「……はぁ…は…ぁ…」
竹林に、伸びる耳が2つ。
満月に向かって伸びる耳はどこか寂しげだ。
「……鈴仙…?」
その姿をようやく発見した春良とこあくまは、背を向ける鈴仙に一歩近づく。
「どうしろって……言うのよ…」
ぼそ、とこぼされた言葉が耳に入ったかとおもった瞬間。
「……っ!?」
視界が、ぶれる。
「……鈴仙…。何があったんだ…?」
「……貴方には、関係ないでしょ!?」
「皆さんも、心配してますよ……?」
こあくまが、辛いながらも、一歩近づいていく。
手が、ふれる。
「触らないでっ!!」
「こあ!?」
ドン、とはじき飛ばされるようにこあくまが宙を飛ぶ。
竹を崩してこあくまの体は竹林の中で倒れた。
「友達を置いて、一人で逃げて……皆、きっと私を恨んでる…!」
「鈴仙!落ち着け!」
「やっぱり、今までの連絡は全部ウソで…………もう、どうしたらいいのかなんて…」
チャッ、と右手が春良へ向けられる。
涙をぼろぼろと流しながら、兎は叫ぶ。
「……わかるはず、ないじゃないッ!!」
銃弾が、春良の頬を凪ぐ。
ほとんど勘でかわすと同時、春良は移動しながら、符を取り出した。
「弓符『サジタリウス』!」
踏み込み、矢を射る。
空中で、銃弾と矢がぶつかり、相殺した。
「あぁぁぁぁあああああああああああっ!!」
「ッ!?」
鈴仙の目が、紅く輝いた。
一体何事かと、そちらを見てしまうが、すぐに自分のしたことの愚かさに気づく。
(……っ!狂気の瞳……!)
ぐわん、と更に視界がゆがむ。
それに次いで、赤外線のような線が春良の腹部辺りで光った。
「……っが…!?」
バチィッ、とその線をポイントにしたかのように紅いレーザーが照射される。
(……強、い…!)
さらに連続で発砲。
絶え間ない弾幕が春良に襲いかかってくる。
ゆがむ頭と痛む体を気にせず、とにかく転がる。
「サジタリウス……」
矢を作ろうとした瞬間、弓が粉々に霧散した。
狂気の波長によって揺さぶられた頭で、集中出来るはずがないのだ。
そして、その頭で弾幕を避けきることも、勿論不可能だ。
頭に一発、重い衝撃が掛かった。
「…………!!」
地面に、倒れる。
それを狙っていたかのように、満月をバックにミサイルのような弾幕が降りかかってきた。
「親愛っ…!」
慌てて符を取り出すが、遅すぎる。
口を紡ぐよりも先に、ミサイルが春良にダメージを与える。
よりも先に。
「……人間が、無茶をするもんじゃないと、あたしは思うがな」
炎が、ミサイルやら弾幕やら、全てを吹き飛ばした。
熱風に目を閉じていると、聞き慣れた声が降りかかる。
「あたしも人間だけど、半分化け物だからな……あぁ、言ってて悲しくなってきた」
轟!と炎の翼が火の粉を散らす。
サスペンダーを軽く引っ張り、不適に笑う。
「さて、あたしは竹林の案内屋だ」
倒れたままの春良の手を引き、立ち上がらせると、
「お前も迷ってるんだろ?……案内してやろうか」
不老不死、藤原妹紅は炎と化した。
「妹紅さん…!」
「早く体勢を立て直した方がいい。相手は待つつもりがないぞ」
直後、弾丸が再び走る。
後の事を気にする余裕なんてない。
「親愛『華人小娘』!」
虹色の光を纏い、弾丸をかわしていく。
ふと、竹林の中へと視線を向け、春良は妹紅に言う。
「こあが、そっちの竹林の中にいます!」
「……わかった」
轟、と炎が煌めく。
こあくまのいる竹林の方へは、炎を向けず、妹紅は弾丸だけを器用に燃やしていた。
「……前々から気にはなってたんだ」
「……は、はい!?」
「あの兎。兎のくせにちっとも月で跳ねようとしなかったからさ」
「何か、あるはずです!それを解決してやりたいんですけど……」
「あぁ、まずは話が出来るところまで持って行くか」
ドン、と地響きが渡る。
一枚の符を持った妹紅が、炎を立ち上らせていた。
「時間を稼いでくれ。戌井」
「が、頑張ります!」
言うや否や、春良は虹となって鈴仙の元へと駆けた。
他人を狙わせないためには、自分にだけ注意を向けさせる必要がある。
春良は、接近戦を選んだ。
「……ふっ!」
直線的だが、手数の多い打撃で相手を防戦に回す。
弾丸が頬をかすったりとギリギリだが、何とか目的は果たせていた。
そして、妹紅は、
「――右の手に宿すは、永遠の焔――」
右手に、焔を灯す。
「――左の手に掴むは、永遠の大地――」
とっ、と左手を地面の上に下ろす。
「咎よ、罪よ、罰よ。全て見届けし古き東の大山よ」
カッ、と春良と鈴仙の足元で、紅い光が輝く。
「これは…!?」
「今ここに、三七七六の高みを」
やばい。
その思いだけが、春良の撤退を強く強く申し出ていた。
「――蓬莱――」
轟!と光が更に輝きを増す。
春良は、鈴仙の足を払うのと同時に、大きくバックステップした。
「『 凱 風 快 晴 」
地面が大きく盛り上がり、あたかも山のようになっていく。
そして、
「――フジヤマヴォルケイノ』ッッ!!」
その山は、鈴仙を巻き込んで特大の噴火を起こした。
「――月まで届け、不死の煙」
もうもうと焔の後には煙が立ち上る。
とんでもないスペルだったが、何よりもそれ以前に、
「やりすぎじゃ、ないですかね…?」
「何を言う。これでも随分手加減してる…………」
言葉の途中で、妹紅が噴煙を見る。
「……手加減、しすぎたか…」
ぼふっ、と噴煙の中から服の裾を焦がした兎が姿を現した。
その目は、紅い。
「「――――ッ!?」」
目を見ていないにもかかわらず、妹紅と春良の頭に『波』が襲いかかる。
あまりに凶暴な狂気の波に、二人して跪いた。
「不死も、役に立たないな…」
「妹紅さんっ…!どうすれば…?」
一歩ずつ、鈴仙が近づいてくる。
「月が……見えない……私は、私のせいで…、皆……恨んで…」
ぶつぶつと呟きながら、春良の目の前に立つ鈴仙。
視界が歪み、立つことも、動くことも出来ない。
「鈴仙、落ち着いてくれ……!」
「……」
「皆、恨むはずがないだろ…?鈴仙は良くやってる…!」
「貴方に、何が分かるのよっ!!」
鈴仙の手が、春良の頭を掴む。
その一瞬後、狂気の波長が一気に春良へと流れ込んだ。
「が、あぁぁぁぁあああぁぁぁああっ!?」
「戌井っ!」
「貴方みたいな、あんたみたいなっ!何にも縛られてない人間が!何が分かるっていうのよ!」
放電するような音と共に、紅い波長が春良の体を走る。
薄れゆくも、気絶はさせてくれない波の中で、春良は頬に何かを感じた。
(……? 水…、涙……?)
「戌井! 気をしっかり持て!」
目をこらす。
目の前の兎が、泣いている。
まるで、自分を仇として見ているかのような目で、睨みつけて、泣いている。
(……そうだ、助けるんだ…)
右手で、符を掴む。
それが、できるかどうかは分からない。
なにしろ、そんな目で睨みつけられているのだから。
「……し…し、ん、あい…」
震える唇が、声を紡ぐ。
符が、輝く。
ただ一つの思いは、助ける。
「『狂気の赤眼』……!」
それだけだ。