った顔狙いの連続突きを放った。
(……っ、当たらない…!)
かすりはするが、ダメージには繋がらない。
一瞬気が迷った隙に、弓を払い飛ばされてしまった。
「……がっ…!」
そこから、防御の上からの延髄蹴り。
威力を殺しきれず、春良の体は10メートルほど吹っ飛んだ。
「……本当に、ついてねぇなぁ…」
ゆっくりと立ち上がり、口を拭う。
そして、春良は『奥の手』を取り出した。
「……サジタリウス」
その一言で、遠くに横たわる弓を手に取る。
「壱、足踏み」
すっ、と弓を持ち、足を開く。
「弐、胴造り」
重心を体の真ん中に置き、
「参、弓構え」
弓を持つ手に力を込め、桜を見定める。
変なところで真面目なのか、姿勢は美鈴のまま、待ってくれている。
(いや、初めてだからか。向こうもこれはコピーできてないんだろ…)
「四、打越し」
ゆっくりと弓をもちあげ、
「伍、引分け」
ギリッ、と弓を引き、狙いを定めた後、
「六、会」
固め、ほんの少しの時間と鼓動の後。
「七、離れ」
ギャオッ!と一本の矢があり得ない速度で桜へと襲いかかる。
あまりにも速く、あまりにも大きく、あまりにも強いその矢を、桜は受けきることすらできず、
「八、残身(心)」
文字通り、『消し飛んだ』。
何秒かすると、周りを囲んでいた桜の壁が崩れ、夜空が映し出された。
「射法『弓道八節』。……思ってた以上に上手くいったな…」
いつしかパチュリーに貰った白紙のスペルカードは白紙ではなくなり、武器となった。
姿が綺麗であればあるほど、威力を増す一撃必殺のスペルカードだ。
「……時間掛かりすぎだけどなぁ…」
美しさを重視する弾幕ごっことしては正解なのだろうが。
正直、まともな実戦では使えそうにもなかった。
そして、流石に寝に入ろうかと歩み始めた直後。
『貴方じゃない』
声が響いた。
「……え…?」
夜空に反響しているかのような、脳に直接届いているかのような。
この桜の木が声を漏らしているような声だ。
『私が会いたいのは、貴方じゃない』
「……会いたい人…?」
一応、無駄だと分かっていながら辺りを注意深く見つめる。
『私は、その人と宴会を開くの』
「……だから、その人って…」
『ずっと、まってるの』
ブァッ!と風が舞う。
春良は思わず腕で顔を覆い、風が過ぎるのを待った。
「声が止んだ…。……というか…」
後ろを振り向き、桜の木を見上げる。
「満開じゃ、ない……?」
その大木は、怪しくも綺麗な桜を満開に咲かせていたはずだったが、今現在はほぼ葉しか見えない。
「……なんなんだ、ここ…」
冥界。
生命に終わりを見つけた者が立ち寄る場所。
ならば、生きている自分は何なのか。
半分霊体の妖夢。
完全に霊体の幽々子。
「……諏訪子。俺、帰りたい…」
聞こえるはずもない声を漏らし、春良はとぼとぼと歩き出した。
使命を、果たさなければならないから。