そして、ここは遥か遠くの大地。
そんな大地で、声を上げる一人の少女が居た。
「ほら、玉兎達。サボらないで鍛錬しなさい」
パン、と手を打ち鳴らすと、周りにいた兎達は、銃剣術の鍛錬に励み出す。
「あの…、依姫様」
「ん?どうした、レイセン」
依姫と呼ばれた彼女が振り向くと、そこには短髪に不安げな顔の一人の兎がいた。
「その…、あの…」
「……怒りはしないから。言ってみなさい」
どもるような兎、レイセンの様子に、綿月依姫(ワタツキ ノ ヨリヒメ)はため息をつきながら声を掛ける。
すると、レイセンは依姫の顔を見上げ、
「私の前のレイセンは…、どんな人だったんですか…?」
「……そうねぇ…」
カチャ、と刀を鳴らし、顎に手を当て考えると、すぐに何かを思いついたように指を立てた。
「……なら、レイセン――――」
言葉の途中で、依姫が空を睨む。
刀を取り出し、空に向けて構えた。
「……依姫様…?」
「ごめん、ちょっと黙って」
言葉の瞬間、剣閃。
「……っひゃわぁっ!?」
凄まじい剣風を吹かせたと思うと、依姫は刀の先を見つめる。
風にスカートをおさえていたレイセンは、同じく剣先を見つめた。
「……銃弾、ですか…?」
「……ふふっ…」
不適に笑う依姫。
そう、空から飛来してきた超速の弾丸を感知し、あげくはその弾丸を無傷のまま剣先にのせていたのだ。
「よ、依姫様…?」
「あぁ、ごめんごめん。この弾丸さ、使ってるの一人しかいないのよ」
「……と言うと…?」
「旧型の波長弾。貴方の前のレイセンよ」
依姫は銃弾をレイセンに渡すと、刀を突きつけてこう言った。
「レイセン、貴方に地上の兎の調査を命じる」
「え、えぇ?」
「ちょうど八意様への連絡が取れなかった事だし、うん。ちょうど良いわ」
そして、今度は刀を空へと向け、呟くように言う。
「さて、向こうから先に挨拶されたのなら、こちらからもちょっとばかり挨拶しておくわね」
かぁっ、と輝きだした剣先に、レイセンが目を閉じる。
真っ暗になった視界の中で、一つの声が聞こえた。
「――――天照大御神!」
「――――あ」
外に飛び出した春良達御一行は、目を疑っていた。
今は、昼だと言うのに、
「月が……」
雄々しく、そして猛々しく。
輝いていた。
「まったく、一体何事かと思ったウサよ」
「れ、鈴仙!あの時の弾丸、届いて……!」
「……うん……うんっ…!」
ぼろぼろと涙を流しながら頷く鈴仙の頭を撫で、月を見上げる。
届くはずのない、メッセージ。
されど、返信はしっかりと皆の目に焼き付いた。
「……ほん、とに、本当に、ありがとぅ……!」
「いいって、ほら。ちゃんと見ろよ。鈴仙への返信だぞ?」
「……うん…!」
光が目に染みる。
力強くて、雄々しくて、美しい。
そう思った瞬間、別に輝くものがあった。
「春良さん!」
「え?…………あ!!」
春良の、右腕の印が、月に負けないほどの輝きを発し始めたのだ。
「使命の証が…っ!」
光が収束し、腕の一つに収まる。
星がまた一片、染まった。
「や、やった!何か良く分からなかったけど!」
「よ、良かったですね!春良さんっ!」
「ありがとう、皆!」
「……えーっと、客人。使命って何ウサ?」
「え?」
そう言えば、何も説明をしていなかった。
元々ここに永くいるつもりがなかったから当然の事なのだが。
「あぁ、使命って言うのはな…………」
「はぁぁるよしぃぃぃぃぃいいいいいっ!!」
ヒュドンッ!と突如何かが永遠亭に飛来した。
もうもうと舞う砂煙の中から、顔を出したのは、
「……諏訪子…?」
「……やっと、見つけた…!」
その形相は、怒り。
しかし、その怒りが春良に炸裂するよりも前に、春良は諏訪子に腕を見せつけた。
「春良!今度どこかへ行くときは、私も一緒って……」
「諏訪子!見てくれよ、証がまた一つ染まったんだ!」
「……え?あ、え?……お、おめでとう…?」
「ありがとう!」
先手を取られた神は、拍子抜けしたようにため息をついた。
「あと3つ…。よし!」
ぐっ、と拳を握ると、春良は鈴仙の方を向き、笑う。
正直、まだ何も分かっていない兎達は混乱するだけだったのだが、喜びだけは伝わったらしく、
「良く分からなかったけど、おめでとう。春良」
「ありがとな。……また、顔だしに来ていいか?」
「勿論、歓迎するわよ」
狂気の瞳を、真正面から見つめる。
勿論、もうそれで春良が狂う事は無い。
とても、きれいな赤い目だ。
「……なんだ。もうどこかへ行くのか?」
「妹紅さん?どうしてここに…?」
「決まってるだろう。あのにっくき輝夜に復讐に来たんだ」
あたしは諦めないからな、と腕をがっしり掴む妹紅は、曇りが全くない。
そして、春良は気づいた。
ここは、完成されていると言うことに。
「皆、本当にありがとう。……それじゃ」
余所者が入らなくても、すでにこの永遠亭は完成されているのだ。
完成していない自分から見て、とても羨ましいそれに微笑むと、春良の体は神と悪魔によって空へと浮いた。
「……あら、もう行っちゃったの?」
「姫様?あ、はい。今ちょうど」
「私に挨拶が無いなんて、中々やるじゃない」
「なに威張ってるんだ。実際邪魔しかしてないだろ」
「……あら、いたの?」
「……いたよ」
パチッ、と両者の間で火花が散るのを確認した後、鈴仙は後ずさりしてそこから離れる。
てゐはもうとっくに仕事(サボリ)中だ。
「……変わらないなぁ…姫様達は…」
これから大変なことになりそうだ。
そう思いつつ、鈴仙は永琳の元へと向かう。
新薬調合の手伝いだ。
「……春良も、もうちょっと居たらいいのに…」
実際、鈴仙はこの後大変な目に合う。
いきなり自分と同じ名の者から顔面を踏まれたり、急に訓練をするはめになったりするのだ。
「……山の神社かぁ…。今度薬持って行こうかな…」
終わらない物を、人は永遠と呼んだ。
しかし、永遠と呼べる物は何処にも存在しない、それを人は知っていた。
永遠の命、そう呼ばれる物もあるが、それも終わりがくるのだ。
だからこそ、人は一時を永遠と重ねるようになる。
自分達と同じ、常に形を変えていく月を、永遠の物と信じれば、すなわち自分も永遠なのだ。
そして、それを最も愛し、最も嫌う者達の話。
それが、永夜抄。