東方春命録   作:Poteto305

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少年は、永遠の月を眺める・漆符

 

「ただ今帰りましたー」

 

がこ、と門を開いて中へ入っていく鈴仙に続いて、春良達も中へ入る。

とにかく、こあくまが心配でしょうがなかった。

 

「鈴仙、こあは!?」

「あの部屋だと思いますけど」

「こあ!」

 

鈴仙が指さした伏間を開き、中を覗く。

学習能力が無い、というのはこういうことを言うのかも知れない、と春良は一瞬考えた。

 

「…………え」

 

伏間の奥のこあくまの顔色はとても良かった。

顔色、とは言わず、体色、とも言っても良いかもしれない。

 

「…………あ」

 

簡単に述べると、着替え中。

ちょうどいつものワンピースを手に取った下着姿のこあくまが、硬直して春良を見つめていた。

 

「……は、はは、る、春、良、さん……?」

「い、いや、違うんだ、こあ。これは不可抗力ってやつで…」

 

手を振って抗議しようとするが、悲しいかな男の性。

その視線はくぎ付けになっていて、説得力が皆無だ。

 

「い、いいですから、早くしめてください――っ!!」

 

ピシャン、と勢いよくしめられた伏間に、春良は小さく仰け反る。

後ろから、鈴仙と妹紅が近づいてきた。

 

「……狙ったんですか…?」

「……お前、随分変わってるんだな」

「ち、違いますよっ!!」

 

若干引き気味の二人についていき、春良は急いでその場から離れた。

三人で並んで伏間を開くと、中にはとてもリラックスモードの輝夜達が居た。

 

「あら、生きてたのね」

 

第一声がそれか。

思わず口から出かけた言葉を慌てて飲み込み、春良は目の前の輝夜を真っ直ぐ見る。

 

「……加担した私もだけど、ちょっと度が過ぎていたわ。ごめんなさい、春良」

 

その隣の永琳がぺこりと頭を下げる。

何というか、悪いのは輝夜だけのような気がしてきた。

 

「おい、蓬莱山。調合に使う血はお前の血を使え。それがコイツへの謝罪にもなる」

「嫌よ」

「…………あ?」

 

ぴくっ、と妹紅のこめかみ辺りが小さく動く。

 

 

「なんで貴方にそれを指図されないといけないのかしら?藤原」

「……あたしが穏便にすませてやろうとしてるんだぞ?輝夜」

「……呼び捨てとは何よ、妹紅」

 

バチィッ、と火花が二人の間で散る。

まずい雰囲気だってことだけは、春良達にも十分に伝わってきた。

 

「ひ、姫様も、妹紅さんも、少し落ち着いてください」

「……大体なんだ、いっつも引きこもってばかり。蓬莱ニートが」

「……竹林でいつも一人の奴に言われたくないわね。蓬莱ホームレス」

「なんだと?」

「なによ?」

 

自分のことで喧嘩しているはずだったのに、その張本人である春良は、何故かとてもいたたまれなかった。

 

 

 

「輝夜ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああッ!!」

「だから、呼び捨てにしてんじゃないわよ妹紅っ!!」

 

 

 

結局、こうなっちゃうんですよね、と鈴仙が耳を力なく垂らしてげんなりする。

竹林の方から聞こえてくる容赦無い爆音を聞きながら、永琳は立ち上がった。

 

「春良、来なさい」

「うぇ?お、俺ですか?」

「えぇ、私の血で作った薬をあげるわ」

「あれ?師匠、作ってあったんですか?」

「そりゃぁ、一応患者だもの。薬は用意するわよ」

「す、すいません。なんか…」

「姫のわがままも、少しはなくなるといいのだけれどね」

 

伏間の向こうへ消えていった永琳に、春良は慌ててついていく。

一人、部屋に残された鈴仙は、小さく笑った。

 

「……ふぅ…」

 

息を漏らして、空を見上げる。

昼頃だというのに、もう星がうっすらと見えている。

 

「月は見えないなぁ……」

 

たはは、と困ったように笑い、視線を落とす。

伏間の横から、小さな兎が顔を出した。

 

「……てゐ」

「レイセン、何してるウサか?」

「……何でもないわよ。ほら、仕事に戻りなさい」

 

立ち上がって、外へと向かう。

妹紅の炎のせいか、太陽の輝きのせいか、外は大分暖かかった。

 

「……動くかしら?」

 

一本の注射を打たれると、そこから腕がどんどん温かくなっていくのを、春良は感じた。

恐る恐る手に力を加えると、ゆっくりとその手は握られた。

 

「……動きます」

「そう。それは良かった」

「あ、ありがとうございます」

「礼は良いわよ。仕事だし、罪滅ぼしだから」

 

ぐっぱ、ぐっぱ、と久しぶりの感覚に少しわくわくしてくる。

試薬の時は、麻痺が全体にかかっているような感覚だったのだ。

 

「春良さん、大丈夫ですか?」

「あ、こあ……」

「え?……あぅ…」

 

伏間を開いてやってきたこあと目が合うと、何でか先ほどの場景が浮かんでしまう。

互いに少し顔を赤らめた後、開き直ったかのように口を開いた。

 

「こ、これで、神社の方へ帰れますねっ!」

「お、おぉ!そうだな!」

「一応、病み上がりなんだから、無理は駄目よ」

「は、はい!わかりました。ありがとうございました!」

 

こあと並んで部屋を出る。

すると、中庭に妹紅と輝夜、鈴仙とてゐの姿があった。

 

「……? どうかしたんですか?」

「どうもこうもしないさ。帰れなくなった」

「……え?」

「迷いの竹林が、完璧に変わってる。道が分からないんだ」

「そ、空は?」

「……いつのまにやら戻ってきてたよ」

 

はぁ、と盛大なため息をつく妹紅。

また、面倒なことになってきた、と春良は右手を回しながら思っていた。

ふと、鈴仙の方を見やると、鈴仙はどこか思い詰めたような顔をしていた。

 

「?……れいせ……」

「ちょ、ちょっとまて!もしかしてあたしはこいつとずっと居ないといけないのか!?」

「何よ、私のせいじゃないじゃない」

 

声を声でかき消され、仕方なく歩み寄ろうとすると、それよりも早く鈴仙は駆け出してしまった。

 

「……仕方がないウサねぇ…」

「なぁてゐ、鈴仙どうしたんだ?」

「んー?いやね客人?鈴仙も兎なわけウサ」

「……まぁ、見たら分かるけど…」

「兎としての生を受けたからには、月で跳ねなきゃ嘘ってもんウサ」

「…………?」

 

訳の分からないことだけ残して、てゐは手を頭の後ろにやると、そのままてぽてぽと歩いていってしまった。

 

「……いろいろ、あるんですかね…?」

「……みたいだな…」

 

とにもかくにも、ここにいる理由が無い以上、早く帰りたい所だが、そうはいかないらしい。

兎にも、角にも。

 

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