「「「…………」」」
ふり返った永琳も、ウサ耳の子の姿を目にしたからか、言葉が出ていなかった。
春良も男であり、手で隠しているいわゆる女の子の部分に目が行くのを、抑えることは少しの時間が経たないと無理だった。
「…………っっ!!」
ぼっ、とウサ耳の子の顔が真っ赤になったかと思うと、胸を隠している右腕はそのままに、春良に左手を向けた。
その手は、人差し指と親指がピンと立てられていて、どこか銃に見える。
「……このッ…!」
その手から放たれた一発の銃弾。
おそらく弾幕の一種であろうそれは、春良の顔面へ一直線に走った。
「ちょっ……!?」
間一髪。
仰け反って髪一本でかわす。
すると、その弾丸は春良の背後にいた永琳に向かう。
そして、
「あ」
ガシャーン、と永琳に当たることはなかったが、その弾丸は机の上の物を蹴散らした。
「…………」
「……優曇華?」
「……はい」
春良は、ふり返って永琳を見ることができなかった。
あまりに、背後からほとばしるオーラが尋常ではなかったのだ。
「……薬にするわよ?」
「す、すすすいませんでしたっ!ごめんなさい!」
上半身裸のその子は、すでに戦意を失っており、随分と腰が低くなっていた。
「……それで、どうかしたのかしら?」
それから少しの時が過ぎ、ウサ耳の子は制服を羽織り、どうにかいつもの格好になったようだ。
「……トラップバケツに水が入ってて、服が濡れたから上だけでも脱いで乾かしてたんですけど…」
恐らく、この永遠亭には女性しかいないのだろう。
そうでもなければ、そんなことができるはずがない。
「どうせ今回もてゐの仕業だと思って、師匠に尋ねに来たんです…」
「まぁ、あいにくだけど、私は知らないわ。……それよりも」
「あ、はい…」
永琳の意図を読んだのか、ウサ耳の子は春良達に体を向けて、頭を大きく下げた。
「鈴仙・優曇華院・イナバです。初対面で失礼なことをして、すいませんでした…」
「あ、いや、こっちこそ、ごめん」
両サイドのふくれっ面の二人が気にはなるが、なんとなしに頬が紅くなってしまう。
鈴仙・優曇華院・イナバ(レイセン・ウドンゲイン)は顔を上げ、視線を泳がせる。
「鈴仙さん?」
「あまり私の目を見ない方がいいですよ。狂いますから」
「……え?」
「私の能力は、『狂気を操る程度の能力』です。この赤眼は、それを司ってますから」
確かに、兎らしく真っ赤な目をしている。
その目を見て、春良は少し目眩を起こした。
「……っと…」
「春良さん…?」
「言ったじゃないですか。師匠、この方々はどうするんですか?」
「帰られても困るから、ここで一夜を過ごして貰うわ」
適当に部屋に案内して頂戴、と永琳は手をひらひらと振る。
その様子に、鈴仙ははい、と頷いて春良を部屋の外へと連れ出した。
「さて、と……これはどうしたものかしらねえ……」
永琳の呟きは、誰にも届かず、まだ明るい外へと響いた。
「……あの、鈴仙さん?」
「はい?」
「敬語、使わなくていいですよ?」
縁側廊下を歩き、春良は前を歩く鈴仙に声をかける。
後ろについてくる上海とこあくまは、随分大人しかった。
「患者には、敬語が基本になってるんですよね…」
「いや、無理にとはいわないですよ?」
「たまに、外します。そっちも敬語はいらないですよ?」
全然敬語のままだが、こちらは外しても良い物か、と悩むが、申し出があったのなら仕方がない。
「わかった。なんて呼べばいい?」
「普通に、鈴仙でいいですよ。それが元名ですから」
「鈴仙な。俺は戌井春良。好きなように呼んでいいから」
「はい、わかりまし…………」
ピタ、と鈴仙の足が止まる。
不思議に思った春良が、腋から鈴仙の前を見ると、そこにはてゐがいた。
てぽてぽと歩いていたてゐは、こちらを発見した瞬間、即座に回れ右、ダッシュして行った。
「こ、こら!てゐ!待ちなさーい!」
よっぽど先ほどのことが頭に来ているのか、鈴仙は春良達を置いててゐを追いかけていった。
さてどうしようか、と春良達が考えていると、ふと空気が冷えた。
「……チルノ?」
「サイキョーのあたいを見つけるなんて、なかなかね!」
ひょこ、と縁側の下からチルノが顔をだした。
かくれんぼでもしていたのだろうか。
「あれ?はるよしじゃない。てゐは?」
「今は鬼ごっこしてると思うけど……」
「えぇ!?あたいをさしおいて遊ぶなんて……。これはおしおきがひつようね!」
ひゅぁっ、と飛んでいったチルノを眺めて、こあくまが呟く。
「皆さんへの連絡、どうしましょうか…?」
「……あ」
問題なんて、無いときが無いくらいに多かった。
「ま、まぁ、なんとか、なるだろ……」
また正座させられるのか、と春良は額の汗を拭おうとするが、右手は動かなかった。
左腕で拭き取り、とりあえず鈴仙が走っていった方向へ歩く。
「……」
その様子を見ていたこあくまは思っていた。
(……そうです。春良さんは右手が使えないから、私が春良さんを守らないと…!)
ぎゅっ、と拳を握り、こあくまは決心と共に春良の後を追う。
残った上海も、思いは同じ。
春良を助けたい。
これまでも、これからも、一緒にいたいから。
「……れいせーん!」
「う、ウサぁ!わっちは何もしてないウサ!本当ウサ!」
「そんな嘘なんども聞いたわよ!大人しく勘弁しなさい!」
「後生ウサぁ……」
廊下の向こう側から、てゐの首根っこを掴んだ鈴仙が戻ってくる。
「てゐ、大丈夫か?」
「お、さっきの客人ウサか!?わっちの無実を証明してくれウサ!」
「……え、知り合い?」
「さっき、永琳さんの部屋まで案内してもらったんだ」
小さなからだでじたばたと暴れるてゐの頭を撫でると、こあくまが不機嫌そうに呟く。
「やっぱりその子、いたずらっ子なんじゃないですか?」
「やっぱり?てゐ、まさか怪我人にいたずらしたの!?」
「てゐは違うって言ってたから、違うと思うんだけどな…」
とりあえず、本人のコトは本人の言葉を信じる。
数多い、春良の中のお約束事だった。