「……珍しい面子ね」
ぼそ、と薬師、八意永琳は呟いた。
それはそうだ、今は夕ご飯であるにも関わらず、
「……このみそ汁、美味いな。誰が作ってるんだ?」
「それ、輝夜さんが作ってましたよね?」
「……訂正だ。豆腐の味も切り方も悪い、最悪だ」
「何よ、文句言うなら食べなければいいじゃない!」
診察も終わった患者と、普段から輝夜と殺し合いをしている者と一緒にご飯を食べているのだから。
「てゐ。そこの醤油取ってくれない?」
「ほいウサ」
「ありがとう…、って随分素直ね…?」
「わっちだって、冗談を言うタイミングくらい図るウサよ」
「……ごめん」
何故か、空気が若干重い方を、永琳は眺める。
迷いの竹林が何故迷いか。
それは鈴仙の狂気を操る能力に関係がある。
竹林中に巡らされた狂気の波は、人々の感覚を狂わせる。
そうして、人は迷って行くのだ。
(優曇華に何かがあった。のは明確ね……)
若干元気が無いことも関係がありそうだ。
しかし、何もしない。
それも、永い夜を共にする仲間への、優しさだった。
時は過ぎ、辺りは随分と暗くなっていた。
満月が、輝いている。
「……さて、どうなるかなぁ…」
「できるだけ、早く帰りたいですね」
縁側で、こあくまと春良で二人、空を眺めていた。
良い子の上海は、勿論寝ている。
「妹紅!決闘よ!」
「はっ!望むところだ!」
隣でそう言い、一升瓶を互いに手に取り、一気に飲み出す。
「ちょっと、そのお酒美味しそう、飲ませなさいよ」
「馬鹿言うな。それならお前のも飲ませろ」
交換して、またぐびぐびと飲み出す二人。
実のところ、この二人仲が良いんじゃないか?と春良は思っていた。
「まぁ、喧嘩するほど、と言うものね」
「永琳さん?」
「ごめんなさいね、急に異変に付き合わされて」
「あ、いえ。こっちは腕治して貰った身ですし」
腕をあげて、ふと思う。
この腕を凍らせた本人が、見つからない。
「チルノー?」
一体どこへ行ったのやら。
竹林の外へは行けないはずなので、近くにはいるのだろうが。
「ところで、春良?」
「はい?」
「貴方、面解屋なんでしょう?」
「面解屋?……あぁ、なるほど」
自分で言った後で分かった。
『面倒事解決屋』の略だ。
「そうですけど、何かあるんですか?」
「この状況、『面倒事』じゃないかしら?」
「……まじですか」
「えらくマジよ」
つまり、自分にどうにかしろと言ってきている。
どうにかしたいのは山々だが、その方法が分からないと、どうにもならない。
「レイセン!どこに行くウサか!」
すると、そこでてゐの声が聞こえた。
次いで、竹林の方へ走っていく鈴仙の姿が目に入る。
「ほら、春良。出番よ」
「えぇ!?こういうのは家族の出番じゃないですか!?」
「今回ばかりは、私達じゃ駄目なのよ」
にっこりと微笑む永琳は、どこか異様な迫力を醸し出している。
しようがない。
そう諦めると、春良はこあを連れててゐの元まで走った。
「……全く、世話がやけるウサねぇ…」
「てゐ、どうかしたのか?」
頬をぽりぽりと掻くてゐを見つけるなり、春良は口を開く。
それに気づいたてゐは、対して慌てた様子もなく春良を見つめる。
「客人ウサか。いやなに、ちょっと兎の問題があっただけウサ」
「……教えてくれないか?気になるんだ」
「……駄目ウサ」
たしっ、と足踏みをすると、てゐは見た目不相応な厳格さで前を向いた。
「教えてもいいウサけど、わっちはきっと嘘をついてしまうウサ」
「……嘘…?」
「他人に教えて貰うことは、常に疑う。わっちはそうしてきたウサ」
「ど、どうしてですか…?」
「わっち自身が、嘘つきだからウサ。嘘つきは、嘘をつかれることを、最も嫌うウサ」
だから。
そう言って、てゐは春良の足をポンと軽く蹴った。
「自分で確かめるウサ。最も信じる事ができるのは、自分以外に他ならないウサ」
「…………」
何かを、抱えているのだろう。
鈴仙だけでなく、てゐも。
勿論、永琳や輝夜、妹紅も。
「……なんか、凄いな、てゐ」
「……勘違いしてるウサね?これも嘘かもしれないウサよ?」
ニッ、とあくどい笑みを浮かべ、春良を見つめる。
それに対して、春良も爽やかに笑った。
「そうだな。そんじゃ、てゐの言葉が本当か、確かめに行くか」
「……そう。嘘も真もない、それが答えウサ」
てゐがそこに座り込んだのを見て、春良はゆっくり歩き始めた。
「……こあ、行くぞ!」
「はいっ!」
「……客人。幸運を、ウサ」
「あぁ、ありがとう!」
走り、竹林へと消えていく春良達を見送った後、てゐは盛大なため息をついた。
「……なーんちゃって。柄でもなかったウサねぇ…」
ごろーんと寝転がり、ぐるぐるぐるぐると辺りを転がり、飽きると、ふと声を上げた。
「誰かー。お茶と饅頭が怖いウサー」
遠い遠い、むかしの話。
嘘つきのウサギは、嘘がばれて大変な目にあってしまいました。
そのウサギが嘘つきだと知っていた者達は、そのウサギに嘘を教え、もっと酷い目にあわせようとしました。
嘘を信じたウサギは、結果更に酷い目にあい、途方に暮れていました。
そんな時、一人の者がウサギに手を差し伸べました。
きっとまた嘘をつかれる、そう思いながら、ウサギは、その手を。