「ま、まぁ、本人が違うって言ってるんだし、離してやれよ」
「流石、優しいウサね。レイセンとは大違いウサ」
「……てゐ?」
「う、嘘ウサ、もちろん嘘ウサ」
はぁ、と鈴仙のため息と共にてゐが廊下に降りる。
「いやー、助かったウサ」
「まぁ、てゐは俺達の案内をしてくれてたから、そんないたずらする暇がなかったと思うぞ?」
「あ、そういえば……」
鈴仙がはっと気づいたように口を押さえる。
それから、慌てた様子でてゐに合わせて屈んだ。
「ご、ごめんねてゐ。勘違いしちゃったみたいで…」
「いいウサ、いいウサ。それ以外はわっちの仕業だから」
「それ以外?」
春良がてゐの言葉につっこむ。
すると、てゐは何故か誇らしげに胸をはって言った。
「濡れ濡れだった鈴仙を発見したから、近くにあった着替えを全部隠したウサ…………ウサ?」
がし、と再びてゐの体が浮く。
狂気を司る瞳が、紅く怪しく輝いていた。
「てゐ。一度狂ってみる?」
「く、口が、口が滑ったウサ!客人!助けてくれウサ!」
「すまん。これは無理だわ」
早々に諦めた春良は、鈴仙の案内でこあくまと上海と共に部屋に入る。
外から、兎の鳴き声が無情に響いてきた。
「……バケツのいたずらしたの、チルノだろ?」
「ぅえ!?なんで分かったの!?」
部屋に入ってすぐ、春良はそんな言葉を漏らした。
てゐの断末魔を聞きながら、ぽつりぽつりと呟く。
「服の裾が濡れてるのと、消去法……いたずらしなれてる子なら、バケツなんていたずらやり疲れてると思うし」
後で謝っておけよ、と呟いて、春良は布団を人数分敷いた。
上海は自分の布団に入ってくるだろうし、結果三人分だが。
「春良さん。もう寝るんですか?」
「正直昼間だから眠る気にはなれないけど、することもないしなぁ…」
片手が使えないので、サジタリウスの特訓をすることもできない。
「あ、美鈴さんとの訓練復習しとこ」
「あ、ご一緒します」
「いや、見られるとなんか恥ずかしいし、皆は休んでてくれ」
伏間を開き、春良は外へと歩く。
動けるほどの広さの中庭に来ると、春良は片腕を使わない動きだけを復習し始めた。
「……ふぅ…っ!」
シュッ、ビッ、と鋭い音が響く。
片腕だけであっても、周りの仲間は守らなくてはならない。
その思いが、春良の体を動かしていた。
「弾幕も、濃くできるように頑張らないとな……」
タン、タタン、と足踏みの音が中庭に響く。
春良の鍛錬は、なんとそれから4時間ほども続いた。
「……」
少女は、空の月を眺めていた。
その存在が許される夜中。
「……月面都市」
遥か高みに顕現するそれを少女は眺め、唇を噛みしめる。
生い茂る竹薮の中、少女は竹のように耳をピンと立たせた。
「……なぁ、今日もなのか?」
「……!」
そこへ、もう一人の少女がやってきた。
少し落ち着いた感じの少女は同じように月を眺める。
「アイツのとこの奴だから、あまり好きにはなれないけど、……こう、目の前で悲しい顔されたら、ね」
「……別に、そんなつもりじゃない」
「あたしが何年生きてると思ってるのさ。嘘は通用しないし、嫌いなんだ」
やってきた少女は、身を翻して、また竹薮の中へと戻っていく。
その姿を少女はじっと見つめた。
「まぁ、あたしやアイツに比べたら、あんたは相当短い命だ」
「……」
「短い生涯。せいぜい笑いなよ」
一つのほのかな明かりが、一瞬灯る。
少女がいなくなった後、ため息をついて少女はまた耳をとがらせる。
自分が何をするべきなのか、知りもしないで。
洩矢諏訪子は、焦っていた。
「春良は!?」
「帰ってないよ」
買い物から帰ってきたというのに、居候が二人と一人形帰ってこない。
「早苗!」
「わ、わかりません。諏訪子様と一緒にいたんじゃないんですか?」
頼りの綱も手がかりは持っていない。
諏訪子は、ダン、とちゃぶ台を叩いた。
「……また、私を置いて…!」
「そうカリカリするもんじゃないよ。戌井なら大丈夫さ」
「死にかけたんだよ!?早苗の奇跡と、私が助けなかったら、本当に!」
思った以上の声に、神奈子は少し面倒だね、と思う。
今まで以上に、心配し、焦っているのだ。
「……」
ここで、冥界で三つ目の奇跡も使用していたことを諏訪子に伝えれば、更に混乱するだろう。
そう考えた早苗は、そっと口を結んだ。
「……すまない。ここは山の神社であっているか?」
そこに、一人の女性が顔を出した。
「……ん?どちら様だい?」
「失礼した。私は人里で寺子屋を開いている上白沢慧音と言う者だ」
「……なんの用?」
諏訪子のぴりぴりとした態度を読み取ったのか、慧音がもともとそういう性格なのか、慧音は落ち着いた口調で口を紡いだ。
「こちらで居候していると聞いた。戌井春良と言う者についてなんだが…」
「……えっと、今、なんて?」
次の日の朝。
現在永遠亭に世話になっている春良は、永琳の言葉を聞き返した。
そんな春良に、永琳は当然のように言う。
「だから、材料が足りないと言ってるの」
「そ、そんな!」
二回目の言葉に、こあくまが立ち上がる。
上海も、信じられないのか、永琳の前までつんのめっている。
「た、足りない材料って、なんなんですか?」
「……手に入れるのが難しくて、だけど簡単な物、かしら」
「……師匠。もったいぶらないで教えてあげてください」
あら、ごめんなさい、と永琳はちっとも悪ぶれた顔はせず口を開いた。
「……永遠の血液」
「っ!師匠!?」
「……永遠の、血液…?」
ガタン、と次は鈴仙が立ち上がる。
材料に心当たりがあるのか、その顔は安心とはかけ離れた物だった。
「ど、どうしてそんな物が必要なんですか?」
「腕の活性を永遠の物とするためよ。それがないと、20分くらいが限度ね」
ちなみに、これが試薬品、と永琳は粉が入った小さな小瓶を取り出した。
「永遠の血液って、どんな物なんですか?」
「その名の通り、永遠に生きる者の血液よ」
「永遠って…不老不死ってことですか?」
こくり、と永琳が頷く。