東方春命録   作:Poteto305

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永夜の使命・弐符

 

「ぁ……?」

 

まただ。

また、あの感覚だ。

 

「春良さん?……春良さん!?」

「…………!!」

 

座ったまま横に倒れる春良の体を、こあくまと上海が揺する。

輝夜は慌て、てゐは素速く立ち上がって別室へと走った。

 

「…………っ」

 

この、頭が直接揺さぶられる感覚。

紅魔館の時と同じ感覚。

 

「お師匠、こっちウサ!」

「は、春良っ!?」

「……っ。優曇華、足持ちなさい。治療室に運ぶわよ」

「は、はい!」

 

ふわ、と自分の体が浮き上がる感覚。

違和感の正体が、ようやくはっきりと分かった。

 

(……まぁ、気づいてたよ…)

 

ある言葉、あることに関することを言うたびに、頭を揺さぶられる。

何いってんだよお前、と頭を殴られたようなそんな感じ。

 

「春良さん、しっかりしてください!」

「え、永琳。私はなにすればいい…?」

「姫様はお湯を持ってきてください。てゐ、貴方は私と来なさい」

「……幸運が、必要ウサか?」

「……保険よ。心配することはないわ」

 

周りの心配する声に、罪悪感を覚えた次の瞬間には、春良は意識を手放してしまった。

 

「目が、覚めたかしら?」

 

取り戻した意識と同時に、声が春良に降りかかる。

横になっている体で、顔だけを声の方に向けた。

 

「……はい」

「どこか、おかしい所はない?」

「…………」

 

手、足、動く。

五体満足で、視界も良好、頭もばっちり冴えている。

ただ一つだけ、おかしい所はあったが、それを言う必要は多分ない。

 

「……はい。大丈夫です。ありがとうござい……」

「『本当』に?」

「…………っ?」

 

永琳の瞳が、春良を貫く。

あまりに真っ直ぐな視線は、どうにも慣れない。

 

「ど、どういう意味ですか…?」

 

きょどりながらも、平静を装って問うと、永琳は悲しそうな顔で呟く。

 

「貴方のお友達は、別室にいるわ。この部屋には私と貴方だけ」

「……?」

「だから、誰にも話を聞かれることはない。その上で聞くわね?」

「……はぁ…」

 

あまりにぶれない視線は、恐らく自分の全てを見透かしている。

そう言う人なのだ。

だから、きっとこの人の言うことは、

 

 

「――――貴方、現代の記憶がないんでしょう?」

 

 

きっと、全て正しいのだ。

 

「――ッ!!」

 

声が、詰まる。

冷や汗だけが、今の春良の肌の感覚だった。

『思い出』。

存在しないそれを無意識に語る時。春良の頭は大きく揺さぶられていたのだ。

 

「……ど、どうして急に、そんなことを…」

「医者を舐めないで欲しいわね。医は仁術、患者の事を知るのが最も大切なのよ」

「でも、な、なんで、そう思ったんですか…?」

 

そうね、と一息つくとただ一言、ぽつりとこぼす。

 

「違和感、かしら」

「違和感……」

「蓬莱人だからかしら、永い記憶をもつと、短い記憶の貴方に、違和感を感じてしまうのよ」

「お、俺は記憶喪失じゃありません!」

 

こうして怒鳴ることは、ほとんど誤魔化しているだけだというのが誰にでも分かる。

その上で、永琳は静かに続けた。

 

「外来人の中では、めずらしい事では無いわ。むしろ、外界の事を覚えている方が稀有なケースね」

「…………っ!」

 

まずい。

これは、恐らく他の人たちに伝わる。

こんな事を聞かせては、守矢の人々や今までに関わってきた人全てに迷惑をかけてしまう。

同情か、哀れみか、今まで通りでいられるはずがない。

そんな思いから、黙り込んでいると、永琳は優しく微笑んで言った。

 

「心配しなくても、他の人に言ったりはしないわよ」

「……え?」

「言ったでしょう?医は仁術。患者の嫌がる事は決してしない」

 

にっこりと笑う永琳に、思わず涙がこぼれそうになる。

嘘ではない。

とても、立派な薬師だと、春良は心の奥から感じていた。

 

「さて、それじゃぁ今後の話ね」

「今後…?」

「貴方の記憶を、取り戻す話よ」

 

まぁ、とその言葉に続けて永琳は息を吸う。

 

「幻想郷に当てられて記憶を失ったのなら、逆に外界へ戻れば記憶は戻ると思うわ」

「……はぁ」

「それで、貴方の使命ね」

「し、使命の事も知ってるんですか!?」

 

がた、とベッドから乗り出して永琳の顔を覗くと、永琳は若干離れて呟いた。

 

「紅魔館の主と、白玉楼の主から、聞かされたのよ」

「レミリアさんと、幽々子さんが…?」

「えぇ、協力してあげてとね。あの二人も、貴方の記憶喪失には気づいていたわよ」

「……そう、だったんですか」

 

ふぅ、と息を吐くと同時に、優しさを感じる。

とても、暖かい優しさだ。

 

「それで?……どうするのかしら?」

「……今まで通り、ですよ。皆といれるここが好きですし。のんびり、進んで行けたらと思ってます」

「……いつか、離れるのは、分かっているのよね?」

 

目を瞑って笑みを作りながら、永琳は春良に問う。

その問いに、春良は一瞬止まるも、更なる笑顔で答える。

 

「……はい。それも、必要な事だと思いますから」

「……随分と大人な意見ね」

「正直、ずっとこっちに居たいですよ。……記憶が無いからでしょうね、こっちの世界が楽しくてたまらないんです」

「……そう。じゃぁ、もう私が言うことはないわ」

 

行きなさい、と背を向けた永琳に、ベッドから降りて一礼をし、ふすまを開ける。

すると、

 

「あ、目が覚めたんですね!春良さん!」

「……っ!?」

 

目の前に、こあくまがいた。

今の話を聞かれてしまったのかと、春良と永琳の体が一瞬強張るが、こあくまはにっこりと笑って、

 

「本当に良かったです。また長い間目を覚まさないかと…」

「そういや、俺どのくらい…?」

「半日、ですね今ちょうどお昼時ですから」

 

にっこりと笑うこあくま。

どうやら、聞かれてはいなかったようだ。

 

「……それじゃ、俺行きますね」

「えぇ。頑張りなさい」

 

こあくまの横に並び、永琳に一礼すると、春良達はまた歩き出す。

そして、ふと右腕を見る。

 

「……使命、ですか?」

「ん。染まってないな、と思ってさ」

 

かける言葉をなくすこあくまの向こう側から、駆けてくる人影が一つ。

 

「……春良!」

「あ、鈴仙。……もう、大丈夫か?」

「そのままそっくり返すわ。私は大丈夫」

 

そっか、と笑う春良と鈴仙に、こあくまは少し不安を覚える。

そして、そんなこあくまを置いて、少しためらうように鈴仙は呟く。

 

「……本当に、ありがとう」

「こちらこそ。っていうか、実質なにも出来なかったけどな」

「そ、そんなことない。私は……」

「レイセン!どこに居るウサ!?」

 

突如、鈴仙が来た道からてゐが顔を出す。

てゐはレイセンを見つけるなり、ずかずかと近づいて、その手を握った。

 

「な、何?どうしたの?」

「いいから、外に来るウサ!」

「……俺達も行こう、こあ」

「は、はい…」

 

なにかしら大変なことが起きたのかも知れない。

そう思いながら、そうでないことを願いながら、春良達は廊下を駆けた。

 

 

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