結局も結局、春良は諏訪子に背負われ、魔法の森上空を飛ぶこととなった。
隣を飛ぶこあくまが、時々こちらを指をくわえて見つめていた。
「それで、何を買うの?」
「メモには、晩御飯の材料と……もう一枚のメモは、……薬?」
「何の薬なんですか?」
「いや、バッテンされてる。頼もうとして止めたのか…?」
ふわふわと上海が春良の肩に座る。
風が気持ちいいのか、上海は春良の頬に体を預け、手を振っていた。
「じゃあ良いんじゃない?晩御飯だけで」
「だな、ぱっと済ませるか」
スピードを少し上げ、諏訪子達は空を駆ける。
「あの、春良さん」
「ん?どうした?こあ」
「……向こうには、人間が沢山いるんですよね?」
「まぁ、人里だしな……」
「ちょっと、怖いです…」
「……」
悪魔と人。
やはり、違いがある人種では、『何か』が起きてしまうものなのだろう。
その『何か』が、今のこあくまの表情を生み出している。
その事実が、春良には痛い程に把握できてしまった。
それでも、こあくまは春良と人里へ行くことを、楽しみだと言っていた。
「大丈夫だって、俺も諏訪子も、上海だっているからな」
「……はい!そうですね!」
それに偽りはないと、信じたい。
ふと、諏訪子の高度が下がる。
下を見ると、いわゆる昭和時代の町並を覗くことができる。
「ここが人里か?」
「そうだよ。いつもここで買い物していくんだけど」
「……行くか」
外と里中の、明確な境界はないが、春良は何となくここからが人里だという境界線を越した。
「……ここにも、結界が…?」
「あれ?わかるの?」
「なんとなくだけど…」
こう、薄いゼリーのような、されどべたつくことのない壁を通り越すような感覚だ。
それもかなり薄い感覚だが、確かに春良は何らかの力を感じた。
「それは里隠しの結界だ」
「……ん?」
ふと、人里の中の方から、誰かが歩いてきた。
ミニチュアの家のような形の帽子を頭に乗せている女性は、どこか退屈そうに息を吐いた。
「旅の方か?すまないが、こちらにこのくらいの女の子は来なかったか?」
自分の腰より少し上辺りに手をやる女性を見た後、諏訪子以外の三人が一斉に諏訪子を見つめる。
「わ、私はそんなに小さくない!」
「確かに、その子ではないな。申し遅れたが、私は上白沢慧音。寺子屋で教えを説いている者だ」
神妙そうに一礼する上白沢慧音(カミシラサワ ケイネ)に、春良も慌てて一礼を返した。
慧音は辺りを見まわし、目当ての少女は居ないことを悟ると、また春良に向き直った。
「ふむ…一体どこへいったのやら…」
「その子が、どうかしたんですか?」
差し出がましいとは分かっていても、春良は口を出さずにはられなかった。
「いや、少しばかり気むずかしい子で、寺子屋を飛び出してしまったんだ」
「……諏訪子」
「なんとなく言いたいことはわかるけど……何?」
「俺、その子捜すの手伝うわ」
はぁ、と諏訪子のため息が春良まで届いたが、春良はソレを気にすることは無かった。
「助かるが……貴方は貴方で用があるのではないか?」
「買い物は、三人にお願いして大丈夫か?」
「正直買い物は一人で十分だし、別に大丈夫……」
と、そこまで言って諏訪子が気づいたことが一つ。
いつのまにやらこあくまと上海が春良の隣にいる。
「ちょ、ちょっと、貴方も買い物を…」
「ひ、一人いれば大丈夫なんですよね?」
上海に任せるのは酷というもの。
となると、のこるは二人。
「「…………」」
何秒か空気が止まり、慧音が心配そうな顔をしだした瞬間。
二人は大きく手を振り上げた。
「「……じゃーんけーん!」」