大きな太陽から放出されてくる無数の火球。
「……っ!!」
バスケットボールよりも大きいそれを、刀でいなし、時に切る。
妖夢の力だけあってか、慣れが全くない刀であっても、それなりに扱うことが出来た。
(……あの人間。違和感が多すぎる)
手を挙げ、春良を眺める妹紅がふと思う。
(ほとんど攻撃してこない…。本当に耐えるだけか?)
急ぐようなことを言いながらも、他人を傷つけようとはしない。
妹紅が犯人だと、決めつけていないのもあるかもしれない。
(……面白いじゃないか)
火球の数が、増える。
(冗談っ……!)
熱さと疲れから、汗が春良の額を伝う。
何故か楽しそうな妹紅を見て、春良は小さくしゃがんだ。
(……ん?来るか?)
「……人符」
どんな攻撃が来るのか、楽しみでたまらないような妹紅を、見据える。
「……『現世斬』!!」
(……ッ!?)
人間が出せる速度では無かった。
一瞬、本当に一瞬、春良と妹紅の間に火球が無くなり、道が出来た瞬間。
春良は、一気に飛び込んだ。
(……速い。これは一本取られたか…?)
首を切られる一瞬前だと言うのに、妹紅は対したそぶりも見せない。
ヒュゥッ、と風が妹紅の首を凪いだ。
「……はっ……はぁっ…!」
「……見事だな」
首筋ぎりぎりで止められた刀に視線を落とし、妹紅は笑う。
完全に体力切れの春良は、刀から力を抜いた。
「……だが」
その瞬間。
妹紅が、刀を刃ごとを鷲づかみにした。
「!?」
「あたしにとって、これは負けじゃないんだよ」
「何を――」
言ってるんですか、と言うことさえ出来なかった。
パチャ、と液体が春良の顔にかかる。
妹紅が、自分の首を切ったのだ。
「……っ…!」
鮮血が、弱々しく吹き出る。
「これでも、あたしは死ねない」
ぽつり、とかろうじて繋がっている首から上で、口が動いた。
「な、なん、で……」
「これが罪、そして罰。誰から背負わされた物でもない。あたしが自分でした事の代償」
がし、とぶらぶら揺れる頭を掴むと、それを強引に元の位置に戻した。
「……ぅぁ…」
「死ねない、死なない、死なせてくれない。老いて亡くなることすら許されない」
ぐちゃ、なんていう音で十分だ。
春良はそれを見ることが出来なかった。
「あれ。……死なない…?」
「そうさ。お前もそういうやつに対する言葉くらい知ってるだろう?」
「まさか……」
――誰がもっているか、皆知ってるもの――。
首もとに視線をやる。
血がついているだけで、傷跡は完全に無くなっていた。
「『死ぬことも老いることもない程度の能力』。……不老不死さ」
ところどころがこげた竹林の真ん中で、妹紅は空を眺めた。
月は、まだ出ていない。
「さて、次はお前の番だ。語ってもらうぞ」
「…………」
にっ、と爽やかに笑う妹紅は、どこから見ても信用できた。
だからこそ、春良も遠慮無く口に出せる。
「…………実は……」
「……無事、なんですか?」
「お、おう。心配ありがとな」
「なんだ。あたしがむやみやたらと殺しをするやつに見えるのか?」
「普段の姫様との戦闘を見ていれば、誰だってそう思いますよ」
ほとんど嘘だ。
それが妹紅からの最初の言葉だった。
妹紅は血を盗んでなんかいないし、妖術もかけていない。
完璧に誤認だった。
「あの、本当にすいませんでした…」
「気にするなって言ってるだろう?あの馬鹿輝夜に騙されてただけだからな」
右手を動かす。
いつの間に時間を過ぎたのか、全く動かなかった。
(そう言えば、最初は20分で、次は30分だったな…)
曖昧すぎる。
試薬品だから仕方ないのかもしれないが。
「不老不死の血。必要なんだって?」
「あ、はい。そうなんです」
「あたしがやっても良いが、それよりも輝夜の方が良いな」
「輝夜さん…?」
何故輝夜なのか、春良が疑問に思っていると、鈴仙が小さく耳打ちしてきた。
「……姫様も、不老不死です」
「……え……えぇ!?」
「ついでに言うと、師匠もです」
「はぁぁ!?」
手に入れるのは簡単だが、ある意味難しいもの。
つまり、近くは簡単だが、妹紅にもらうのは難しい。
そう言う意味だったのだ。
「妹紅さんは、輝夜さんのことが嫌いなんですか……?」
「嫌いなんてもんじゃない。それこそ殺したいくらいに憎いさ」
ま、あたしもあいつも死なないけど、と表情をまったく変えないままに呟く妹紅に、なんとなくかける言葉をなくす。
「今から会っても、殺し合いはやめてくださいね」
「あたしからはしないさ。向こうから来たときは、どうかわからないけどな」
ぼぅ、と小さなかがり火を灯す妹紅。
永遠の命のおかげで、妖術を会得するまでの時間もできたから、こうして力を得れた。
どこか、悲しい力だ。
「そういえば、こあが苦しんでたのは…?」
「きっともう元気ですよ。師匠もそう計算して薬を作ったはずですから」
「まったく、悪ふざけくらいはいいが、あたしを巻き込まないで欲しいな」
妹紅が呟くのと同時に、目の前の竹が揺れる。
一度止まって眺めてみると、そこから小さな兎が顔を出した。
「てゐの使い?てゐに帰ってきたって伝えてくれる?」
こく、と一度頷いた兎は、また竹林へと戻っていく。
迷うことはないのだろうか、と春良は思うが、実際のところ、ここは迷いの竹林である。
先先と前を進む妹紅に置いて行かれないよう、春良は小走りで駆けた。