東方春命録   作:Poteto305

37 / 90
運ばれた先の桜を眺め・漆符

 

ざぁっ、と巨人の足が桜の花びらで復活していく。

またあの機動力を取り戻すとなるとやっかいだ。

 

「まずい!」

 

春良は言葉とともに駆け出し、親愛の符を拾いに行く。

たどり着いて拾うやいなや、春良は唱える。

 

「親愛『華人小娘』!」

 

春良の体が一瞬だけ光に包まれる。

その光を置き去りにするように、春良は飛んだ。

 

「サジタリウス×拾(テン)!」

 

通常よりも強い勢いの矢は、桜に少しながら傷を与える。

だが、再生と破壊では、再生の方が上回っていた。

 

「くっ……」

 

回復されるのなら、また離れて弓道八節を使うのが無難か。

そう判断した春良は、アリスの方へ振り向き、

 

「アリス!一旦離れるぞ!再生され……」

 

「魔符『アーティフルサクリファイス』」

 

ドン、と地響きが空間を包む。

春良の目の前には、符を一枚手に持つアリス。

ゆっくりと振り向くと、そこには下半身が消え去った巨人がはいつくばっていた。

 

「…………」

「……あら、外した?」

 

ピッ、と符を取り替え、アリスは巨人へと歩み寄る。

呆然とする春良の横を抜け、そのまま近づくと、巨人が上半身だけで起きあがった。

 

「あ、アリス!!」

 

自らの体を無視してのストレートがアリスの華奢な体へと真っ直ぐに伸びてくる。

 

「注力『トリップワイヤー』」

 

が、その拳はアリスには届かない。

いつの間にか浮遊している数々の人形が、蜘蛛の巣状に糸を張り巡らせていた。

そのネットはストレートに怯むことなく、真正面から受けきってみせている。

 

「桜ねぇ……。まぁ、そういうのも綺麗かもしれないけど」

 

つまらないように呟くと、アリスはまた一枚の符を掲げる。

 

「魔操『リターンイナニメトネス』」

 

轟!と渦巻く何かにとらわれた巨人は、一瞬で圧縮され、消え去った。

ひら、と舞う一枚の花びらを、アリスは指先で掴み、眺める。

 

「……見て楽しむものが、襲ってくるのはいただけないわね」

 

ふっ、と小さな吐息と共に散る桜の花を、春良は呆然と眺める。

格が違う。

魔法使いと人間の差を、思い知った春良だった。

 

「……凄いな…」

「……別に、これくらいで羨ましがられても困るわよ」

 

謙遜するような言葉で、しかし嫌そうでもない表情でアリスは桜の壁へと歩く。

カツッ、とアリスが壁の前で足を鳴らすと、桜の壁は剥がれ落ちるように崩れていった。

 

「……そうだ!妖夢!」

「……妖夢…?」

「ここにいる人がいるんだ!そいつも今戦ってるはず…!」

 

開けた世界では、自分達が入っていたものとは違う、桜のドームがもう一つ建設されていた。

その中に、妖夢がいるはず。

 

「アリス!ここを開けてくれ!」

「……出来ないわね」

 

ぷい、と顔を冷たく背けるアリス。

 

「な、なんでだ…?」

「貴方じゃ足手まといになる。って事よ」

「…………っ」

 

悔しいが、言い返せない。

たった今死にかけて、助けられて、誰かを助けたいと粋がる。

自殺行為、自分勝手、自意識過剰。

そんな言葉が、春良の頭を巡った。

 

「自分の事は自分でする。貴方も人間なら、言葉の意味は良く分かるわよね?」

「……あぁ…」

 

言いたいことも、その意味も良く分かる。

良く分かる。

春良が、『それ』が出来なかったことも。

良く分かるからこそ。

 

「……射法『弓道八節』」

 

春良は、弓を引いた。

 

「……かはっ…」

 

飛び交う色鮮やかな蝶。

その中から、確実に自分に当たる蝶だけを一瞬で見切り、少女は刀を振るう。

 

「……はぁっ……はっ…!」

 

切り裂かれた蝶は霧散し、少女が生きるだけの隙間を作る。

 

「お願いします…。どうか、桜を満開にすることだけは…」

『…………』

 

懇願するような少女の声も聞かず、桜は手を振るい、新たな蝶を羽ばたかせる。

 

「……それにそもそも、満開にする方法もないでしょうッ!!」

 

ガッ!と力を振り絞った少女の一降りは、蝶を全て一度に消し去る。

 

「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああっ!!」

 

吠える。

跳ぶ。

視界に入れることさえ出来ない瞬閃が、桜へと一直線に伸びる。

しかし、それも囮。

少女は残像を残して桜の後ろに回り込み、一瞬で三度切り込む構えでたたずんでいた。

 

(……斬る!)

 

ギャォッ!と参閃が桜を四つに切り裂く。

しかし、完璧に入ったように見えた斬撃も、少女にとっては違う物として感じられた。

 

(……手応えがない…。……罠!?)

 

がしり、と。

刀を振り切った状態の少女の首を、ふわふわとした何かの手が掴む。

 

「…………っ!?」

 

動いたら、やられる。

そう思わせるほどの殺気を背後から感じ、少女は動けないでいた。

 

『宴会の、何がいけないの』

 

手に、力が込められる。

 

「宴会ではないんです……。桜を満開にすることが、問題なんです」

『どうして』

「…………」

『どうして』

「…………っ……」

 

ぶわっ、と二人の回りを蝶が包む。

一匹一匹が多大なる殺傷能力を持つ蝶に囲まれる、というのは、セーフティを外した拳銃を頭に突きつけられるよりも、恐怖をあおった。

 

「貴方は、幽々子様その物ですから、知らないんです」

『何を』

「……西行妖が満開なると…」

 

突然、轟!と音が轟いた。

桜の壁が吹き飛び、舞う。

その美しい桜を身に纏い、その男は中へ歩んできた。

 

外来人、戌井春良は、覚悟を決めていた。

 

「正直、何が何だかわかりませんけど」

 

ザッ、と一歩進む。

 

「ここの事情なんて何も知りませんけど」

 

一歩、進む。

 

「俺、余所者ですけど」

 

ザッ、と歩みを止める。

 

「今しないといけないことがわからないほど、馬鹿じゃないです」

 

花びらを一枚、手にとって。

春良は叫んだ。

 

「桜なんてなくても、宴会は出来ます!」

『…………』

「っ!戌井さん!逃げてください!」

 

妖夢と桜を囲んでいた蝶がまとめて春良へと飛ぶ。

死を司るその蝶は、触れただけでも生気を吸われる。

 

「親愛……」

 

圧倒的な死を目の前にして、春良は符を掲げる。

大事なのは、信頼。

 

『面解屋の貴方と妖夢の事は、信じてるものぉ』

「『華胥の亡霊』!!」

 

相手を信じ、相手に信じられること。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。