「待ちなさい、中国」
「……ん?」
急に門から声が聞こえた。
そう思って目をこらした瞬間、何もなかったはずの空間にメイド服の女性が現れた。
「さ、咲夜さん…!」
「自分から進んで門を開いて、あげく案内とは……」
「ち、違うんですよ…、これは…」
あたふたと手を振る美鈴に、メイド服の女性はナイフを向けた。
「ちょ、何するつもりですか!?」
「……貴方、人間ですよね?……人間が何のようですか」
ナイフを構えたまま、目だけを春良に向けて問う。
「お、お嬢様に用があるみたいです」
「貴方には聞いていないわ」
「は、はぃ……」
両手を上げたままうなだれる美鈴を横目に見つつ、春良はそのまま復唱した。
「ここにいるレミリアさんって言う吸血鬼に用があるんです…」
「私が承ります」
「……俺の、これからの運命を見て欲しいんですが…」
「……私じゃ無理ですね」
そう言うと、メイドは身を翻し、館へと歩いて行った。
ふぅー、と隣で安心したように息を吐く美鈴を見て、少し笑みが漏れる。
「な、なんですか?」
「いや、美鈴さんもの凄く怖がってたから」
「そりゃ怖いですよ……」
ほら、と美鈴は右手を春良に差し出す。
その指と指の間に、銀のナイフが挟まっていた。
「い、いつの間に投げたんですか?」
「咲夜さんは『時間を操る程度の能力』の持主ですから、見えなくても仕方ないですよ」
「なら、どうして掴めたんですか?」
その問いに美鈴は館に歩きながら、それはですね、と溜めて、
「咲夜さん、頭ばかり狙うからですよ……」
うなだれながら歩いていく美鈴。
小走で追いかけつつ、春良は心のなかで合掌した。
「そういえば、『能力』ってなんですか?
「幻想郷の住民の内でも何名かが体得しているそれぞれの特異な力のことですね」
「俺も何か能力に目覚めるんですかね?」
「わかりませんねぇ…。ちなみに私の力は『気を使う程度の能力』と呼ばれています」
館に入っても紅色なのはあまり変わらず、春良はしきりに目をこすっていた。
それから少し、大きな扉にたどり着いた。
「この中にお嬢様がいますよ。私は門番しないといけないので、戻りますね」
「あ、色々、ありがとうございました」
「はい。こちらこそ久々の手合わせ楽しかったです」
ではまた、と手を振って遠ざかる美鈴を見送った後、春良はなんと無しに、
「美鈴さん、綺麗な人だったな…」
そう呟く。
すると、肩にいたはずの上海に頭を小突かれた。
「ど、どうした?上海」
人形は答えるかわりに頬をふくらましてぷい、と顔をそらした後、不機嫌そうにまた肩に座った。
「……入るか」
いろいろと気になることはあるが、春良は大きな扉に手を添えた。
ギィィィ、と重苦しい音と共に開かれた扉の奥。
無駄に広い空間の中に一つ大がかりな椅子があり、そこに一人の少女が座ってこちらを見ていた。
「いらっしゃい、春良」
「……?」
少女は初対面のはずの春良の名前を言い当て、それに驚いた春良を見てニッ、と笑った。
「も、もしかして、君が?」
目をこらせば、その少女の背中からコウモリの羽の様な物が見える。
しかし、それでも、
「えぇ、私がレミリア・スカーレット。この紅魔館の主よ」
いくらなんでも、幼すぎる。
どこからどうみても10にも満たない幼女が、本当に自分の探していた吸血鬼なのか、不審に思うのは当然だ。
「500年」
「え?」
そんな春良にレミリアは片手を開いて見せる。
「私が、今まで生きてきた時間よ」
「ご、ひゃく年!?」
吸血鬼はそこまで長命なのか。
そう思いつつも、春良は本題を切り出す事にした。
「霊夢さんに言われて来たんだけど…ですけど、俺はこれから何をしないといけないかを教えてくれないか…ませんか?」
幼女に敬語を使うのに慣れていないもので、所々おかしい言葉遣いになりながらも、春良は用を伝えた。
「霊夢の頼みを無下には出来ないわね…」
そう言って春良を見つめ、レミリアはまた小さく笑い、
「貴方、血液型は?」
「B……ですけど」
「血、飲ませなさい」
「は?」
「B型、好物なのよ。それで教えてあげるわ」
パチン、とレミリアが指を鳴らすと、また何もない空間にメイドが現れた。
「ナイフ」
「どうぞ、お嬢様」
美鈴が見切ったのとは違い、ただの鉄ナイフをレミリアに渡し、メイドはまた消えた。
レミリアはナイフを春良に放り、あたふたとしながら春良はソレを手に取る。
「指でもどこでもいいわよ」
まじですか……。と春良は手のナイフを見つめ、げんなりとうなだれた。