東方春命録   作:Poteto305

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少年は、永遠の月を眺める・弐符

 

「「「…………」」」

 

ふり返った永琳も、ウサ耳の子の姿を目にしたからか、言葉が出ていなかった。

春良も男であり、手で隠しているいわゆる女の子の部分に目が行くのを、抑えることは少しの時間が経たないと無理だった。

 

「…………っっ!!」

 

ぼっ、とウサ耳の子の顔が真っ赤になったかと思うと、胸を隠している右腕はそのままに、春良に左手を向けた。

その手は、人差し指と親指がピンと立てられていて、どこか銃に見える。

 

「……このッ…!」

 

その手から放たれた一発の銃弾。

おそらく弾幕の一種であろうそれは、春良の顔面へ一直線に走った。

 

「ちょっ……!?」

 

間一髪。

仰け反って髪一本でかわす。

すると、その弾丸は春良の背後にいた永琳に向かう。

そして、

 

「あ」

 

ガシャーン、と永琳に当たることはなかったが、その弾丸は机の上の物を蹴散らした。

 

「…………」

「……優曇華?」

「……はい」

 

春良は、ふり返って永琳を見ることができなかった。

あまりに、背後からほとばしるオーラが尋常ではなかったのだ。

 

「……薬にするわよ?」

「す、すすすいませんでしたっ!ごめんなさい!」

 

上半身裸のその子は、すでに戦意を失っており、随分と腰が低くなっていた。

 

「……それで、どうかしたのかしら?」

 

それから少しの時が過ぎ、ウサ耳の子は制服を羽織り、どうにかいつもの格好になったようだ。

 

「……トラップバケツに水が入ってて、服が濡れたから上だけでも脱いで乾かしてたんですけど…」

 

恐らく、この永遠亭には女性しかいないのだろう。

そうでもなければ、そんなことができるはずがない。

 

「どうせ今回もてゐの仕業だと思って、師匠に尋ねに来たんです…」

「まぁ、あいにくだけど、私は知らないわ。……それよりも」

「あ、はい…」

 

永琳の意図を読んだのか、ウサ耳の子は春良達に体を向けて、頭を大きく下げた。

 

「鈴仙・優曇華院・イナバです。初対面で失礼なことをして、すいませんでした…」

「あ、いや、こっちこそ、ごめん」

 

両サイドのふくれっ面の二人が気にはなるが、なんとなしに頬が紅くなってしまう。

鈴仙・優曇華院・イナバ(レイセン・ウドンゲイン)は顔を上げ、視線を泳がせる。

 

「鈴仙さん?」

「あまり私の目を見ない方がいいですよ。狂いますから」

「……え?」

「私の能力は、『狂気を操る程度の能力』です。この赤眼は、それを司ってますから」

 

確かに、兎らしく真っ赤な目をしている。

その目を見て、春良は少し目眩を起こした。

 

「……っと…」

「春良さん…?」

「言ったじゃないですか。師匠、この方々はどうするんですか?」

「帰られても困るから、ここで一夜を過ごして貰うわ」

 

適当に部屋に案内して頂戴、と永琳は手をひらひらと振る。

その様子に、鈴仙ははい、と頷いて春良を部屋の外へと連れ出した。

 

「さて、と……これはどうしたものかしらねえ……」

 

永琳の呟きは、誰にも届かず、まだ明るい外へと響いた。

 

「……あの、鈴仙さん?」

「はい?」

「敬語、使わなくていいですよ?」

 

縁側廊下を歩き、春良は前を歩く鈴仙に声をかける。

後ろについてくる上海とこあくまは、随分大人しかった。

 

「患者には、敬語が基本になってるんですよね…」

「いや、無理にとはいわないですよ?」

「たまに、外します。そっちも敬語はいらないですよ?」

 

全然敬語のままだが、こちらは外しても良い物か、と悩むが、申し出があったのなら仕方がない。

 

「わかった。なんて呼べばいい?」

「普通に、鈴仙でいいですよ。それが元名ですから」

「鈴仙な。俺は戌井春良。好きなように呼んでいいから」

「はい、わかりまし…………」

 

ピタ、と鈴仙の足が止まる。

不思議に思った春良が、腋から鈴仙の前を見ると、そこにはてゐがいた。

てぽてぽと歩いていたてゐは、こちらを発見した瞬間、即座に回れ右、ダッシュして行った。

 

「こ、こら!てゐ!待ちなさーい!」

 

よっぽど先ほどのことが頭に来ているのか、鈴仙は春良達を置いててゐを追いかけていった。

さてどうしようか、と春良達が考えていると、ふと空気が冷えた。

 

「……チルノ?」

「サイキョーのあたいを見つけるなんて、なかなかね!」

 

ひょこ、と縁側の下からチルノが顔をだした。

かくれんぼでもしていたのだろうか。

 

「あれ?はるよしじゃない。てゐは?」

「今は鬼ごっこしてると思うけど……」

「えぇ!?あたいをさしおいて遊ぶなんて……。これはおしおきがひつようね!」

 

ひゅぁっ、と飛んでいったチルノを眺めて、こあくまが呟く。

 

「皆さんへの連絡、どうしましょうか…?」

「……あ」

 

問題なんて、無いときが無いくらいに多かった。

 

「ま、まぁ、なんとか、なるだろ……」

 

また正座させられるのか、と春良は額の汗を拭おうとするが、右手は動かなかった。

左腕で拭き取り、とりあえず鈴仙が走っていった方向へ歩く。

 

「……」

 

その様子を見ていたこあくまは思っていた。

 

(……そうです。春良さんは右手が使えないから、私が春良さんを守らないと…!)

 

ぎゅっ、と拳を握り、こあくまは決心と共に春良の後を追う。

残った上海も、思いは同じ。

春良を助けたい。

これまでも、これからも、一緒にいたいから。

 

「……れいせーん!」

「う、ウサぁ!わっちは何もしてないウサ!本当ウサ!」

「そんな嘘なんども聞いたわよ!大人しく勘弁しなさい!」

「後生ウサぁ……」

 

廊下の向こう側から、てゐの首根っこを掴んだ鈴仙が戻ってくる。

 

「てゐ、大丈夫か?」

「お、さっきの客人ウサか!?わっちの無実を証明してくれウサ!」

「……え、知り合い?」

「さっき、永琳さんの部屋まで案内してもらったんだ」

 

小さなからだでじたばたと暴れるてゐの頭を撫でると、こあくまが不機嫌そうに呟く。

 

「やっぱりその子、いたずらっ子なんじゃないですか?」

「やっぱり?てゐ、まさか怪我人にいたずらしたの!?」

「てゐは違うって言ってたから、違うと思うんだけどな…」

 

とりあえず、本人のコトは本人の言葉を信じる。

数多い、春良の中のお約束事だった。

 

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