東方春命録   作:Poteto305

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ようやく訪れた平穏を糧に・肆符

「それじゃぁ、後は……」

「静葉お姉ちゃん!これで今年の秋も豊作だね!」

「そうよ、穣子!私達の秋がやってくるのよ!」

 

ザックザックと。

クワで地面を耕す二人の少女が春良達の前にいた。

 

「ねぇねぇ、何植える?お芋?」

「それも良いわね。お芋を育てましょう!」

「あの……」

 

紅い服に身を包む二人の少女が、周りも気にせずにクワを振るう姿に、春良は思わず声をかけた。

 

「だ、誰!?」

「あ、俺は戌井春良です。外来人で……」

「わ、私達の畑は壊させないわよ!かかってきなさい!」

「あの、話を…」

「静葉お姉ちゃん!ここは私に任せて逃げて!」

「何を言うの穣子!可愛い妹を置いて私が逃げるはずないじゃない!」

「静葉お姉ちゃん!」

「穣子!」

 

クワを放りひっしと抱き合う二人を見て、春良は視線を早苗へと向ける。

早苗はその視線に、ため息をつきつつも説明を始めてくれた。

 

「こちらのお二人は、秋穣子さんと、秋静葉さんです」

 

名字が秋で一緒ということは、姉妹なのだろうか。

早苗の存在に気づいたのか、秋穣子(アキ ミノリコ)と秋静葉(シズハ)は抱き合った姿勢のまま勢いよく立ち上がった。

 

「「神社の巫女?」」

「はい。お久しぶりです。秋さん」

「「うわ!まとめて呼ばれた!」」

 

まったく同じリアクションで驚き同じ言葉を発する秋姉妹は、見ていて飽きなかった。

 

「えっと、何をしてるんですか?」

「「ん?戌井春良君だっけ?」」

 

なんだかんだで話は聞いていたらしく、春良の事も覚えてくれそうだ。

 

「はい。外来人です」

「へぇ…。私は畑を耕していたの」

「私は静葉お姉ちゃんの手伝いをしてた!」

 

見たまま、と言うことらしく、二人は何故か誇らしげに胸を張った。

その姿を見つつ、早苗はにこやかに告げる。

 

「秋さんは、幻想郷の『秋』を司る神様なんですよ」

「か、神様!?諏訪子とか神奈子さんみたいな!?」

「「いやぁ、そこらへんと比べると肩身は狭いけど……」」

 

なはは、と笑う二人に、春良は冷や汗を一滴たらした。

 

「そっちは何してたの?」

「山と近辺の方々に、戌井さんの挨拶を」

「近辺…。私達で終わり?」

「……ですね。人里の方は、また後日伺うことになりそうです」

「「じゃ、私達は人里に行くから、会った人には伝えておくよ」」

「あ、ありがとうございます!」

 

いいよいいよー、とまたも同時に笑う二人を見つめる。

もみじが一枚、足元に落ちたかと思うと、二人の姿はどことも無く消えていた。

 

「……なんか、神様って親しみやすいんですね」

「親しみから信仰をいただくのも、神の仕事みたいなものですから」

「……良い、仕事ですね」

「はい!」

 

にぱっ、と笑う早苗に、こちらも笑顔になる。

これで挨拶回りは終わりということらしいので、春良はまた情けなく早苗におぶさった。

 

「ただいま帰りました」

「おぉ、どうだったんだい?」

 

鳥居をくぐり、縁側に座る三人プラス一人形と目を合わせる。

早苗は、えっとですね、と少し考えるそぶりを見せた後、おもむろにこうこぼした。

 

「私と戌井さん。付き合ってるみたいです」

「「「!!??」」」

「ちょ、早苗さん!?」

 

一気に目を見開いた諏訪子、こあくま、上海の三人が口をぱくぱくさせて言葉を失っていた。

 

「ま、とりあえず悪いことはなかったみたいで、良かったよ」

「いや、良くないですからね!?盛大に勘違いしたままにしないでください!」

 

そう声を上げるが、三人はぷるぷると震えるのみで、弁明は聞いてくれそうにもなかった。

 

「ふーん……。春良は、早苗みたいな子がタイプなんだぁ……」

「す、諏訪子…?」

「もしかして、冥界に一人で行ったのも、後ろめたいことがあったからなんですか…?」

「こあ?顔が怖いぞ?……ど、どうして二人とも弾幕を展開し始めるんだ…?」

「……」

「しゃ、上海まで!?……し、親愛!!」

 

逃げるためにスペルカードを唱えようとした瞬間、上海に押さえつけられ、こあくまにカードを奪われ、春良は神の裁きを受けることとなった。

 

「俺が、一体何を……」

 

ぼろぼろになってうずくまる春良の近くに、早苗が座り込む。

 

「すいません、戌井さん。諏訪子様達、こうでもしないと自分の気持ちを確認してくれなさそうでしたから…」

「気持ち?どんなですか?」

「…………いえ、なんでもないです」

 

あれほどストレートに嫉妬の念を見せられたというのに、それでも気づかない春良に早苗はため息をもらすと、ふと思い出したように指を立てた。

 

「あ、買い出しに行くのを忘れてました…」

「買い出しですか?」

「は、はい。でも、私は今から結界の点検もしないと…」

「……忙しいなら、お使いくらいしますよ?」

 

立ち上がりつつ、春良が言う。

居候もして、食事まで作ってもらっているのだから、これくらいのことはもはや義務だ。

 

「しかし、人里の場所が…」

「諏訪子は知らないんですか?一緒に行けば大丈夫ですよ」

「……すいません。お願いします」

「はい。お願いされました」

 

買い物リストを渡し、宜しくお願いしますと丁寧にお辞儀をした早苗は、結界とやらの様子を見に行くのか、小走で駆け出した。

晩ご飯の買い出しならば、時間はかけられない。

 

「諏訪子ー!いるかー!?」

「……どうしたの?何か用事?」

 

ぴょこ、と案外すぐに見つかってくれた諏訪子に、簡単に説明をする。

 

「なるほどね。晩ご飯が無いのは私も嫌だし。手伝うよ」

 

口では渋々だが、本心は嫌ではない。

そんな風な表情で、諏訪子は首を縦に振ってくれた。

 

「春良さん、どちらへ?」

「こあか、人里に買い出しに行くんだ」

 

靴を履いて歩き出そうとしたところで、上海を連れたこあくまに声を掛けられた。

正直に目的を伝えると、上海はすぐに春良の肩に乗った。

 

「お、一緒に行くか?上海」

 

こくこくと嬉しそうに頷く上海の頭を撫で、こあくまに向き直る。

 

「それじゃ、こあは留守番たのん…」

「わ、私は行っちゃ駄目なんですか!?」

「え?いや、構わないけど……。なぁ?」

 

諏訪子を見ると、少々不機嫌そうに、まぁ、と賛同してくれた。

 

「留守は神奈子さんだけになるな…。早苗さんは仕事みたいだし」

 

帰りに日本酒を買ってこないといけないな。

春良はふとそんなことを思っていた。

 

「んじゃ、行こっか」

「おぉ、なんか楽しみだな」

「私も、人里へ行くことはあまり無いので、楽しみです!」

 

春良の前で、こあくまと諏訪子が屈む。

その姿勢のまま動かないかと思うと、二人同時に声を発した。

 

「春良?早くおぶさりなよ」

「春良さん?早く乗ってください」

 

ばっ!と互いに見あう二人。

その後、急に立ち上がるや否や、春良に詰め寄り、

 

「春良は、私におんぶされていくんだよね!?」

「春良さんは、私が抱きかかえて行くんですよね!?」

「いやごめん……どっちでもいいから早く買い出しに…」

 

春良の言葉に沈黙したかと思うと、二人は拳を握りしめ、高く上げた。

 

 

「「……じゃーんけーん!」」

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