「時に、人間?」
「……な、なんだ?」
急に萃香から話しかけられ、体が強張る。
そんな春良に、萃香は、
「お前、私の力を使うことはできる?」
「…………え?」
「だから、さっきのみたいに私の力を使ってみてってこと」
「……まぁ、やってみるけど…」
念じる。
欲するは目の前の鬼の力。
「親愛……」
カァッ、と符が光り輝き、今までにない純粋な力の流れを感じる。
いける。
そう確信した春良は、符を紡いだ。
「――『萃(アツ)まる夢、幻、そして百鬼夜行』――」
「……おぉー…」
「これが、戌井さんの能力…」
「便利ですねぇ…」
萃香と阿求、射命丸の感嘆する声が聞こえる。
春良の頭に、立派な二本角が生えた。
「いいね、んでもって人間。頼みがあるんだけどさ」
「……頼み?」
また酒を飲み、笑い、呟く。
「……私と、喧嘩してくんない?」
風を、感じる。
先ほどと同じ場所で、春良と萃香は真正面に立ち会う。
「…………」
崖の上から見守る射命丸と阿求と上海は、息をのんでそれを見つめている。
「悪いね。変なことさせて」
「……寂しかったんだろ?」
「……その力、相手の考えまで読めたりする?」
「一人だから、同じ力を持つ者、鬼と戦いたい。ちょっと考えたら分かるだろ」
さらっと言い放った春良の言葉に、萃香は目を点にした後、豪快に笑った。
「あっはっはっはっはっは!」
止め、見あう。
互いに、少し笑った後、手を広げる。
「「宴会はまだまだ終わらない!三日に一度で足りるはずもない!」」
射命丸は映写機を構える。
「「萃められた者もそうじゃない者も、宴は拒みはしない!」」
この一戦、確実に残る物にしなければいけないと、感じたのだ。
「「人間も妖怪も妖精も神も、勿論鬼も!酒さえ持てば大々歓迎!」」
ダダン!と互いに震脚し、太鼓の様に鳴らす。
「「さぁさ、今宵も飲んで歌って叫んで踊って!」」
最後、一息を吸い込み、ニッと笑って、
「「――鬼の力に夢破れるがいい!!」」
二人の鬼が、真正面からぶつかった。
一撃。
拳と拳がぶつかり合った瞬間、大気が割れる。
脚を踏み込めば、地面が割れ、破片が一瞬宙を舞う。
「「おおおおぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおッ!!」」
ただ、殴る。
ただそれだけの行為が、自然にすら影響を与えていた。
「……楽しそう、です…」
ぽつりと、振動で微かに体を揺らしながら、阿求が呟いた。
隣の射命丸は、構えていた映写機をすでにおろしてしまっている。
「「ははっ、あっはっはっはっは!!」」
互いに、終わらない殴り合いの元、笑っていた。
一歩、春良が後ろへ下がり、気を集中させる。
「地霊!!」
宝石の様な鋭い石が萃香の足元から生える。
「まだ、なれてないねぇっ!」
しかし、それを足踏みの一つのみで粉砕し、萃香は笑って春良へ拳を突き出した。
「……こう、やるのさっ!」
轟、とあり得ないほどに巨大な焔の固まりが春良へと迫る。
避けようとなど、毛ほども思わなかった。
焔は、一瞬で春良を飲み込んだ。
光の、中。
「貴方、鬼なんですか?」
春良は、人里にいた。
「……そうだけど、何」
角を隠そうともせず、萃香は女の子にそう言った。
すると、その女の子はふるふると震えて、
「……ほんっとうですかっ!?私、鬼さん始めてみました!」
「……怖くないのかい」
「え?……何が、ですか?」
きょとんと目を丸めた女の子に、萃香も目を丸くする。
すると、急に女の子は萃香の手を取り、どこかへ走り出した。
「ちょ、ちょっと!?」
「私の家に行きましょう!いろいろお話聞かせてください!」
いきなり走り出した二人に遅れないよう、春良も走る。
戸惑いながら、萃香が呟いた。
「……お前、名前は?」
「私ですか?稗田と呼んでください!」
「……私は、伊吹」
「はい!伊吹さんですね!宜しくお願いしまぁぁっ!?」
「落ち着きなよ…」
何もないにもかかわらず倒れそうになった稗田を、萃香が支える。
どこか、デジャヴだ。
「つまり、暇だったんですか?」
「ま、そういうとこかなぁ」
一度行った阿求の家だが、随分と違う雰囲気だ。
同じ畳の上で萃香と稗田は紅茶と酒を酌み交わしていた。
「なら、名案がありますよっ!」
「名案?」
「今、麓の巫女と大妖怪が、命名決闘なるものを考えているそうなんですよ」
「命名決闘、ねぇ…」
「それを利用して、伊吹さんが『異変』を起こせば良いんです」
ピン、と指を立ててそう言った稗田はにっこりと笑った。
「『異変』…?」
「そうです。例えば、萃香さんの能力で人を集めて毎日宴会をする、とか!」
「できないことはないだろうけど…」
考える様に手を当て、唸る。
そして、単純な思考は、すぐに結論へたどり着いた。
「面白そうだね、それ」
「でしょう?できれば、私もその宴会に呼んで欲しいんですけど…」
「あぁ、来るといい。歓迎するよ」
「本当ですか!?伊吹さん、大好きですっ!」
「っ!?」
急な不意打ちに、つい顔が赤くなってしまう。
必ず、共に宴会をしよう。
そう、心に誓った萃香を、微笑ましく春良が見つめていると、
目の前を、光が包んだ。
『……あんた、面白い力を持ってるねぇ』
「っ!?」
春良飲み込んだかと思われた萃香の放った焔が、消し飛ぶ。
萃香も、春良でさえ、理由が分からなかった。
『地上が騒がしいから探ってみたら、面白いやつが面白いことしてるしさ』
「あ、貴方は…?」
頭の中に響いてくる声を、春良は知らない。
しかし、それでも相手はお構いなしの様だ。
「人間…?」
『人間、ちょいと体、貸して貰うよ?』
「ぅぉっ…!?」
春良の符、『親愛』に力を感じる。
強制的に、自分を使えと、力を無理矢理割り込ませてきていた。
「……く…、親愛…」
押さえきれない力の光が符を包む。
有無を言わせない怪力に、春良はたまらず符をつむいだ。
「……『語られる怪力乱神』…っ!」
ゴアッ、と光と風が春良の体を包む。
その光を見つめて、萃香がふと声を漏らした。
「……勇儀…?」