東方春命録   作:Poteto305

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夜の後の朝を眩しげに見つめて・終符

「『やぁ、萃香。面白いことしてるじゃないか』」

「勇儀!なんで人間の体に…!?」

 

二本の角が、一本の真っ直ぐな角に変わっている。

明らかに春良でない春良は、そのまま口をつむぐ。

 

「『私は今地底にいるんだけどね、酒はいいけど喧嘩がない。退屈なのさ』」

「……へぇ、私もだよ、奇遇だね」

 

萃香は、瓢箪を取り出して春良の口へ傾ける。

春良が酒を少し飲んだかと思うと、次は春良が萃香へと瓢箪を傾けた。

 

「『四天王だなんて言われてた頃がなつかしいねぇ』」

「お?私はまだまだ現役なんだけどなぁ?」

「『冗談。それなら私は黄金時代だ』」

「……そんじゃ…、試してみようか?」

「『……そうだねぇ…、鬼の礼儀は?』」

 

春良の言葉に、萃香は少し笑って答える。

互いに手を挙げ、

 

叩きつける。

 

 

「「『まず喧嘩から!!』」」

 

 

今までの比ではない。

あり得ないほどの轟音と共に、どこかで山が崩れた音が聞こえてきた。

 

「お前の怪力乱神、見るのは久しぶりだね!星熊勇儀!」

「『あんたの萃める力も久しぶりだよ!伊吹萃香!』」

 

本物の鬼が。

笑ってぶつかり合った。

 

「……わ、訳がわかりませんよ、これ…」

 

ただの喧嘩のはずだ。

そう、一言で言えば、喧嘩なのだ。

 

「……文さん。これで、遊びなんでしょうか…」

「……さぁ…」

 

ワンハンドシェイクデスマッチなるものを知っているだろうか。

互いに利き腕と逆の手で握りあい、もう片方の手で相手を殴り続けるという決闘方法だ。

 

「どうしたのさ勇儀ぃ!酒の飲み過ぎで弱くなったんじゃないの!?」

「『あんたに言われたくないねぇ!毛ほども痛くないさ!』」

 

顔を殴れば、波動が岩を吹き飛ばす。

その時に踏ん張った脚だけで、地形が変わりそうになっていた。

加えて、

 

「あ、文さん。……見えますか?」

「……なんとか、だけど…」

 

殴る速度が半端じゃない。

一秒間に何発だとかそういう次元ですらないのだ。

一瞬に何発、そんな鍛えられたものでしか目で追えない『喧嘩』を繰り広げていた。

 

「『そろそろ行くよ!』」

 

ばっ、と互いに離れ、符を掲げる。

 

(――あ、やばいですね、これ)

 

反射的に、射命丸も符を取り出した。

 

「『四天王奥義……』」

「ちょっとは周りのことも考えてくださいよ……っ!」

 

射命丸は符に力を溜め、それら全てを防御に回すべく、風を自分達の周りに集めた。

最も、これで足りるとは微塵も思えないが、やらないよりはましだと思う。

 

「『……壱』」

 

一歩、勇儀が足を踏み出すと、弾幕が勇儀の周りに出現する。

 

「『……弐』」

「……風神!」

「……疎符」

 

弐歩目で更に弾幕は厚くなり、全員が符を掲げる。

攻撃の瞬間を物語るその行動の後、嵐が起きた。

 

「『……『三歩必殺』!』」

「『風神木の葉隠れ』!」

「『六里霧中』!」

 

三歩目を踏み出した瞬間、意味不明な爆発の様な波が勇儀からほとばしる。

なんとかそれに耐えるべく、射命丸は風と木の葉で上海、阿求、そして自分の体を包み込んだ。

そして、萃香は、

 

「『……あぁ。あんた、そういう力もあったっけねぇ』」

 

自分自身を能力で霧に変えた萃香は、勇儀の背後で体を萃めて実体化させる。

完全に背後、完全に王手のその状況の中、萃香は全くの手加減無しに符を掲げた。

 

 

「鬼符『大江山悉皆殺し』」

 

「『……っ!』」

 

 

背後の萃香へと一瞬で手を伸ばし、攻撃を制しようとするが、萃香はそれを首の動きだけでかわす。

 

「『萃香……ッ!』」

「一気に行くよ!勇儀!!」

 

がし、と萃香の両手が勇儀の体を掴む。

そして、跳んだ。

 

「『……ッ!』」

 

ゴッ!と掴まれたまま地面に叩きつけられる。

地面が割れ、地震とも言える揺れが妖怪の山に響く。

しかし、それでもまだ終わらない。

 

「…………ふっ!」

 

再度、地面にクレーターを作る。

そして三度目、今までと比べものにならないほどに、

 

「――――!」

 

跳んだ。

阿求達にも見えなくなるほどの速度で、遥かな高みへと鬼が跳ぶ。

そして、重力という物に従い、それは隕石の様に降ってきた。

 

「っだぁぁぁぁぁあああああああああああッッ!!」

「『かっ……!』」

 

地面をことごとく破壊し、その中心に鬼が二人。

片方の鬼は、倒れたまま動こうとはしなかった。

 

「『……萃香、もうちょっと手加減しなよ』」

「したさー。少なくとも山が壊れないくらいには」

 

倒れたままの勇儀に、萃香が歩み寄る。

そして、糸が切れたかのようにその場に座り込んだ。

 

「『……この人間は壊れてもいいのかい?』」

「……あ」

「『まぁ、多分大丈夫だろう。一応私も防御はしたし』」

「後で謝るかなぁ…」

 

そうしなよ。と破片をぱらぱらと払いながら勇儀が立ち上がる。

座ったままの萃香の瓢箪を取り、おもむろに酒を口にした。

 

「『まぁ、久々に喧嘩したし、楽しかったよ』」

「……勇儀、お前もしかして…」

「『……人間の体で本気出せる訳がないだろう?』」

「…………はぁ…」

「『お前さんも本気じゃなかったんだ。おあいこってやつさ』」

 

瓢箪を萃香に返すと、勇儀はすぅ、と息を吸った。

 

「『地上の空気は、美味いねぇ』」

「また、きなよ。今度は自分でさ」

「『あぁ…、考えておくかな』」

 

その言葉を合図にしたかのように、勇儀が、春良が倒れる。

 

「ほんと、……勝手なのは全く変わってないなぁ…」

 

その言葉を合図にして、今度は萃香が倒れる。

鬼の喧嘩が、幕を下ろした瞬間だった。

 

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