「……着きました…」
「はや……」
「はは…、何てったって、幻想郷最速ですから……」
本当の風になったとは、こういう事をいうのかと春良は痛感した。
しかし、思いにふける時間はない、すぐに萃香と上海と走り出した。
「……お願いしますね」
「任せてください!」
「うん。お前も頼りすぎないやつだから、好きだよ。私は」
「あやや…、鬼の貴方に好かれるとは思いませんでした…」
ぺたん、とその場に座り込んだ射命丸を置いて、森を駆けると、すぐに開けた地についた。
そこには、見慣れた人影。
「阿求!!」
「……戌井さん!?それに、伊吹さんも!?」
「面白いことしてるじゃないか。私も混ぜてくれないかなぁ?」
萃香の言葉に周りを見る。
崖に囲まれたような地形になった場所。
その中心の春良達から、崖の上に立つ天狗達がよく見えた。
「……阿求。薬草は?」
「は、はい。もう採りました」
「よし。向こうに射命丸さんがいるから、持って行ってやってくれ」
「で、でも…」
「いいよいいよ。ここは私達が何とかするからさ」
ひらひらと手を振った萃香に安心したのか、阿求はすぐに走り出してくれた。
そして、それを横目で確認した鬼が、一歩前へ出る。
「鬼がこんな所へ何の用だ」
「いやぁ、私の友達がここへ入ってしまったって聞いてね。かわって謝りに来たのさ」
「ほう。しかし、ここは我々天狗の縄張り。それなりの覚悟はしているのか?」
春良は慎重に相手の数を数えていた。
ここから見える天狗だけでも、20は居る。
「あれ?やっぱりそうなる?」
「鬼といえど、一つの種族。礼儀が無いわけではあるまい」
「……確かに」
萃香が顎に手を当てる。
もう、空気は変わっていた。
明らかに、いつ動き出すかを互いに待つ状態だ。
「けどさ、知ってる?天狗」
「……何をだ」
「鬼の礼儀は、まず喧嘩からって」
「――――ッ!?」
ぞわっ、と春良の背筋を何かが撫でる。
そんな迫力を、まさか味方から感じるとは思ってもみなかった。
「なるほど。ならば、その礼儀に従おう」
「お、いぃねぇ。最近運動してなかったから体がなまっててさ」
ぐるぐると腕を回し、ストレッチをする萃香。
「阿求の頬に切り傷があった。あれはアンタ達かい?」
「少し、脅しをかけただけだ」
「そうかい。喧嘩する理由が増えたよ」
春良は、サポートするべく、ポーチの中の符を手に取った。
「萃香、大丈夫か…?」
「誰に言ってるのさ、こちとら鬼だよ?」
射命丸の関係から、争うことは無いと思っていたが、そうもいかないらしい。
「……ふむ。では、開始はどうする。石でも落とすか?」
天狗の一人がそう提案する。
数の有利からか、余裕が見て取れる。
そんな天狗に対して、萃香は困ったように笑った。
「……何を、巫山戯てる?」
「……む?」
「私はお前の、お前は私の礼儀を知って、提案を飲んだ」
すっ、とゆったりとした動きで腕を上に伸ばし、萃香は目を細める。
「これは喧嘩だ。コイントスで先攻後攻を決めるもんじゃない」
「……何が言いたい」
「……物わかりが悪いね」
つまりさ、と萃香は上げた手を地面へ叩きつけた。
ドゴン!と地震でも起きたかのような一撃の後、萃香の目は天狗へと向けられ、
「宴会はすでに始まってる」
直後、特大の爆発が天狗達を襲った。
「……っぐお……!?」
突如天狗の足元から噴出される火球。
完璧なまでの不意打ちに、何人かの天狗がそれに飲み込まれた。
「……お前達が勝手に忘れた鬼の力、思い出させてあげるよ」
相手も手を打たないほど馬鹿ではないのか、前方から何人もの天狗が羽ばたいてきた。
(…………はや……!)
狙いは、春良。
強い者よりも弱い者を狙うのは、戦いのセオリーだ。
だが、
「……鬼が、それを好きだなんて思っちゃいないだろうね?」
突如、天狗達が飛ぶ方向を変えた。
萃香の方へと引き寄せられるように飛んでいく天狗を、ただ春良は見つめていた。
(これが集める能力…!?)
「……捕まえたよっと」
がしん、と引き寄せられた天狗の内の二人の頭を掴む。
そして、萃香はその二人を、
「……っ…よ、いしょぉッ!」
『投げた』。
切り立った崖に突っ込んで動かなくなった仲間を、天狗が眺めて動きが止まる。
「……弓道『射法八節』」
それを、春良が逃すはずがなかった。
風を裂き、一の矢が駆ける。
萃香の力で集まった天狗達に、超スピードで向かった。
「ただの人間が……!」
さすが、射命丸と同じ天狗なだけはある。
すぐさま天狗達は散開し、矢の範囲から逃げた。
「……逃げも、鬼は嫌いだよ!」
ぱっ、と萃香が手を開くと同時、
春良の矢が、数多の矢に分散した。
途中からショットガンの様に広範囲に広がった射を避けきれなかった天狗が、地に落ちる。
「……この隊の長は?敵わないってことぐらい、わからないわけじゃぁないだろう?」
「……甘く見るなよ」
突如、萃香の目の前に天狗が移動してきた。
流石の萃香も驚いたのか、一瞬目を開いていた。
「……へぇ、面白いね、お前」
「長は私だ。あまり天狗を舐めないでもらおうか」
ゴガン!、と天狗の拳がモロに萃香の顔面へと入った。
その動作に、少し違和感を感じたのは、春良だけではなかったらしい。
「……お前、そういう力かい」
拳を顔面で受け止めたまま、呟く。
天狗の方はというと、やはり驚愕の顔だった。