東方春命録   作:Poteto305

59 / 90

「……優曇華、一人分多くないかしら?」

「え、そうですか?なんでだろ…」

「客人の分も用意したんじゃないウサか?」

「あら、いつでも来ていいようにかしら」

「ち、違いますよ!た、多分…」

「……どうでもいいけど、食べないの?」




夜の後の朝を眩しげに見つめて
夜の後の朝を眩しげに見つめて・壱符


「あぁ!!」

「な、何?どうしたの?」

 

空を飛行中。

諏訪子の背に情けなく乗る春良が、ふと声を上げた。

 

「しゃ、上海、忘れてた…!」

「あ……」

 

隣のこあくまも気づいたようで、口に手を当てて、

 

「え、永遠亭でしょうか」

「多分。戻らないと!」

「えぇ?面倒だなぁ…」

 

大きくUターンし、永遠亭へと飛翔しようとした瞬間、

目の前に、人形が浮いていた。

 

「しゃ、上海!」

 

何メートルかの距離にいる上海に手を伸ばすが、上海はこちらを見ようともしない。

 

「お、置いていって、ごめん。いろいろあって、忘れてたというか…」

「…………」

「ほ、本当にごめん!」

 

空に浮いているまま、大きく頭を下げると、頭に小さな感触を感じた。

視線だけを上げると、上海が腹這いに覆い被さっていた。

 

「……こあ、諏訪子、ちょっと時間もらってもいいか?」

「……ん」

「はい、構いませんよ」

 

嫌々(そうなフリ)で頷く諏訪子と、にっこりと笑うこあくま。

春良は、上海の頭を小さく撫でた。

 

「それじゃ、何処行く?」

 

再び、春良は人里へと足を降ろしていた。

上海へのお詫びに、一日デート権を差し上げたのだ。

 

「…………!」

「甘味処?よし、行くか」

 

こあくまと諏訪子は空気を読んだのか、先に帰っていてくれた。

 

「一つでいいか?上海」

「……?」

「二人で食べればちょうどいいくらいだろ?」

「……!」

 

こくこくと力強く頷く上海。

その顔が何故朱いのか、朴念仁には分かるはずもなかった。

 

「はい、あーん」

「……!!」

 

かれこれこんな事を続けて少し。

そろそろ上海の機嫌も直った頃かな、と春良も白玉を一口食べたときだった。

 

「ん?春良じゃないか」

 

ふと、慧音の姿が見えた。

 

「何してるんですか?」

「ん?ちょっとばかり届け物をな」

 

手に巻物を大量に持ちながら話す慧音に、春良は一歩近づく。

 

「手伝いますよ。どこですか?」

「これはすまない。この通りを真っ直ぐ行った所だ」

 

上海も一巻き持ち、軽く会話混じりに歩く。

 

「腕はもう大丈夫なのか?」

「はい。おかげさまで」

「いやなに、こちらの生徒がしたことだからな。本当にすまなかった」

 

ぺこ、と頭を下げる慧音に、春良はいえいえと首を振る。

すると、

 

「そこの人!ちょいと一勝負しない?」

「ぅえ?」

 

ふと、道横の幼い女の子から声を掛けられた。

しかし、これまた風貌が凄い。

頭には角が二本、服の所々に鎖に珠やら立方体やらがついているアクセサリーらしきものをぶら下げている。

 

「俺?」

「そう、そこの『人』って言ったっしょ?」

 

にこっ、と笑う少女。

慧音が人ではないと、今初めて知った春良だった。

 

「勝負って、どんな?」

「腕相撲!」

 

ふん、と腕組みをする少女の姿を、春良の後ろにいた慧音が覗く。

すると、はぁ、と一つため息をついた。

 

「慧音さん?」

「いや、何でもない。やらないのか?腕相撲」

「えぇ?でも、こんな小さな子と…」

「気にしない気にしない!さぁさぁ肘置いて!」

 

ドスン、と大きな机ほどの大きさの四角い岩を片手で持ち上げて春良の前に置いた。

あまりに自然過ぎた行動に、春良は違和感を抱けなかった。

 

「……一回だけな」

「いいよー。お兄さん強そうだから、本気で頼むよ?」

「それでは……」

 

がっ、と組み合った手の上に、慧音が手を置く。

とりあえずさっさと終わらせよう、と春良も手に力を込める。

 

 

「……始めっ!」

 

 

岩が弾ける音を、春良は初めて聞いた。

一瞬で持って行かれた春良の手と岩の間に、少女の片手が素速く入り込んだが、それをクッションにしてなお、岩は粉々に砕け散った。

 

「…………っ!?」

「…………!?」

 

呆然とする春良の手を上海がさする。

痛みは全くなかった。それほどまでに、理解できない力。

 

「紹介が遅れたが、この方の名前は伊吹萃香」

 

どうも、と手を挙げる伊吹萃香(イブキ スイカ)。

どこかあきれた様子の慧音が、こう言った。

 

「…………『鬼』だ」

 

「お、鬼…?」

「そう。鬼」

「あ、あの、桃太郎とかに出てくる…?」

「あんな低俗で弱くはないけど、そんなところかな」

 

にぱっ、と笑う萃香。

ふと背中から瓢箪を取り出し、ごくごくと何かを飲み始めた。

 

「っぷぁー!勝利の美酒も、格別だねぇ」

(酒!?)

 

一体幻想郷では何才から飲酒して良いのか、春良はもう分からないでいた。

 

「ところで先生はどこに行く所だったの?」

「稗田の所に巻物を届けにな」

「そっか、手伝おうか?」

「いや、人は足りてる。心配はいらないさ」

「頼りすぎないやつは好きだよ。私は」

 

ごくごくとまた一気飲みすると、萃香はふらふらとどこかへ歩き出した。

 

「あ、そうだ人間」

「お、俺か」

「そう。本気じゃなかったのは納得いかないけど、なかなか筋が良かったよ」

 

ひらひらと手を振ると、今度こそ萃香は人里の中に紛れた。

 

「と言うか、何で教えてくれなかったんですか」

「いや、どうなるか少し興味が沸いてしまった」

 

再び巻物を抱え、歩く。

上海はずっと春良の手をなでなでしているが、実のところ痛くはなかった。

そういう力の使い方をしてくれたのかな、と春良は実に非現実的な事を考えていた。

 

「しかしだな、知っているか?」

「何をですか?」

「鬼は嘘をつかない」

「…………?」

 

にっこりと笑い続ける慧音は視線は前に向けたまま、声を続ける。

 

「鬼に認められる人間なんて、何人かしか知らないな」

「……何人かいるんですか?」

「麓の巫女、魔法使い、吸血鬼の従者もだったか?」

 

霊夢、魔理沙、咲夜の事だろうと把握するまでは時間が掛かったが、正直その方々と肩を並べれる自信は全くなかった。

 

「おっと、ついたぞ」

「……立派な所ですね」

 

足を止めると同時に上海が肩に乗ってくる。

目の前には、『稗田』と書かれた表札と、白玉楼よりも少し小さめの家があった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。