「…………」
「お嬢ちゃん可愛いからこれサービスだよ!」
「……ありがとう…」
「あんまり遅くなると親が心配するから、早く帰りなさいねぇ」
「……うん」
「迷子?お母さんとお父さんはどこにいるの?」
「……いないし、迷子じゃない」
「こらこら、子どもが無理しちゃだめだよ」
「……私、神様なんだけど」
「あぁ、そうか、神様ごっこならお家にかえってお母さんと…」
「あぁ、もう!私が何百年生きてると思ってるの!これだから一人はいやなのよっ!!」
少年は、永遠の月を眺める・壱符
「…………」
あれから5分ほどしか時間は経っていないはずなのに、春良達の周りは全く違う景色に変わっていた。
「……妹紅さん。ここは…?」
「迷いの竹林。ここの道を把握してるのはあたしぐらいなんだよ」
「……詳しいんですか?」
「まぁ、ここに何年もいるからな」
上海とこあくまはこういう雰囲気が苦手なのか、春良の左腕にしがみついている。
そして、もう一人。
「チルノ、大丈夫か?」
「な、何いってんのよ!サイキョーのあたいが怖いわけないじゃない!」
罪悪感からなのか、チルノもこの一行に加わっていた。
どう考えても歩きづらい上に、右腕の感覚が少しずつ無くなっていっている。
「……っ」
ときおり来る痛み。
最初は指先が動かない程度だったのが、今では手首まで凍ってきている。
「……一応言っておくケド」
「は、はい?」
「これから連れて行くところ、永遠亭の奴らには、あたしに案内されたって言うなよ」
「……わ、わかりました」
妹紅の少し仏頂面な顔を見て、春良は体を強張らせる。
心底嫌がるわけでもないが、仕方がないな程度の表情だ。
「あれだ」
「あれが、永遠亭…?」
いきなり竹林が消えたかと思うと、目の前には白玉楼とはまた違う日本風の家が堂々と存在していた。
「それじゃ、あたしは帰る。後は自分で何とかしろよ」
「あ、はい。ありがとうございました」
妹紅は春良とすれ違い、竹林へと歩き出したかと思うと、ボゥ、と火の粉になって消えてしまった。
「よ、妖怪だったのか…?」
「い、いえ、人間の気でしたけど…」
春良の疑問をすぐにこあくまが解いてくれる。
それと同時に、人間の定義が良く分からなくなってきた春良だった。
「……行こう」
「お先っ!」
「あ、こらチルノ!」
竹林を越えて怖さが消えたのか、お調子者が一人門を飛び越え永遠亭へ飛んでいった。
「俺達も行こう!上海、こあ!」
「はい!」
失礼をして治療を断られるわけにもいかない。
春良達は永遠亭の門を開いた。
「失礼しまー……」
「春良さん!」
その瞬間、何故か、本当に何故か小さめの丸太が春良に向かって転がってきた。
しかし、それに対しての上海の反応は素早く、丸太を弾幕で破壊した。
「あ、ありがとう。上海」
「あれ!?レイセンじゃないウサ!?」
続いて聞こえてきた声に視線を向けると、そこには兎がいた。
「もしかして客人ウサ…?こ、これはまずいことしたウサ…」
丸いモコモコ兎耳に、兎の尻尾を生やした、兎の娘がそこにいた。
「もしかして今の、君が…?」
春良が恐る恐る聞くと、兎の子はビクッと震えてこちらを向いた。
「い、いや?知らないウサ」
「そっか、ならいいんだ。俺ここにいる医者に用があるんだけど…」
「い、いいんですか?明らかにその子の仕業だと思いますけど…」
こあくまの指摘に春良は、でも違うかも知れないだろ?と笑顔を見せた。
呆れつつも、こあくまと上海は兎の子に視線を送った。
「医者…。あ、お師匠様ウサか」
「えっと、案内してくれるかな?」
「仕方がないウサね」
てぽてぽと歩いていく兎の子についていき、永遠亭へと入る。
まさに日本というか、説明するほどでもない感じの家だ。
「俺、外来人の戌井春良。こっちがこあくまで、こっちが上海」
「わっちはてゐウサ。ここにいる兎達をまとめてるウサ」
兎のリーダー、てゐ(テイ)はふり返らず廊下を歩きつつ返答する。
背の高さはチルノと同じくらいだろうか。
「そういえば、ここに女の子がこなかったか?羽が氷でできてる子なんだけど…」
「チルノウサか?あいつだったら見てないウサ」
「そっか…」
ぴた、とてゐが止まる。
目の前に、大きな四枚伏間があった。
「ここに居るウサよ」
春良の心の準備も待たず、てゐは伏間を開いた。
「お師匠様、お客ウサ」
「あら、ありがとう。てゐ」
その伏間の奥。
椅子に座る一人の女性の姿が目に入った。
「……診察希望かしら?」
振り向いたその人は、兎に角美しかった。
赤と青の二色で彩られた服に十字つきの帽子。
なるほど、見た目だけで信用できそうなのが分かった。
「あ、は、はい。お願いします」
言うと同時に、春良は右手を差し出す。
右手を手に取り、ほんの少しだけ眺めると、薬師はにっこりと笑って、
「このままだと、もげるわよ」
「「もげる!?」」
こあくまと春良の声が重なる。
にっこりとした笑顔のまま薬師は淡々と告げる。
「今後の状態と言っては、まず凍って、腐る間もなく砕けもげるわね」
「砕けもげる……」
げんなりする春良をこあくまが優しく包む。
顔を上げたこあくまが、薬師に問いただす。
「ち、治療法は…ないんですか?」
「あるわよ?」
「あるんですか。良かったぁ…」
「そんなもの、私が作った薬に掛かれば一網打尽よ」
腕もろとも一網打尽にしないかは心配だが、そこまでの自信なら大丈夫そうだ。
そう思った春良は、若干明るい声で告げた。
「じゃ、じゃぁ、その薬、頂いても宜しいですか?」
「無理よ」
「無理なんですか!?」
「薬を作る材料が足りないわ」
さっきはあるような口ぶりだったのに、今度は心配になってくる。
「そ、その材料は…?」
「分からないわ」
「……えと、それでどんな薬を?」
「主に腕を蘇生する薬ね。作ったことがないから、レシピもこれからだけど」
調合はレシピにおさめるのだろうか、と春良は疑問に思うが、それよりもたくさんの疑問が浮かぶ。
「つ、作れるんですか?」
「ええ、だってそれができるのが私だもの」
足を組み、薬師は更に淡々と告げる。
「この八意永琳、『あらゆる薬を作る程度の能力』の持ち主と言われているくらいだから」
自信満々に、足を組み替える八意永琳(ヤゴコロ エイリン)その人は、すぐに机へと向かう。
おそらく、調合書を書いているのだろう。
「その腕も明後日までは持つはずよ。今日はとにかく待ちなさい、明日になったら材料を揃えるから」
そう言った永琳の背中を眺め、じゃぁ今日は帰るか?てきな雰囲気になった瞬間、廊下から騒がしい音が聞こえてきた。
音はだんだん近づいてきて、伏間を開いた。
「師匠!てゐはどこですか!?」
「優曇華、騒がしいわよ?」
それだけなら良かった。
伏間を開いて入ってきた子は春良と同じくらいの年頃の女の子で、てゐとは違った長いウサ耳を装着していた。
「ぁ…………」
それだけなら良かった。
そのウサ耳の子は、なぜかスカート一枚で上半身裸だったのだ。