東方春命録   作:Poteto305

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夜の後の朝を眩しげに見つめて・弐符

 

「阿求、いるか!」

 

門から慧音が叫ぶ。

大きな屋鋪で声が聞こえるのだろうか、と心配したが、どうやら聞こえるらしい。

ドタドタと忙しそうな足音がしてきた。

 

「は、はい。ありがとうございま……」

「こちらは戌井春良。外来人だ。巻物運びを手伝ってくれた」

「ほ、ほんとうですか?ありがとうございます」

 

ぺこ、と一礼する子は、一言で言うと幼かった。

見た目の年齢は、諏訪子と変わりないだろうか。

 

「春良。こちらは稗田阿求、幻想郷の記憶とも呼ばれる人物だ」

「宜しくお願いします、戌井さん」

「ん、よろしく」

 

着物を着て、切りそろえられた短髪を揺らし、稗田阿求(ヒエダ ノ アキュウ)は春良の目の前まで来た。

 

「重かったでしょう?」

「え?いや、全然大丈夫だったぞ」

「いえいえ、ここからは私に任せて……」

 

ぽろ、と巻物が一巻き落ちる。

それを拾おうと屈んだ阿求の巻物は、見事に全てが転がっていった。

 

「あ、あぁぁ!」

「……春良」

「あ、はい…?」

 

まって、まって、と巻物を追いかけていく阿求を見ながら、慧音が言う。

 

「阿求は頑張りやなんだが、見ての通りだから……、目を離さないでやってくれ」

「はぁ……」

「……あぅっ…」

 

ぺたん、と巻物を踏んで転ぶ阿求は、やはり見た目通りの幼さだった。

 

「ほ、本当に、すいません…」

「いや、まぁ、大丈夫だからさ」

 

上海と一緒に拾うのを手伝い、今は阿求の部屋にいる。

何というか、殺風景な和室だ。

 

「……その巻物、中に何が書いてあるんだ?」

「あ、これですか?」

 

ピラミッドの様に詰まれた巻物を指さすと、阿求はその頂点を取り、広げた。

 

「病に効く薬草の記述です」

「……体、悪いのか?」

「あぁいえっ!私じゃありませんよ?」

 

と言うことは、誰かの体が悪い。

それを把握した春良が、口を出せないはずがなかった。

 

「じゃあ、誰が?」

「私の、友達です…」

「友達か…」

「はい。いつも、あまり外へ行けない私に、いろんな世界を見せてくれるんです」

 

ぱっ、と顔を上げて笑顔で話し始める阿求に、ふと笑みがこぼれる。

そして、同時に羨ましくも思った。

 

「何か手伝えること、あるか?」

 

また始まった。

春良のおせっかいぶりをいつも近くで見ている上海は、そう思いつつ頭を押さえた。

そして同時に、そう言うところが好きなんだと自分で思ってしまい、顔が紅潮してしまう。

 

「いえ、大丈夫ですよ。薬草は友達の所から近い所にありますから、私が取りに行けます」

「……そか、頑張れよ」

「はい!……あ」

 

ふと、何かに気づいたように阿求が口を開く。

どうした?と春良が聞くと、慌てて阿求は立ち上がって、

 

「お、お客に何もだしてませんでした!すいません、今もってきます!」

「お、おかまいなく!」

「最近、紅茶にハマってるんですよ。楽しみにしてて下さい!」

「き、気をつけろよ!」

 

はーい!と元気よく廊下を走って消えた阿求だったが、何度かどたん、と床に倒れる音が聞こえた。

 

「……なんというか、心配な子だな…」

 

春良は紅茶のことが良くわからないが、それから紅茶が運ばれてきたのは相当の時間後だった。

頭やら何やらが少し赤くなってしまっていたが、口は出さないでおいた。

 

「……美味しい…」

「本当ですか?良かったぁ…」

 

吃驚だ。

正直どんな飲み物が出てくるか不安だったが、普通に美味しい紅茶だった。

 

「私の前の私が、紅茶好きだったんですよ」

「……ふぅん…。…………え?」

 

なにやら良く分からない言葉が聞こえた。

 

「……『私の前の私』?」

「はい。あ、言ってませんでしたね」

「何を?」

「稗田家は、幻想郷の記述を収めておくため、転生を繰り返す家系なんです」

「……え?」

「私は阿『求』、九代目の稗田です」

 

一生を送り、また次の一生を迎える。

それを、何度も繰り返している少女が、目の前に居た。

 

「つまり、転生し続けて、幻想郷の事をずっと覚えていくのか?」

「記憶はほとんど引き継がれないんです。だから、こうして本に残しているわけですね」

 

本棚から一冊、本を取り出す。

『幻想郷縁起』、そう書かれた本をぱらぱらと捲って、畳の上に置いた。

 

「30歳まで生きられるかも分かりませんね。しかも、転生の準備もしないといけないから、ほとんど動けないんですよ?」

「…………」

 

何故、そうも綺麗に笑えるのか、春良には分からなかった。

記憶がない。

つまり自分とほとんど一緒である上、寿命も恐ろしく短い。

何故、目の前の少女が笑顔なのか、春良には分からない。

 

「…………なぁ、阿求…」

「……はい?なんでしょう?」

「辛く、ないのか?」

 

友達も、転生してしまったらまた零からのスタートになるわけであって。

しかも、それすら短い期間では難しい。

 

「……戌井さんみたいな方がたくさんいますから、辛いなんて思わせてくれませんね」

 

にっこりと笑う阿求に、息を呑む。

いつか、自分もこんな風に生きれたら。

そう、思っていた。

 

「邪魔するよっ!」

 

不意に伏間が勢い良く開かれた。

スパンッ、と子気味の良い音を鳴らしたのは、ついさっき見た鬼だった。

 

「えと、伊吹、だっけ?」

「萃香でいいよ。よそよそしいのは嫌いだからさ」

 

にっ、とこちらの笑いはなんだかこちらも笑顔にさせられそうな笑みだ。

 

「伊吹さん、どうかしましたか?」

「いやね、ちょっと顔が見たくなっただけなんだけどね。たまには宴会来ないかい?」

「すいません。機会があれば、是非」

 

二人が知り合いだった、ということを知った春良は、どこかのけ者にされた気分だった。

それを言うと、上海はずっとのけ者だが。

 

 

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