「人間!」
「な、なんだ!?」
「こいつやる!他のは私が貰うから、手出ししないでよ!」
長の天狗を片手で春良に投げると、萃香はまた少しずつ増える天狗の群を見て、にぃっ、と笑った。
「さぁ!久しぶりの宴会だ!飲んで歌って叫んで踊って!」
ぐいっ、と酒をひと煽りして、美味しそうに息を漏らす。
「鬼の力に夢破れるがいい!!」
一人の小さな鬼が、跳んだ。
「舐められたものだ。こんな子どもが私の相手になるはずがない」
「いやいや、結構分からないかも知れませんよ?」
「……ほう?」
そうおどけながら、春良は注意深く相手を観察する。
一挙手一投足を見逃さなければ、早くても予想が出来るからだ。
しかし、
「……夢破れるのは、貴様かもしれないな」
「っ!?」
ありえないほど不自然な移動の後で、天狗は春良の目の前で腕組みをした。
「悪いが、すぐに終わらせて貰うぞ」
「親愛『華人小娘』っ!」
黒い翼と、虹色の気が、衝突した。
早すぎる。
殴るという行為は、腕を引いて、足を踏み出して体重移動とともに手を突き出す。
しかしおかしい。そのタメの動作無しにつき出してくる拳は、軽いとはとても言えなかった。
ただの殴るにしても、手が出てくるのが早すぎる。
「……っ!」
おかげで春良は防戦一方になってしまっていた。
(何だこの不自然な動き!……どんな能力なんだこの人!)
何もしていない状態から、一気に近づいてきたり、まるで、
「…………! 上海!」
春良の背後にいた上海が、その声と共に弾幕を展開。
しかし、それも避けられてしまう。
が、
「……天狗さん」
「……なんだ。命乞いはまだ許せないが?」
「貴方の能力、動作を速くするものじゃないですね?」
動作自体が早いのなら、威力も上がる。
しかし、直接防いでも、少し強いくらいだった。
つまり、
「恐らく、動作の一部分を無くす能力、ですか?」
「……子どものくせに大した観察眼だな」
まぁ、いいだろう。
と天狗は鼻を鳴らし、得意げに腕を組んだ。
「私の能力は『予備動作を無くす程度の能力』だ。殴る前のタメなどを無くすことができる」
どうだ、と言わんばかりにふんぞり返る天狗を、春良は悲しい目で見つめる。
(なんで自分からばらすんだろこの人……)
(あの天狗、馬鹿だなぁ…)
遠くの萃香も、同じような事を思っていた。
「それで?分かったところでお前に何が出来る?」
「いや、一つ試したいことがあるんですよ」
「ふ、子どもの智恵でなにが絞り出せるというのだ?」
春良が符を取り出すと、体を纏う虹色の気が消えた。
そして、再度宣言する。
「親愛『普通の魔法使い』」
黒い魔女帽と八卦炉が春良の手に握られる。
「実は、前々から使いたいと思っていたんですよ、これ」
「ほう?どんな浅知恵なんだ」
にっ、と春良は笑い、上海は春良が何をするつもりなのかもう分かっているらしく、春良の背にぴったりついていた。
「魔理沙なら、『どれだけ早かろうが、それでも避けられないのを撃てばいいだけだぜ!』とか言うだろうな」
八卦炉を、構える。
「避けれるんなら、避けてみろ!」
きゅぉっ、と八卦炉に光が集まる。
まずいと思ったのだろう、天狗が春良に攻撃をしかけようとするが、
遅い。
「恋符『マスタースパーク』ッ!!」
あり得ないほどの光は、天狗の小さな体を丸飲みして、証明した。
弾幕は、パワーだ。
(あれは、人間の魔法使いの…)
輝く星を眺め、萃香はとある人間を思い出す。
そして、鬼の圧倒的な考察力は、春良の能力を一瞬で割り出す。
「…………」
「……やはり、鬼、強いな…」
「……ん?気絶してなかったんだ。何で挑もうと思ったのかが分からないけどね、私は」
足元からの声に、萃香はそれとなく適当に返した。
結局、総人数は39人。
そのほとんどの天狗が、萃香の下で絨毯と化していた。
「天狗ってさ、縦社会なんだよね?強い妖怪には頭さげるもんなんじゃない?」
「……妖怪じゃぁないだろ、あんた」
「……まーね」
くいっ、とまた一あおりすると、息を吐く。
その瞳は、鋭く春良を見つめていた。
「さて、阿求は大丈夫かなーっと」
天狗の山から飛び降り、てぽてぽと歩き出す。
そして、ふと振り返ると、満足そうにこう言った。
「なかなか、面白かったよ。できれば、また手合わせ願いたいね」
汗ひとつかいていない鬼に、天狗の全員が思う。
『嘘つけ』、と。
「お疲れ」
「おう…。ってあの山、萃香がやったのか?」
「ん?もうちょっと高くしたかったけど、無理だったよ」
39の天狗の山を眺め、春良はため息をつく。
すると、背中の上海が春良の服を引いた。
「ん?」
「戌井さん!伊吹さん!大丈夫でしたか!?」
振り向いてみると、射命丸を連れてこちらへ走ってくる阿求の姿があった。
「あ、阿求、走ったらまたこけるよ?」
「大丈夫ですよ。文さんは私を心配しすぎでふあぁっ!?」
「だから言ったのに!」
豪快にこけようとした阿求の体を射命丸が抱き止める。
互いにふぅ、と一息吐いて、再度春良達の元へ歩いてきた。
「もう大丈夫なんですか?射命丸さん」
「あ、はい。おかげさまで。本当にありがとうございました」
「いやいや、頑張ったのは阿求だからね」
酒を飲みつつ、萃香がそう言う。
春良は、萃香がいつも酒を飲んでいるように思ってしまった。
正しいのだが。
「阿求」
「あ、はい…?」
春良は一歩阿求へと近づき、跪いて高さを合わせると、その頭を優しく撫でた。
「……頑張るのはいいけど、無理はするなよ」
「で、でも、こうしないと文さんが…」
「だから、頼れ」
「あぅっ?」
ぐい、と頭を強く押さえ、その勢いで立ち上がる。
「するなとは言わないから、今度からは俺とか周りの人を頼ってくれな。心配だから」
「は、はい……」
「よし。わかったなら良い」
少し説教になってしまったな、と春良は頬を掻くが、阿求の視線はまだ春良の顔にあった。
「……阿求?もう何も言わないぞ?」
「…………」
「阿求?」
「……え?あ、はい!?なんですか!?」
顔を朱くして手をぶんぶんと振る阿求に不信感を覚えながら、射命丸に向き直ると、
「……何書いてるんですか…?」
「新聞の見出しです。『女殺しの外来人、戌井春良!』って感じでどうでしょう」
「どうでしょうじゃないでしょう!?なんですかそのドヤ顔!」
手帳を奪おうと手を伸ばすが、触れさえしなかった。
何とも嫌な最速だ。