東方春命録   作:Poteto305

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運ばれた先の桜を眺め・陸符

 

 

光の、中。

春良は西行妖の前にいた。

 

(……?)

 

いつしかと同じような状況を、飲み込む事が出来ず、辺りを見まわすと。

 

「あらぁ、綺麗な桜ね~」

 

いつもと同じの笑みを見せる幽々子がそこにいた。

 

(幽々子さん!)

「けど、満開じゃないのが残念ねぇ」

 

やはり声は届かず、幽々子は西行妖を撫でる。

すると、

 

『満開、見たいかしら?』

「あら?どちら様?」

『満開が見たいのなら、春を集めて。そうすれば、華は開くわ』

「そうなの?それじゃぁ満開になったら一緒に宴会を開きましょぉ?」

 

全く臆さない幽々子に驚きつつ、春良はその状況を見つめる。

2つの声の行く末を。

 

(……ん…?)

『宴会?』

「そぉよ、宴会。皆で飲んだり騒いだりして、きっと面白いわぁ~」

 

声が、何故か2つに聞こえない。

同じ人が喋っているような感覚を、春良は感じていた。

 

『それはいいわね』

「えぇ。私も、この桜を満開にするから、まっててねぇ?」

『……待つわ』

「いいこいいこ~」

 

まさか、と春良は息を呑む。

幽々子の周りには、ふよふよと浮かぶ霊体がある。

つまり、今、幽々子は霊体だ。

 

「それじゃぁ、約束しましょ~」

『約束?』

「そうよ。私は頑張って春を集めるから、貴方は頑張ってこの桜を咲かせて欲しいの」

『…………』

「やくそくよ?」

『……うん。約束』

 

ならば、体はどこにある?

その精神が宿っていた肉体は、どこへ埋めた?

 

『でも、約束は意味がない』

「あら、どうしてぇ?」

『だって…』

 

西行寺家の人々が眠る桜の木の下。

ならば、幽々子の体は。

 

『貴方は、私だから――』

 

答えは、これだ。

 

その事実を把握した瞬間。

春良の意識は再び光へと消えた。

 

 

 

 

光から回帰した春良は、自分の体の変化に気がついた。

 

「傷が、消えてる…?」

『……?』

 

バッ、と立ち上がり、腹をまさぐるが、完全に傷が消えている。

まるで、奇跡でも起きたかのように。

 

「1回……残ってたっけか…」

 

忘れられていたストックが、完全に消えた。

早苗に、奇跡に感謝を。

 

『貴方とは、約束をしていない!』

「約束ですか?……ふざけたことを言わないでください!」

 

相手が幽々子ならば、敬語を使うべきだ。

例え、ただの肉体であっても。

 

「皆で!そう言ったじゃないですか!」

 

桜幽々子の体が、固まる。

 

『……!!』

 

そして、その体は姿を変え、大きな桜の巨人となる。

 

「逃げる気ですか…。こうなったら、嫌でも皆で宴会しますからね!」

 

この桜を崩して、宴会。

 

皆、文字通り皆を集めて、馬鹿騒ぎをすれば、きっと西行妖、もとい幽々子も落ち着く。

 

「弓符『サジタリウス』っ!」

 

そう信じ、春良は弓を引いた。

 

「……ふっ…!」

 

だが、解せない事がいくつもある。

今回の事が肉体と精神の約束によっての出来事なのなら、ここまでの大事になる必要がどこにあったのか。

 

「親愛…」

 

満開の西行妖、桜人達はきっと肉体の幽々子の力。

だが、それなら、妖夢が必死に止めようとした理由は?

 

「『華人……っ!?」

 

考えながらの戦闘だったせいか、桜巨人の手がすぐそこに迫っていたことに春良は気づけなかった。

大きく体を反らすが右手を払われ、親愛の符が宙に舞う。

 

「しまった!」

 

ひらひらとゆっくり落ちてくる符を見ながら、巨人の足を射る。

そんな攻撃では止まらない巨人の攻撃を、春良はとにかく走ってかわす。

 

「火力が全然足りないな…」

 

汗を拭い、巨人を睨みつける。

親愛の符は巨人の足元に落ち、取りに行くのは難しそうだ。

 

「なら、こいつでどうだ…?」

 

火力ならば、もう一枚の符がある。

 

「射法『弓道八節』」

 

攻撃されるが先か、するが先か。

ゆっくりと近づいてくる巨人との距離を、春良は慎重に測っている。

その姿を見ながら、春良は弓を持ち上げる。

 

「間に合え……」

 

ギリッ、と弓を引き絞る。

後は狙いを定め、会を持つだけ、と言うところで、

 

「っ!?」

 

巨人が、飛んだ。

 

「反、則、だろ……!」

 

狙いを大きく上に、光の矢を放つ。

風を巻き込みうねりを上げる特大の矢は、巨人の右足を容易く吹き飛ばした。

が、そんなことは関係無しに巨人は高く上がっていく。

 

「うぉぉ……っ!?」

 

巨人の体の範囲から逃げる事は出来ない。

親愛の符も使えない。

 

「サジタリウス×伍!!」

 

ドドドドドッ、と連続して的中する矢も、全く関係無しに巨人は最長点から一気に落ちてきた。

 

「――――!!」

 

目の前に広がる影と桜に、思わず春良は腕を目の前で交差させた。

 

「全く、貴方は危ない目に遭うのが得意なのかしら?」

 

ぴた、と巨人が宙で止まる。

 

「!?」

 

その次の瞬間には、驚きに包まれていた春良を、何かが押し飛ばす。

どこかで、何度も受けたことのあるようなこの突進は、

 

「……上海!?」

 

紅服の、上海人形だった。

上海はそのまま春良を巨人のプレス範囲から遠ざける。

安全な所まで来たところで、巨人が地面へと落ちた。

 

「な、なんでここに!?」

 

話を聞かずにとにかく抱きついてくる上海を引き離すと、誰かが春良の元へ歩いてくる。

その人物は、

 

「私が連れてきたのよ。……夜中に起こされて、肌荒れとかどうしてくれるのよ」

「……アリス!」

 

七色の人形遣い、アリス・マーガトロイド。

上海の生みの親だ。

 

「いろいろと聞きたいことはあるけど、まずはこの状況をなんとかするわよ」

「お、おう!」

 

あまりに、心強い味方を横に付け、春良はサジタリウスを手に取る。

 

「そういえば、どうやってこの中に…?」

「結解にしては外へ対しての密度が薄いのよ。紅白巫女のに比べたら簡単に開いたわ」

 

ひゅんっ、とアリスの回りを糸と人形が舞う。

ここから、反撃開始だ。

 

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