「あたいはサイキョーだから、そんなのいらないわね!」
いたのか。
そんな視線がチルノへと向けられる。
「タッチウサ」
「あ!」
そして、静かに外からやってきたてゐがチルノにタッチすると、すぐさま逃げていく。
チルノはそれを追いかけていった。
鬼ごっこをしているみたいだ。
「永遠…。吸血鬼とかですかね?」
「あれも永遠ではないわ。ほとんど不死だけど、不老ではないもの」
これが通れば、レミリアかフランにお願いすることができたのだが、そうそう上手くはいかない。
「あれ?でも師匠、それだったら…」
「優曇華、ストップよ」
「むぐ?」
口をふさがれ、鈴仙の言葉が遮られる。
その様子を見て、こあくまが口を開いた。
「でも、簡単に手に入るものでもあるって、さっき言ってましたよね?」
「そうね。誰が持っているかは皆知ってるもの」
「だ、誰ですか?」
こあくまがずい、と永琳に顔を近づける。
永琳はそれから少し距離を取ると、
「……それは…」
「その話、私に良い案があるわよ?」
スゥ、と伏間が急に開く。
突如現れたその人は、一言で表すと美しさの固まりだった。
「ひ、姫様…?」
鈴仙がほとんど絞り出すような声を出した。
姫様、そう呼ばれた女性は、美しい黒髪をたなびかせ、着物を僅かに引きずると、春良の前に座った。
「あ、貴方は…?」
「私は蓬莱山輝夜。……ここの主、とでも言っておこうかしら」
怪しく、されど美しく微笑む蓬莱山輝夜(ホウライサン カグヤ)は、永琳へと体を向け、再び笑う。
「永琳、構わないわよね?」
「……姫が、それで良いと仰るなら」
今までと少し違う、敬うような永琳の口調から、春良は輝夜の存在の強さを悟った。
「それで、良い案って…?」
そこで、我慢出来なくなったのか、こあくまが話を切り出した。
あぁ、そうね、と再びこちらに向き直った輝夜は、口を開く。
「永遠の血液。ここにあったのだけど、それを盗んだ奴がいてね…」
「……盗む?」
「えぇ、それを取り返してくれたら、何割かは使わせてあげても構わないわよ?」
ふと、考える。
盗むのなら、使うがほとんどの目的のはずだ、取り返すと言っても、それがなかったら骨折り損しかない。
なのに、輝夜はなぜか確信を持った表情で春良に語りかけてくる。
「誰が盗んだのか、分かるんですか?」
「えぇ。あなた達も、すでに顔見知りなはずだけどね」
「……俺が、ですか?」
正直、分からなかった。
吸血鬼はアウト、神様なんて、生きているのかという定義さえ怪しい。
天狗に河童、果ては魔法使いまで知り合いにはなったが、どれも永遠とはかけ離れている。
「ひ、姫様、もしかして…」
「優曇華」
口を出そうとした鈴仙は、永琳の一声で体を固まらせた。
その姿を見てか、ただ空気を読んだか、輝夜はゆっくりと口を開いた。
「……藤原妹紅。知っているでしょう?」
「……!?」
ここまで無償で案内をしてくれた、一人の女性が頭に浮かぶ。
そんなはずはない、そう伝えようとする。
「そんな……」
「あいつは、良いのは外面だけよ。騙されてはいけない」
「……っ」
輝夜の視線が、真っ直ぐに春良に突き刺さる。
息が、詰まる。
「それに、貴方は結局あいつに立ち向かうことになるわ」
「……?……どうしてですか?」
「『先手』は、すでに打たれているもの」
「……え?」
ガタン、と不意に春良の隣から音が聞こえた。
春良がそちらを向くと、そこには、
「……っ!?……っは…!」
「こ、こあ!?」
倒れ込み、自分の胸を押さえ込むこあくまの姿があった。
「は、……はる、よし…っは…さん……」
「こあ!大丈夫か!?」
苦しそうに体を小さく丸めるこあくまに手を当てる。
その様子を見て、何でもないかのように輝夜は続けた。
「胸が焼けるように熱いでしょう?妹紅の妖術のせいよ」
「妖術…!?…これを、妹紅さんがやったっていうんですか!?」
「えぇ。あなたを挑発しているのよ。こうなることを見込んでね」
ぎり、と春良の歯が音を立てる。
そこにあるのは、怒りだ。
「……このままだと、こあはどうなるんですか」
「死にはしないわ。ただし、内蔵を焼かれ、勝手に修復され、また焼かれる」
その痛みを、繰り返すことになるわね、と輝夜は冷たく言い放った。
「は、春良さん……」
「……こあ、待っててくれ。すぐに戻るから」
「……はぁっ…!…だ、…だめ、です…!」
「上海も、ここにいてくれ」
びく、と上海の体が強張る。
その言葉は、お願いではなかった。
命令によく似た、必死に自分を押さえつけている言葉だ。
「……あいつはなかなか強いわよ?」
「……関係ないです。絶対に、こあを治してもらいます」
自分のためではない。
だからこそ、危ういのだ。
「春良、これを持って行きなさい」
「……試薬品…?」
「効果はどれだけ長く見積もっても、30分。見極めなさい」
「…ありがとうございます」
小さな小瓶を受け取ると、春良はこあくまに向き直る。
こあくまは、春良に心配させまいと、必死に息を殺し、畳を掴んで体が動くのを押さえていた。
そして、それが分からないほど、春良は他人をよく見ない男では、なかった。
「……待ってろ。こあ」
タン、と伏間を開き、春良はその場から姿を消した。
残された人々は、各々が語る。
「優曇華、この子を休める部屋に連れて行きなさい」
「は、はい…」
「それが終わったら、春良についていって手伝いをしてやりなさい」
「……はい!」
こあくまを抱え、鈴仙が姿を消す。
上海もそれについていき、部屋には輝夜と永琳の二人だけとなった。