東方春命録   作:Poteto305

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少年は、永遠の月を眺める・陸符

大きな太陽から放出されてくる無数の火球。

 

「……っ!!」

 

バスケットボールよりも大きいそれを、刀でいなし、時に切る。

妖夢の力だけあってか、慣れが全くない刀であっても、それなりに扱うことが出来た。

 

(……あの人間。違和感が多すぎる)

 

手を挙げ、春良を眺める妹紅がふと思う。

 

(ほとんど攻撃してこない…。本当に耐えるだけか?)

 

急ぐようなことを言いながらも、他人を傷つけようとはしない。

妹紅が犯人だと、決めつけていないのもあるかもしれない。

 

(……面白いじゃないか)

 

火球の数が、増える。

 

(冗談っ……!)

 

熱さと疲れから、汗が春良の額を伝う。

何故か楽しそうな妹紅を見て、春良は小さくしゃがんだ。

 

(……ん?来るか?)

「……人符」

 

どんな攻撃が来るのか、楽しみでたまらないような妹紅を、見据える。

 

「……『現世斬』!!」

(……ッ!?)

 

人間が出せる速度では無かった。

一瞬、本当に一瞬、春良と妹紅の間に火球が無くなり、道が出来た瞬間。

春良は、一気に飛び込んだ。

 

(……速い。これは一本取られたか…?)

 

首を切られる一瞬前だと言うのに、妹紅は対したそぶりも見せない。

ヒュゥッ、と風が妹紅の首を凪いだ。

 

「……はっ……はぁっ…!」

「……見事だな」

 

首筋ぎりぎりで止められた刀に視線を落とし、妹紅は笑う。

完全に体力切れの春良は、刀から力を抜いた。

 

「……だが」

 

その瞬間。

妹紅が、刀を刃ごとを鷲づかみにした。

 

「!?」

「あたしにとって、これは負けじゃないんだよ」

「何を――」

 

言ってるんですか、と言うことさえ出来なかった。

パチャ、と液体が春良の顔にかかる。

 

妹紅が、自分の首を切ったのだ。

 

「……っ…!」

 

鮮血が、弱々しく吹き出る。

 

「これでも、あたしは死ねない」

 

ぽつり、とかろうじて繋がっている首から上で、口が動いた。

 

「な、なん、で……」

「これが罪、そして罰。誰から背負わされた物でもない。あたしが自分でした事の代償」

 

がし、とぶらぶら揺れる頭を掴むと、それを強引に元の位置に戻した。

 

「……ぅぁ…」

「死ねない、死なない、死なせてくれない。老いて亡くなることすら許されない」

 

ぐちゃ、なんていう音で十分だ。

春良はそれを見ることが出来なかった。

 

「あれ。……死なない…?」

「そうさ。お前もそういうやつに対する言葉くらい知ってるだろう?」

「まさか……」

 

――誰がもっているか、皆知ってるもの――。

 

首もとに視線をやる。

血がついているだけで、傷跡は完全に無くなっていた。

 

「『死ぬことも老いることもない程度の能力』。……不老不死さ」

 

ところどころがこげた竹林の真ん中で、妹紅は空を眺めた。

月は、まだ出ていない。

 

「さて、次はお前の番だ。語ってもらうぞ」

「…………」

 

にっ、と爽やかに笑う妹紅は、どこから見ても信用できた。

だからこそ、春良も遠慮無く口に出せる。

 

「…………実は……」

 

 

「……無事、なんですか?」

「お、おう。心配ありがとな」

「なんだ。あたしがむやみやたらと殺しをするやつに見えるのか?」

「普段の姫様との戦闘を見ていれば、誰だってそう思いますよ」

 

ほとんど嘘だ。

それが妹紅からの最初の言葉だった。

妹紅は血を盗んでなんかいないし、妖術もかけていない。

完璧に誤認だった。

 

「あの、本当にすいませんでした…」

「気にするなって言ってるだろう?あの馬鹿輝夜に騙されてただけだからな」

 

右手を動かす。

いつの間に時間を過ぎたのか、全く動かなかった。

 

(そう言えば、最初は20分で、次は30分だったな…)

 

曖昧すぎる。

試薬品だから仕方ないのかもしれないが。

 

「不老不死の血。必要なんだって?」

「あ、はい。そうなんです」

「あたしがやっても良いが、それよりも輝夜の方が良いな」

「輝夜さん…?」

 

何故輝夜なのか、春良が疑問に思っていると、鈴仙が小さく耳打ちしてきた。

 

「……姫様も、不老不死です」

「……え……えぇ!?」

「ついでに言うと、師匠もです」

「はぁぁ!?」

 

手に入れるのは簡単だが、ある意味難しいもの。

つまり、近くは簡単だが、妹紅にもらうのは難しい。

そう言う意味だったのだ。

 

「妹紅さんは、輝夜さんのことが嫌いなんですか……?」

「嫌いなんてもんじゃない。それこそ殺したいくらいに憎いさ」

 

ま、あたしもあいつも死なないけど、と表情をまったく変えないままに呟く妹紅に、なんとなくかける言葉をなくす。

 

「今から会っても、殺し合いはやめてくださいね」

「あたしからはしないさ。向こうから来たときは、どうかわからないけどな」

 

ぼぅ、と小さなかがり火を灯す妹紅。

永遠の命のおかげで、妖術を会得するまでの時間もできたから、こうして力を得れた。

どこか、悲しい力だ。

 

「そういえば、こあが苦しんでたのは…?」

「きっともう元気ですよ。師匠もそう計算して薬を作ったはずですから」

「まったく、悪ふざけくらいはいいが、あたしを巻き込まないで欲しいな」

 

妹紅が呟くのと同時に、目の前の竹が揺れる。

一度止まって眺めてみると、そこから小さな兎が顔を出した。

 

「てゐの使い?てゐに帰ってきたって伝えてくれる?」

 

こく、と一度頷いた兎は、また竹林へと戻っていく。

迷うことはないのだろうか、と春良は思うが、実際のところ、ここは迷いの竹林である。

先先と前を進む妹紅に置いて行かれないよう、春良は小走りで駆けた。

 

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