東方春命録   作:Poteto305

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少年は、永遠の月を眺める・玖符

 

「……はぁ…は…ぁ…」

 

竹林に、伸びる耳が2つ。

満月に向かって伸びる耳はどこか寂しげだ。

 

「……鈴仙…?」

 

その姿をようやく発見した春良とこあくまは、背を向ける鈴仙に一歩近づく。

 

「どうしろって……言うのよ…」

 

ぼそ、とこぼされた言葉が耳に入ったかとおもった瞬間。

 

「……っ!?」

 

視界が、ぶれる。

 

「……鈴仙…。何があったんだ…?」

「……貴方には、関係ないでしょ!?」

「皆さんも、心配してますよ……?」

 

こあくまが、辛いながらも、一歩近づいていく。

手が、ふれる。

 

「触らないでっ!!」

「こあ!?」

 

ドン、とはじき飛ばされるようにこあくまが宙を飛ぶ。

竹を崩してこあくまの体は竹林の中で倒れた。

 

「友達を置いて、一人で逃げて……皆、きっと私を恨んでる…!」

「鈴仙!落ち着け!」

「やっぱり、今までの連絡は全部ウソで…………もう、どうしたらいいのかなんて…」

 

チャッ、と右手が春良へ向けられる。

涙をぼろぼろと流しながら、兎は叫ぶ。

 

「……わかるはず、ないじゃないッ!!」

 

銃弾が、春良の頬を凪ぐ。

ほとんど勘でかわすと同時、春良は移動しながら、符を取り出した。

 

「弓符『サジタリウス』!」

 

踏み込み、矢を射る。

空中で、銃弾と矢がぶつかり、相殺した。

 

「あぁぁぁぁあああああああああああっ!!」

「ッ!?」

 

鈴仙の目が、紅く輝いた。

一体何事かと、そちらを見てしまうが、すぐに自分のしたことの愚かさに気づく。

 

(……っ!狂気の瞳……!)

 

ぐわん、と更に視界がゆがむ。

それに次いで、赤外線のような線が春良の腹部辺りで光った。

 

「……っが…!?」

 

バチィッ、とその線をポイントにしたかのように紅いレーザーが照射される。

 

(……強、い…!)

 

さらに連続で発砲。

絶え間ない弾幕が春良に襲いかかってくる。

ゆがむ頭と痛む体を気にせず、とにかく転がる。

 

「サジタリウス……」

 

矢を作ろうとした瞬間、弓が粉々に霧散した。

狂気の波長によって揺さぶられた頭で、集中出来るはずがないのだ。

そして、その頭で弾幕を避けきることも、勿論不可能だ。

頭に一発、重い衝撃が掛かった。

 

「…………!!」

 

地面に、倒れる。

それを狙っていたかのように、満月をバックにミサイルのような弾幕が降りかかってきた。

 

「親愛っ…!」

 

慌てて符を取り出すが、遅すぎる。

口を紡ぐよりも先に、ミサイルが春良にダメージを与える。

よりも先に。

 

「……人間が、無茶をするもんじゃないと、あたしは思うがな」

 

炎が、ミサイルやら弾幕やら、全てを吹き飛ばした。

熱風に目を閉じていると、聞き慣れた声が降りかかる。

 

「あたしも人間だけど、半分化け物だからな……あぁ、言ってて悲しくなってきた」

 

轟!と炎の翼が火の粉を散らす。

サスペンダーを軽く引っ張り、不適に笑う。

 

「さて、あたしは竹林の案内屋だ」

 

倒れたままの春良の手を引き、立ち上がらせると、

 

「お前も迷ってるんだろ?……案内してやろうか」

 

不老不死、藤原妹紅は炎と化した。

 

「妹紅さん…!」

「早く体勢を立て直した方がいい。相手は待つつもりがないぞ」

 

直後、弾丸が再び走る。

後の事を気にする余裕なんてない。

 

「親愛『華人小娘』!」

 

虹色の光を纏い、弾丸をかわしていく。

ふと、竹林の中へと視線を向け、春良は妹紅に言う。

 

「こあが、そっちの竹林の中にいます!」

「……わかった」

 

轟、と炎が煌めく。

こあくまのいる竹林の方へは、炎を向けず、妹紅は弾丸だけを器用に燃やしていた。

 

「……前々から気にはなってたんだ」

「……は、はい!?」

「あの兎。兎のくせにちっとも月で跳ねようとしなかったからさ」

「何か、あるはずです!それを解決してやりたいんですけど……」

「あぁ、まずは話が出来るところまで持って行くか」

 

ドン、と地響きが渡る。

一枚の符を持った妹紅が、炎を立ち上らせていた。

 

「時間を稼いでくれ。戌井」

「が、頑張ります!」

 

言うや否や、春良は虹となって鈴仙の元へと駆けた。

他人を狙わせないためには、自分にだけ注意を向けさせる必要がある。

春良は、接近戦を選んだ。

 

「……ふっ!」

 

直線的だが、手数の多い打撃で相手を防戦に回す。

弾丸が頬をかすったりとギリギリだが、何とか目的は果たせていた。

そして、妹紅は、

 

「――右の手に宿すは、永遠の焔――」

 

右手に、焔を灯す。

 

「――左の手に掴むは、永遠の大地――」

 

とっ、と左手を地面の上に下ろす。

 

「咎よ、罪よ、罰よ。全て見届けし古き東の大山よ」

 

カッ、と春良と鈴仙の足元で、紅い光が輝く。

 

「これは…!?」

「今ここに、三七七六の高みを」

 

やばい。

その思いだけが、春良の撤退を強く強く申し出ていた。

 

「――蓬莱――」

 

轟!と光が更に輝きを増す。

春良は、鈴仙の足を払うのと同時に、大きくバックステップした。

 

「『 凱 風 快 晴 」

 

地面が大きく盛り上がり、あたかも山のようになっていく。

そして、

 

 

「――フジヤマヴォルケイノ』ッッ!!」

 

 

その山は、鈴仙を巻き込んで特大の噴火を起こした。

 

「――月まで届け、不死の煙」

 

もうもうと焔の後には煙が立ち上る。

とんでもないスペルだったが、何よりもそれ以前に、

 

「やりすぎじゃ、ないですかね…?」

「何を言う。これでも随分手加減してる…………」

 

言葉の途中で、妹紅が噴煙を見る。

 

「……手加減、しすぎたか…」

 

ぼふっ、と噴煙の中から服の裾を焦がした兎が姿を現した。

その目は、紅い。

 

「「――――ッ!?」」

 

目を見ていないにもかかわらず、妹紅と春良の頭に『波』が襲いかかる。

あまりに凶暴な狂気の波に、二人して跪いた。

 

「不死も、役に立たないな…」

「妹紅さんっ…!どうすれば…?」

 

一歩ずつ、鈴仙が近づいてくる。

 

「月が……見えない……私は、私のせいで…、皆……恨んで…」

 

ぶつぶつと呟きながら、春良の目の前に立つ鈴仙。

視界が歪み、立つことも、動くことも出来ない。

 

「鈴仙、落ち着いてくれ……!」

「……」

「皆、恨むはずがないだろ…?鈴仙は良くやってる…!」

「貴方に、何が分かるのよっ!!」

 

鈴仙の手が、春良の頭を掴む。

その一瞬後、狂気の波長が一気に春良へと流れ込んだ。

 

「が、あぁぁぁぁあああぁぁぁああっ!?」

「戌井っ!」

「貴方みたいな、あんたみたいなっ!何にも縛られてない人間が!何が分かるっていうのよ!」

 

放電するような音と共に、紅い波長が春良の体を走る。

薄れゆくも、気絶はさせてくれない波の中で、春良は頬に何かを感じた。

 

(……? 水…、涙……?)

「戌井! 気をしっかり持て!」

 

目をこらす。

目の前の兎が、泣いている。

まるで、自分を仇として見ているかのような目で、睨みつけて、泣いている。

 

(……そうだ、助けるんだ…)

 

右手で、符を掴む。

それが、できるかどうかは分からない。

なにしろ、そんな目で睨みつけられているのだから。

 

「……し…し、ん、あい…」

 

震える唇が、声を紡ぐ。

符が、輝く。

 

ただ一つの思いは、助ける。

 

 

「『狂気の赤眼』……!」

 

 

それだけだ。

 

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