「どこ掴むって、必死にしがみついてるんだから分かるかよ!」
「もっとこう、下!下を掴んで!」
「わかったから、アクロバットな飛行は勘弁してくれないか!?」
「あぁもう、落とそうかしら…」
「聞こえてる!呟いたつもりかも知れないけどばっちり聞こえてるからな!?」
「……なまじ魔理沙と似てるから…ちょっと変な気持ちになるじゃない…」
「え?ごめん、今度は聞こえなかった」
「き、聞かなくていいわよ。掴まりなさい」
「……おう」
「…もうちょっと、強く」
「お、おう?」
ようやく訪れた平穏を糧に・壱符
「は、春良さんが、冥界に!?」
「だから、ずっと前から言ってたじゃないかい…」
「神奈子、なんで止めなかったのよ!」
「だから、止める間もなかったって、さっきから言ってるだろう…?」
ダン!とちゃぶ台を勢いよく叩いて吠える諏訪子に対し、神奈子は呆れた様子で言葉を放つ。
「あーぅー…。頭痛いぃー…」
大声を出したせいか、揺れる頭を押さえ、諏訪子がちゃぶ台に突っ伏す。
「小悪魔さんは、もう大丈夫なんですか?」
「は、はい……だいぶ良くなりました…」
「頭を押さえながら言われても、信用できないんですけど…」
昼過ぎになっても頭を抱え続ける二人を見て、早苗は素直な感想を漏らす。
かれこれ何時間も冥界に行きたがり、頭痛に倒れると言うサイクルにとらわれていた。
「しようがないねぇ…」
「神奈子様?」
よっこいせ、と妙に年寄りじみた声を上げながら神奈子が立ち上がる。
神奈子は一息つくと、そのまま外へ足を踏み出した。
「ど、どこに行くんですか?」
「冥界だよ。これじゃぁこっちがたまったもんじゃないからねぇ」
「そ、それでしたら、私も行きます!」
「早苗は二人の様子を見といてくれよ。……私は居ても何もしないからねぇ」
そう言って、神奈子が屈んだ瞬間。
それは、空から降ってきた。
「……!?」
ズドン!と神奈子の背後に落ちたソレは、地面に大きなクレーターと砂煙を形成する。
少しの時間の後、風で砂煙が晴れ、ソレがしっかりと視界に入る。
「……ほら、ついたわよ。降りなさい」
「しがみつけって言ったり、降りろって言ったり、無茶苦茶だぞ…。とにかく、ありがとな」
眼鏡を直しながらため息をつく外来人。
戌井春良だ。
「……はぁー…」
「あ、神奈子さん。急に居なくなったりしてすいませんでした…」
「……ま、あんたのせいじゃないからねぇ。気にしないでいいよ」
「私、諏訪子様達に言ってきますね」
妙に嬉しそうな表情の早苗が、家の中へ駆け込んでいく。
「……ん?その横のやつは?」
「アリス・マーガトロイドよ。一応、魔法の森で人形作りをしているわ」
「あぁ、あんたが『七色の人形遣い』かい、うちの連れが世話になったみたいで、わるかったねぇ」
「別に、この程度だったら面倒の内にも入らないわよ」
ぷい、と顔を逸らすアリスを見ると、何故か笑顔になってしまう。
春良の隣の上海も、笑顔でアリスを見つめていた。
「春良さんっ!」
「こあ、ただいま。……?」
縁側から裸足で飛び出し、春良に抱きつくかと思われたが、途中で急激に失速、地面に倒れ込んだ。
「お、おい、こあ!?大丈夫か!?」
「春良っ!」
「諏訪子!ただい……ま…」
続いて飛び出てきた諏訪子も途中で倒れ込み、こあくまの上に重なる。
「……早苗さん、これは?」
「……二日酔い、です」
「…………」
「…………すいません…」
静かに謝る早苗に苦笑を見せ、春良は二人を起こした後、縁側に座り込んだ。
「そういえば、アリスはこれからどうするんだ?」
「普通に帰るだけね。上海の事、頼むわよ」
「少しくらい休んでいかないのか?」
「別に疲れてもいないわよ」
どうしてそんなに強がるのかは理解できなかったが、アリスが若干居づらそうにしているのは分かった。
上海は人見知りで、子は親に似るという言葉からしても、微妙に感づけるが。
春良は立ち上がり、アリスにそっと耳打ちし始めた。
「本当に、ありがとうな。別に無理して引き留める訳じゃないからさ」
「だから、大したことじゃないって言ってるじゃない…」
「たまに顔見せてくれると、凄く嬉しいんだけど」
「……ッ!?な、何言ってるのよ…!」
「……上海が」
何故か、本当に何故か、春良はアリスの操る人形に追いかけ回される事となった。
「……帰るわ」
「……おう…。本当に、ありがとうな…」
息を切らしながら、別れの挨拶を済ませる。
ふわっ、と軽い感覚で浮き始めたアリスは、少し春良を見た後、顔を逸らし、
「たまに、様子を見に来るわ」
若干赤い顔で、そう言った。
「貴方のじゃないわよ。上海の様子を見に来るのよ」
「分かってるって。それじゃぁな」
「…………」
背中を見せながら手を振るアリスは、すぐに見えなくなった。
「こっちからもたまに様子見に行くか?上海」
「……」
「……上海?」
笑顔で頷いてくれると思ったのだが、何故か上海はふくれっ面で複雑そうな表情をしていた。
「「……」」
「す、諏訪子にこあも、なんでそんなに不服そうな顔してるんだ…?」
「……戌井さん……もうちょっと周りの人の気持ちに気づきましょうよ…」
はぁ、とため息をつく早苗を見ても、勿論春良に色恋の事が分かるはずもなく、
(帰ってきたばかりなのに、騒がしくしたからか…?後でちゃんと謝っておこう…)
こうとしか思えない、どうにも残念でもったいない人間だった。
「それじゃ、上がってください。疲れてるでしょう?」
「あ、ありがとうございます…」
気まずい空気は置いておいて、皆でいつもの畳部屋に座る。
「それで、どうだったんだい?」
「どうだった?」
「『使命』とやらは終えれたのかい?」
一体どこから取り出したのか、とっくりで酒を飲みながら聞く神奈子。
「残念ながら、使命はありませんでした」
「そうかい。ま、気を落とさずに頑張りなよ」
言葉だけでなく、心から言ってくれている事が素直に届いてくる。
一体どのような人生を送れば、これほどの寛容さを持てるようになるのだろうか。
「次は、どこへ行く予定なんですかぁ……?」
「いや、特に決まってないけど。……とりあえず、こあは休んどけって」
「次は、私を置いていかないでくださいよ…」
ぽてん、と最後の一言だけをのこして、こあくまは小さな寝息を立て始めた。
「いい人ですね。小悪魔さんは」
「……そうですね」
なんとなく、すぅすぅと可愛い寝息を立てるこあくまの頭を撫でる。
いつも嫉妬の上海はというと、徹夜の疲れがあったのか、春良の頭の上で器用に眠っていた。
しかし、
「わ、私!私も置いていったらダメだよ!」
もう一人、嫉妬してくる者がいることを、早苗はしっかりと把握していた。