東方春命録   作:Poteto305

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少年は、永遠の月を眺める・参符

 

「ま、まぁ、本人が違うって言ってるんだし、離してやれよ」

「流石、優しいウサね。レイセンとは大違いウサ」

「……てゐ?」

「う、嘘ウサ、もちろん嘘ウサ」

 

はぁ、と鈴仙のため息と共にてゐが廊下に降りる。

 

「いやー、助かったウサ」

「まぁ、てゐは俺達の案内をしてくれてたから、そんないたずらする暇がなかったと思うぞ?」

「あ、そういえば……」

 

鈴仙がはっと気づいたように口を押さえる。

それから、慌てた様子でてゐに合わせて屈んだ。

 

「ご、ごめんねてゐ。勘違いしちゃったみたいで…」

「いいウサ、いいウサ。それ以外はわっちの仕業だから」

「それ以外?」

 

春良がてゐの言葉につっこむ。

すると、てゐは何故か誇らしげに胸をはって言った。

 

「濡れ濡れだった鈴仙を発見したから、近くにあった着替えを全部隠したウサ…………ウサ?」

 

がし、と再びてゐの体が浮く。

狂気を司る瞳が、紅く怪しく輝いていた。

 

「てゐ。一度狂ってみる?」

「く、口が、口が滑ったウサ!客人!助けてくれウサ!」

「すまん。これは無理だわ」

 

早々に諦めた春良は、鈴仙の案内でこあくまと上海と共に部屋に入る。

外から、兎の鳴き声が無情に響いてきた。

 

「……バケツのいたずらしたの、チルノだろ?」

「ぅえ!?なんで分かったの!?」

 

部屋に入ってすぐ、春良はそんな言葉を漏らした。

てゐの断末魔を聞きながら、ぽつりぽつりと呟く。

 

「服の裾が濡れてるのと、消去法……いたずらしなれてる子なら、バケツなんていたずらやり疲れてると思うし」

 

後で謝っておけよ、と呟いて、春良は布団を人数分敷いた。

上海は自分の布団に入ってくるだろうし、結果三人分だが。

 

「春良さん。もう寝るんですか?」

「正直昼間だから眠る気にはなれないけど、することもないしなぁ…」

 

片手が使えないので、サジタリウスの特訓をすることもできない。

 

「あ、美鈴さんとの訓練復習しとこ」

「あ、ご一緒します」

「いや、見られるとなんか恥ずかしいし、皆は休んでてくれ」

 

伏間を開き、春良は外へと歩く。

動けるほどの広さの中庭に来ると、春良は片腕を使わない動きだけを復習し始めた。

 

「……ふぅ…っ!」

 

シュッ、ビッ、と鋭い音が響く。

片腕だけであっても、周りの仲間は守らなくてはならない。

その思いが、春良の体を動かしていた。

 

「弾幕も、濃くできるように頑張らないとな……」

 

タン、タタン、と足踏みの音が中庭に響く。

春良の鍛錬は、なんとそれから4時間ほども続いた。

 

 

 

「……」

 

少女は、空の月を眺めていた。

その存在が許される夜中。

 

「……月面都市」

 

遥か高みに顕現するそれを少女は眺め、唇を噛みしめる。

生い茂る竹薮の中、少女は竹のように耳をピンと立たせた。

 

「……なぁ、今日もなのか?」

「……!」

 

そこへ、もう一人の少女がやってきた。

少し落ち着いた感じの少女は同じように月を眺める。

 

「アイツのとこの奴だから、あまり好きにはなれないけど、……こう、目の前で悲しい顔されたら、ね」

「……別に、そんなつもりじゃない」

「あたしが何年生きてると思ってるのさ。嘘は通用しないし、嫌いなんだ」

 

やってきた少女は、身を翻して、また竹薮の中へと戻っていく。

その姿を少女はじっと見つめた。

 

「まぁ、あたしやアイツに比べたら、あんたは相当短い命だ」

「……」

「短い生涯。せいぜい笑いなよ」

 

一つのほのかな明かりが、一瞬灯る。

少女がいなくなった後、ため息をついて少女はまた耳をとがらせる。

自分が何をするべきなのか、知りもしないで。

 

 

 

洩矢諏訪子は、焦っていた。

 

「春良は!?」

「帰ってないよ」

 

買い物から帰ってきたというのに、居候が二人と一人形帰ってこない。

 

「早苗!」

「わ、わかりません。諏訪子様と一緒にいたんじゃないんですか?」

 

頼りの綱も手がかりは持っていない。

諏訪子は、ダン、とちゃぶ台を叩いた。

 

「……また、私を置いて…!」

「そうカリカリするもんじゃないよ。戌井なら大丈夫さ」

「死にかけたんだよ!?早苗の奇跡と、私が助けなかったら、本当に!」

 

思った以上の声に、神奈子は少し面倒だね、と思う。

今まで以上に、心配し、焦っているのだ。

 

「……」

 

ここで、冥界で三つ目の奇跡も使用していたことを諏訪子に伝えれば、更に混乱するだろう。

そう考えた早苗は、そっと口を結んだ。

 

「……すまない。ここは山の神社であっているか?」

 

そこに、一人の女性が顔を出した。

 

「……ん?どちら様だい?」

「失礼した。私は人里で寺子屋を開いている上白沢慧音と言う者だ」

「……なんの用?」

 

諏訪子のぴりぴりとした態度を読み取ったのか、慧音がもともとそういう性格なのか、慧音は落ち着いた口調で口を紡いだ。

 

「こちらで居候していると聞いた。戌井春良と言う者についてなんだが…」

 

 

「……えっと、今、なんて?」

 

次の日の朝。

現在永遠亭に世話になっている春良は、永琳の言葉を聞き返した。

そんな春良に、永琳は当然のように言う。

 

「だから、材料が足りないと言ってるの」

「そ、そんな!」

 

二回目の言葉に、こあくまが立ち上がる。

上海も、信じられないのか、永琳の前までつんのめっている。

 

「た、足りない材料って、なんなんですか?」

「……手に入れるのが難しくて、だけど簡単な物、かしら」

「……師匠。もったいぶらないで教えてあげてください」

 

あら、ごめんなさい、と永琳はちっとも悪ぶれた顔はせず口を開いた。

 

「……永遠の血液」

「っ!師匠!?」

「……永遠の、血液…?」

 

ガタン、と次は鈴仙が立ち上がる。

材料に心当たりがあるのか、その顔は安心とはかけ離れた物だった。

 

「ど、どうしてそんな物が必要なんですか?」

「腕の活性を永遠の物とするためよ。それがないと、20分くらいが限度ね」

 

ちなみに、これが試薬品、と永琳は粉が入った小さな小瓶を取り出した。

 

「永遠の血液って、どんな物なんですか?」

「その名の通り、永遠に生きる者の血液よ」

「永遠って…不老不死ってことですか?」

 

こくり、と永琳が頷く。

 

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