東方春命録   作:Poteto305

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少年は、永遠の月を眺める・拾符

 

――――――。

 

『身よりが無いって、辛いよな』

『もう引き取り手も無し、一体どうやって生きていくんだろうねぇ』

 

――――。

 

『というか、子どもの存在も私は知りませんでしたよ』

『皆そうよ。きっと、忘れられていくんでしょうね』

 

――。

 

『勘弁だね。ニュースで報道された後、話を聞かれるのは俺等だろう?』

『そんな心配はいらないよ。だって……』

 

―。

 

『結局、また忘れちゃうんだろうし』

 

 

 

光の、中。

春良はただ立ちつくしていた。

 

(……今、のは…?)

 

符を使った瞬間の、言葉の奔流。

たとえて言うのなら、あれが走馬燈と言うものなのかも知れない。

 

(いや、今は鈴仙だ…)

 

頭を切り換え、辺りを見まわす。

すると、目の前を銃弾が通り過ぎた。

 

(うおぅ!?)

 

後ずさりし、銃弾の飛んできた方を見る。

すると、そこには兎がいた。

 

(れ、鈴仙…が、たくさん?)

 

鈴仙やてゐのようなウサ耳を付けた人型の兎達が、その姿に似合わないライフルを手に、こちらを見ている。

いや、正確には、春良の足元だ。

 

(……鈴仙!)

 

春良の足元には、尻餅をついた鈴仙が居た。

手には、ライフルを握っている。

 

「……っは……はぁっ…!」

 

相手と思われる兎は、5人。

あまりに、多勢に無勢な光景だった。

 

「……構え!」

(……まっ…!)

「…………!」

 

キィン、と鈴仙の目が光る。

つぎの瞬間、鈴仙に向けられていた銃口は、あらぬ方向へと向けられていた。

 

「……!」

(……鈴仙!)

 

訳の分からない方へ発砲を始めた兎達を置いて、鈴仙はどこかへ走ろうとする。

が、

 

「レイセン!待って!」

「……っ!」

 

一人、狂ってはいない兎が鈴仙を呼んだ。

ショートヘアの兎は、ライフルを捨て、鈴仙へと詰め寄った。

 

「どうして!?私達、一緒に戦ってきたじゃない!」

「……はっ……はぁっ…」

「どうして、一人で逃げようとするのよ……」

 

ボロボロと涙を流す兎は、少し前に見た鈴仙に似ていた。

 

「……私も…一緒に…」

 

それ以上、その兎が言葉を発することはなかった。

鈴仙の持つライフルが、その首を叩いたからだ。

気絶して倒れた兎を見て、鈴仙は眼を細める。

 

「ごめん……ごめんっ……」

 

ライフルを放り投げて、走る。

その鈴仙を追おうと春良も足を進めようとするが、

春良の意識は、再び光へと飲み込まれた。

 

 

 

「――――ぁあっ!!」

 

再び、竹林。

自分の周りを囲む狂気の波も、あまり気にしないですむくらいになっている。

 

「……中和、された…」

 

鈴仙が、ぼんやりとした声を上げる。

 

「俺の能力は、俺を信じてくれている人の力を借りることができるんだ」

「……なるほど、通りで」

 

隣で、頭を振りながら立ち上がる妹紅が呟く。

 

「今の俺の力は、鈴仙の力だ。……つまり、鈴仙は俺を信じてくれてる」

「……そんなこと…」

「んで、俺は『面解屋』で、おまけに妹紅さんは『案内屋』」

 

あたしはおまけか?と睨む妹紅に素速く謝ると、春良は鈴仙の頭を撫でて、

 

「つまり、鈴仙を助ける事が出来る人がいるってことだ」

「そんなこと言ったって、連絡も付かないのよ?どうするつもり?」

「んー…。俺自身これはどうかと思うんだけど…」

 

ふと鈴仙に背を向け、妹紅に耳打ちすると、妹紅は一瞬止まった後、

 

「あっはっはっは!こいつは面白い事を考えるやつがいたもんだ!」

 

腹を押さえて豪快に笑った。

 

 

 

「蓬莱『凱風快晴 -フジヤマヴォルケイノ-』!」

 

ドン、と地面が唸りを上げる。

立ち上っていく焔を足場にして、鈴仙と春良は高く高くへと昇っていく。

 

「し、信じられない事するわね…」

「い、言っただろ?俺もどうかと思うって…」

 

夜の風が頬を撫でる。

事の経緯は、少し前にさかのぼる。

 

 

 

「……月まで私を運ぶ!?」

「妹紅さんのさっきのスペルを一段加速にして、さらにそこから放てば、届くかも知れないだろ?」

「いや、無理に決まってるじゃない…」

 

げんなりとする鈴仙と、げらげらと笑う妹紅。

流石にここまでバカにされるとは思っていなかったのか、春良も若干焦って声を上げる。

 

「れ、鈴仙は無理かもしれないけど、銃弾ぐらいは届くかも知れない……ですよね?」

「……可能性はそっちの方があるが、どちらにしろほぼ不可能だろうな」

 

当たり前じゃない。と随分とキツイ言葉を出す鈴仙に冷や汗を垂らすと、妹紅は不適に笑って、

 

「だが、面白そうだ。……やってみるに越したことは無いな」

 

一枚の符を取り出すと、二人の足元が輝く。

 

「えっ…、ちょ、もう!?心の準備とか……」

「も、妹紅さん!?」

「――行ってこい」

 

 

 

そして、現在に至る。

 

「……いろいろ、ごめんね」

「ど、どうした?急に」

「私の問題なのに、貴方まで巻き込んで、あげくの果てには意見も聞こうともしなかったから…」

 

変わらない景色の中で、鈴仙の寂しそうな顔だけが光る。

 

「気にするなって。俺もちょっとお節介しすぎたから」

「そ、そんなことないわよ…」

「……よし、そろそろだな」

 

符を紡ぎ、サジタリウスを手に取る。

 

「行くぞ、鈴仙。月に」

「……うん」

 

何故か。

本当に何故か、鈴仙はこれで月へ行けそうな気がしていた。

春良の横顔を見ていると、不思議とそう思ってしまう。

 

(…………なんでだろ…)

「……どうした?鈴仙」

「な、なんでもないなんでもないっ!」

「あ、耳か。似合わないよなぁ…」

 

鈴仙の力を借りている象徴なのか、春良の頭にはピンと立ったウサ耳が生えている。

その耳をいじりつつ、春良はため息をこぼした。

 

「……こう、かな…」

 

春良が弓を小さく振ると、形が変わり、少し大きめのライフルになった。

 

「……合図…」

 

ガタン、と昇る焔が一回揺れる。

この10秒後にこの焔は最後の爆発を起こす。

勿論、熱を持たない、ただ春良達を持ち上げるためだけの爆発だ。

 

 

「行ける…」

「行ける…」

 

「月に行くぞ!」

「月に行くぞ!」

 

ドン!と爆発と共に、二人が飛ぶ。

あり得ない速度の飛翔は、されども月には届かない。

 

「鈴仙!」

 

春良が二発発砲。

驚いたことに、鈴仙はそれに乗って更に高みへと昇る。

カチャ、と音を立てて狙いを定める。

すぅ、と息を吸い込み引き金を一気に絞った。

 

 

 

「「――ッ月まで届けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええっっ!!」」

 

 

最後。

鈴仙が放った銃弾は、月の中心へと向かって、やがて見えなくなった。

 

 

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