東方春命録   作:Poteto305

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運ばれた先の桜を眺め・伍符

 

「夜、そんなことがあったんですか?」

「あぁ。性別は女性っぽかったけど…」

「じゃぁ、会いたい人ってだれかしらぁ」

 

白玉楼の朝。

戌井春良、魂魄妖夢、西行寺幽々子の三人は魚を突つきながら唸っていた。

 

「とりあえず、今日の夜私が西行妖の様子を見に行ってみます」

「西行妖…?」

「その戌井さんが見た桜の木の事です」

「なんか、怪しい名前をつけるんだな?」

「えぇ、一応妖怪桜です」

「よ、妖怪……桜?」

 

器用に魚の骨を取り、口へと運んでいく妖夢を眺めながら呆然と聞く。

 

「私のお父さんがねぇ。皆に慕われてた凄い人だったのよぉ」

「はぁ…」

「死ぬときはあの桜の下が良い、って言ってて、ちゃんと安らかに眠ってくれたんだけど」

「はぁ…」

「それからあの桜が満開になると、なぜか人が桜の下で死んでしまうようになったんです」

「ふむ」

「そして、人の血を吸って生きたあの桜は、いつしか妖怪桜となった。と言うわけです」

 

途中幽々子から妖夢に変わっての説明だったが、簡単には理解できた。

 

「……というか、すいません。辛いことを聞いて」

「いいのよ~。私生きてた頃の事ほとんど覚えてないからぁ」

 

幽々子の笑顔は、本当に安心する。

偽りが全く見えないからだ。

 

「……っと、満開…?」

 

そこで、思い出した。

昨日の夜、確かに満開だった西行妖の事を。

 

「どうかしましたか?」

「俺が昨日見たとき、満開だったぞ…?」

 

ちょうどご飯を食べ終えた春良の一言に、妖夢の表情が一変する。

 

「そ、そんなはずはありません!」

「いや、実際に…」

「あの桜は、もう満開になるはずはないんです」

「私が満開を見たくて春度をあつめてたもの~」

 

春って集めるものなのか?と一瞬考えるが、スルーした。

とにかく、確かに昨日は満開だったのだ。

 

「満開…、会いたい人………桜……っ!!」

「ど、どうした?妖夢」

「そういう、ことでしたか…!」

「おい!妖夢!?」

 

ピシャン!と障子を開き、ご飯もそのままに妖夢は外へと飛び出していった。

 

「どうしたのかしらぁ…」

「多分、答えが分かったんだと思います。追いかけましょう!」

「頑張ってねぇ~」

「……幽々子さんは…?」

「面解屋の貴方と妖夢の事は、信じてるものぉ」

 

にっこりと、何も、本当に何も心配していない顔だ。

そんな顔を見せられれば、男として、人として期待に応えなければならない。

 

「行ってきます!」

「はぁ~い。いってらっしゃぁい」

 

これが『使命』ならば、また目的に近づける。

そう信じて、春良は妖夢を追った。

 

「っ!!」

 

外へ出てまず第一。

桜人が白玉楼中に『散乱』していた。

 

「二日に二回じゃないですか…」

 

地面には、妖夢が切り伏せたのであろう桜が散っている。

その桜を道しるべにして、春良は足を踏み出した。

 

「弓符『サジタリウス』」

 

キュン、と手で蒼弓を握る。

射りつつ、走りつつ、春良は自分なりに答えを探していた。

 

「サジタリウス、×七(セブン)!」

 

しかし、何も思いつかない。

何か、妖夢だけが知る事があるのだろうか。

 

「射法『弓道八節』…」

(まぁ、全部妖夢に聞けば良いことだしな……。とりあえず…)

 

ギリッ、と弓を引く。

目に見える範囲だけで60を越える桜人は、明らかに邪魔すぎた。

 

「どけぇぇぇぇぇぇえええええ!!」

 

荒い為にかなり弱くなった矢だったが、道を開くのには十分。

春良は、割れた道を一気に駆けた。

 

「ハァ……はぁっ…」

 

魂魄妖夢は、白玉楼の桜の中で、一番大きく、『満開』の桜の前にいた。

 

「西行妖……」

 

ひら、と散る一枚を2つに裂く。

 

「貴方の狙いは…いや、目的は…」

 

そこまで言った所で、後ろから桜人3人が襲いかかってきた。

 

「っ!?」

 

反応の遅れた妖夢は、せめてガードすべく、眼前に腕を出す。

しかし、次の瞬間。

 

「サジタリウス×参(スリー)!」

 

パァン!と空気が裂ける音と共に、桜が妖夢に降りかかった。

 

「大丈夫か!妖夢!」

「戌井さん…」

 

春良はようやく発見した妖夢に近づこうとするが、桜がそれを許さなかった。

あの夜のような桜のドーム2つが、春良と妖夢を分けたのだ。

 

「妖夢!」

 

声を上げるが、もう聞こえはしない。

そんな春良の後ろで、桜の固まっていく気配がした。

 

「また俺のコピーか!」

 

振り向き様に矢を射ろうと弓を引き絞るが、その手が止まる。

 

「い、戌井さん!?何するんですか!?」

「よ、妖夢!?」

 

そこにいたのは、さっき別れたと思った妖夢だったからだ。

 

(本物…?いや、妖夢は前にいたはずだ!)

 

騙し方が悪い。

そう答えをだした春良は一気に弓を引く。

が、

 

「止めて下さい!戌井さん!」

「っ!」

 

信じられないほど似ている声に、躊躇が生まれる。

 

(妖夢は、コピーを知らないから、俺を疑わない…。やっぱり本物か…?)

「ど、どうしたんですか、いきなり…」

「いや、ごめん。ちょっと混乱してて…」

 

弓を降ろし、妖夢の元へ歩く。

 

「そうですか…」

「……妖夢…?」

 

完全に無防備な状態を作ってしまった後で気づいてしまった。

いつも連れている半霊が、いないことに。

 

「……しまっ…!」

 

ドス、と小さな小さな音が耳に届いた。

 

 

 

 

「戌井さん!」

 

妖夢は一人、桜の空間で春良を捜していた。

 

「……人符『現世斬』!」

 

斬!と桜を斬りつけるが、すぐに修復する。

 

「まだまだっ!」

 

何度も繰り返し、壁を斬る。

すると、背後から何かの気配を感じた。

 

『貴方でもない』

 

背筋を撫でられるような気配に、反射的に振り向く。

 

「今の声は…!」

 

ザァ、と桜が人を形作る。

そこに立っている人のシルエット。

その人を、魂魄妖夢は知っていた。

 

「やはり、貴方でしたか」

『貴方とは、約束をしていない』

「本体で来たらどうですか?桜で遠ざけたりせず」

『貴方とは、宴会を開けない』

「まぁ、来れるはずはありませんよね」

 

チャキ、と刀を構える。

正直、勝てる気はしなかった。

なぜならば、その人の強さを知っていれば、そのコピーがどれほど強いかを容易に想像出来るからだ。

 

「そう、貴方は――――――!」

 

 

 

 

痛みは無かった。

ゆっくりと視線を降ろすと、自分の腹から銀色の何かが生えているのが、鮮明に見える。

 

「……ぁ…が…」

 

どろり、と自分の体を伝って液体の何かが地面へと落ちる。

その一瞬後、焼ける様な痛みが体全体を覆った。

 

「……はっ……はっ…!」

 

熱い、熱い、熱い……!

刺したときと同じ音で刀が抜かれる。

感覚を得ることが出来ない痛みに襲われ、春良は腹を押さえて倒れ込んだ。

 

(……や、ばい…死ぬ…)

『貴方じゃない』

 

声が聞こえた。

いつしかの、女性の声だ。

 

『いつになったら、約束を果たすの』

(やく、そく…?)

 

薄れていく視界の中、春良は目の前の桜妖夢を見つめる。

すると、桜が表面だけ崩れ落ちた。

 

「…………!?」

 

そこにいた人を、春良は信じることが出来なかった。

しかし、信じるも信じないも一緒。

 

(……ま、じで…やば……)

 

春良の意識は、一つの光の中にとけ込んでいった。

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