東方春命録   作:Poteto305

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夜の後の朝を眩しげに見つめて・陸符

 

「時に、人間?」

「……な、なんだ?」

 

急に萃香から話しかけられ、体が強張る。

そんな春良に、萃香は、

 

「お前、私の力を使うことはできる?」

「…………え?」

「だから、さっきのみたいに私の力を使ってみてってこと」

「……まぁ、やってみるけど…」

 

念じる。

欲するは目の前の鬼の力。

 

「親愛……」

 

カァッ、と符が光り輝き、今までにない純粋な力の流れを感じる。

いける。

そう確信した春良は、符を紡いだ。

 

「――『萃(アツ)まる夢、幻、そして百鬼夜行』――」

 

「……おぉー…」

「これが、戌井さんの能力…」

「便利ですねぇ…」

 

萃香と阿求、射命丸の感嘆する声が聞こえる。

春良の頭に、立派な二本角が生えた。

 

「いいね、んでもって人間。頼みがあるんだけどさ」

「……頼み?」

 

また酒を飲み、笑い、呟く。

 

「……私と、喧嘩してくんない?」

 

風を、感じる。

先ほどと同じ場所で、春良と萃香は真正面に立ち会う。

 

「…………」

 

崖の上から見守る射命丸と阿求と上海は、息をのんでそれを見つめている。

 

「悪いね。変なことさせて」

「……寂しかったんだろ?」

「……その力、相手の考えまで読めたりする?」

「一人だから、同じ力を持つ者、鬼と戦いたい。ちょっと考えたら分かるだろ」

 

さらっと言い放った春良の言葉に、萃香は目を点にした後、豪快に笑った。

 

「あっはっはっはっはっは!」

 

止め、見あう。

互いに、少し笑った後、手を広げる。

 

「「宴会はまだまだ終わらない!三日に一度で足りるはずもない!」」

 

射命丸は映写機を構える。

 

「「萃められた者もそうじゃない者も、宴は拒みはしない!」」

 

この一戦、確実に残る物にしなければいけないと、感じたのだ。

 

「「人間も妖怪も妖精も神も、勿論鬼も!酒さえ持てば大々歓迎!」」

 

ダダン!と互いに震脚し、太鼓の様に鳴らす。

 

「「さぁさ、今宵も飲んで歌って叫んで踊って!」」

 

最後、一息を吸い込み、ニッと笑って、

 

 

「「――鬼の力に夢破れるがいい!!」」

 

 

二人の鬼が、真正面からぶつかった。

一撃。

拳と拳がぶつかり合った瞬間、大気が割れる。

脚を踏み込めば、地面が割れ、破片が一瞬宙を舞う。

 

「「おおおおぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおッ!!」」

 

ただ、殴る。

ただそれだけの行為が、自然にすら影響を与えていた。

 

「……楽しそう、です…」

 

ぽつりと、振動で微かに体を揺らしながら、阿求が呟いた。

隣の射命丸は、構えていた映写機をすでにおろしてしまっている。

 

「「ははっ、あっはっはっはっは!!」」

 

互いに、終わらない殴り合いの元、笑っていた。

一歩、春良が後ろへ下がり、気を集中させる。

 

「地霊!!」

 

宝石の様な鋭い石が萃香の足元から生える。

 

「まだ、なれてないねぇっ!」

 

しかし、それを足踏みの一つのみで粉砕し、萃香は笑って春良へ拳を突き出した。

 

「……こう、やるのさっ!」

 

轟、とあり得ないほどに巨大な焔の固まりが春良へと迫る。

避けようとなど、毛ほども思わなかった。

 

焔は、一瞬で春良を飲み込んだ。

 

 

 

光の、中。

 

「貴方、鬼なんですか?」

 

春良は、人里にいた。

 

「……そうだけど、何」

 

角を隠そうともせず、萃香は女の子にそう言った。

すると、その女の子はふるふると震えて、

 

「……ほんっとうですかっ!?私、鬼さん始めてみました!」

「……怖くないのかい」

「え?……何が、ですか?」

 

きょとんと目を丸めた女の子に、萃香も目を丸くする。

すると、急に女の子は萃香の手を取り、どこかへ走り出した。

 

「ちょ、ちょっと!?」

「私の家に行きましょう!いろいろお話聞かせてください!」

 

いきなり走り出した二人に遅れないよう、春良も走る。

戸惑いながら、萃香が呟いた。

 

「……お前、名前は?」

「私ですか?稗田と呼んでください!」

「……私は、伊吹」

「はい!伊吹さんですね!宜しくお願いしまぁぁっ!?」

「落ち着きなよ…」

 

何もないにもかかわらず倒れそうになった稗田を、萃香が支える。

どこか、デジャヴだ。

 

「つまり、暇だったんですか?」

「ま、そういうとこかなぁ」

 

一度行った阿求の家だが、随分と違う雰囲気だ。

同じ畳の上で萃香と稗田は紅茶と酒を酌み交わしていた。

 

「なら、名案がありますよっ!」

「名案?」

「今、麓の巫女と大妖怪が、命名決闘なるものを考えているそうなんですよ」

「命名決闘、ねぇ…」

「それを利用して、伊吹さんが『異変』を起こせば良いんです」

 

ピン、と指を立ててそう言った稗田はにっこりと笑った。

 

「『異変』…?」

「そうです。例えば、萃香さんの能力で人を集めて毎日宴会をする、とか!」

「できないことはないだろうけど…」

 

考える様に手を当て、唸る。

そして、単純な思考は、すぐに結論へたどり着いた。

 

「面白そうだね、それ」

「でしょう?できれば、私もその宴会に呼んで欲しいんですけど…」

「あぁ、来るといい。歓迎するよ」

「本当ですか!?伊吹さん、大好きですっ!」

「っ!?」

 

急な不意打ちに、つい顔が赤くなってしまう。

必ず、共に宴会をしよう。

そう、心に誓った萃香を、微笑ましく春良が見つめていると、

目の前を、光が包んだ。

 

 

 

『……あんた、面白い力を持ってるねぇ』

「っ!?」

 

春良飲み込んだかと思われた萃香の放った焔が、消し飛ぶ。

萃香も、春良でさえ、理由が分からなかった。

 

『地上が騒がしいから探ってみたら、面白いやつが面白いことしてるしさ』

「あ、貴方は…?」

 

頭の中に響いてくる声を、春良は知らない。

しかし、それでも相手はお構いなしの様だ。

 

「人間…?」

『人間、ちょいと体、貸して貰うよ?』

「ぅぉっ…!?」

 

春良の符、『親愛』に力を感じる。

強制的に、自分を使えと、力を無理矢理割り込ませてきていた。

 

「……く…、親愛…」

 

押さえきれない力の光が符を包む。

有無を言わせない怪力に、春良はたまらず符をつむいだ。

 

「……『語られる怪力乱神』…っ!」

 

ゴアッ、と光と風が春良の体を包む。

その光を見つめて、萃香がふと声を漏らした。

 

 

「……勇儀…?」

 

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