東方春命録   作:Poteto305

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ようやく訪れた平穏を糧に・参符

 

「しかし……」

「しかし?」

「やっぱり私達って、そういう風に見えてしまうんでしょうか…」

 

ぽつりと呟いた早苗の言葉が理解出来ず、春良は首を傾げる。

そんな朴念仁に気がついたのか、早苗は若干紅い顔で付け加える。

 

「彼氏彼女に、見えてしまうものなんでしょうか…?」

「はいっ!?」

 

首から上だけをグリンと回し、春良は早苗を見る。

シャンプーやリンスも無いはずの幻想郷でも、早苗の髪はさらさらと風に溶けていた。

 

「ふふ、冗談ですよ」

「あぁ……そうですか、驚かさないでくださいよ」

「戌井さんも、可愛い所があるんですね」

「……俺だからまだしも、早苗さんはタダでさえ可愛いんですから、そう言うことむやみやたらと言わない方が…」

「……え?……私、可愛い、ですか…?」

「え、あ、ちが、いや、違くはないんですけど!」

「……」

「……」

 

沈黙。

互いにやってしまった、と視線を落として顔を紅くするが、それで事態が変わるわけでもない。

 

(そういう、ことですか……。こういう天然に、小悪魔さんはやられてしまったんですね…)

 

頭だけ冷静なふりをしているが、早苗は今自分の右手と右足が一緒に出ていることに、気づきはしなかった。

 

「……ん?」

 

気まずい雰囲気のまま下り、山の麓辺りまで来ると、若干開けた地形に変わった。

小さな広場の中央に、誰かが居る。

 

「踊ってるのか…?」

 

くるくるくるくる。

時には片足、時には両足で回り続ける少女を、春良は見つめる。

そして、早苗が手を伸ばした。

 

「鍵山さん」

「……誰?」

「いや、止まってくれれば誰か分かると思います」

「っとっとっと…。……あぁ、山の神社の…」

 

ようやく止まったゴスロリ風の少女は、深い緑の髪の両サイドを胸の前で縛る、という奇抜な髪型をしている。

 

「東風谷早苗です。そして、こちらの方が戌井春良さんです」

「えっと、外来人です。宜しくお願いします」

「貴方が居候の?私は鍵山雛……あ、それ以上近づかないで」

「え?」

 

にとりの時のように握手を求めようとするが、一歩近づくと、鍵山 雛(カギヤマ ヒナ)も一歩退いてしまった。

 

「私の能力、『厄をため込む程度の能力』だから。近づくと厄が降りかかるわよ」

「…………」

 

感情をあまり持っていないように、笑う雛に、春良は一瞬言葉を失う。

そして、その後それ以上の笑みを見せた。

 

「改めて、宜しくお願いします」

 

強引に手を取り、握手を交わす。

変なものを見るような目つきで、雛は春良を見つめた。

 

「貴方、聞いてなかったの?この後何が起きても知らないからね?」

「厄っていうのは、不幸なものなんですか?」

「災厄とかなら分かるでしょう?そりゃぁ不幸よ」

 

不機嫌そうに顔を逸らす雛に、春良は不思議そうに首を捻ってみせる。

 

「今は幸せなんですから、それで良いじゃありませんか」

「……っ?!」

 

バッ、と手を離し、雛は春良から一歩退く。

 

「やっぱり、知り合いが増えるってなんか安心できていいですよね。鍵山さんみたいな人がいて良かったです」

「……どうせ、厄が降りかかったら私のことを酷い目で見るようになるわ」

「自分より人の事を心配する優しい人を酷い目で見るわけ無いじゃないですか」

「…………っ!」

 

ぼっ、と雛の顔が茹でたように紅くなる。

それを遠目に眺めていた早苗は、ふぅ、とため息をついた。

 

(天然の被害者、一人追加ですかね……)

 

自分はきっとまだ被害者じゃないはず。

そう思いつつも、若干自分の顔が紅く染まっていることに、気づけない早苗ではなかった。

と、そこで。

 

「ぅおわ!?」

 

また雛に一歩近づこうとした春良の足が何かに引っかかり、前のめりに倒れる。

 

「あぶなっ…!」

 

それを、必然的に目の前にいた雛が阻止した。

反射的にとはいえ、自分から他人に近づいたことに、若干の反省をしていると、

 

「す、すいません。ありがとうございます」

「……言ったでしょう。厄が降りかかるって」

「……でも、助けてくれましたよね?」

「……そこの巫女。……東風谷だったかしら?」

「あ、はい。そうですけど」

「こいつ、早くどこかへ連れて行きなさい」

 

ぽい、とまるで物のように投げられた春良を、危なげなくキャッチする。

 

「そ、それでは、失礼しました」

「あの、鍵山さん」

「……何よ」

「……また躓いた時は、支えてやってください」

「……早く行きなさい。躓く程度じゃすまなくなるわよ」

 

しっしっ、と振られた手に、苦笑いした春良は前を向いて歩き出すが、早苗だけはその手をずっと見ていた。

 

(……被害者一人追加、確定ですね)

 

最初は前後に振られていた手だったが、春良が目を離した瞬間から、横に小さく振られているのを、しっかりと確認した。

 

 

 

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