東方春命録   作:Poteto305

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「ちょ、ちょっと!どこ掴んでるのよ!」

「どこ掴むって、必死にしがみついてるんだから分かるかよ!」

「もっとこう、下!下を掴んで!」

「わかったから、アクロバットな飛行は勘弁してくれないか!?」

「あぁもう、落とそうかしら…」

「聞こえてる!呟いたつもりかも知れないけどばっちり聞こえてるからな!?」

「……なまじ魔理沙と似てるから…ちょっと変な気持ちになるじゃない…」

「え?ごめん、今度は聞こえなかった」

「き、聞かなくていいわよ。掴まりなさい」

「……おう」

「…もうちょっと、強く」

「お、おう?」



ようやく訪れた平穏を糧に
ようやく訪れた平穏を糧に・壱符


 

「は、春良さんが、冥界に!?」

「だから、ずっと前から言ってたじゃないかい…」

「神奈子、なんで止めなかったのよ!」

「だから、止める間もなかったって、さっきから言ってるだろう…?」

 

ダン!とちゃぶ台を勢いよく叩いて吠える諏訪子に対し、神奈子は呆れた様子で言葉を放つ。

 

「あーぅー…。頭痛いぃー…」

 

大声を出したせいか、揺れる頭を押さえ、諏訪子がちゃぶ台に突っ伏す。

 

「小悪魔さんは、もう大丈夫なんですか?」

「は、はい……だいぶ良くなりました…」

「頭を押さえながら言われても、信用できないんですけど…」

 

昼過ぎになっても頭を抱え続ける二人を見て、早苗は素直な感想を漏らす。

かれこれ何時間も冥界に行きたがり、頭痛に倒れると言うサイクルにとらわれていた。

 

「しようがないねぇ…」

「神奈子様?」

 

よっこいせ、と妙に年寄りじみた声を上げながら神奈子が立ち上がる。

神奈子は一息つくと、そのまま外へ足を踏み出した。

 

「ど、どこに行くんですか?」

「冥界だよ。これじゃぁこっちがたまったもんじゃないからねぇ」

「そ、それでしたら、私も行きます!」

「早苗は二人の様子を見といてくれよ。……私は居ても何もしないからねぇ」

 

そう言って、神奈子が屈んだ瞬間。

それは、空から降ってきた。

 

「……!?」

 

ズドン!と神奈子の背後に落ちたソレは、地面に大きなクレーターと砂煙を形成する。

少しの時間の後、風で砂煙が晴れ、ソレがしっかりと視界に入る。

 

「……ほら、ついたわよ。降りなさい」

「しがみつけって言ったり、降りろって言ったり、無茶苦茶だぞ…。とにかく、ありがとな」

 

眼鏡を直しながらため息をつく外来人。

戌井春良だ。

 

「……はぁー…」

「あ、神奈子さん。急に居なくなったりしてすいませんでした…」

「……ま、あんたのせいじゃないからねぇ。気にしないでいいよ」

「私、諏訪子様達に言ってきますね」

 

妙に嬉しそうな表情の早苗が、家の中へ駆け込んでいく。

 

「……ん?その横のやつは?」

「アリス・マーガトロイドよ。一応、魔法の森で人形作りをしているわ」

「あぁ、あんたが『七色の人形遣い』かい、うちの連れが世話になったみたいで、わるかったねぇ」

「別に、この程度だったら面倒の内にも入らないわよ」

 

ぷい、と顔を逸らすアリスを見ると、何故か笑顔になってしまう。

春良の隣の上海も、笑顔でアリスを見つめていた。

 

「春良さんっ!」

「こあ、ただいま。……?」

 

縁側から裸足で飛び出し、春良に抱きつくかと思われたが、途中で急激に失速、地面に倒れ込んだ。

 

「お、おい、こあ!?大丈夫か!?」

「春良っ!」

「諏訪子!ただい……ま…」

 

続いて飛び出てきた諏訪子も途中で倒れ込み、こあくまの上に重なる。

 

「……早苗さん、これは?」

「……二日酔い、です」

「…………」

「…………すいません…」

 

静かに謝る早苗に苦笑を見せ、春良は二人を起こした後、縁側に座り込んだ。

 

「そういえば、アリスはこれからどうするんだ?」

「普通に帰るだけね。上海の事、頼むわよ」

「少しくらい休んでいかないのか?」

「別に疲れてもいないわよ」

 

どうしてそんなに強がるのかは理解できなかったが、アリスが若干居づらそうにしているのは分かった。

上海は人見知りで、子は親に似るという言葉からしても、微妙に感づけるが。

春良は立ち上がり、アリスにそっと耳打ちし始めた。

 

「本当に、ありがとうな。別に無理して引き留める訳じゃないからさ」

「だから、大したことじゃないって言ってるじゃない…」

「たまに顔見せてくれると、凄く嬉しいんだけど」

「……ッ!?な、何言ってるのよ…!」

「……上海が」

 

何故か、本当に何故か、春良はアリスの操る人形に追いかけ回される事となった。

 

「……帰るわ」

「……おう…。本当に、ありがとうな…」

 

息を切らしながら、別れの挨拶を済ませる。

ふわっ、と軽い感覚で浮き始めたアリスは、少し春良を見た後、顔を逸らし、

 

「たまに、様子を見に来るわ」

 

若干赤い顔で、そう言った。

 

「貴方のじゃないわよ。上海の様子を見に来るのよ」

「分かってるって。それじゃぁな」

「…………」

 

背中を見せながら手を振るアリスは、すぐに見えなくなった。

 

「こっちからもたまに様子見に行くか?上海」

「……」

「……上海?」

 

笑顔で頷いてくれると思ったのだが、何故か上海はふくれっ面で複雑そうな表情をしていた。

 

「「……」」

「す、諏訪子にこあも、なんでそんなに不服そうな顔してるんだ…?」

「……戌井さん……もうちょっと周りの人の気持ちに気づきましょうよ…」

 

はぁ、とため息をつく早苗を見ても、勿論春良に色恋の事が分かるはずもなく、

 

(帰ってきたばかりなのに、騒がしくしたからか…?後でちゃんと謝っておこう…)

 

こうとしか思えない、どうにも残念でもったいない人間だった。

 

「それじゃ、上がってください。疲れてるでしょう?」

「あ、ありがとうございます…」

 

気まずい空気は置いておいて、皆でいつもの畳部屋に座る。

 

「それで、どうだったんだい?」

「どうだった?」

「『使命』とやらは終えれたのかい?」

 

一体どこから取り出したのか、とっくりで酒を飲みながら聞く神奈子。

 

「残念ながら、使命はありませんでした」

「そうかい。ま、気を落とさずに頑張りなよ」

 

言葉だけでなく、心から言ってくれている事が素直に届いてくる。

一体どのような人生を送れば、これほどの寛容さを持てるようになるのだろうか。

 

「次は、どこへ行く予定なんですかぁ……?」

「いや、特に決まってないけど。……とりあえず、こあは休んどけって」

「次は、私を置いていかないでくださいよ…」

 

ぽてん、と最後の一言だけをのこして、こあくまは小さな寝息を立て始めた。

 

「いい人ですね。小悪魔さんは」

「……そうですね」

 

なんとなく、すぅすぅと可愛い寝息を立てるこあくまの頭を撫でる。

いつも嫉妬の上海はというと、徹夜の疲れがあったのか、春良の頭の上で器用に眠っていた。

しかし、

 

「わ、私!私も置いていったらダメだよ!」

 

もう一人、嫉妬してくる者がいることを、早苗はしっかりと把握していた。

 

 

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