東方春命録   作:Poteto305

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永夜の使命・終符

 

そして、ここは遥か遠くの大地。

そんな大地で、声を上げる一人の少女が居た。

 

「ほら、玉兎達。サボらないで鍛錬しなさい」

 

パン、と手を打ち鳴らすと、周りにいた兎達は、銃剣術の鍛錬に励み出す。

 

「あの…、依姫様」

「ん?どうした、レイセン」

 

依姫と呼ばれた彼女が振り向くと、そこには短髪に不安げな顔の一人の兎がいた。

 

「その…、あの…」

「……怒りはしないから。言ってみなさい」

 

どもるような兎、レイセンの様子に、綿月依姫(ワタツキ ノ ヨリヒメ)はため息をつきながら声を掛ける。

すると、レイセンは依姫の顔を見上げ、

 

「私の前のレイセンは…、どんな人だったんですか…?」

「……そうねぇ…」

 

カチャ、と刀を鳴らし、顎に手を当て考えると、すぐに何かを思いついたように指を立てた。

 

「……なら、レイセン――――」

 

言葉の途中で、依姫が空を睨む。

刀を取り出し、空に向けて構えた。

 

「……依姫様…?」

「ごめん、ちょっと黙って」

 

言葉の瞬間、剣閃。

 

「……っひゃわぁっ!?」

 

凄まじい剣風を吹かせたと思うと、依姫は刀の先を見つめる。

風にスカートをおさえていたレイセンは、同じく剣先を見つめた。

 

「……銃弾、ですか…?」

「……ふふっ…」

 

不適に笑う依姫。

そう、空から飛来してきた超速の弾丸を感知し、あげくはその弾丸を無傷のまま剣先にのせていたのだ。

 

「よ、依姫様…?」

「あぁ、ごめんごめん。この弾丸さ、使ってるの一人しかいないのよ」

「……と言うと…?」

「旧型の波長弾。貴方の前のレイセンよ」

 

依姫は銃弾をレイセンに渡すと、刀を突きつけてこう言った。

 

「レイセン、貴方に地上の兎の調査を命じる」

「え、えぇ?」

「ちょうど八意様への連絡が取れなかった事だし、うん。ちょうど良いわ」

 

そして、今度は刀を空へと向け、呟くように言う。

 

「さて、向こうから先に挨拶されたのなら、こちらからもちょっとばかり挨拶しておくわね」

 

かぁっ、と輝きだした剣先に、レイセンが目を閉じる。

真っ暗になった視界の中で、一つの声が聞こえた。

 

「――――天照大御神!」

 

 

 

「――――あ」

 

外に飛び出した春良達御一行は、目を疑っていた。

今は、昼だと言うのに、

 

「月が……」

 

雄々しく、そして猛々しく。

輝いていた。

 

「まったく、一体何事かと思ったウサよ」

「れ、鈴仙!あの時の弾丸、届いて……!」

「……うん……うんっ…!」

 

ぼろぼろと涙を流しながら頷く鈴仙の頭を撫で、月を見上げる。

届くはずのない、メッセージ。

されど、返信はしっかりと皆の目に焼き付いた。

 

「……ほん、とに、本当に、ありがとぅ……!」

「いいって、ほら。ちゃんと見ろよ。鈴仙への返信だぞ?」

「……うん…!」

 

光が目に染みる。

力強くて、雄々しくて、美しい。

そう思った瞬間、別に輝くものがあった。

 

「春良さん!」

「え?…………あ!!」

 

春良の、右腕の印が、月に負けないほどの輝きを発し始めたのだ。

 

「使命の証が…っ!」

 

光が収束し、腕の一つに収まる。

星がまた一片、染まった。

 

「や、やった!何か良く分からなかったけど!」

「よ、良かったですね!春良さんっ!」

「ありがとう、皆!」

「……えーっと、客人。使命って何ウサ?」

「え?」

 

そう言えば、何も説明をしていなかった。

元々ここに永くいるつもりがなかったから当然の事なのだが。

 

「あぁ、使命って言うのはな…………」

「はぁぁるよしぃぃぃぃぃいいいいいっ!!」

 

ヒュドンッ!と突如何かが永遠亭に飛来した。

もうもうと舞う砂煙の中から、顔を出したのは、

 

「……諏訪子…?」

「……やっと、見つけた…!」

 

その形相は、怒り。

しかし、その怒りが春良に炸裂するよりも前に、春良は諏訪子に腕を見せつけた。

 

「春良!今度どこかへ行くときは、私も一緒って……」

「諏訪子!見てくれよ、証がまた一つ染まったんだ!」

「……え?あ、え?……お、おめでとう…?」

「ありがとう!」

 

先手を取られた神は、拍子抜けしたようにため息をついた。

 

「あと3つ…。よし!」

 

ぐっ、と拳を握ると、春良は鈴仙の方を向き、笑う。

正直、まだ何も分かっていない兎達は混乱するだけだったのだが、喜びだけは伝わったらしく、

 

「良く分からなかったけど、おめでとう。春良」

「ありがとな。……また、顔だしに来ていいか?」

「勿論、歓迎するわよ」

 

狂気の瞳を、真正面から見つめる。

勿論、もうそれで春良が狂う事は無い。

とても、きれいな赤い目だ。

 

「……なんだ。もうどこかへ行くのか?」

「妹紅さん?どうしてここに…?」

「決まってるだろう。あのにっくき輝夜に復讐に来たんだ」

 

あたしは諦めないからな、と腕をがっしり掴む妹紅は、曇りが全くない。

そして、春良は気づいた。

ここは、完成されていると言うことに。

 

「皆、本当にありがとう。……それじゃ」

 

余所者が入らなくても、すでにこの永遠亭は完成されているのだ。

完成していない自分から見て、とても羨ましいそれに微笑むと、春良の体は神と悪魔によって空へと浮いた。

 

「……あら、もう行っちゃったの?」

「姫様?あ、はい。今ちょうど」

「私に挨拶が無いなんて、中々やるじゃない」

「なに威張ってるんだ。実際邪魔しかしてないだろ」

「……あら、いたの?」

「……いたよ」

 

パチッ、と両者の間で火花が散るのを確認した後、鈴仙は後ずさりしてそこから離れる。

てゐはもうとっくに仕事(サボリ)中だ。

 

「……変わらないなぁ…姫様達は…」

 

これから大変なことになりそうだ。

そう思いつつ、鈴仙は永琳の元へと向かう。

新薬調合の手伝いだ。

 

「……春良も、もうちょっと居たらいいのに…」

 

実際、鈴仙はこの後大変な目に合う。

いきなり自分と同じ名の者から顔面を踏まれたり、急に訓練をするはめになったりするのだ。

 

「……山の神社かぁ…。今度薬持って行こうかな…」

 

終わらない物を、人は永遠と呼んだ。

しかし、永遠と呼べる物は何処にも存在しない、それを人は知っていた。

永遠の命、そう呼ばれる物もあるが、それも終わりがくるのだ。

だからこそ、人は一時を永遠と重ねるようになる。

自分達と同じ、常に形を変えていく月を、永遠の物と信じれば、すなわち自分も永遠なのだ。

そして、それを最も愛し、最も嫌う者達の話。

 

 

それが、永夜抄。

 

 

 

 

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