輝いたと同時。
蒼い光の蝶が、春良の回りを守るように包む。
ぶつかり合った鮮やかな蝶と青蝶は、互いに相殺し、消えた。
「……その力は…」
「幽々子さんの力を借りてる」
親愛の符と共鳴したのか、サジタリウスも形を変え華やかな扇となっている。
「妖夢、桜が満開になると、どうなるんだ?」
「……っ。聞こえてたんですか…?」
「途中まで、だけど」
バッ、と扇を開き、蝶を舞わせる。
(……やばい…)
想像はしていたが、これほどとは。
春良は、ほとんど幽々子の力を使いこなせないでいた。
フランドールの時とはまた違う、狂気ではなく純粋な力の差。
人が扱うべきではない力なのか。
「上海、行っても良いわよ?」
ドームの外側で、アリスはあたふたとしている上海に声を掛ける。
「私の事はいいから、春良の所へ行ってあげなさい」
躊躇するも、一度大きく頷き、上海はドームの中へと飛んだ。
残されたアリスは、貧乏くじだというのに、
「ふふ……。ちょっと、魔理沙に似てたわね、さっきのは」
先ほどの春良を思い出し、小さく笑っていた。
「元々、魂魄家だけに知らされていたことなんです」
ぼそ、と呟くような妖夢の声が、響く。
「冥界は、地獄や天国へ行く者が立ち寄る場所、決して留まる場所ではないんです」
そこで、上海が春良の元へとたどり着くが、様子が違うのを感じ取り、いつものように肩に乗ることはしないでいた。
「亡霊である幽々子様が何故留まっていられるのか……。その理由がこの西行妖」
桜が一枚落ちる。
桜幽々子は、それを手に取った。
「満開になるのを封印するため。その力の元となったのが、幽々子様そのもの…」
「……満開にしないために封印したのに、幽々子さんは桜を咲かせようと…?」
「きっと、覚えていないんです。桜が満開になる、つまり封印が解けるということは…」
「いうこと、は…?」
ぐったりとしている妖夢が、唾を飲み込む。
ここまで話したのなら、もう止めることはできない。
「封印の為に留まっている幽々子様は、自動的に輪廻へと進み、この冥界から、幻想郷から消えます…」
消える。
『…………っ!?』
ばらっ、と桜が崩れる。
中から、驚愕の表情をする幽々子が現れた。
「……私は、私を、殺そうと…?」
体だけの幽々子にも、感情はあるのか、震えていた。
「知らない事だったなら、仕方がないんです」
「このこと、幽々子さんが知ったら、どうなる…?」
「想像したくはありません…」
刀を納め、妖夢は幽々子に向き直る。
「この満開の西行妖は……貴方の力で……?」
「ん……桜の妖力を借りるための幻術……」
「なるほど、道理で生気が感じられないと思いました」
「でも、幻覚は幻覚だろ? それで幽々子さんの封印が解けたりは……」
「桜は見て楽しむもの。つまり、見た目が本質なんです。これを幽々子様が見たら……」
誤って封印が解ける場合もある。
妖夢がそう言うと、幽々子の体は、ぽろぽろと涙を流し始めた。
「じゃぁ、私は、どうしたら……」
泣き続ける幽々子の体に、春良も妖夢も何も言うことができず、息を呑むと、
「悲しい事は、お酒と一緒に流しちゃうのが一番よぉ?」
とん、と。
日本酒の瓶を置き、『自分の体』の目の前に座り込む幽々子がいた。
「……ゆ、幽々子、様…?」
「あ、そうだわ。よーむ、おつまみも持ってきてくれない?」
「あ、は、はい。すぐ持ってきます」
駆け出していった妖夢を横目に、春良は驚きの後に少しの笑みを見せる。
多分。
多分、幽々子はほとんど事態を掴めていない。
ただ、そこに『泣いている人』がいたから、励ましに来ただけだ。
「……美味しい所持って行きますよねぇ…」
「このお酒は美味しいわよぅ?貴方もどう?」
「いや、遠慮しときます」
敵わないな。
幻想郷の人々に、春良は全く持って勝てないでいた。